軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第181話 前兆

―――トライセン城

城内各所で戦闘が起こる最中、闇に乗じて潜伏する者達がいた。シュトラの兄であり、トライセン第3王子であるタブラとその取り巻きだ。

「王子、やはり国王の私室を漁るのは拙いですって」

「そ、そうですよ。バレたら俺たち極刑もんですよ……!」

「黙れ! 連合国にここまで押されては、最早巻き返すことなど不可能だ! そうなれば、王族である私は――― くうっ、無能のシュトラめ! 私の助言を聞いていれば最悪の事態は避けられただろうに! ジャン、アルバ! 何でもいい、金目のものを探すのだ! 何、ここであればどれもが高価な物ばかりよ。そして私は国外へ、西大陸へ渡る! 私はこのような場所で終わる人間ではないのだ!」

「ですが、城外にどうやって脱出するんです? 正門には敵兵が……」

「馬鹿が、そのような心配はせんでもいい。このような時の為に魔法騎士団本部に緊急用の脱出経路があるのだ! そこまで気合で到達できればこちらのものよ!」

((き、気合って……))

「だからお前達は何も心配せず、手を動かすことだけに集中しろ!」

「「へ、へいっ!」」

取り巻きのジャンとアルバは金になりそうな物品を漁り出す。作業を開始して数分が経った頃、本棚を物色していたジャンが何かを発見した。

「王子、こんな本を見つけたのですが」

「何だこの真っ黒な書物は! 汚いでは…… いや待て、これは……」

タブラが黒き書のタイトルを指でなぞっていく。それに連れてタブラの口元は醜く歪んでいった。

「そうか、父上はこれで力を…… ふ、ふはは、これがあれば、俺だってきっと……!」

「駄目だよ。それは君みたいな奴が使っていいものじゃない」

タブラの背後、私室の扉からの意図せぬ声にタブラの心臓は飛び上がる。

「やあ、こんばんは」

「な、何者だ、貴様!? ジャン、アルバ!」

扉の前にいたのは黒フードの人物。顔は見えず誰なのかは分からないが、この場を見られてしまったからには始末するしかない。タブラはジャンとアルバの名前を叫び、そして恐怖する。

「ごめんね。あんまりに隙だらけだったから、もう始末しちゃった」

床の絨毯に波紋する赤き血。その持ち主であったジャンとアルバは五体をバラバラに分解され、さっきまでのタブラと会話していた表情のまま、息絶えていたのだ。自分たちが殺されたことを理解しているのだろうか。苦しむことなく逝ったのだろうか。しかし、そんなことはタブラが今考えるべきことではない。なぜならば、尋常ではない危機がタブラに迫っているのだから。

「あははー、突然お邪魔して御免ねー。それにしてもショックだな。私の顔を忘れちゃったの?」

「……顔が見えぬ相手を、どう確認しろというのだ?」

「あ、そっか。フードが邪魔だったね」

黒フードが一瞬タブラに顔を見せる。しかし、タブラに反応はない。

「………」

「分っかんないかー、残念。もう何年も経ってるから仕方ないのかな? 私もまだ子供だったしね。タブラ王子が 私を殺した(・・・・・) あの頃は」

「何だ―――」

それ以上、タブラの言葉は続かなかった。声が出ないのだ。視界は一転二転し、上も下も分からない。だが、最後に見えた光景だけは鮮明であった。首のない、自らの体が倒れる瞬間だけは。

「……王子の奴隷だった私は、この才能を開花させる前に死んでしまった。親も分からず、毎日が地獄の日々だったよ。汚いし、臭いし、痛いし…… でも今は君にも感謝してるんだ。こんなにも立派に転生できたのだから。ああ、偉大なる我らの 主(しゅ) よ。って柄じゃないかな? でもさ」

黒フードがタブラの頭に立つ。

「抱いた女の顔くらい覚えておきなよ、豚が」

勢いよく蹴りを食らった頭部は四散し、見るも無残な残骸にへと姿を変える。これではタブラと判別することは不可能だろう。

「さて、回収回収~♪ 危く代行者に怒られるところだったよ」

床に落ちてしまった黒の書を懐に仕舞い、満足気な様子の黒フード。

「それにしても意外だったなー。魔王が速攻で倒されちゃうなんて。あれでも歴代最強の予定だったらしいけど…… ま、いっか。第8柱の暗殺者はスッキリしたところで帰ろっと」

