軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第125話 波乱の会食

―――パーズの街・会食会場前

再び正装に着替え直した俺達は、アンジェの案内でパーズ随一の高級レストランに辿り着いた。これまで外から見ることはあったが、どうにも形式張って堅苦しそうだったのでまだ入店したことはない店だ。何よりもマナーに煩そうだし。俺は酒場とかのワイワイした雰囲気が好きなんだけどな。しかしこれも良い機会だ、トップレベルの料理を味わうとしよう。いや、目的は全然別なんだけどね。この会食はデラミスとの交流を深める為のもの、これを機に情報を仕入れておきたい。

「ここが会食の会場だよ。もうシルヴィアさんとゴルディアーナさんは到着しているらしいから、ケルヴィン達も席に着いてて」

「ああ、了解したよ。アンジェはこれからどうするんだ?」

「残念ながら帰って仕事の続き。今夜で祭りも終わりだし、最後の踏ん張りどころだよ!」

「そっか、大変だな…… それが片付け終わったら、今度飯でも食べに行こう」

「本当に!? それじゃあ、期待していようかな。その、できれば二人っきりで―――」

「あらん? ケルヴィンちゃん達、来てるんなら早く入りなさいよぉ! 私、待ちくたびれたわん!」

アンジェと話していると、レストランの扉から大柄な男、プリティアが姿を現した。格好は変わらず昼間のドレス姿だ。うん、まだ目が慣れないせいか心臓に悪いぞ。

「悪い、待たせちゃったか。アンジェ、それじゃあ行ってくるよ」

「あ、うん。頑張ってね、ケルヴィン……」

別れ際、アンジェはなぜか無表情だった。うーん、リオと同じく疲れが溜まっているんだろうな。今度差し入れでも持っていこう。

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店内は意外にも落ち着いた雰囲気で、貴族的なギラギラした装飾が施されていることもなく、洗練された高級感のある内装だ。ここから見る限り、店の客層も派手派手しい服装の者はおらず、食事をする様がどこか上品で雅だ。

「おいおい、あのレベルのテーブルマナーを求められたら拙いぞ……」

「ぼ、僕も自信ないかなぁ……」

「え? 二人ともできないの?」

セラに真顔で驚かれた。俺とリオン、軽く心にショックを負う。忘れがちだがセラは悪魔の王族、言わばお姫様である。実際にテーブルマナーや行儀作法は完璧。面倒臭がって普段やらないだけなのだ。

他の仲間達はどうなのかと言うと、こちらも申し分ない振る舞いだ。例えば、ジェラールは生前農民の出であったが、騎士として貴族までのし上がりその辺りの礼節を一通り弁えている。どちらかと言えば、ジェラールの場合は鎧姿を不審に思われないかが不安ではある。

エフィルに関しては言わずもがなだろう。メイドとして日々自分を磨いている彼女だ。こういった作法に関わる事柄も妥協するはずがなく、機会があるごとに陰で学んでいるのだ。トラージ城に滞在していた頃は料理だけでなく、城で働く女中さん達による教示を受けていたりもしていた。要は全く問題ない。

「ケ、ケルにい。ナイフとフォーク、どっちがどっちだっけ……?」

落ち着け我が妹よ、利き手がナイフだ。 ……あれ、そうだよね? こっちだよね? やべぇ、不安になってきた。そもそも日本のテーブルマナーがこの世界に通じるのかも分からん。レストランの客達を覗き見た感じ、大して変わらないようには見えるが。くっ、まさか家主である俺たちが不安要素になるとは。礼節であれば何とかなるが、これに関しては知識がなければどうしようもないぞ。

「大丈夫よん。私たちは奥の個室よぉ。別にマナーを気にする必要なんてないわん。それに、本当に大切なのは作法よりも相手を思いやる心遣いなのよぉ。お食事は楽しくなくちゃねん!」

「ならいいんだが…… 一応、デラミス代表の巫女様も来るからな。皆、最低限の礼儀は守ってくれ」

「もう、ケルヴィンちゃんったら紳士ね!」

「大丈夫かのう……」

大丈夫ではないが、そんなところばかりに気を取られる訳にもいかない。コレットを通じてリゼア帝国についての探りを入れなければならないのだから。

『ケルにい、いざとなったら……』

『ああ、いざとなったら……』

いざとなったら意思疎通でエフィル達に助言してもらいながら食おう! 俺とリオンは密かにそう心に決めた。

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まあそんな心積もりをしていた訳だが、正装姿の彼女達の食事風景を見ることで俺たちの心配は無用なものだったと悟るのであった。

「んあ、けるうぃんふぃたんふぁね」

「シルヴィア、口に食べ物入れたまま喋っちゃ駄目!」

リスのように頬を膨らませて料理を詰め込むシルヴィアに、それを止めるエマ。二人は同年齢くらいの容姿なのだが、どこか親子のようなやり取りである。

「ッチ、こいつらも来たのかよ」

「そりゃ来るだろ。この会食のメインは彼だぞ」

お、凶獣の人も復活したのか。あのアリエルというエルフはそれなりに優秀な回復役のようだ。まだ体は包帯だらけで全快という訳ではなさそうだが、今では元気にドワーフ族のコクドリと共に飯を食っている。骨付き肉を手掴みで食らう、冒険者らしい豪快な食い方だ。うん、彼を見て安心するなんて思ってもいなかった。

