軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第291話 反魂者

―――英霊の地下墓地・第10層

蠢く 氷女帝の荊(セルシウスブライア) はメルフィーナとエストリアの間で氷の壁を形成。互いに干渉できないよう広間が2つに区切られる。最下層である10層は総体積が小さい代わりに、その全てをこの広間に充てている。半分になろうとも、戦闘に支障が生じることはないだろう。何よりも、エストリアとアトラを接触させないようにするのがメルフィーナの目的であった。

「あらあらぁ、そんなに嫌わなくてもいいのにぃ」

エストリアが横目に壁を見詰める。彼女の足もまた、その荊が巻き付き始めているのだが、気にする様子は全くない。

「あの荊の壁を破壊するのには骨が折れそうねぇ…… それじゃあ、まずは貴方達を始末しなくちゃ、かしらぁ?」

「気軽に言ってくれるね。そう簡単にできると思ってるの?」

「暗殺者こそ正気ぃ? 序列第8柱の貴女が、序列第7柱の私を相手にしようって言うのよぉ?」

妖艶に笑みを浮かべ続けるエストリア。対してアンジェは口の端を吊り上げ、どこかの誰かさんのように笑った。

「それ、いつも反魂者が断罪者に言ってなかったっけ? 大して階級は変わらない。それとも自信がないから強がってるの? エストリアちゃん?」

「……ああ、確かにぃ。でも腹立たしいわぁ」

氷の荊に掴まれていた足を気にすることなく、エストリアは大きく跳躍する。同時に複数の蝙蝠が羽ばたくのを見るに、足を蝙蝠に変化させることで拘束を逃れたのだろう。彼女の破けた修道服の背から飛び出るは漆黒の翼。セラのものと酷似しているようにも見える。

「荊がウザったいから、空中から失礼するわねぇ」

エストリアがその豊満な胸の谷間に手を入れ、白き杖を取り出す。いくら彼女の胸が潤沢と言えど、明らかに隠せるサイズのものではない。まあ、今更驚くことでもない些細なことだが。

「これは『 極楽天(シオン) 』っていう杖でねぇ。使用者の性欲を糧に魔力を上げる代物なのぉ。見てくれも綺麗でしょう。私にピッタリだと思わない?」

「ひたすらにキモい」

「あらぁ、意見の相違ねぇ。残念」

アンジェはその白き杖を見たことがあった。以前、第3柱の創造者、ジルドラと組んでいた時のことだ。どこでとは言わないが、外見上の美しさも含めて嫌悪の対象でしかなかった。エストリアはその 極楽天(シオン) を大きく掲げる。

「じゃ、殺すわねぇ。 救済の罰光(セルベイションレイ) 」

―――カッ!

広大な大聖堂が、強烈な光の雨で覆われた。目を開けることも許されぬ程の眩き光線が容赦なく降り注ぐ。しかし真に恐ろしいのは、その光の雨のひとつひとつがS級魔法であるという事実。地を覆った 氷女帝の荊(セルシウスブライア) をも破壊し得る威力を誇るのは、彼女の魔力の高さ故か。それとも白き杖、 極楽天(シオン) の効力によるものか。どちらにせよ、氷の壁を除いて光が止んだ時に残る荊は残されていなかった。

「おおう、こわっ! 何じゃこれ、エフィル並みか!?」

盾を天に掲げて 救済の罰光(セルベイションレイ) の猛攻を防いだのはジェラール。ケルヴィンの手によってより魔改造された大盾は不思議と無傷であった。ジェラール自身も思いの外無事である。

「やっぱり素敵だわぁ、おじ様。私の愛を受けて、あんなにピンピンしているなんて……」

舌なめずりするエストリアの瞳は完全に女豹のそれである。ジェラール、背に言い得ぬ冷たいものを感じ寒気立つ。ジェラールはその瞳を見たことがあったのだ。どこでとは言わないが、巨躯なる 漢女(おとめ) の強き視線と重なるところがあり、恐怖の対象でしかなかった。しかし、エストリアもジェラールだけに視線を移してばかりはいられない。

―――ギィン!

