軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第367話 悪魔四天王ビクトール

―――試練の塔

「どうだ、面白そうなスキルはあったか?」

「ええ、そうですね。新たに会得した固有スキルといい、選り取り見取りです。クフフ、このスキルも良いですねぇ」

即戦闘を開始するかと思われた死神と悪魔。だが実際はそんな事はなく、ケルヴィンはビクトールが調理した料理を席に座りながら食べていた。結構美味なようである。なぜそんな事をしているのかというと、 上級悪魔(アークデーモン) から 悪魔の黒甲鼴(アーテルパンツァーデーモン) に進化した事で得たスキルポイントを振るビクトールの作業を待っていたのだ。やるからには全力で。理智的な戦闘狂は変なところに細かいのである。

「お、これ肉じゃがじゃん。セラが好きなんだよな」

「肉じゃが……? それ、『かれー』ですよ?」

「は?」

「え?」

所々会話が成り立たないところもあったが、概ね雰囲気は良好なようである。その一番の要因は「出された料理に毒でも入れたとは思わないのか」とビクトールより鋭い問いが飛んだのに対し、ケルヴィンが鼻で笑いながら「一流の料理人はそんな事をしない」と言い切り迷わず料理を口にしたからだろうか。感情の読み取れぬ表情のビクトールであるが、心なしかそれから雰囲気が柔らかくなっていた。

「しかし、良いのか? 料理を頂戴して、補助効果まで付けてもらってさ」

「腹を空かせた者がいれば料理人は腕を振るうものですよ。それに私もこうしてスキルを振らせてもらってますし、まあ納得できなければこれでイーブンとお考えください。さあ、私の方はこれで準備完了です」

「そうか。じゃ、やるか」

口の中で解ける肉じゃがを一息でかき込み、まとめて咀嚼しようとするケルヴィン。しかし、どうもメルフィーナやムドファラクがやるようには上手くいかないようで、素早く食べるつもりがモグモグと口を動かす時間をそれなりに掛けてしまった。少しして、ゴクンと口内を空にする。

「クフフ、よろしいですか?」

「……よろしいよ」

アンジェやジェラールに見られていたら、暫くネタにされていたな。と、ケルヴィンはやや赤面する。だが、ここからはお待ちかねの時間。恥じらう表情は口端から狂気を帯び始め、脳内は戦いへと完全移行。緊急用の並列思考の幾つかを除いて、今やケルヴィンにはビクトールしか見えていない。

「 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) 」

「 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) ・ Ⅱ(デュアル) 」

ビクトールの黒甲が黒き魔力で侵食され、過去に『隠者の潜窟』でそうしたように黒塗りの巨腕を形作っていく。対するケルヴィンは周囲に10本の漆黒の大剣を生成、浮遊させる。身の丈ほどある剣群の剣先はビクトールへと向けられ、ケルヴィンの指先1つで今にも飛び出さんばかりだ。

「さあ、拝見致しましょう。貴方の成長振りを!」

グンッと伸縮してケルヴィンへ向かうは、ビクトールの右腕。 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) によってより凶悪な鉄塊と化したそれが、弧を描き宙を走る。

「その言葉、そのまま返すぞ!」

募らせた期待を発散させるように、先頭に位置していた2本の大剣が放たれる。2振りの大剣の異様な頑丈さはさることながら、間際に 大地の研磨(グランドクリーヴ) を施された事で単純な切れ味までもS級の魔剣クラスとなっていた。

―――ギギィン!

鈍く、重厚な剣戟音が2度奏でられる。伸縮したビクトールの腕に接触した大剣が黒金の装甲に弾かれ、その腕もまた軌道を逸らされてあらぬ方へと向かってしまった。大剣に刃こぼれをした様子はなく、 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) もまた同様。初手は全くの互角であった。

「 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) 」

「ぬっ!?」

姿勢を地に沈めるように低くしたケルヴィンが、伸びきった 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) の真下にいた。その両腕には巨大な大鎌。当然の如く放たれた死神の鎌は、ビクトールの装甲を軽々と斬り裂き彼方へと飛ばす。

ケルヴィンは2本の大剣を放出させた後、自身に 風神脚(ソニックアクセラレート) ・ Ⅱ(デュアル) を付与して剣の影に姿を隠しながら自らも突貫していたのだ。通常の 風神脚(ソニックアクセラレート) であれば敏捷は2倍、 Ⅱ(デュアル) であれば3倍にまで高められる。代償として効果時間が短縮され魔力を湯水のように使い捨ててしまう事になるが、魔力馬鹿と呼び声の高いケルヴィンにとっては些細なものでしかない。

