作品タイトル不明
第335話 悪魔の街
汗だくになりながらも灼熱の毒砂漠を踏破した俺たちは、一先ず最寄りの街へと向かう事とした。何はともあれ、まずは情報収集。セラの血染で 奈落の地(アビスランド) に関する見聞はかなり広められたが、それでもこの広大な地下世界(本当に地下なのかは定かではないが)の全てを解き明かすにはまるで足りていないのだ。それにだ、ここに来て全く別の問題も浮上してしまった。
「―――通貨が違うのか?」
「は、はい。申し訳ないのですが、そのような硬貨を見たのは初めてでして…… なるほど、それが地上のお金なのですね。 奈落の地(アビスランド) では国ごとに貨幣が異なってまして、我らが国王の支配するこの地域一帯ではこの紙幣を使用しています。あまりに小さな村々では紙幣すら使われておらず、物々交換を行う場所もありますね」
国ごとに金が違うのかい。聞けば、 奈落の地(アビスランド) は常時戦国時代のような状態にあり、特に侵略的な国については他国の通貨を使うとは何事だ! みたいな風潮があるらしい。ちなみに換金もできないし、貿易も度外視である。男らしいな。もちろん、共通の通貨を用いる国々もある。
「これ、使えるか?」
「すみません……」
が、部下悪魔君の国では地上の通貨を見せるのは控えた方が良さそうだ。冷や汗をかきながら視線を逸らされてしまった。どうやら俺の貯蓄、ここでは使えないらしい。何という事か。もう金に困る事はないだろうと高を括っていたのに、地下世界に来たら無一文になってしまうとは。このままでは生活するのもままならないぞ。
……今の手持ちで乗り切れるか?
食料は、そうだな。さっきの無限毒砂で出現したドックムッカとかいう毒持ちの牛(エフィルが毒抜き済み)や、火山で散々狩った火竜の肉がクロトの保管に腐るほど入っている。水辺があればセラが魚を釣ってくれるだろう。野菜については説明不要、ダハクの力でどうとでもなる。塩や砂糖などの調味料類はエフィルが各種買い揃えているし、野営用の宿舎は俺の 剛黒の城塞(アダマンフォートレス) で補える。何という事だ。普通に生活できるぞ、これ。今ある備蓄だけでも、節約すれば3日は持つ。
しかし、しかしだ。自給自足は俺たちの得意分野であるが、流石に店を利用できないのは辛い。ご当地品も買えないし観光もクソもない。これは早急に対策を立てる必要がある。
「アイテムを売ってお金を稼ぎましょうか? 不要物の整理にもなります」
「エフィルお姉ちゃんの料理で屋台を開いた方が稼げるんじゃないかしら? 多少値段を高く設定しても、1人でも購入すれば噂が噂を呼んで、雪崩込むように売れると思うわ。材料のお肉も沢山あるし」
エフィルとシュトラが算盤を弾き、それぞれの予想収益を提示してきた。十分過ぎる儲け額はそれだけで一財産を築けるものだ。シュトラなんて砂漠を越えた辺りで進化を終えたばかりだというのに、苦しんでいたのが嘘だったかの如く、今では溌剌とした表情をしている。一方でアレックスとボガは未だ休眠中だ。体が小さい方が早く進化が終わるのだろうか?
