軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第153話 予想外

―――パーズの街

俺の耳は腐ってしまったのだろうか? ダハクがとんでもないことを言ったような気がしたが。美女? 美女と言ったのか? エフィル、メルフィーナ、リオン、それにコレットとフーバーは美女と言うよりは美少女だからな。この場でその言葉が当てはまるのはセラにロザリアくらいなものである。あたりを見回しても他に該当する人物は見当たらない。さては長旅で疲れてしまって幻でも見てしまったんだな。ハハハ、そそっかしい奴め。

「ケルヴィンちゃん、それに皆も呆けちゃってどうしたのよぉ」

「兄貴、やっぱりこの美女と知り合いだったんすね!?」

俺の思考が混乱している間に眼前まで近寄っていたプリティアを指差し、ダハクが俺の肩を激しく揺らす。何としても聞き流そうとしていた俺の努力は意味を成さなかったようだ。これで確定、ダハクが示す美女とはプリティアのことであった。

「あらやだ、そんな直球を投げてくる子は久しぶりよん。ありがとねぇ!」

「ぐあはっ!?」

バチコーンとプリティアのウインクが炸裂。特大級のハートがダハクに向かっていき、見事にその心を射止める! ―――ところまで幻視できた。魔法を使っている訳ではない。なぜか幻視できてしまった。

「何てこった…… 惚れちまった、一目惚れだ……」

マジか。ダハク、お前はそれでいいのか。

「最高の美人はセラ姐さんだと思っていたが、それ以上の女がいるなんてな……」

あ、お前から見てもセラは美人なんだ…… ってちょい待て、プリティアと同じ扱いにされると褒めているってよりセラが貶されているような気がする! 訂正しろ、今すぐ訂正するんだ!

「まさか、ここまで完成された肉体美が存在するなんてな!」

「あらやだん、この子、この世の真理を掴みかけているわぁ……」

最早この二人の会話内容にはついて行けないが、肉体美か。もしや、ダハクの目には筋力=美しさとして映っているのだろうか? いや、しかしその理論だと……

「ダハク、メルはどう見える? 絶世の美少女に見えないか?」

「あ、あなた様、こんなところで惚気話だなんて、そんな……」

「いえ、単なる真理です。当然のことです」

狂信者(コレット) には聞いてないです。

「メル姐さんっすか? そうっすね。ただ……」

ダハクが会話を念話に切り替えて送ってきた。

『確かに綺麗なんすけど、何か作り物っぽくて。なんつーか、強化魔法で化粧したような感じなんかなぁ。あ、これオフレコでお願いしますよ!』

『……それ、本人とコレットには絶対に言うなよ。お前殺されるぞ』

『うっす! まだ死にたくないっす!』

パーティ中最高の筋力を誇るメルフィーナであるが、どうやらスキルによる上昇効果で筋力を上げるのは評価されないようだ。それどころか整形したかのような扱いである。メル、今度は義体じゃなくて本体で見返してやろうな……

にしてもだ、竜であるダハクの美的センスは斜め上を行っている。ステータスの数値基準のようなので、単に見た目がマッチョであればいい訳ではないようだが。 ……もしや、ロザリアもか? 言われてみればアズグラッドの奴も筋力あるしな。気がつけば俺はロザリアに哀れみの視線を送っていた。

