軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第316話 女の決闘

―――火の国ファーニス

「そこの貴女達、待ちなさい」

お店の前に立ち塞がるのは双子姫の妹、ラン・ファーニス。次いで姉のレン・ファーニスもランさんの横に並んだ。2人を改めて見てみると、記憶の姿よりも背が伸びて胸も少し大きくなっているのが分かる。いいなぁ。

「えっと、何ですか?」

「もしかして、これからあの店で買い物かしら?」

「そのつもりですけど」

目的の屋台を指差しながら、尋ねるはランさん。それなりに高圧的な態度のランさんが相手だけど、リオンちゃんは臆することなく受け答えをしている。体格的には大人と子供なのに流石だよ。

「ふーん、あの屋台を知ってるとはなかなかのものね。知名度はないけれど、豊富な品揃えに格安の値段のこの店は少ないお小遣いでも色々と買うことができるし、何よりも店員のお婆ちゃんは目が悪い。だから、誰が買い物に来ようと騒ぎにならないの! これは私たちにとって隠れ家的場所と言っても過言ではないわ」

「そんなお店で買い物したいって気持ちは分からなくもないけど、ここを黙って通す訳にはいかないわね。どうしても通りたいっていうのなら、私たちと勝負しなさい」

「「勝負?」」

う、ううん? 言ってる意味がよく分からないかな。今の流れでどうして勝負になるの? ファーニスには好きな男性を取り合う女の決闘という風習があるにはあるけど、この場合は当て嵌まらないし。

「あの、お姉さん。よく理解できないのですが、どういう意味なんでしょうか?」

「「出たわね、諸悪の根源!」」

「え? わ、私?」

2人揃って指を差されてしまった。私、何かしたっけ? 記憶を辿っても、全然身に覚えがない。そもそも学園では挨拶を交わす程度にしか会話もしたことなかったし、特に悪意を持たれるような行為もしていない。そもそも私は目立つタイプでもなかったし、あの頃の私と認識しているとも思えないんだけど。

「お姉さん、人を指差すのは失礼だよ」

「む、それはそうね。悪かったわ」

「黒い少女、教えてくれてありがとう」

そこは素直に謝るんだ。根は悪い人達には見えないんだけどなぁ。

「勝負の意味だったかしら? 強いて言うならギャフンと言わせたい、かしら?」

「ギャフン」

「青髪の貴女じゃないわ! そっちの金髪の貴女よ!」

「え、ええと…… ぎゃふん……」

「いや、そうなんだけど…… 違う! 恥じらう姿は可愛いけれど、可愛く言えば良いってものじゃないの!」

頑張って言ってみたけど、どうも一筋縄ではいかないみたい。これはその勝負に付き合わないと、後々面倒なことになる感じかな。

『時間もあることだし、お姉さんと勝負していく?』

『騒ぎを大きくするとお兄ちゃんに迷惑掛けちゃいそうだし、私もそれで良いと思う。ムドファラクは?』

『リオン様とシュトラ様に従う。私は護衛として働くだけ』

念話での相談の結果、レンさんとランさんの勝負を受けることに決定。私は兎も角、リオンちゃんやムドファラクは頼りになるし、たぶん大丈夫だと思う。

「お姉さん、勝負の話受けるよ」

「「え、本当に!?」」

あちらも本当に受けるとは思っていなかったみたい。

「それで勝負とは何をするんでしょうか? 暴力は遠慮したいのですが……」

「ファーニスの女でも流石に子供相手にそんなことはしないわよ。勇者様の取り合いでもあるまいし」

「勇者様?」

「ゴホン! こっちの話だから気にしないで。勝負の内容は…… そうね、アレなんてどう?」

レンさんが隣のお店、ムドファラクが先ほどから気になっていた甘味処に目をやる。

「デザート大食い勝負とか、どう?」

「「……え?」」

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不味い、不味いわ。なし崩し的に甘味処に来てしまったけれど、この勝負はとっても不味い。いえ、デザート自体はとっても好きだし、美味しいものなんだけど…… 大食い勝負はちょっと……

『……リオンちゃん、自信ある?』

『あはは、それがまったく……』

『だよね、私たち小食だもんね……』

そう、私もリオンちゃんもたくさんは食べられないんだ。いつもリスのように少しずつ、時間を掛けて食べるように心掛けているせいもある。けど、パーティ内では最もこの勝負に向いてないのは確実。一方であちらのレンさんとランさんは、学園の女の子の中でも結構食べる方だった。このままじゃ、お店が使えなくてお使い失敗になっちゃう……

