軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第334話 進化&進化&進化

―――無限毒砂

気味の悪い紫の砂を踏み締めながら、俺たちは地獄の砂漠を進む。結界内が快適だっただけに、慣れていた筈の暑さがぶり返してしまったな。空に太陽が2つってのも、長時間となれば辛いものがある。いつもであればひとっ走りで済んでいたから気にしていなかったが、そういや移動って時間が掛かるものだったね。

「次は…… こちらです。足元に気を付けて」

移動に時間が掛かる要因の1つとして、悪魔軍団の唯一の生き残りである部下悪魔に毒気の少ない道を案内させている事が挙げられる。セラの血染を解いて誠実に交渉したら、彼は快く案内を引き受けてくれた。実に紳士的だ。上司に見習わせたいものだよ。彼の顔が引き攣っている? 何の事でしょう?

ちなみに絶対浄化を持つリオンに先行させれば、それで済むんじゃないかという意見もあるだろうが、それは駄目だ。リオンは今、俺がおんぶしている。この手は離せない。いや、半分冗談だ。

「えへへ。ケルにい、ごめんね」

「謝る割にはご機嫌だな」

リオンに砂漠の毒を消してもらう方法は最初に俺も考えた。実際に試しもした。が、後々を思えてこの方法は却下となった。だってさ、リオンが紫の砂漠を歩けばその周囲一帯が普通の砂漠と化してしまうんだ。毒々しい紫が汚れ1つない真っ白な砂に、それは見事に浄化され過ぎてしまって、転移門へ通じる道のりが丸分かりとなってしまったのだ。そうなってしまえば悪魔が地上へ侵攻するのを防ぐ、試練とも呼ばれるこの地の機能が意味を成さなくなってしまう。

リオンの浄化は力を最小限に抑えても効果を発揮してしまった。となればリオンが砂漠に触れないように、移動中は誰かがおぶるなりしなければならない。こんな広大な砂漠を、ずっと天歩で宙に浮き続けるのも疲れるしな。という事で、リオンの御指名により俺がおんぶする流れとなった。

「~♪」

うん。暑いけど、リオンから感じる体温は心地好い。背中に感じる筈の胸の感触が殆どないのは完全にスルーだ。時折背中に頬をすり寄せたりして、それだけで癒されるから小さな問題なのだ。 ―――おいっ、小さいとか言うな!

「王よ、そろそろ疲れたじゃろう? ワシが交代しようではないか」

落ち着かない様子のジェラールが、非常に羨ましそうに後ろから声を掛けてきた。転移門を出発してから、これで5度目である。5分間に1回は確認されている気がする。

「お前、この暑さと太陽光で鎧が高熱になってんだろ。リオンに火傷させる気か」

「ぐぬぬ。この身が鎧である事をこれほど呪った日は初めてじゃて……」

猛暑日だろうと矜持を捨てず、相変わらずな全身鎧のジェラールにリオンを背負わす訳にはいかない。今ならジェラールの鎧の表面で目玉焼きが焼けるからな。却下だ却下。

「そうじゃなくても、全体的に黒色を着込む私たちにこの日差しは辛いよね……」

「駄目よアンジェ。暑いと思うから暑いって本で読んだ事があるわ! 涼しい。そう、ここは涼しいって思い込めばこちらのものよ!」

「セラさん、汗ダラダラだよ。無理しない方が良いよ」

仲間達も段々と暑さに参ってきているようだ。セラは強がっているけど、アンジェの指摘の通り額に流れる汗までは誤魔化せていない。エフィルや赤ムドくらいかな、平気そうにしているのは。

「皆さん軟弱ですね。私なんてシュトラを背負っていますのに」

「メル姐さん、自分の周りだけ冷気で涼しくするのは狡いッスよ……」

「勘違いしてはなりません。これはあくまでもシュトラの為、シュトラの為なのです」

「なら、俺たちにも―――」

「ダハク、部下悪魔の話を聞いていましたか? この砂漠は急な温度変化に反応して、大規模な環境変異を起こすと説明していたではありませんか。やるとしても、冷気を出すのは精々1人分のみ。であれば、シュトラを背負う私が使うのも道理な話なのです」