音もなく、瞬きの間に部屋の中から人影が消える。国王の私室に残るは死体のみであった。

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―――トライセン城

周囲を渦巻いていた 螺旋超嵐壁(テンペストバリア) が消散。また城を覆いつくしていた 氷女帝の荊(セルシウスブライア) もその役目を終え、青き光の煌きとなって彼方へと飛んでいった。そう、俺たちはこの戦いに勝利したのだ。メルフィーナ渾身の 聖滅する星の光(ルミナリィバースト) により、魔王ゼルは完全に消失した。それはもう、塵ひとつ残すこともなく。

あれから数刻が経ちトライセン城の制圧も無事に完了、洗脳されていたトライセンの者達は正気に戻り、アズグラッドやダン将軍の下で現状の説明を受けているところだ。かなり混乱は起きたものの、有無を言わさぬプレッシャーで鎮圧する二人。これ以上トライセンの立場を悪くしたくない思いもあるのだろうが、城の者にとっては踏んだり蹴ったりな心境だな。鉄鋼騎士団と竜騎傭兵団の騎士らも協力的なので穏便には済むだろう。転移門から駆けつけた各国の騎士団もいることだし。

彼らの、と言うよりもトライセンのこれからの扱いは難しいものになる。そもそもこの戦争の発端は魔王であり、洗脳を施され無意識のうちにコントロールされていた彼らもまた被害者なのだ。その魔王である国王は戦死、責任をどこに持っていくかは俺の知らぬところではあるが、まあコレットや獣王、ツバキ様が収まるところに収めてくれるんじゃないかな。どちらにしろ一冒険者である俺が口を挟めるところではない。正確に言えば今はそれどころではない。

「「「おーーー!!!」」」

城内の各所では、連合軍の何度目か分からない勝ち鬨が上がる。本来であればここは俺たちも互いの健闘を称え、喜びを分かち合う場面なのだろう。しかし俺の今の体勢は正座である。紛うことなき正座である。城の庭園は綺麗に管理されており、柔らかい芝生の上なので足への負担は少ない。ここは本城の正門に近い庭園のど真ん中、城が陥落した直後だけあって人々が忙しなく行き交っている。そんな場所で正座する俺を皆はどう思っているだろうか。これ程までに混み合っていると言うのに、俺を中心にして空っぽの大きな円が出来上がっているあたり、良くは思ってないだろうな。え、この一大事に何してんのこの人? みたいなこと思われていそうだ。皆作業をしながら遠巻きにチラチラと視線を送るのは止めてほしい。

「なあ、あの人達、さっきから何してんだ?」

デラミスの神聖騎士団に所属する男が、通り掛りの竜騎傭兵団のひとりに問い掛けるのを目にする。俺は自然とそちらへと耳を集中させていた。

「ん? ああ、アンタさっき来たばかりかい? あの人が魔王を倒したS級冒険者、『死神』のケルヴィンさんだよ」

「ええっ!? もっとこう、強面の人を想像していたんだが…… 本当に?」

「見た感じ、人当たりが良さそうなあんちゃんだからな。でもよ、戦闘になれば人が変わるらしいぜ? 俺も直接見た訳じゃないんだが、うちの団長が前に戦って手も足も出なかったそうなんだ。竜に騎乗すればS級モンスターと互角に戦えるあの人がだぜ? やっぱりS級冒険者は人外の類だよ」

「その人外が赤髪のすっげえ美人さんに正座しながら平謝りしてるんだが…… 隣には青髪のすっげえ綺麗な美少女が侍ってるし、どんな状況だ?」

「それがな、あの赤髪の美人はケルヴィンさんの恋人なんだが―――」

「許せんな」

「え? あ、ああ、そうだな……」

聖騎士の早過ぎるツッコミに竜騎兵は少したじろぐ。あと俺に殺意を向けるのは止めてくれ。

「何かあったのか?」

「いや、うーん…… ここだけの話にしてほしいんだが、我々神聖騎士団が敬愛する巫女、才色兼備であり国民の憧れの的であるコレット様が恋をしたという根も葉もない噂があってな」

「へえ、それは初耳だ。それで?」

「……その相手が、あの男らしいんだ」

「ケルヴィンさんが? いやあ、それは流石にないだろ。所詮は噂だろ」

「だ、だよな! そうだよな! 噂は噂でしかないよな! いや~、コレット様に何かあったらリンネ教団の信徒達が暴動を起こすところだったよ。人によっては転生神メルフィーナ様じゃなくてコレット様目的で入信する不埒な輩もいるからさ」

