作品タイトル不明
第267話 ダガーと宝玉
―――デラミス宮殿・転移門前
「貴女は…… 女神様っ!? それに師匠も!」
「師匠って誰だよ。え、俺?」
刀哉の叫びが宮殿内にこだまする。唐突に師匠と呼ばれたケルヴィンは一瞬誰のことだが分からなかったが、刀哉らの視線を一身に受けることで薄々感じ取るのであった。
「そうですよ。俺たちに色々と指南してくれたじゃないですか! ケルヴィンさんは第二のお師匠です!」
「勝手に師匠認定されても困るんだが……」
「ケルヴィンさん、御免なさい。西大陸に渡った辺りから刀哉がこう呼び始めてしまって」
勇者パーティのトラブル解決統括者である刹那が直ぐ様に詫びる。以前よりもその行為が手馴れているように感じられ、ケルヴィンは僅かに気の毒に思ってしまう。これまでの旅路で最も苦労してきたのは、間違いなく刹那なんだろうと。
「まあいいさ。呼び名くらい好きに呼んでくれて構わないよ」
「じゃ、助平で」
刹那の背後からひょっこりと顔を出した雅が投げ捨てるように言い放った。
「……雅は少し自重してくれ。お前、さては『冒険者名鑑』で俺の欄を読んだな?」
「それだけじゃない。前に会った時よりも囲っている女の人が増えている。それも綺麗どころばかり。以上の現実は名鑑が事実であることを証明している」
雅がケルヴィンの背後を指差す。そこにはエフィルを始め、セラ、アンジェ、リオンら旅の仲間が並んでおり、雅の視線が痛いくらいにケルヴィンに突き刺さるのであった。
「……まあ、否定はしない。だけどさ、それを言ったら刀哉だってそうだろ?」
「甘くみないでほしい。刀哉は鈍感スキルと難聴スキルが標準装備。女の子と関係を持ったこともない。正に主人公の中の主人公。ベスト・オブ・ヒーロー」
主人公がなんたるかを雅が力説していると、シュトラがとてとてと小走りで近付き、ケルヴィンの手を握ってきた。
「お兄ちゃん、この人達がデラミスの勇者様?」
「……訂正する。ロリコン助平と呼ばせてもらう。このロリコン助平」
「待て、流石にそれは否定するから。違うから」
「み、雅ちゃん。そんな言い方しちゃ駄目だよ……」
奈々が制止するが、ケルヴィンを見る目はどこか訝しんでいるように思えなくもない。雅の軽口は少なからずケルヴィンのイメージに傷を与えてしまったようだ。
「あの、そろそろ本題に進んでもよろしいでしょうか?」
「皆さん、静粛にお願いします! メルフィーナ様からお言葉を頂戴しますので!」
放っておけば延々と続けていそうなやり取りに、コレットが割って入り取り纏める。刹那が雅を、セラがケルヴィンを抑えることで何とかこの場は収まった。すかさずコレットがメルフィーナに「どうぞ」、とアイコンタクトを送る。
「―――では、改めまして。皆様、此度は平和への尽力、真にありがとうございました。経緯はどうであれ、魔王が滅び、目的が達成されたことをここに認めます。魔王との戦いに直接的な関わりがなかったにしろ、貴方方の行いはまた他所で人々を救う尊いものでしたよ。そして、私の独断によって貴方方の同意なしにこちらの世界へ転移させてしまったことを、お詫び致します」
メルフィーナが深々と頭を下げると、それに次いでコレットも同様にこうべを垂れた。フォローすると言った手前、ケルヴィンも無視することはできない。同じく誠心誠意の詫びを入れる。
「め、女神様!? 別に俺たちはそんなの気にしてないですから!」
「コレットも早く頭を上げて――― あの、何でケルヴィンさんまで……?」
「いや、俺も全く関係ない訳じゃないと言うか、メルフィーナは俺の、な?」
「「「「?」」」」
この後、謝罪よりも2人の関係性についての追及が主となったのは言うまでもない。
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―――ケルヴィン邸・地下修練場
(……どうしてこうなったんだっけ?)
