軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第227話 女王決戦

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

バトルフィールド全域に届く怒涛の薙ぎ払い。瓦礫などの障害物は触れたそばから全て吸収され、舞台の残骸は跡形もなく消え去ってしまった。水の尾の中にへと取り込まれた物体は『血染』の支配下に置かれ、今か今かと主の命令を待ちわびる。清掃後のようなまっさらな地表が顔を出したサプライズに、舞台交換班の面々は思わずニッコリ。意図せずセラの人気が彼らの中で鰻上りと言う、無駄に高い幸運がここでも発揮されていた。だがその代償は大きく、更におぞましさを増した尾が誕生したのであった。

「 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) とでも名付けようかしら? 思い付きにしては上手くいったわ! 流石私!」

セラが自画自賛をかます中、跳躍することで尾による攻撃を回避していたゴルディアーナが地上に着地する。

「ぶっつけ本番だったのねぇ。その肝っ玉の強さ、セラちゃんらしいわん」

「当たり前よ! 何と言ったって、私はゴルディアーナのとっておきを実践して――― って何言わせるのよっ!」

ドヤ顔から茹でダコのような顔に移行したセラが、 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) をビダンビダンと縦横無尽に振り回す。尻尾が感情表現と繋がっているかは定かではないが、これはどう見ても動揺している。

(あらやだぁ。激しく可愛いじゃないのぉ)

言葉に出さないのはゴルディアーナの優しさである。落ち着きを取り戻したのか尻尾が静まると、セラがコホンと咳払いをした。

「と、ともかくっ! 今までのやりとりで何となく打開策が思い付いたわ。覚悟することねっ!」

「なら実行しなさいなぁ。良い女は行動で示すべきよぉ(基本いっつも何となくなのねぇ……)」

「言われなくてもぉ!」

刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) が尾の先から血で生成した刃を出し、突貫する。

(何て壮大な照れ隠しなのかしらねぇ!)

迫り来る尾の先端にゴルディアーナの裏拳が炸裂。朱の水が一気に飛散し、尾の大部分がこの一撃により損失してしまった。だが、それでも 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) は止まらない。地表を一掃した際にちゃっかりと取り込んでいたもう1つの 紅玉(ブラッドボール) が、破壊された断面から新たに刃を構築し突撃を継続する。

(組み付くのは下策、かしらぁ)

如何に強靭な化物であるゴルディアーナとて、この 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) と接近し続けるのは危険であった。相手は形を持たない流体。『血染』の効果を自身が受けないにしても、圧倒的な質量を誇る水に囲まれ、その中に沈んでしまえば折角のパワーが半減し不利に陥ってしまうからだ。今粉砕した水の欠片が再び本体の尾と結合しようと地をにじり寄っているのも、ゴルディアーナは見逃さなかった。

(この大きな尻尾を相手していても切りがなさそうねぇ。やっぱりセラちゃんを狙った方が……!)

ゴルディアーナが尾の根元にいるであろうセラを見ようとすると、その視線を遮るように半ばの尾が壁となって立ち塞がった。そして―――

―――グォン!

水中にて待機していた複数の残骸、高硬度である舞台の欠片が、砲弾の弾として矢継ぎ早に発射される。

前試合でバールが舞台のキューブを投げ飛ばして来た技を違う形で何となく真似ただけだったのだが、何とセラは成功させてしまう。戦艦さながらの砲撃に、ゴルディアーナは 女王蜂刺針(はちぶんぶんぶんぶん) で応戦。こちらも次々と砲弾を撃墜していく。しかし一方では再生した尾の先端が迫っていた。

「 怒桃鬼烈拳(ももいろドキドキスマッシュ) ぅ!」

右腕にオーラが集まる。舞台を破壊した、最強の一撃が尾の先に衝突。大きく陥没したその先端から波紋するように、 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) が水飛沫を上げながら崩壊していく。

「力、集中させたわね?」

「っ!?」

尾の根元にいる筈のセラが、ゴルディアーナの背後にいた。崩壊の最中にある 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) とは真逆の方向だ。

(尻尾に擬態させたのは、そこにセラちゃんがいると思わせる為のブラフぅ……!?)