『遮断不可』で 救済の罰光(セルベイションレイ) を透過し、『天歩』により一気にエストリアが居座る宙にまで駆け寄るアンジェがいたからだ。ダガーと杖が交差し、甲高い音が広間に鳴り響く。

「あはっ、よく受けたね!」

「私の魔法を通り抜けて来るだろうと思っていたから、ねぇっ!」

吸血鬼は純粋な力も強力。アンジェとエストリアでは後者に分があり、均衡の状態から一気呵成に杖を振ってアンジェを吹き飛ばす。しかしアンジェもただでは済まさない。吹き飛ばされながらも天歩で威力を殺し、直ぐ様に立て直しを完遂。次の瞬間にはクナイを、エストリアは光の槍を、各々最適解を見つけ出して攻撃の飛ばし合いを繰り広げ始めた。

この撃ち合いも熾烈を極める。文字通り光速で迫る光線の流星群をアンジェは完璧に回避し続け、その一方でエストリアは体の蝙蝠化を繰り返してクナイに肌を触れさせない。例え蝙蝠の一匹を仕留めたところで、エストリアに影響は殆どないようなのだ。このままでは泥沼の消耗戦である。

「クナイに毒とかぁ、陰湿じゃないかしらぁ? その黒フードも地味だしぃ」

「あははっ、暗殺者に何を求めてるのかなぁ? それにこのフードは最高にお洒落だよっ!」

……少々、と言うよりかなり大人気ない口喧嘩も同時に行われているが、それを補うほどに壮絶なバトルが続く。

「今度はワシから余所見かの?」

ここで動いたのはジェラールであった。アンジェが攻撃とは別に投擲して、壁に突き刺すことで作り上げたクナイの階段。これを駆け上り跳躍したのだ。全身鎧とは思えぬ大きな飛び込みで、魔剣を振りかぶったジェラールがエストリアに迫る。

「まさかぁ、油断なんてしてあげないわぁ」

ジェラールとエストリアの間に何かが出現する。単体ではない。複数だ。黒きそれらは同色の翼を広げ、ジェラールを迎撃する。

「ぬう!」

振るわれた魔剣がそれらのうち一体を亡き者へと誘った。だがジェラールにそれ以上重力に抗う力はなく、地面へと落下してしまう。追撃をするかのように、それらも猛スピードで降下を開始。ジェラールを追いかけた。

「我が最高の配下、ヴァンパイアロードを一撃、ねぇ。益々惚れ直しちゃいそう」

ヴァンパイアロードは吸血鬼の上位種族だ。 上級悪魔(アークデーモン) に匹敵する実力を持つとされ、地上にでも現れるものならS級認定されることだろう。

「その惚れっぽい性格、治した方がいいんじゃないの?」

「貴女にだけは言われたくないわぁ。 ――― 安息の棺(ユーサネイジア) 」

エストリアの周囲に展開される棺型の結界。それと同時にエストリアが放つアンジェへの攻撃は止み、アンジェの攻撃もまたこの棺によって阻まれた。

「……何のつもり?」

アンジェが攻撃の手を止め、尋ねる。

「いえねぇ、この 安息の棺(ユーサネイジア) はとっても頑丈な代わりに、私からも攻撃できなくなっちゃう結界なのぉ。少し休憩しましょうよぉ。貴女が相手だと切りがなさそうだわぁ」

「今更話って言ってもね」

言葉と併せて起爆符付スローイングナイフを顔面目掛けて投げつけるアンジェ。棺に触れたナイフは直後に爆破。予定調和を成しはしたが、棺にはヒビどころか傷跡ひとつ付いていない。エストリアはこの行為にも気にしない様子で口を開いた。

「今おじ様に嗾けたヴァンパイアロードはねぇ、元々は全員死んで灰になっていたのよぉ。私が生前に生きていた時代、魔王グスタフが 奈落の地(アビスランド) で勢力を拡げていた時にねぇ。その彼らを、今私が蘇生させた」

「仮にも反魂者の名を授かった訳だしね」

「あらぁ、これって結構凄い力なのよぉ? 私に血を吸われた者は同族になっちゃうけどぉ、逆に私が血を与えた者は生者と化す。それが私の『反逆の徒』の力ぁ。色々と細かい条件はあるんだけどねぇ。亡骸がなければ効果をなさないとかぁ…… あの 子達(ヴァンパイアロード) の場合は死した後の灰ねぇ。メルフィーナを攻撃したあの8人だって、大戦時代の英傑を集めてそれなりに遺体を厳選したのよぉ。何て言ったってここ、宝の山だしねぇ」

妖艶に微笑むエストリア。地上ではジェラールとヴァンパイアロードの戦いが始まっていた。

「だからぁ、私の保管の中はとっても潤ってるの。そんな私の最近の趣味は、この棺の中で観戦することぉ。汗まみれは嫌でしょう?」

「あはっ、運動して無駄な脂肪は燃やした方がいいと思うな」

「これは無駄じゃないわぁ。慈愛の証よぉ」

エストリアの棺から溢れ出る、生還を果たした生者達。種族を超えたそれらが密集していく。