「あの、保身の為に説明しておきますが、竜の美的感性は種族によって様々ですよ? ダハクは闇竜、私は氷竜です。彼の好みなんて知りませんよ」

「そ、そうなのか。悪い」

怒られてしまった。

「でもごめんなさいねぇ。私には心に決めた人がいるのぉ。ね、おじ様♪」

「……え、ワシ?」

「セラ姐さんに続いてプリティアちゃんもかよぉ!」

そんなこんなしている間にダハクがプリティアに告白して玉砕したようだ。

「だが、だがよぉ…… この恋は負けられねぇ! 旦那ぁ、俺は諦めませんよぉ!」

ダハクが明日に向かって走っていく。どこに行く気だ。面倒を起こされては敵わないので、姿が見えなくなったところで召喚を解除し、俺の魔力に回収しておく。

「ふふっ、青春ねぇ」

「いや、ワシは普通に辞退したいんじゃが」

「そろそろこの流れ終わっていいかな? プリティア、急いでいたようだけど何かあったか?」

「ああっと、そうだったわねぇ! つい熱が入っちゃったわん! まずはお疲れ様、ケルヴィンちゃん達の活躍でパーズの平和は護られたわぁ。まさか足止めどころか味方に引き込むなんてねぇ…… 作戦を立案したときは驚いたけどぉ、ギルドでリオちゃんも喜んでいたわよぉ」

「リオギルド長が喜ぶ顔なんて見たことないんだけどな」

「不器用なのよぉ、あの人。ま、私からしてみればバレバレなんだけどねぇ。で、こちらの男前がアズグラッド王子かしらん?」

プリティアの首がグルリと90度曲がり、アズグラッドの方へと顔が向けられる。あまりの恐怖にビクりとフーバーが震える。

「ああ、そうだ。その鍛え抜かれた肉体、お前がゴルディアーナ・プリティアーナだな? 噂は聞いているぜ。数々のS級モンスターの討伐にダンジョン踏破…… できれば手合わせ願いたいもんだぜ」

「モテる女は辛いわねぇ。いいわ、今度相手してあげる。それと、ケルヴィンちゃん。ガウンとトラージの戦況なんだけどぉ……」

「戦闘が始まったのか? どっちが優勢なんだ?」

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―――トラージ、トライセン国境

「来おったな」

トラージの姫王ツバキ・フジワラとその軍勢はトライセンとの国境線である『水竜の尾』と呼ばれる大河を隔てて『魔法騎士団』を待ち構えていた。

「カゲヌイ、おるか?」

「……ここに」

ツバキの呼びかけに黒装束の男が現れる。頭巾で頭を覆い隠し、装束の下には鎖帷子、腰に短刀を身に着けている。分かりやすく言うならば、まんま忍者の格好をしていた。

「我が国に向かって来ていたのはトライセンの『魔法騎士団』であったな。今のところ、何か不審な点はあったかのう」

「大将首が摩り替わっておりまする。それと、全ての女騎士の手には禍々しい気を放つ武器が。おそらく、呪われた武具を装備しているのかと」

「ほう、あの軍勢全員にか? その大将、狂人の類か」

対岸には続々と敵軍が到着しているところであった。白馬に跨る華々しい格好の女騎士とは裏腹に、その雰囲気は不穏である。

「されど、妾らがやることは変わらんがな」

ツバキが片手を上げる。その合図と共に大河の底より高波をあげながら浮き上がる複数の箱舟。その両端にはカノン砲が設置されており、既に照準は的にへと合わされていた。また後方に控える兵達は銃の形状をしたマジックアイテムを構えている。

「まずは前哨戦じゃ。水辺でトラージと戦うなどという愚行、後で後悔―――」

「……ツバキ様」

「何じゃカゲヌイ、今口上の良いところなのじゃ」

「敵軍が退いて行きまする」

「そう、敵が退いて…… 行く!?」

ツバキが対岸を見ると、確かに騎士達が来た道を戻っていくのが確認できた。

「まだ逃走するまでの戦力差を見せた訳でもあるまいに。ふうむ、本国で何かあったのか、それとも罠か…… カゲヌイ、パーズとガウン方面を含め敵の情報収集を。今はまだ深追いはするでないぞ」

「御意」

カゲヌイの姿が影に溶け込み、消える。

「退く軍の中から一羽の鳥が飛立つのが見えた。あれが伝令か…… まあ良い、引き続き妾らはこの場で陣を敷く! 海からの監視も怠るでないぞ!」

潜行する箱舟を視界に入れながら、ツバキは用意された椅子にドサリと座るのであった。