パーズに聳えるケルヴィン邸。その地下に存在する広々とした地下修練場にて、刀哉は2人のメイド親子と対峙しながら狼狽していた。第1の試験の相手は1対2による模擬試合。代表者は聖剣ウィルを構える刀哉だ。
事の始まりは女神メルフィーナの言葉からだった。まず、刀哉らには2つの選択肢が提示された。報酬である手土産を持って日本に帰るか、このままこの世界に残るかの2択だ。最初は4人とも、現代日本へ帰ることを選択しようとしていた。魔王をこの手で倒せなかったのは残念であったし、この世界には心躍らされた。しかし、元の世界には家族や友人達が待っている。自分達の力が必ずしも必要でなくなったのであれば、これ以上心配を掛けることもない。そう思っていた。だが―――
「新たな危機が迫ろうとしていますが、後のことは私たちにお任せください」
そんな言葉が女神の口から出てきたのだ。新たな危機とは何か? 魔王以上の何かがあるのか? 尋ねてもこれ以上巻き込む訳にはいかないと詳細は教えてくれず、このまま帰ってしまえば懸念が残るばかりである。
「乗り掛かった船です。俺たちも協力します!」
昔のように刀哉の勝手な独断で決めた訳ではなく、全員の意見を纏めた上での判断だった。結局のところ、その『新たな危機』を解決してから帰ることにしたのだ。しかし、この話はここではまだ終わらない。
「しかし、今回の件は魔王以上に危ういもの。 ……そうですね。今一度、貴方方の力を試させて頂いても?」
「もちろん構わない。西大陸で磨いたこの力、むしろ見せたい」
「み、雅ちゃん。あんまり大袈裟に言わないでぇ……」
「場所は、そうだな…… 俺の屋敷でやろうか。そこなら外部からの干渉もないし、思う存分全力を出せるだろ。コレット、ちょっとこの4人借りていいか?」
「そんなこともあろうかと、既に教皇からの許可を頂いておりました。ケルヴィン様のギルド証にデラミスの許可印を刻んでおりますので、これで転移門の使用が可能です。どうぞ」
「流石はコレットです。貴女が巫女であったことを誇りに思いますよ」
「こ、光栄の極みです!」
―――などと怒涛の勢いで決定され、準備が整っていく参加試験。刹那などはあまりに円滑に進み過ぎるので疑問に思うところもあったようだが、他3名の勇者は流されるまま 試験会場(ここ) まで来てしまった…… というのがこれまでの経緯である。
「それでは、お相手させて頂きます」
「本気で行くからね!」
相手はやる気に満ちている。メイドの親側は右手に赤々とした宝玉が埋め込まれたブレスレットを翳し、子供の方はダガーを構えて姿勢を低くした。合図が鳴れば今にも飛び掛って来そうだ。
「皆さんには『 生還神域(アルカディア) 』を、この領域には『 聖堂神域(タバーナクル) 』を施しました。万が一に死に至る攻撃を受けても、一度までは致命傷を無効化します。場外への攻撃も遮断されますので、安心して戦ってくださいね」
コレットはそれだけ説明して、場外の見物席に戻って行く。
「ねえねえ。コレットにやらせるよりも、ケルにいが施した方が手っ取り早かったんじゃない? 智慧の抱擁(アスタロトブレス) で昇格式の時にあの魔法に触れてなかったっけ?」
「解析までは終わってて、できれば俺もそうしたいんだけどな。あの魔法、デラミスの巫女じゃないと使えないみたいなんだよ。血族的な制限ってのかな? 仕方ないから、惨事を防ぐ為にクロトの保管にある魔力を使ってもらった」
「あ~。だからS級魔法を4回詠唱しても余裕そうなんだね」
「リュカちゃーん! 私の教えた通りにねー!」
観客席ではケルヴィンらが刀哉にはよく分からぬ話をしている。
「えっと…… メイドさん、だよね?」
「そうね。でも、只者じゃないと思う。ましてやケルヴィンさんのお屋敷だし」
「使用人が一般の兵士より強いのは割とよくあること。ちなみにこの女神誑しの屋敷は地元では魔境と呼ばれているらしい。ギルドの冒険者談。あ、そこのメイドさん。ジュースおかわり」
「承知致しました」
雅が横に控えるメイド、実は古竜なロザリアに飲み物を要求してはいるが、基本的に心配そうに見守っている刹那達。しかしながら、刀哉の相手であるメイド親子がトラージにて救出した元人質とは誰も気付いていない。
「じゃ、そろそろ始めようか。言っておくが刀哉、以前の実力と変わっていないようなら、多分お前負けるからな。そうなれば、当然第一線にはとてもじゃないが立てないぞ」
「大丈夫ですよ、師匠!」
「何か呼ばれ慣れないなぁ…… じゃ、メル」
「ええ、それでは―――」
開始の合図が今、鳴り響いた。