「むう、それなら仕方ないッスね……」

キリッした表情でメルフィーナが言い切る。ふざけているようだが、今回に限っては結構真面目な理由がある。さっきも話した移動が遅れている理由の2つ目が、メルの背中でうなされながら眠っているシュトラなのだ。

転移門の結界を出発しようとした際、急にシュトラとアレックスが苦しみだしたんだ。突然の事だ。出発は一時中断、当然皆は困惑した。しかしながら、これまで何度もこの場面に立ち会った経験もあって、原因は直ぐに思い浮かんだよ。

「まさか、あのタイミングで同時に進化が始まるとはな」

「竜王になる為に休眠しているボガちゃんに続き、アレックス、シュトラ様。これほど大人数での進化は初めてですね」

レベル的にそろそろかとは思っていたけどな。俺たちが魔王ゼルを倒したのも、その位だった訳だし。ボガが火竜王になるのは決定事項だが、シュトラ達が何に進化するかはまだ分からない。まあ、人型の種族は進化しても外見はそう変わらないみたいだし、見た目の変化は俺の魔力内で休んでいるアレックスやボガに期待かな。シュトラは能力に期待だ。

「進化するまでは絶対安静。本当なら配下でないシュトラが進化するまで結界内で待ちたかったところだけど、シュトラが聞かなかったからなぁ」

「自分のせいで足を止めさせたくない。眠る前にそう仰っていましたね」

「シュトラにしては珍しい我が侭だったな。進むにしても、負担を掛けないように速さは調整しなきゃならないのに」

「ですが、ご主人様嬉しそうでしたよ? 現にこうして願いを聞いていますし」

「……たまーに我が侭言われると、聞いてやりたいと思うじゃん?」

あいつは年がら年中孫に尽くしたいジジ馬鹿だけど、何というか、少しだけジェラールの気持ちが分かったような気がする。叶えてあげたい、この気持ち。みたいな?

「姫様よ、そろそろ腕が疲れた頃じゃろう? シュトラを背負うその大任、ワシが引き受けましょうぞ。ほれ、涼しい冷気の中で布に包んでやればワシでも―――」

「ジェラール、ステータス上のパワーは私の方が上なのですよ? あと、貴方に任せてはスキップでもし出しそうなので駄目です」

「せんから! 懇切丁寧に、安静な姿勢を保つからっ!」

……またやってるよ。流石にああまではなりたくない。

「ああ、そうだ。なあ、部下悪魔」

「その名前で固定なんですね…… まあ、構いませんが。何でしょうか?」

「魔王グスタフが治めていた国ってのは、ここから近いのかい?」

「グスタフ……? あっ、『紅髭公』、昔の魔王ですね」

「紅髭公?」

「グスタフの二つ名です。紅に染まった長い髭から由来されているそうですよ。戦場で揺らぐその髭は特に目立っていたとか」

「へー」

セラのサイドポニーみたいなもんだろうか? おっさんの髭と美女の髪では同じ赤でもベクトルは全く違うけどさ。こう、厳つさと可憐さが。

「……で、国はどうなったのよ?」

噂のセラがひょっこり俺の横から現れる。やっぱり気になるか。

「ええと、どうなったかと言うと……?」

「昔の勇者に負けたんでしょ? その後、国はどうなったのよ?」

「そうですね。グスタフの帝国、グレルバレルカは最盛期には 奈落の地(アビスランド) の半分以上を支配下に置いていましたが、魔王亡き後は他勢力に領土を奪われ続け、今では当時の首都のみを残す小さき国となっています。その首都も一時は陥落寸前まで追い込まれたのですが……」

「だが?」

「なぜか、首都のみは取られませんでした。古から続く伝統ある国も、近年になって栄えた勢いのある国も、どういう訳か首都を落とす事はできなかったのです。どのような軍隊を送っても結果は同様、全滅もしくは半壊です。それからは不落の小国なんて噂されたりして、最近では手を出す国々がいない程ですね。地理的にそこまで重要な土地でもないですし、無理に侵攻する必要もないとの判断ではないでしょうか? 一説には魔王グスタフの亡霊を見たなんて狂言を吐く者がいて、戦場に揺らぐ紅蓮の色がどうとか」

……魔王グスタフの亡霊、戦場に揺らぐ紅蓮の色、か。ふーむ。