ゴルディアーナの読み通り、セラは砲撃を開始した辺りから尾の接続を解除して独自に動いていたのだ。未来予知に迫る『第六感』を欺くには大量の情報を与えれば良いと考えたセラは、 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) に暴れさせて意識をそちらに向けさせた。チャンスはゴルディアーナが 慈愛溢れる天の雌牛(ローズイシュタル) を一点に集中させた時。セラは水尾に突撃させて死角として利用し、その影から全力移動。ゴルディアーナの背後に至ったのだ。そして今、オーラが薄くなったゴルディアーナの背に鋭い鉤爪が刺突される。

「……むぐうっ!?」

「打撃には滅法強いみたいだけど、斬撃とかの鋭い攻撃には弱いんじゃない? この 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) の爪みたいに、ねっ!」

ズズズとオーラを掻い潜り、鉤爪がゴルディアーナの肉体を僅かに貫く。それは詰まり、『血染』の条件が満たされたことを意味する。

「そのオーラ、消しなさい!」

セラの命令は現実のものとなり、ゴルディアーナの全身を護っていた 慈愛溢れる天の雌牛(ローズイシュタル) が消失。ゴルディアーナのオーラを打ち破るに成功した。しかし喜んでばかりはいられない。セラの『血染』は単純な命令程効果的で、同時にいくつもの指示を出す等の複雑な命令程大量の血を必要とする。僅かに触れた程度の支配ではこの命令が限界とセラは察し、体の動きを封じるまでは指示しなかったのだ。

「うふふっ、よく見てるじゃないのぉ。でもねぇ―――」

セラが鉤爪を突き刺した先、露出した桃鬼の肉体が大きく膨れ上がる。

(―――! 爪が、ビクともしない!?)

いくらセラが腕に力を入れようとも、鉤爪はまったく動かない。動かすことができないのだ。ゴルディアーナが本気で締めた背筋はそれ以上刃を通さず、逆に退くことも許さない。しかし仮にセラがここで命令を変えて体の動きを封じたとしても、今度は薄紅色のオーラが背に展開されて弾かれてしまう。2重の意味で引くに引けない状態なのだ。

「捕まえたわぁん!」

「かっ…… は……!」

強烈な肘打ちがセラを襲う。腹部に衝突したそれは 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) の装甲を剥がし取り、ダメージも相当なものとなった。

「くぅ、ふぅ…… 触れた、わね?」

「こればっかりはねぇ……」

セラにダメージを与えた肘が血で染まり、セラの支配下に置かれる。ゴルディアーナが右腕肘先以降の感覚が失われるのを感じ取ったのと、セラの次なる刺突を左手で防御したのは同時であった。防御と言うよりは迎撃だろうか。頭部に向けて放たれたもう片方の鉤爪を一瞬で握り潰したのだ。左手の自由が奪われるも、今度は左の肘による肘打ち。セラの左腕の装甲が破壊され、ゴルディアーナの自由が更に奪われる。

「はぁ…… はぁ……」

2度の肘打ちの衝撃により、背筋で固められていた爪が折れる。爪先は未だゴルディアーナの背に突き刺さったまま、効果は継続される。幸か不幸か、セラはゴルディアーナから離れることができた。

「風前の灯火ねぇ。まあセラちゃんの回復力なら問題ないのかしらぁ?」

「い、たいのは、嫌よ…… くう……」

両腕を支配され奥義を封じられたゴルディアーナと、 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) が剥がれ落ち、解除されかかっているセラ。ダメージの度合いで比較すれば優劣の差は圧倒的。されど、この時点で勝敗は殆ど決していた。

「ゴルディ、アーナ…… 貴女、コーヒーに砂糖は、はぁ…… いくつ、入れる?」

「……3つかしらねぇ。ブラックも好きだけどぉ、今は3つな気分ねぇ。夢叶わずぅ、悲しくなった時は甘いものを飲みたいものぉ」

「そう……」

地表には崩壊した 刈取鮮血尾(リーパーブラッドテイル) の水が押し寄せ、一面を覆っている。セラは3つ目となる最後の 紅玉(ブラッドボール) を水面に落とし、スキルを行使する。オーラの護りを失ったゴルディアーナの両足は、より血の含有量を増した水によりその場で固定され、更にその赤き水は、徐々にゴルディアーナの体を這い上がり始めた。彼女の眼前にはボロボロになり、吐血しながらも拳を構えるセラの姿がある。だが、セラの勝利はもう間近。頭部に自身の血を触れさせれば、或いは這い上がる水がゴルディアーナを掌握するのを見届ければいいだけなのだ。

「ふぅ…… 締めくらい、自分の言葉で話さないとねぇ。私の負けよぉ。グスンッ……!」

大粒の涙を浮かべながら、ゴルディアーナが敗北宣言を行った。