「どっちでも必要資金は貯めれそうだな。だけど、今回は―――」
部下悪魔の肩にそっと手を置く。
「―――部下悪魔君、ここから一番近い街はどこだい?」
「え、ええと……」
「どこだい?」
セラが俺の背後で拳を構え始める。別に威圧している訳ではない。ちょっと頭に血を乗せるだけだ。
「……我が軍が所属する国の首都、ですが」
「そうかそうか。折角だから君を国まで送ってあげよう。さあ、案内してくれたまえ」
「は、はぁ」
そうだな。ここは部下悪魔の国に厄介になるとしよう。彼以外の軍隊は全員殲滅してはいるが、無限毒砂を渡り切る技量をこの種族は持っている。そして、命令を下した大元はまだこの事実を知らない。放っておいたら軍を編成して再び転移門を目指していて、知らぬうちに地上へ侵攻していた。なんて事になっていたら笑えないし、少しばかり釘を刺しに行くとするかな。で、同じく少しばかりの謝意を示してもらおう。
……む、そう考えると 転移門の目の前(あんなところ) に巣を作っていた火竜王は、あれはあれで抑止力になっていたんだろうか? 巣に侵入した悪魔達を焼却、はたまた頭からバクリと――― まあいいや。代わりの抑止力を用意すればいいだけの話だ。
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―――ドクトリア王国
悪魔の街も、外観は地上のものとそう変わらない。色彩が全体的に暗くて、街に住む者達が人型だったり化物だったりどう見ても無機物だったりと、多種多様であるくらいだ。召喚士である俺にとっては驚くほどの事ではない。まあ、曲がり角でゾンビな方とぶつかりそうになった時はちょっと肝を冷やしたが。
この国に辿り着くまでの道のりで、幾度かモンスターとも遭遇した。そのどれもがB級前後と、地上と比べて強力なものだった。しかし、街中には弱い奴もいる。てっきり 下級悪魔(レッサーデーモン) がB級だから、どんな奴だって最低でもB級程度の強さがあると思っていたんだが、どうも違うらしい。外見は凶悪な彼らも、地上の風景に置き換えると善良な(?)民のような存在で、街の外で徘徊し襲ってくるモンスターとはしっかりと区分があるそうなのだ。見た目が完全に異様な者もいるだけに、非常に紛らわしい。外で出会ったら、間違えて攻撃しないように気を付けないとな。
「しかし、微妙に人間っぽい奴はそれなりにいるけど、完全な人型ってのはいないもんだな」
「人に近いほど偉大で高貴、それでいて強者って言われるくらいだもの。長い歴史を持つ王族でもない限り、そうそう出会わないと思うわよ?」
うん、さっきの惨状を体験したから納得したよ。周囲の視線の密集具合が酷かったしな。今はフードを深く被っているからそうでもないけど、ついさっきまでは世界的な大スターが街中を出歩いているかの如く注目を集めていたのだ。悪魔の目から見ても、セラはとてつもなく美形なんだろう。今は各々別行動中で、俺はセラと2人きりで行動しているところだ。であれば、自ずと嫉妬を多分に含んだ視線が俺に向けられる。
「そう言えば、話があるって何かしら?」
あっけらかんとするセラは、こういう時に限って全く周囲を気にしない。出会ったばかりの頃は少しの視線でオドオドしていたというのに、人間慣れれば成長するものである。 ……いや、悪魔か。
「あ、分かったわ! 話を口実にしたデートでしょ!」
勘違いしたのか、セラが腕に抱きついてきた。胸が、いや、うん。そのままで問題ない。そのままでお願いします。
「それも魅力的な話なんだけどな。こっちは真面目な話だよ」
マップを確認しながら、路地裏に入る。こっちは更に薄暗いな。
「部下悪魔が言ってたろ。魔王グスタフの亡霊を見た奴がいるって。セラはどう思う?」
「父上の亡霊って言われてもね。 ―――娘の恋人憎しで生き返る可能性はあるわ!」
「あ、いや、俺は真面目な話を―――」
「あるわ!」
「………」
マジですか……?
「まあ冗談半分は置いといて、正直私には分からないわね。だって生まれてこの方、外に出た事なんてなかったし。うーん、悪魔四天王の誰かが生き残っていて、父上に変装しているとか?」
「あー、その線もない事はないか」
壁の隅で気絶しているスケルトンを横切る。
「ケルヴィンはどう考えているのよ?」
「俺もグスタフが生きている可能性はあると思ってるよ。方法は違うけどさ」
「方法?」
壁に上半身が埋まってしまった悪魔を横切る。
「ああ、別人って線も考えていたぞ? 尤も、悪魔四天王じゃないが」
「別人? えっと、どんな方法で誰の事よ?」
「それは――― あ、着いちゃったな」
目的地。この路地裏の奥は街に住むギャングのアジトになっていて、人目から隠れるには打って付けの場所。デートには適さないだろうが、街を荒らすギャング共は仲良く眠っているから問題はない。で、この状況を作り出した張本人が目の前に。
「よいしょ、っと。さ、捕まえて来たよー。無駄に図体が大きかったから、人目を忍ぶのが大変だったかな」
冗談みたいに縄でグルグル巻きにした大袋を置き、腕で汗を拭く仕草をするアンジェ。だが、正直苦労した様子は全く感じられない。その一仕事した笑顔の背後には、崩れ落ちた無数のギャング達の姿があった。
「路地裏のギャングをなぎ倒した上での台詞じゃないよな」
「その指示を出したケルヴィン君が言う台詞でもないと思うよ。あ、セラさんだけデート!? ずるい!」
「違うって。だからその抜いたダガーを鞘に収めろ」
アンジェがダガーを抜いた際に放たれた音に、大袋がビクリと反応した気がした。