作品タイトル不明
第378話 親馬鹿公認
―――試練の塔・跡地
かつて魔王とその腹心が試練を課す為に築き上げた塔。聳え立っていた場所にその面影は既になく、ただただ瓦礫が散乱するのみとなっていた。うーむ…… 狙ってやったとは言え、見事に倒壊したものだ。戦闘の直後にここへ駆け付けたメルに回復してもらい、俺は何とか一命を取り留めた。首がやたらと痛い。そして、グスタフはと言うと。
「うわ……」
「見事に真っ二つですね」
メルフィーナが的確に表現してくれる。空中からの落下で別々の場所に落ちてしまったらしい、グスタフの上半身と下半身が瓦礫の下に埋まっていた。それでも普通に息している辺り、やはり悪魔の王と称えられるだけはあるのだろう。2人掛かりで回復すれば問題ないかな。
「―――殺す気かっ!?」
俺とメルフィーナが白魔法で治療をしていると、お義父さんがそんな叫びと共にバッと起き上がった。いやまあ、結構殺す気でやりはしたけど、それはお互い様なところもあったし勘弁願いたい。ほら、上と下で分かれてしまった体も綺麗に治った事ですし。傷跡も全くない完璧な仕事振りですよ。
「ええと、おはようございます?」
「……ッチ」
うわ、目が合った瞬間舌打ちされた。やっぱりこの人、いや、悪魔か。この悪魔、絶対にベルの父親だよ。舌打ちからの視線の逸らし方がそっくりだよ。しかし今の俺はとても機嫌が良い。笑って許す。フハハ。
「久しく見ていなかった懐かしき夢から覚めた途端にこの顔か…… 全く、運が良いのか悪いのか」
顔をあちら側に向けたまま、グスタフは大きく溜息を零した。その溜息が何だか俺に対してのもののようで、折角傷を治したというのに居た堪れない気持ちになってしまう。フハハ。
『あなた様、そろそろ心の中で笑うのも止めておきましょう。いくら気持ち良く戦えて気分爽快だとしても、場の空気は読むべきです』
……フハハ、メルフィーナに言われてしまったぞ。うん、はい。そうします。いい加減、グスタフとも関係を改善したいしな。と言う事で、会話を試みる。
「懐かしい夢とは、昔の事ですか?」
「うむ。恐らくは今よりも、貴様が生まれるよりも遥か以前の思い出だ」
おお、普通に返答してくれた。ちょっと感動。
「我が魔王であった時、いくら思い起こそうとしても思い出せなかった大切な記憶。ベルによって蘇生され、その呪縛から解き放たれた事で漸く、か。だが、なぜこのタイミングで――― 糞っ! エリザとの約束を破る訳にはいかん!」
そっぽを向いたまま、グスタフが拳を握り固めてわなわなと震え出した。ちょ、ちょっと? お義父さん、お義父さーん? 拳からまた血が出てきてますよー!?
「おい、貴様っ!」
「は、はいっ! 何でしょうか!?」
突然、指を差されて名指しされる。それはもう、そのまま岩をも砕きそうな勢いの指である。
「貴様は憤怒に染まった我と戦い、生き残った。そうだな?」
生存確認。こうして俺は今も生きている訳だし、生き残った事にはなるだろう。最後の激突で正面から拳を受けて顔があらぬ方向を向いたり、三途の川らしいものが見えたり見えなかったりしたもんだが、メルフィーナの加護が働いた形跡はなかった。ああ、でもあと少しメルフィーナの回復が遅れたら危なかったかな。泡吹いてたらしいし。まあ、それでも生き残った事には違いない。
「そうですね。何とか生き残りました」
「ッチ、そうか。首が飛ばなかったのが残念だ。本当に! 残念だっ!」
「2回も言わないでくださいよ……」
「我は己の感情に素直なのだ。よってそれを隠すのが苦手である。貴様が我慢しろ」
ああ、なるほど。実に暴君である。俺とセラとの云々を抜きにしても、普段からこんな感じなのか。
「で、だ。我は釈然とせんが、一応は試練を乗り越えた事となる。貴様には、セラとベルを嫁がせる資格がある。あ、イライラしてきた。もう一度殴って良いか?」
「普通、確認は返事を待つものだと思います」
グスタフはもう一度と言いかけた時点で拳を振るっていた。さっきまでの戦いの速さに比べれば、難なく躱せるレベルだ。俺に怪我はないが、それでも当たっていれば顔面陥没してしまいそうである。お義父さんはおっちょこちょいだなぁ。
「ッチ。ここからは資格云々ではなく、父としての我からの問答だ。真摯に答えるがいい」
「分かりました。その前に言っておきますが、私がお付き合いしてるのはセラだけです。ベルとはそういった関係ではないですよ。勘違いしているようでしたので、そこを踏まえて頂ければ―――」
「―――詰まり、ベルとは遊びであったと……?」
ちっがーう! そうじゃなーい!
