作品タイトル不明
第337話 悪魔四天王
―――ドクトリア王国
「責任だと? ……貴様らは何者だ?」
意識が覚醒して間もないというのに、ドクトリアの王ことガリアは冷静そのものだった。優しく脅しているとはいえ、流石は地獄における一国の王と称えるべきか。鑑定眼で見たところ、ガリアの種族は 上級悪魔(アークデーモン) 。なるほど、彼自身はそれなりに修羅場を潜っているらしい。まあいざとなればセラの血染がある事だし、面倒にはならないだろう。
「ガリア様が侵略しようとした地上の使者、と名乗れば理解されますでしょうか?」
「地上……! 転移門より現れ、あの毒砂を越えて来たというのか? いや、それよりもその口振り、余が送り出した遠征軍は―――」
「出会い頭に襲ってきたので壊滅させましたよ」
肩慣らしと練習台として、うちの子達がきっちりと。
「あ、申し訳ありません。この国への案内役として1人は生かしていました。有用な情報を提供してくれたので、彼に危害は加えていません。今頃お城に辿り着いたところですかね」
「ば、馬鹿な。勇者でもない人間にそのような力、ある筈が―――」
「何をおっしゃいますか。最近では勇者より強い人間なんて、地上じゃそれなりにいるものですよ」
俺たち然り、S級冒険者然り。次点でアズグラッドやダンにジェレオル、毒と脅威の外見で俺を苦しめたグロスティーナも良い線いってるよな。その気になって探せばまだまだ発掘できそうだ。
「勇者よりも強いだと? いや、しかし……」
「まあまあ、ガリア様がこの話を信じようが信じまいが、実のところどうでもいいのです。重要なのは貴方の軍が私たちの住まう地上に侵攻して来た事だ。軍は私たちが正当防衛で! 倒した訳ですが、これは立派な侵略行為。 奈落の地(アビスランド) ではこれが常識だとか、地上では通用しません。お仲間から言質も取った事ですし、ガリア様にはしっかりと王としての責任を負って頂きたい」
大鎌の刃をガリアの首に僅かに沈める。鉄のように太く強靭な首であるが、何の抵抗もなく大鎌は奴の血を浴び始めた。
「ッフ、脅しのつもりか? 残念だが悪魔は魂を売らぬのだ。強欲であるからな」
ガリアはあくまで強気だ。 ……あ、これギャグじゃないからな。奴の顔を見れば分かるんだ。目が死んでない。悪魔としてのプライドがそうさせるのか、確固たる意志がそこには存在していた。こいつは本物だ。
「……なら仕方ない。セラ」
「あら、私の出番?」
ああ、血染でメル用の少しばかりの食料と、この国の軍事費から金を融通してもらおう。あと、周辺諸国の情報もな。王様ならその辺を一番把握してるだろ。思いっきり俺の裁量だが、それで一先ず責任の所在はチャラとしよう。無限毒砂には離れる間際にメルフィーナが大量の冷気をぶち込んで、とんでもない環境変化を起こさせている。あの毒気の少ない道ももう使えない。それでも2度目をやろうとしたら、今度は容赦しないからな。
「……ま、待て。今、何と言った?」
「はい?」
「何と言ったと申したのだっ!」
何を焦っているのか、急にガリアが前のめりになりながら声を荒げ始めた。ううん? おかしいな。大鎌をあてがっても怯まなかったガリアが、分かりやすいくらいに動揺している。それと、それ以上前に傾いてしまうと――― ああ、やはり倒れてしまった。大袋に入ったまま縛られているのだから、そうなるに決まっているだろ。
「そこの、いや、そちらの貴女様は……!」
うつ伏せに倒れてしまったというのに、ガリアは器用にも横向きに回転しながらセラに視線を移した。言葉遣いもなぜか丁寧なものへと変わっている。
「炎のように紅き髪と瞳、同じ悪魔とは思えぬ程に端麗なお姿、何よりもそのお名前…… 貴女様は、もしやセラ様ではありませぬかっ!?」
