軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第195話 ケルヴィン邸の見習いメイド

―――ガウン・神霊樹の城

前に出たリュカに対し、ガウン兵らは目を丸くして沈黙した。しかし直ぐに毅然とした眼光に戻し、俺を睨みつける。

「こ、こんな幼子を戦わせると言うのか!?」

「何と卑劣なっ! それで我々が手を抜くとでも考えているのか!」

今度はそう来るか。背後にいるジェラールの視線もあってサンドイッチ状態だぞ、俺。挟むなら女子の視線でお願いしたい。 ……決して俺がMと言う訳ではないぞ?

「幼子じゃないよ! 私だって戦えるんだもん!」

ほら、失礼な発言にリュカもお冠だ。

「貴様ら、戦場でもそのようなことを言う気か?」

「じゅ、獣王……」

獣王の言葉にガウン兵らは口をつぐむ。さっきまでのおちゃらけた様子はもうなく、ただならぬ雰囲気を醸し出している。

「相手を見た目で判断するのは二流三流がすることぞ。あまりワシを失望させるな」

「「も、申し訳ございません……」」

「獣王祭に出たければワシを納得させろ。口先ではなく結果で示せ。 ……理解したか?」

「「「「ッハ!」」」」

ガウン兵にもう迷いはないようだ。こういうとこを見ると人の上に立つ器って感じだな。

「ケルヴィン、済まなかった。どうもワシの下に集まる者は熱くなりやすいものでな。まったく、ジェレオルやユージールなどはその子ほどの歳には闘技場やダンジョンに叩き込んだものだと言うのに」

それもどうかと思います。

「いえ、お気になさらず。むしろ彼らはリュカを想って怒ったのでしょうから」

「そう言ってくれると助かる。幼き戦士も済まなかったな」

「うーん、分かった。今回は許してあげるね! お姉ちゃん!」

「―――ありがと♪ お姉ちゃん、とっても嬉しい!」

……やっぱり、この獣王よく分かんないな。

「よし、各人得物は選んだな?」

リュカとガウン兵がそれぞれ選択した武器を別の兵が準備して持って来た。リュカは使い慣れている短剣、D級のアイアンダガー。相手となる4人は長剣や大剣、槍、ナックルと全員別の得物を選んだようだ。どれもリュカと同様アイアン製だ。

「本当であれば防具も揃えるべきなのだが…… まあ、今回はいいだろう。こちらの兵は訓練用の革装備、そちらもメイド服だ。問題あるまい」

え、いいの? 結構な問題ありだと思うけど。ま、ジェラールも心配していることだし、別に指摘するまでもないか。

「それではこのまま始めると致しましょう。リュカ、頑張れよ」

「うんっ!」

訓練場の中央にリュカを残し、俺たちは邪魔にならぬよう見物用の席に移動する。

「あわわわわ…… し、心配じゃ……」

「ジェラール、お前キャラが壊れてきてるぞ。いい加減リュカを信頼してやれって。今まで一番近くでリュカの努力を見てきたのはジェラールだろ」

「う、うむ…… それはそうなのじゃが……」

本当に爺馬鹿だな。

『それに安心しろ。リュカが今着ている見習い用のメイド服は エフィル(・・・・) が作ったものだ。あんな品質の剣じゃ斬れやしないよ。当たりもしないだろうけどな』

『なぬっ? ならまあ、安心か…… いや、じゃがもしも……』

エフィルは趣味の一環で戦闘用以外にもよく裁縫をする。セラの私服なんて殆どエフィルのオーダーメイドだし、部下のメイド服だってそうだ。その上、暇さえあれば高性能化しようとするからな。「洗濯ついでに仕立て直してみました」なんてよくある話である。リュカが着ているあれの正式名は見習い用メイド服Ⅵだったかな。今やA級の装備にまで仕上がっている。もう何が見習い用なのかは俺には分からない。

「あなた様、そろそろ始まるようですよ」

「おっ、そうか」

もうジェラールは放置。気を取り直して俺はリュカの戦いに集中しよう。

「では、このジェレオルが試合の審判をさせてもらう。改めて確認するが、この試合は獣王祭を模して行うものだ。魔法の使用は禁止、指定された武具以外の装備・アイテムの使用も認められない。双方、良いか?」

「「「「ッハ!」」」」

「問題ないよー」

気合十分のガウン兵に対して、リュカは至ってマイペース。うん、良い状態だ。

「一番手、百人隊長ゴベラ! 前へ!」

長剣を携えた獣人が訓練場の中央へ進み、リュカと向かい合う。

『さて、何秒で決まるでしょうね』

『私は3秒で終わるのに今日の宿の同室権を賭けるわ!』

『甘いよセラねえ。今のリュカなら2秒を切ると僕は思うな』

『お待ちください。何をもって決着にするかを明確にしませんと。降参と宣言させる場合は数秒のタイムロスになってしまいます』

『その体勢になるまでのカウントでいいんじゃない?』

『それではその案でいきましょう』

緊迫した空気に包まれる中、うちの女性陣は心配するどころか念話でガールズトークに花を咲かせている。 ……待て、何を賭けるって?