「ふん、分かっておるわ! あの年頃の娘は何を考えておるのか察しにくいものだが、目を見れば嘘をついているのかは把握できる。セラは全く嘘をつかぬが、照れ屋さんなベルはよく視線を逸らすからな!」
「あ、そうなんですか…… あの、それを分かった上で私を殺そうとしたんです?」
「娘の彼氏は父の仇敵! こればかりは万国共通なのである。例えベルは別だとしても、我の加護を与えたセラをこの糞がっ!」
「話の途中で拳を出さないでっ!?」
再びお義父さんの拳が空を切る。なるほど、我慢を知らない。
「ふう、ふう……」
「はあ、はあ……」
連続で放たれた猛撃を回避し続ける事、数分。病み上がりな俺たちは直ぐに疲弊してしまった。
「この糞、糞であるが…… 絶対にセラを幸せにしろ! これは王命である! 分かったかっ!?」
「当然ですよっ! 絶対に幸せにしてやるっ!」
「うっさいはこのハゲ!」
「ハゲてないわこの髭長っ!」
言い争い(?)に発展してしまったが、渋々ながらもお義父さんは俺を認めてくれたようだ。よし、これで目的の1つは完遂した。後はセラを―――
「おい、先ほどから気になっていたのだが――― そこの女は貴様の仲間か? 何やら我とは対極的な力を感じるのだが……?」
「ああ、メルの事ですか? ええと、メルはですね―――」
俺が何と答えたものかと迷っていると、メルが俺の両肩に手を置いて、満面の笑みでこう答えた。最早、メルの決め台詞に近いアレである。
「正妻です♪」
「おい、メルっ!?」
「ほう、貴様。よりにもよって我が愛娘であるセラを正室ではなく、側室にするつもりであったのか……? 素直に申してみよ、うん? ほら、我は怒らないから」
顔を鬼にしている人の台詞じゃないと思います、はい!
「貴様とは今一度、雌雄を決しなければならぬようだな。さあ、剣を持て! 力を振り絞るがいいっ! 貴様の相手は、この偉大なる 義父(・・) である! 半端な覚悟で乗り越えられると思うなよ!」
「―――っ! ええ、承知の上ですよ! いきますっ!」
クロトから両手に剣を抜き取り、血の偃月刀を作り出す義父さんと対峙する。俺とした事が、さっきの戦いで満足してしまうとは。戦闘狂として恥ずかしい。汚名返上の為にも、ここは更に頑張らせてもらいますか!
「あの、これはどういう状況でしょうか?」
「あら、悪魔四天王の方々。 ……そちらの方、大丈夫ですか?」
「ぐ、はっ! ベ、ベル様。そんな深くまで、ああっ…… ぐう……」
「持病ですのでお気になさらず。ってぇ!?」
傍目に、セバスデルを背負ったビクトールがメルに話し掛けているのが映った。そしてセバスデルの寝言を聞きつけた義父さんは、一直線にそちらへと走って行った。