軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第305話 続々・修羅場

―――デラミス宮殿

いつもよりも少し遅れた朝。俺たちはデラミス宮殿の最上階にて、フィリップ教皇やコレットと一緒に朝食を摂ることとなった。教皇はその立場上、誰かと一緒に食事することが極めて少ないらしく、事情を知る俺たちとの食事を楽しみにしていたそうなのだ。実際、まだ刀哉達にも姿を見せたことはないとのこと。しかし、朝食時間というにはやや遅い時間。昨日の疲れを考慮してくれたのか? ……俺が言ってるのはダンジョンでの戦闘の疲れだからな! 勘違いしちゃ駄目だぞ!

「うんうん、やっぱり大人数での食事は楽しいね! 何て言うのかな、食卓に活気がある?」

「教皇、メル様の御前です。失礼のないようにしませんと」

そういうコレットは失礼どころではないことをしてくれた筈だったが、気のせいだったろうか? もう引き下がれないレベルで。お蔭で俺は朝から胃が痛いんだぞ。それに何で教皇が俺の目の前の席なんだよ…… 『胆力』スキルを全開にしておかないと、絶対に顔に出てしまう自信がある。頭に蘇るは昨夜の営み。ケラケラと楽しそうに少年の笑顔を輝かせる教皇を前に、一般常識を有する俺のハートはズタズタなのだ。仮面だ。仮面を被るのだ、俺! ポーカーフェイス!

「宮殿での食事もなかなか乙なものですね。エフィル、これらのレシピは?」

「ご安心を。既に習得済みです」

あと、お前のいうメル様は朝食に夢中だからそこは気にしなくていいと思う。

「教皇って肩書きもなかなか面倒でね。一緒に食事するにも、コレットやサイしか相手がいなかったんだ。そのコレットだって、いつもデラミスに居る訳じゃない。僕ってこんな姿だから、他国での社交関係はコレットに任せきりでしょ? 1人飯はつまらなくてさぁ」

「確かに誰かと一緒に食卓を囲む方が、食事も美味しく感じますからね。あ、それであれば蘇生された古の勇者の方々はどうなんです? 同じパーティの方々だったんですよね?」

まだメルフィーナの氷漬けから解かれていないようだったけど。日当たりの良い中庭に2人の氷塊が置かれていたな。聖騎士の護衛付きで。宮殿で働く人々が奇妙な目で見ていたっけ。

「ラガットとソロンディール? うーん、どうかな? ラガットは無口だし、ソロンディールは女性の話しかしないし…… ほら、僕らのパーティで常識人って僕とサイくらいなもんでしょ?」

「は、はぁ……」

その言い方だと、勇者だったセルジュも非常識人になってしまうのだが。

「ところでケルヴィン。昨日は部屋にいなかったみたいだけど、どこに行ってたのよ?」

「あ、そうだよ! 折角、エフィルちゃんに編み直して貰ったフードを見せようと思ったのに!」

―――遂に来たか! 大聖堂でもコレットが展開していた巫女の秘術で、俺らの居場所は読み取れないようになっていたからな。察知能力に長けるセラとアンジェが疑問に思うのも無理はない。2人の問い掛け、上手く回避せねば明日はないぞ。俺は一瞬コレットとアイコンタクトを取り、打ち合わせ通りに事を進めるよう確認する。

メルフィーナは…… 駄目だ。小鴨のロースト(山盛り)に夢中になっていやがる。朝からボリューミーな料理を全面に出して早々に女神を陥落させるとは…… 教皇め、侮れん! 仕方ない、メルフィーナは捨て置こう。逆に考えれば、あの状態であれば下手なことは言わないだろうし。主に口に料理を運ぶ動作で忙しいのだ。

「いや、それがさ。昨晩はコレットの部屋にいたんだけど、コレットがなかなか寝かせてくれなくて」

「「……え?」」

賑やかだった食卓の空気が一変する。刺々しい重圧が部屋中に充満していく感じかな。戦闘中であれば心地好いこれも、今ばかりはご遠慮したい気分だ。

「ひっ!?」

給仕をしていた使用人が顔を青くしながら尻餅をついてしまう。恐怖のあまり、指先1本も動かせないようだ。だが、それを咎めることはできない。彼女だって教皇の護衛を兼任する凄腕なのだろうが、相手は女帝と暗殺者が放つ重圧だ。耐えろという方が無理な話なのだ。この場で変わらないのはメルの食欲くらいなものだろう。君、本当に動じないね。

さて、なぜ俺がわざわざ死地に赴くような発言をしたかについてだ。普通に構えてしまえば、どう言ったところで言い訳がましくなってしまう。ここで嘘を言ったところで、多分後でバレる(予感がする)。俺に上手く言い包めれるような交渉技術がある訳でもない。なら、ここは敢えて昨夜コレットと一緒にいたことを自ら押し、その上でコレットの交渉術で隠蔽してもらう!

