作品タイトル不明
第225話 絶佳再び
「良かったわねぇ、ケルヴィンちゃん無事なんですってぇ?」
「ふふん、私は最初からケルヴィンの勝利を確信していたわ! でも暫くはメルとエフィルが看病とか言って離れようとしないでしょうね」
闘技場の通路を歩くは次試合の対戦相手同士であるセラとゴルディアーナ。試合では敵同士ではあるのだが、友人との世間話を普段と変わりなくしていた。
「ところでぇ、前の試合までしていたナックルはどうしたのん?」
「んー…… うちのダハクとの試合を見てたら、ゴルディアーナには最初から全力でいかないと不味いかな、と思って。でもそうしちゃうと、この闘技場の武器じゃ私に合わないのよ。 ……って、そう言うゴルディアーナも素手じゃない!」
「私も同じような理由よん。元々普段は素手で戦ってるしぃ、今回はセラちゃんが相手だし、ねん」
2人は立ち止まり、互いの顔を見合わせる。
「ふふん!」
「うふっ!」
一瞬笑みを浮かべ、再び歩き出した。今の僅かな間に、2人にしか分からない何かがあったようである。
「それにしても意外だったわぁ」
「何がよ?」
「ルールとして対戦相手の死を許容している以上、てっきり私はケルヴィンちゃんがレオちゃんを殺しちゃうかもん、って思ったりもしたものぉ」
「それはないわ。だって殺してしまったら、苦手克服の為のリオンの訓練、一体誰が相手するのよ?」
「……国王であるレオちゃんに練習相手になってもらう気ぃ?」
「少なくともケルヴィンはその気だったわよ? 罪にならないにしろ、リオンを理由に王殺しなんてことをケルヴィンがしたらあの子、悲しむだろうし――― っと、ここでいったんお別れね」
通路は二手に分かれている。それぞれは別々の選手入場口に繋がっており、ここから異なる道を進むこととなる。
「それじゃ、次に会う時は敵同士ね! 手加減したらぶっ飛ばすからね!」
「あらぁ、怖い怖い。でも私だって愛に生きるひとりの女ぁ、負けてなんかやるもんですかぁ」
セラとゴルディアーナは拳をコツンと軽く当て、互いの進むべき道を歩み出した。
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―――ガウン・総合闘技場試合舞台
舞台では本日恒例となった破壊された舞台の交換が終わり、その担当である獣人の兵達がぜいぜいと汗水を流していた。
「毎度のことながら、舞台交換班の方々お疲れ様です!」
「今年は例年にない程の交換率ですね。大量発注していて正解でしたね」
「ええ、まだまだ予備はありますし、何とか最後の試合まで持ちそうです!」
観客席に泡を吹いて白目で倒れる中年が見えたが、ロノウェは見なかったことにした。弟子たちがいるから大丈夫だろうと言う判断である。
「先の戦い、ガウン最後の生き残り組であった父上が敗北してしまったのは残念であったが、それ以上に見応えのある試合であった」
「一般人である私にはスクリーンの映像で漸く理解できる内容だったんですけどね!」
「父上にしては真っ当に戦っていましたね。試合以外では暗躍もしていませんでしたし」
「ああ、王位継承の戦いに比べれば至極真っ当であったな。果たして我ら獣人の中からあの極悪非道な―――」
「―――おっとぉ、どうやら次の試合の選手がやって来たようです!」
会場の視線が2つの選手入場口に集まる。2人の人影は出口付近で立ち止まり、姿勢を低くして―――
「と、跳んだーーー!?」
同時に、大きく跳躍。上空から着地された舞台はその衝撃だけで損傷、試合前に傷物にされるのは流石にこれが初である。
「シーザー氏、気絶してて良かったですね! ってそうじゃない! セ、セラ選手とゴルディアーナ選手の姿が……!」
会場は鮮やかな紅と、煌びやか淡紅色に目を奪われる。2人は際立つ色を、全力を携えて来たのだ。
