軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第340話 魔王の亡霊

―――ドクトリア王国・仮拠点

仮拠点で落ち着いたところで、自由行動中に各々が入手した情報を確認する。

「まあ、こんなところかな。周辺諸国と取り巻く情勢、肝心のグレルバレルカにそれとなく神の使徒に関わりそうな情報は。ついでにシスター・エレンの所在も捜したが、これについては進展なし。やっぱシルヴィア達の向かった転移門から 奈落の地(アビスランド) に行ったっぽいな」

「天獄飛泉からはまた別の場所に転移されるらしいからね。うーん、シスターの捜索はシルヴィーに任せた方が無難かな?」

「されど一度引き受けた指名依頼じゃて。やれる事はやるとしよう」

「その方針で問題ない。で、セラの故郷であるグレルバレルカなんだけど―――」

グレルバレルカ帝国は全盛期に 奈落の地(アビスランド) の大部分を支配下に置いていた。しかし、指導者である魔王グスタフ亡き後は衰退し、今では首都を残すのみの領土となっている。大昔から住まう民は既におらず、魔王城と無人の城下町が佇むのみ。統治する者がいないのに国や領土と呼べるのかは謎だが、現に他国から奪われる事なく現在も存続しているのだから仕方がない。で、そんなグレルバレルカで最も気になるといえば、魔王グスタフの亡霊の噂である。

「侵略しようとする軍勢を打ち倒す、魔王の亡霊か…… もしかしたら戦った後にセルジュが魔王と交渉して、表向きは討伐、でも裏では生きていた! とかそういうパターン?」

「ガリアにも再三確認したんだが、グスタフは確実に勇者セルジュに討ち取られたそうだ」

「魔王が存命しているうちは新たな魔王は生まれない。ある文献にはそう書いていたわ。お父様、魔王ゼルの存在が何よりの証拠になってると思う」

ジェラールの膝の上に座るシュトラが、俯きながら補足してくれた。シュトラは『賢人』に進化してからというもの、少しずつではあるが記憶を取り戻しつつある。今では自分の父であるゼル前国王が魔王となり、狂気に染められた事についても受け入れている。精神的には幼いままだが、大きな前進といえるだろう。

「それについては私も保証致しましょう。どの時代においても、魔王が2人以上になる事はありませんでした」

女神様のお墨付き。これで決定的だ。

「セラにとっては、辛い事実ではありますが……」

「そんな顔しなくていいわよ。前にも言ったけど、もう心の整理はついているの。メルフィーナが思い悩む事ではないわ。それに―――」

「それに?」

「―――父上なら、娘の彼氏憎しで地獄の底から生き返る可能性が大いにあるわ!」

「「「「………」」」」

いやいや、それは流石にねぇよ。と心の中で留める。ん、待てよ? セルジュの死に戻りスキル『新たなる旅立ち』みたいなものをグスタフも所持していたとすれば、それも可能なのか? んー、でもないか。そんな大層なチートスキル所持者が何人もいては夢が広がるばかりだが、メルフィーナの言もある事だし、やはり違うだろう。

「セラにはチラッと話したんだけど、俺なりに魔王の亡霊の正体について考えてみた」

その1、亡霊の正体は本物のグスタフ。 ……いや、セラの主張を肯定している訳じゃないんだ。彼氏憎しで簡単に生き返ってもらっちゃ転生神の沽券に関わるだろ。俺が言いたいのは、もっと別の、それもつい最近に間近で見たものだ。

「あ、反魂者の力かな?」

「そう、エストリアの固有スキルだった『反逆の徒』。あれならグスタフに纏わる遺品があれば、蘇らせる事も可能だろ? 今となってはエストリアは力を失ってしまったけど、同様に復活したソロンディールやラガットは健在。もしエストリアが地上へ来る前にグスタフを蘇生させていたとすれば―――」