「それは初めて目にしますね」

黒腕を斬られたというのに、ビクトールは痛がる素振りをまるで見せない。逆に感心する余裕さえ見受けられた。

「御託はいい。どうせこの腕は本物じゃないだろ?」

「クフフ、正解です」

セラとの割と本気な模擬戦を体験してきたケルヴィンは、 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) の特性を把握していた。腕に纏われたそれは対象の特性を大きく反映するが、それはあくまでも武器の延長線上となる魔法。ビクトールの黒腕の場合、一見彼の腕自体が伸びているようにも感じられるが、実際に伸縮しているのは外殻となる鎧だけなのだ。よっていくらこの鎧を破壊しようとも、腕の根元を攻撃しない限りはビクトール自身にダメージはない。

「正解ですが、足元にも注意ですよ」

ケルヴィンの足元、調理場の床からもう1つの黒腕が飛び出す。咄嗟に 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) を展開したケルヴィンであったが、黒腕は握り潰さんとばかりに指を広げて襲い掛かり、切り裂く風の防壁を歪め始めていた。

「良いもの見せて頂いたお礼です。これは貴方も初めて目にするのでは?」

「どうだろうな。楽しみではある」

地面を掘り進んで現れた黒腕に結界ごと捕らえられる形となった訳だが、ビクトールの仕込みはこれだけではなかった。先ほどケルヴィンが斬り飛ばした黒腕の先端が変形して、黒い玉となって宙を漂っている。高い濃度を誇る魔力の塊、といえばいいだろうか。

「――― 終焉無き責め苦(デッドエンドクラッシュ) 」

ケルヴィンの直ぐ傍まで近づいた黒玉が炸裂。光と例えるには黒過ぎた爆発がビクトールの黒腕までも巻き込んで辺り一帯を灰に帰す。

「あー、悪い。これは見た事あるわ。弟子の1人が使ってた」

「それは、残念」

しかし、ケルヴィンは無傷だった。死神は手に携えた大鎌を縦一文字に振り下ろし、黒腕と黒き爆発の両方を両断していたのだ。加えて以前にデラミスの勇者の1人、雅がリオンに対して使用しているところを目にしていた為、爆発の魔法に対しても迅速に対応していた。両腕の 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) を失ったビクトールに対し、残りの 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) を全て解き放つ余裕があるほどに。

風神脚(ソニックアクセラレート) の効果時間は残り少ない。節約節約と口ずさみながらケルヴィンはそのまま真っ直ぐにビクトールへ走る。が、その道筋は髑髏が群れを成して遮っていた。一定の種類に統一されている訳ではなく、そのあり方は正に多種多様。中には調理場にあった包丁などの刃物を持つ者までいる。

( 黄泉の軍勢(ヘイディーズアーミー) を脇にあった骨の山に掛けたのか。んー、鍋の蓋を盾代わりにするのは止めてほしいな。絵面的に……)

防具も多種多様のようであった。絵面は兎も角として、調理場にあった素材の骨が 奈落の地(アビスランド) 産だった為か、骨の下僕共の戦闘力は思いの外高い。それでもケルヴィン相手では数秒の時間稼ぎにしかならないが、その間にビクトールは調理場を物色していた。

「嬉しいですね、材料から何まで当時のまま。この配慮はセバスデルのものでしょうか?」

「ああ、あの執事か? この塔に入る前に会った、ぞっと」

大鎌を振るいながら答えるケルヴィン。

「クフフ、そうですか」

ビクトールは天井よりぶら下がった鳥籠に似た檻に飛び移り、その中へ手を入れて小さな蜥蜴を取り出した。そのサイズはビクトールの手の平に収まるほどで、一般的な蜥蜴のものと変わりない。但し、鳴き声はモンスターの織り成す狂気染みたものだった。

「この蜥蜴は『リトルフロガザード』といいまして、このように小さき身ではあるのですが、竜にも匹敵する強力な炎を吐くモンスターなのですよ。一匹から取れる肉は少ないものの、味は大変素晴らしい。セラ様にはお出しできませんが、私としては一押しの食材です」

一押しの食材を、ビクトールはその大きな口で飲み込んだ。