「それがダハクとの試合でちょっとだけ見せた、貴女の奥の手ね。 ……面白いわ!」
『偽装の髪留め』を外して束ねた赤髪を下ろし、全身に 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) を纏ったのはセラ。その両腕は凶悪な形状へと変化し、とてもではないが通常の拳武器を装備できる状態ではない。悪魔の翼、尻尾、角までも血色で顕現させて周囲に荒々しいプレッシャーを放ち続けているが、観客はこれも何かの魔法の効果だと思い込んでしまう。そしてセラの近くには、同じく血色の小さな球体が随伴するように浮かんでいた。
「セラちゃんも私に劣らずセクシーねぇ。 ……美しいわぁ!」
全身を 慈愛溢れる天の雌牛(ローズイシュタル) で覆ったのはゴルディアーナ。はち切れんばかりの筋肉から発せられる闘気は人々を惑わす桃色へと色彩を変え、巨体である彼女の体を更に太く、巨大に見せている。特に拳と瞳から流れるオーラ量が色合いと共に強く濃い。瞳の強力なオーラは上へと舞い上がり、あたかも2本の強靭な角があるかのように見えてしまう。『 桃鬼(とうき) 』と呼ばれる所以を、隠すことなく表出させていた。
「……まるで悪魔と鬼の対立だな」
「あわ、あわわわ…… あ、あれも魔法の効果なのでしょうか?」
「ゴルディアーナ殿は違うな。あれは武術の発展系、グロスティーナ殿と同系統の技だった筈だ。セラ殿のものは魔法のようであるが、妙にしっくりくると言えば良いか…… 難しいところだ」
「そ、そうなんですか…… ん? 両選手、こちらを見てません?」
セラとゴルディアーナが実況席を見詰めていることに気付くロノウェ。
「ねえ、試合開始はまだ? 早くやりたいんだけど!」
「私もそうしてほしいわねぇ。この姿を維持するの、結構大変なのよぉ?」
主に肌荒れが気になるらしい。
「あ、はい。すみません! それでは決勝トーナメント第2戦っ! 試合――― はじめっ!」
「「うらぁ!」」
開始早々に互いに右頬に打ち込まれる2つの鉄拳。セラの放った一撃はメキメキと音を立てながらもゴルディアーナのオーラに遮られ、ゴルディアーナの一撃は掠りもせず躱されている。
(硬ったぁ……! それに血が付かないじゃない!)
(速いわねぇ…… 一撃入れるのにも苦労するかもぉ)
間髪入れず放たれる両者の殴打。セラとバールの試合の再現のように衝撃が衝撃生み出し、爆音が会場を、大地を揺らす。
―――バァン!
空気を切り裂く蹴りの交差。セラの表情が歪み、脚に施された 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ) に亀裂が走る。
「くうっ……!」
『血染』による支配も肌に付着しなければ効果を発揮せず、ゴルディアーナの 慈愛溢れる天の雌牛(ローズイシュタル) が堅牢にそれを拒んでいる。パワーに関してもゴルディアーナに分があり、真正面からの戦闘ではセラの勝ち目は薄い。このような蹴りのぶつかり合いでは、セラのダメージが極端に大きくなってしまう。だが、セラが放った攻撃はこれだけではなかった。
「『 紅玉(ブラッドボール) 』!」
セラの声に呼応し、血色の球体の形状が変化する。元の質量を完全に無視した大きさの槍となった 紅玉(ブラッドボール) のひとつが、ゴルディアーナに向かって穿たれた。
(オーラがぁ、貫かれるぅ!?)
紅玉(ブラッドボール) はセラの血を球状に凝縮させた血の塊。更にそれを『血操術』で自在に操作し、コンスタントに扱うことを可能にした応用技である。一瞬とは言えセラとの蹴り合いで拮抗した状態、速さで勝るセラの攻撃を回避するのは困難だ。威力を一点に集中させた血槍は分厚い薄紅のオーラを突貫し続け、ゴルディアーナの鋼の肌に触れようと迫る。
「―――ふんっ!」
届こうとした直前、漢らしい掛け声と共に血槍が爆ぜた。