「え、ちょっと怖いんだけど……」
ぜぇぜぇと息を荒げて酷く血走った目を向けてくるガリアに、俺たちはちょっと引いてしまった。
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「大変失礼した。私、興奮のあまり自分を忘れてしまいまして」
「ああ、うん。まあ気にしないで」
ガリアが落ち着くのを見計らって、話を再開する。あのままの倒れた格好ではシュール以外の何ものでもないので、縄は解かないが袋を外してガリアを起き上がらせている。
「紹介が遅れましたが、私の名はガリア・クド。魔王グスタフ様が率いる悪魔四天王の1人、ラインハルト様の片腕であった者です」
「ラインハルトの?」
「やはり、貴女がセラ様なのですね。絵姿の頃に比べ、こんなにも大きくなられて、ううっ……」
今度は行き成り泣き出したぞ、牛の王様は情緒不安定なんだろうか? いや、それよりも気になる話を口にしていたな。魔王グスタフに仕える悪魔四天王、詰まりあのビクトールの同僚の、そのまた部下がガリアという事になる。
確かセラの存在は側近のみが知っていたんだったか。悪魔四天王の直属であれば、まあ知っていたとしてもおかしくはない、か?
「セラ、こいつ見た事あるか?」
「ないわね!」
「おい、見た事ないってよ」
「あ、ちょ、ちょっと、鎌をぐりぐりするの止めて、アイタタタタ! 説明します、説明しますから!」
何やらキャラが崩壊し始めたガリアであるが、説明はしてくれるらしい。
聞くに、ガリアはセラが箱入り娘状態であった頃に直接会ってはいない。その代わりに、幼かった頃のセラの肖像画をラインハルトという悪魔四天王から貰っているそうなのだ。
「その内側の小袋に入ってる、そう、それです。これがその肖像画になります」
手を縛られたガリアの代わりに手持ちのアイテムを探してやると、大切に保管された紙を発見。いつも持ち歩いているのか、肖像画……
「わ、セラさん可愛いっ! ちっちゃくてドレス着てる!」
「ほう、これは良いものだ。言い値で買おう」
「ちょ、ちょっと! 恥かしいからあまり見ないでっ!」
兎も角、繊細なタッチで描かれた肖像画はとても上手く、写真のような素晴らしい出来だった。この作成者はさぞ高名な画家なのだろう。しかし、表情の違いこそあれど、これはどこからどう見ても、なあ?
「お譲りしたいのは山々なのですが、これはラインハルト様の形見とも呼べる品。差し上げる事はできません」
「なら複写させてくれ。今、妹を呼ぶから!」
「ケルヴィン!」
はい、ごめんなさい。
「けれど、本当に上手いよね。この絵」
「そう言って頂けると、この肖像画を描いたラインハルト様も喜ばれますよ」
「え? これ、悪魔四天王の作品なのか?」
俺の言葉に頷くガリア。
「悪魔四天王、すげぇな」
「おや、ご存知ないのですか? 悪魔四天王の職務の中には、教育係としての役目もあったのですよ? むしろこちらが主体です」
きょ、教育係?
「悪魔は戦闘系スキルを好んで会得する傾向がありまして、生活系スキルを得意とする者は珍しいのです。食べるものは基本不味く、娯楽など殆どありません。しかし、これでは愛娘が清く正しく成長できないと危惧したグスタフ様は、配下の中からある分野で優れた者達を選び出し、栄誉ある称号をお与えになりました。ラインハルト様であれば国一番の絵画スキル、ビクトール様であれば国一番の調理スキルと…… 結果的に皆様強かったので、教育係から悪魔四天王と呼ばれるに至った訳なのです」
「あー、そう言われてみれば、いつの間にか肩書が変わったわね。皆」
魔王グスタフ、教育に力を注ぎ過ぎだろ……