「ははっ、お前みたいな奴か?」

「そうそう! って、おい!」

肩を組み、友情が芽生えたのか意気投合する二人。いや、それよりも大変なことになってるぞ。コレットのあの狂信者っぷりがデラミスにリークされたら、一定の層の方々がもれなく敵になってしまう。せめてレベル50以上限定でお願いしたい。

「悪い、話の腰を折ってしまったな」

「いいっていいって。えーと、何だったか…… ああ、そうそう。どうしてあんな状況になったかだったな。で、その彼女がいる目の前で、更には魔王と戦っている最中にな、あの青髪の美少女にプロポーズしちゃったんだと」

「……すまん、意味が分からない」

「だよなー、でも事実なんだよ。かなり大声で告白してたらしくってさ、近くにいた竜騎兵がたまたま耳にしちまったんだと。俺もその内容を仲間から聞いたんだけど、今じゃ竜騎傭兵団じゃ有名な話だよ」

……え?

「ほほう! どんなだ!?」

竜騎兵が咳払いをひとつ。

「コホン…… 魔王のいる世界なんてお前には似合わない。だから、俺があいつを殺す。平和な世界で、俺と共に歩んでくれるか? ……ええ、喜んで! 実は私も好きだったの!」

「う、うわー…… こっちまで照れてしまうな、それ」

うおい、全然違うじゃねぇか! もっと日本的な硬派なプロポーズだよ! 最後以外全部脚色されてるぞ! よくよく考えれば周囲を 螺旋超嵐壁(テンペストバリア) が囲ってる中、鮮明に聞こえる訳がないじゃないか! 最初に聞いた奴、想像力で欠けたピースを補ったな!?

「まあな、俺も聞いた時は体が痒くって痒くって。まあそのまま魔王を倒して有言実行となったんだが、最初に言った通りその場には赤髪の恋人もいてだな」

「ああ、成る程な。やっと理解が追いついたよ。つまりは―――」

「「修羅場だな」」

ちょっとそこのお兄さん達、聞こえてますよ。

「ちょっと、ケルヴィン! ちゃんと聞いてる!?」

「聞いてます、はい……」

当然ながらセラの言葉も一字一句聞き逃していない。これぞ並列思考の成せる業である。

「それで、何か申し開きはあるかしら? ケルヴィン?」

「待て、どうしてこうなった!?」

「うふふ、あなた様~♪」

メルフィーナは正座する俺の腕に抱きついたまま、頑なに離れようとしない。全く周りを気にしないで頬ずりしている。こんなに緩んだ表情のメルを見るのは飯の時と寝ている時くらいなものだ。 ……あれ、結構見てるな。

俺の眼前で腕を組んで君臨しているセラはというと、凄まじいプレッシャーを放ってはいるが、瞳が紅に染まっていないあたり本気で怒ってはいない、と思う。思いたい。

「何で戦闘中に告白なんてしちゃうのよ! もっと安全なところで、ベッドの上ででもすれば良かったじゃない、私のときみたいに! 怪我をしたらどうするのよ!」

ええ、そっち!?

「セラ、メルに告白したこと自体には怒っていないのか?」

「別に? 前にも言ったじゃない。ちゃんと愛があれば問題ないの! メルなんて普段の行動でバレバレだったじゃない」

「まあ、それは確かに」

普通、好きでもない奴のベッドに入り込むなんてことはしないからな。

『流石は察知に長けるセラですね。私の行動の裏にあった想いを読み解くとは……』

おい、そこの駄女神。

「先を越されてしまった立場上、これまではエフィルやセラには一歩退いてきました。ですがプロポーズされてしまった以上、これで立場は同等です。これからは遠慮なんてしませんから、覚悟してくださいね、あなた様」

「ああ、覚悟はしてる。してるんだが……」

魔王との戦いを終えてから、ずっと熱っぽいんだよなー、俺。風邪? いや、それとも違う。

「ケ、ケルヴィン!?」

「あなた―――」

セラとメルフィーナの声が遠くなっていく。だから言ったじゃないか、今はそれどころじゃないって。誰かに支えられたのを感じるのを最後に、俺は意識を手放した。