「子供だからと手加減はせん。恨むのならばお前の主人を恨むのだな」

「何で? ご主人様を恨む必要なんてないよ? 感謝はいっつもしてるけど」

「……哀れな」

「ゴベラ、私語は慎め。それではこれより獣王祭出場権を賭けた試合を開始する。準備はいいか?」

「問題ありませぬ!」

「いいよー」

ガウン兵のゴベラが長剣を中段に構え、リュカはアイアンダガーを逆手に持ちながら身を低く沈める。メイドの格好に目を瞑ればさながらアサシンのようだ。

「―――始めっ!」

試合開始の合図であるジェレオルの腕が振り下ろされた。

「先手必―――!?」

「王手」

合図と同時に前に踏み込むゴベラであったが、そのとき彼はリュカの姿を既に見失ってた。踏み込んだ先にリュカはいなかったのだから。そして耳元より聞こえる可愛らしい声と、首元から伝わってくる鉄の冷たい感触にゴベラは何を思ったのだろうか。困惑か、恐怖か。リュカの小柄な体はゴベラの右肩へ納まるように乗り、首筋にアイアンダガーを突きつける格好になっていた。

「……なっ!?」

「ねえ、王手だよ? 降参する?」

突きつけられたアイアンダガーにゆっくりと力が込められていく。

「ま、参った!」

「勝負ありっ! 勝者、メイド見習いのリュカ!」

「見習いは余計だよっ!」

敗者となったゴベラは唖然と、勝者のリュカはぷんすかと中央から離れていく。一先ずこれで一勝か。予想通り一瞬で一蹴だったな。強みである自身の速さと『隠密』スキルを上手く使えている。

「ほう、言葉に偽りはなかったようだな」

「ああ、先に出場を決めている百人隊長筆頭のグインよりも素早いかもしれない。 ……父上、あまり強い奴を連れて来ないでくれよ。あいつら父上と同ランクの冒険者、『死神』ケルヴィンのパーティだろ。最弱であれってやばいぞ」

「ワシから弛んでいる我が子へのささやかなプレゼントだ。ありがたく受け取るがいい」

これから戦う残りのガウン兵3人は何が起こったのかまだ理解していないようだが、獣王とジェレオルはリュカの動きをしっかりと捉えているみたいだな。S級冒険者である獣王もさる事ながら、あの獅子王子もS級に迫る実力者だと聞いている。リュカもかなり強くなったが、あの2人と戦うにはまだまだ力不足か。

「うおおー! リュカが勝ったぞ! エリィよ、見たか? 目に焼き付けたか?」

「ええ、ちゃんと見ていましたよ。これもジェラール様の指導の賜物ですね」

「いいや、リュカが今まで努力をしてきたからこそじゃよ。おお、次が始まるぞい!」

お前、さっきまでの過剰な心配はどこに置いて来た? もうジェラールの相手はこのままエリィに任せてしまおうか。エリィならジェラールを上手く舵取りできるだろうし。

「二番手、同じく百人隊長のバンデル! 前へ!」

おっと、もう次か。俺も余計なことは考えず、リュカの応援に徹するとしよう。

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「―――勝負ありっ! 勝者、メイド見習いのリュカ!」

「ねえねえ、これで4回目だよ? 嫌がらせ? 嫌がらせなの?」

その後の3戦も特に波乱が起きることもなく、リュカのストレート完封勝利で試合は幕を閉じる結果となった。武器が違えど、どれだけ警戒しようと、認識できなければ意味はない。試合開始の瞬間に決まる王手宣言。唖然とする相手、ぷんすかリュカ。どれも変わらぬ試合内容なのだ。本当に何の波乱もなかった。

「これにて全ての試合を終了とする! 獣王祭出場権その4枠、全てケルヴィンらが会得するものとする! 異議はないな?」

「「「「………」」」」

一様に黙るガウン兵達。ここまで文句の付けようもなく綺麗に負けてしまえばぐうの音も出ないよね。

「皆ー! 私やったよー!」

「やったわね、リュカ」

「リュカァーー! もうワシ、感動の涙が止まらないの! 心のっ!」

エリィに抱きつくリュカを皆で出迎える。ジェラールはもう放っておくとして、リュカは本当によくやってくれた。

「リュカ、約束のミスリルダガーだ。大事に使ってくれよ」

「ご主人様、ありがとう! 大切に料理で―――」

「別途包丁作るから料理には使わないでください……」

あくまで護身用よ、それ。ミスリルダガーを渡す際にリュカのステータスを確認。

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リュカ 10歳 女 人間 見習いメイド

レベル:94

称号 :剣翁の仮孫

HP :316/316

MP :277/277

筋力 :202

耐久 :134(+22)

敏捷 :390

魔力 :99

幸運 :438

スキル:剣術(A級)

格闘術(D級)

軽業(D級)

隠密(D級)

奉仕術(F級)

調理(B級)

裁縫(F級)

補助効果:隠蔽(S級)

調理/耐久増加大(S級)

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リュカは決して才能に恵まれている訳ではない。だが今となっては俺と出会った頃の刀哉並なのだ。『経験値共有化』スキルには頭が上がらない思いだ。お爺さん、お宅のお孫さん勇者並ですよ。もっと自信を持ってください。

―――しかしこの力量でまだメイドの見習いなのは、戦闘系スキルにばかりポイントを振っているからだろうか? それとも周囲から一人前と認知されていないからか? メイドとしての地力は上がっているんだけどな……