『いえ、別に他のお店を利用すればいいだけの話よね?』

『うん、そうだね』

そうと分かれば勝負に拘る必要は別にない。今のうちに別ルートを考えておこうかな。えっと、ここから近いのは―――

『その心配はない。私が出る』

『ムドファラク?』

ずいっと屋台前に並べられた飲食用のテーブル席に座るムドファラク。気のせいか、その目には炎が燃えているように見えた。青髪の状態だと、水と氷しか操れなかった筈なのに。

「質問。この勝負、私が出ても問題ない?」

「別に構わないわよ。元からハンデのある勝負だし、2対3でやるつもりよ」

「そう、安心した。こちらは私だけで構わない」

「「は?」」

「ちょ、ちょっと、ムドちゃん?」

「大丈夫、問題ない」

どうしよう、ムドファラクがいつになく本気だ。

「へ、へえ、面白いじゃない。でもいいの? それで負けちゃったら、この店で食べたデザート代は全部あの金髪の子持ちよ?」

「問題ないと言っている。デザートに関して、私は無敵」

ちょっと、さり気なく新ルール追加しないで! ムドファラクもそれとなく煽らないで!

「うう、お小遣い足りるかな……」

「シュトラちゃん、いざとなったら僕が出すよ」

リオンちゃんの優しさが温かい。でも、案を出したからには責任は取らないといけないし…… あれ? そういえば、ムドファラクってどれだけ食べるんだろう? エフィルお姉ちゃんのお菓子をもっふもっふと頬張るイメージしかない。というのも、食事風景を思い浮かべるとメルお姉ちゃんの方にどうしても目がいっちゃうから、あまり意識して見てなかったな。人型になったのもつい最近のことだし。

「ふふ、凄い自信じゃない。気に入ったわ。店主、パインかき氷の準備を!」

「あ、あのランさ、いや、お嬢ちゃん。今更口出すのもアレなんだが、その方々には手を出さない方が―――」

「―――準備、しなさい」

「へい、喜んで!」

店の店主の顔色がさっきから青い。どうしたんだろう?

「さあ、勝負の準備は整ったわ。最後に確認しておくけど、本当に1人でいいのね? 時間内に食べたかき氷のカップ数が多い方が勝ちなのよ?」

テーブルを挟みレンさん、ランさんと向かい合うムドファラク。そのテーブルの上には大き目のカップが並んでいる。カップの上にはきめ細かな氷とカットされたパイナップルが乗り、練乳と黄金色に輝くシロップが太陽の光を反射して眩しい。

「もう食べていいの?」

「……ふふ、心配無用のようね。なら―――」

「「その吠え面、後でゆっくりと拝んであげる!」」

特に意味のない女の決闘が今、始まった。

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―――ファーニス城

「いたか!?」

「いや、こっちには…… やはり城を抜け出したんじゃないか?」

ファーニス城では兵や使用人達が忙しなく動き回っていた。城を抜け出した姫、レンとランを捜しているのである。

「くっ、このような時に!」

ファーニス王は両目を閉じ、頭を抱える。2人の脱走癖はいつものことだが、それを見越して部屋には見張り役の兵を多く置いていた。だがその効果は想定していたよりもなかったようで、配置していた兵全員が声を上げる暇もなく気絶させられていたのだ。

「学園で鍛えてしまった戦闘力が、こんな形で仇となるとは……」

「下手なB級冒険者程度の実力がありますからな、姫様方は。しかし国王様、事が大きくなる前に街中も捜索させるべきでは?」

「う、うむ。至急、部隊の編制を―――」

「―――報告! レン様とラン様、発見致しました!」

「何っ!?」

国王が指示を出そうとした瞬間、伝令の兵が朗報ともいえる知らせを持って来てくれた。大臣は胸をおろし、王も安堵の表情を浮かべる。

「そうか、見つかったか…… どこにいたのだ?」

「そ、それが、城門前で倒れているところを番をしていた兵が発見したようでして……」

「む? 城門の前でか?」

「はっ…… 今、お連れ致します」

暫くして、両脇を使用人に抱えられるようにファーニス王の前へと姿を見せた姫君たち。その刹那、2人はバタリと倒れてしまう。

「こ、これは……!?」

レンとランの腹は大きく膨れ上がり、今にもはち切れんばかりとなっていた。明らかに食べ過ぎである。そして、口元や衣服には調子に乗って掛け過ぎた練乳の残りがべったりと付着していた。

「くっ、遅かった。全ては遅過ぎたのだ……!」

「姫様、おいたわしや…… 国王様、これはやはり―――」

「―――うむ、死神め。本性を表しおったな!」

国王の言葉に騒めく城内。心配性な男達は、これまた盛大に勘違いを広めていった。