『え、ちょ、ちょっと、王? この空気どうするの? ワシ、知らんよ? 流石のワシも太刀打ちできんよ?』

俺だって知りたくない。が、これは避けて通れぬ試練の道なんだ。幸いコレットは俺やメルが害されることを望んでいない。最大限に協力してくれる。

「ええ、敬愛するメル様とケルヴィン様との暫く振りの再会でしたので、ついつい私から沢山お話してしまいまして」

「あら、メルも一緒だったの?」

「ふぁい(はい)?」

「あー、そうだったんだ。私ったら、変に勘ぐちゃったよ。お恥ずかしい……」

「うふふ。こちらこそ、紛らわしいことをしてしまいましたね。ですが、私はメル様の忠実なる信徒。申し訳ありませんが、メル様を応援させて頂きますよ」

良かった。食卓が元の和やかな雰囲気に戻った。窓ガラスにヒビが入る程度の被害で済んで、本当に良かった。

「そっかー。残念だなぁ…… 男っ気のないコレットに漸く運命の人ができたかと思ったのに」

何を言い出すんですか、教皇様?

「教皇、真面目な顔で冗談を言わないでください。私はメル様とケルヴィン様の信徒、それだけで良いのです」

「冗談じゃないよー。親としては政略結婚なんて、できるだけさせたくないからね。ほら、敬愛するメル様と同じ人を好きになるなんて、実に運命的で劇的で、高揚すると思わないかい?」

昼ドラでよくある展開ですね。血の海を見る展開ですね。

「………。 ……そんなことはありません!」

おい、今少しそれもアリだなとか考えなかったか? などと俺が思案していると、隣のリオンがくいくいと服の裾を掴んできた。

『大丈夫だよ、ケルにい。どんな展開になっても僕が味方になるから!』

『リオン……!』

ああ、リオンの笑顔に癒さる。ズタズタになったハートが修復されていくのを感じる……! さっきから頭上に疑問符を浮かべるばかりのシュトラにも和まされる……!

一応、これでセラやアンジェ、教皇には誤魔化せた形にはなったかな。肯定しないだけで、嘘は言っていない筈だ。うん。しかしなぁ、まだ問題が1つあるんだよなぁ。それが何かと言うと、未だ悲しそうな視線を俺に向けるエフィルな訳で。

普段から俺の専属メイドとして仕えるエフィルは、俺を少し見ただけで体調から気分に至るまで、その全てを察することができるのだ。それは詰まり、朝の俺の姿を見た段階で何時に寝たのか、どれほど体力を消耗したかまで分かってしまうということ。 ―――エフィルだけは、小手先の言葉で誤魔化せないのである。エフィルが報復的手段に出ることは絶対にない。が、全てを知った上で心の中にしまい、ただただ悲しそうにするのだ。行為そのものより、それを隠されるのが悲しいんだろうな。それはある意味で俺に一番効く。

『エフィル、後でちょっといいか?』

『……はい』

エフィルにだけは包み隠さず、全てを話そう。土下座もしよう。納得してくれるかは分からないが、爆撃をこの身で受ける覚悟で臨もう。媚薬、駄目絶対。

「失礼致します」

ちょうどその時、サイ枢機卿が部屋に入って来た。

「あれ? サイもこれから朝食かい? それともただならぬ気配に気づいて僕の安否を―――」

「いえ、教皇にご報告が」

違いますとばかりに否定するサイ枢機卿。殺気の原因を作ったのは俺らであるが、教皇が凄くガッカリしているぞ。そしてそんな教皇に何やら耳打ちするサイ枢機卿。

「へ? S級冒険者のシルヴィアから転移門の使用願いが来てるって? あの『氷姫』の?」

教皇、口から情報が駄々漏れで耳打ちの意味がないです。たぶん、わざとだろうなあ。