「可能性は十分にある、か」

「本人に聞くのが一番手っ取り早いが、デラミスにいるシスター・アトラの護衛役にしちゃったからなぁ……」

今となっては連絡の手段がない。コレットにも刀哉と同じものを渡しておけば良かった。

「兎も角、亡霊がグスタフだった場合は直ぐに戦闘になるから。そのつもりで気を引き締めておいてくれ」

「む? グスタフはセラの父親なのじゃろ? 普通、そこは感動の再会、そして良い雰囲気のまま迎え入れられるところになるじゃろうて。なぜに戦い?」

「正確には、感動の再会からの俺個人へ怒りの鉄拳制裁な。ジェラール、仮にリュカが彼氏ができたとか言って紹介されたらどうする?」

「不届き者を排除する」

「気持ちいいくらいに即答だな…… まあ、そういう事だよ。あとは察してくれ」

抹殺した後の娘や仮孫との関係を考えないのも親馬鹿の欠点だな。とにかく理性よりも先に拳が出てしまうのだ。

じゃ、次。その2、亡霊の正体は何者かの変装。これについてはセラからも悪魔四天王の誰かではないか、との意見があったな。グレルバレルカに遠征した侵略軍の中で奇跡的に生き残った者は、亡霊の事を戦場に揺らぐ紅蓮の色がどうこうと話している。これは相手を正しく認識できなかったからだろう。動きが速過ぎるのか、はたまた幻を纏う魔法を使っているのか。認識できたのは赤い色のみ、だから紅髭公と二つ名で呼ばれていた魔王の亡霊。これであれば誰が変装したって問題ない。たとえ、背丈や性別が異なっていたとしても。

「俺は断罪者、ベル・バアルじゃないかと睨んでいる」

「セラさんの妹さん、でしたか?」

「私の妹ね!」

セラよ、なぜそこで「えっへん!」と心持ち得意気なんだ?

「ま、まあ理由までは分からないが、自身に纏わるグレルバレルカを住処にしているってのは、結構考えられる事だろ? アンジェ、その辺どうだ?」

「うん。任務以外であれば、特に代行者から居場所を制限される事もなかったかな。私であればパーズに定住していたし。断罪者が 奈落の地(アビスランド) 側にいても不思議ではないかな」

ベルがグレルバレルカを侵入者から護るのは、故郷を護る為、もしくは単に自分のテリトリーに他人を入れたくない為か。どちらにしろ、これも戦闘になる気がする。

ちなみにベルがセラの妹であるというのは俺たちの勝手な決め付けである。ただ、当人のセラの中でもう確定事項扱いなのでそのように扱っている。ガリアから見せて貰った肖像画、セラの小さい頃の絵もベルにそっくり、というか一部分を除いてそのままだったからな。一部分を除いて。セラは昔から発育が素晴らしかったのだ。

最後にその3、魔王とか実は関係なくて本気で強い亡霊が住み着いてる。長い間放置されてきた無人都市だ。街そのものがダンジョン化していてもおかしくない。この国だけでなく、各国の悪魔軍隊を退けるほどのモンスターとなれば、S級の活きの良い奴がいる事だろう。俺はこのパターンでも一向に構わない。

「クックック、結局どれで来ても俺は美味しい思いができるじゃないか」

じゅるり。

「ケルにい、欲望駄々漏れだよー」

「本当の目的は私の里帰りだからね。ま、ベルがいたらそれはそれで面白いけど!」

「セラさんのお父さんがいたら?」

「色々と報告しなくちゃね!」

緊張感に包まれた親御さんへの挨拶が頭を過る。戦闘とはまた別の戦いがそこにある。あ、こっちは少し遠慮したいです。とも言ってられない。

「あの手この手で抹殺しようとすると思うけど、覚悟を決めてね、ケルヴィン?」

―――とも言ってられないのだ。

意見交換から雑談に変わろうとしていると、外から何やら騒がしい音が聞こえてきた。気配を探る。ガリアと配下らしき悪魔の一団が、何かを運んでいるようだ。外のゴーレムにガリア達が拠点に入るのを許可してやると、ガリアは配下を外で待機させたまま俺たちの前に姿を現した。

「お待たせしました! 先日発掘した転移門、献上しに参りましたっ!」

……凄いものを持ってきた。