「すみません! うちの馬鹿犬が度々失礼を!」

ナグアの言動にすかさずアリエルが席から立ち上がり、綺麗な直角謝罪をしてくる。

「いや、いいんだ。今、凄く心が晴れ渡ってるから」

「うん、僕もこれまでにないくらい安心したよ」

「え? ええと…… お許し頂き、ありがとうございます……?」

満面の笑みを浮かべる俺とリオンの思いもよらぬ返答に、逆に戸惑うアリエル。

考えて見ればそうだよな。冒険者にマナーを求める方が間違っているのだ。

「漸く安心したみたいねぇ?」

「ああ、確かにいらない心配だったみたいだ」

俺たちの代わりにセラがナグアを睨み付け、彼を黙らせるのを横目に見ながら心より安堵する。しかし、新たに疑問に思うこともある訳で。

「ところで、巫女様が来る前に食べ始めてていいのか?」

「ん、さっきデラミスの使者が来た。巫女は遅れるから、先に食べてていいって」

「そっか…… 色々あったもんな……」

あの時の試合会場の空気は思い出したくない。

『メルフィーナ、本当にコレットは来るのか?』

『それこそいらぬ心配ですよ。ほら』

メルフィーナの言葉に振り向くと、扉の奥より複数人の足音が聞こえた。

―――ガチャリ。次の瞬間、扉が開かれる。

「皆さん、お待たせしてしまい申し訳ありません。コレット・デラミリウス、ただ今参りました」

そこには昼の惨状など一笑に付すほどの笑顔を携えたコレットの姿があった。おお、完全に立ち直っているぞ。リオめ、一体どんな手品を使ったんだ。護衛らしき人達の顔が引きつっているのが気にはなるが。

『いえ、彼女は自力で復活したのでしょう。あの程度の辱しめなど慣れっこですよ』

―――普段どんな辱しめを受けているんだよ。見た目は可愛いのに。

「待ってたわよぉ、コレットちゃん! これで皆勢揃いねぇ、改めて乾杯しましょうかぁ!」

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乾杯から1時間が経ち、酒も良い具合に巡った頃合(セラと未成年のリオンを除く)。軽い雑談を交えた穏やかな会食もそこそこに、今は立食形式で各々飲み食いしている。食事自体は非常に美味しいものだったが、どうにも物足りなさを感じてしまうな。毎日エフィルの料理を口にしている為、舌が肥えてしまったのか。リアクションに困ってしまうぞ。

「放せぇ! あいつ、絶対シルヴィアに何かする気だ!」

「そんな訳ないだろう。今は代表者同士の大事な話し合いの最中だ。邪魔してはならん」

「そうじゃそうじゃ。ワシ等とあちらで飲もうではないか!」

「くそっ、何で俺の周りには男ばかりなんだ!?」

「何じゃ、セラとゴルディアーナの席に行きたかったのか? なら先にそれを言わぬか。コクドリ殿、連行するとしようかの」

「うむ。あっしも手伝うぞ」

「やめろぉ! あいつらは女じゃない!」

何やらあちらは盛り上がっているようである。気になるなー。

「ケルヴィンさん、ちゃんと聞いていますか?」

「あ、はい。聞いてますよ。刀哉の話ですよね?」

俺はというと、コレットの愚痴に絡まれている。上手く帝国の情報を引き出せればと近づいたはずだったのだが…… シルヴィアも相席しているが、さっきから食ってばかり。トラージにて刀哉と知り合った俺がもっぱらのターゲットである。

「そうです! 刀哉を手助けしてくれたケルヴィンさんなら分かりますよね? 行く先々でトラブルに、主に女難に巻き込まれるんです! 私も何度下着姿を見られたことか……」

「はは、そうでしたか。私の場合、行動を共にしていたときは何も起きませんでしたが」

「あら? 珍しいですね」

キョトンと、かなり意外そうな顔をされる。主人公補正には警戒して、そのお陰かエフィル達に魔の手は迫らなかったからな。俺としては神経磨り減らしていたけど。

「先程から気になっていたのですが…… 少々失礼します」

「コ、コレットさん?」

コレットがスンスンと俺の匂いを嗅いできた。え、もしかして汗臭かった? 一応、風呂で洗い流したんだけど。

「―――ハッ! い、いえ! お気になさらず!」

「は、はぁ……」

「ん?」

一体何なんだ? 俺の匂いを嗅いでから、コレットは目が潤んだ様な表情をし、視線をチラチラと逸らしている。明らかに息が荒く、顔も赤い。シルヴィアも顔を傾げて怪訝そうに見ている。

『あっ……』

『どうした? メルフィーナ』

その表情に何か感じたのか、メルが反応した。

『あなた様、気をつけてください。コレットの『嗅覚』スキルはS級です。あなた様を通して、私の匂いを嗅ぎ取ってしまった可能性があります。とても危険です』

『えっ?』

その時の俺は、コレットの瞳が段々と狂信者のそれに変わっていくことに気が付かなかった。

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「セラちゃん、まだプレゼント渡せてないのぉ?」

「……うん」

月明かりが差し込めるテラスの一角、セラはゴルディアーナに相談を持ち掛けていた。

「御免なさい。せっかく一緒に探してもらったのに……」

「そんなことは別にいいのよぉ。気にしないでぇ」

気落ちするセラ。相談の内容は先日渡しそびれたケルヴィンへのプレゼントのことだ。未だにセラはそのタイミングを言い出せないでいた。

「ねえ、セラちゃん。ケルヴィンちゃんのこと、どう思ってるのぉ?」

「……好き、だと思う」

「それは仲間としてぇ? それともひとりの男性としてぇ?」

セラは言葉に詰まってしまう。看病の礼にと準備したこの品だが、日に日に自分の中でその意味合いが変わっていくこと気付き始めていたのだ。

「分からないわ。こんな気持ちになったの、生まれて初めてだもの……」

「それは答えを言っているもんよぉ。もっと自信を持ちなさいな」

「でも―――」

「でもじゃないのん! このままだとぉ、シルヴィアちゃんまで彼に惚れるわよぉ! 私の女の勘が、ケルヴィンちゃんには女難の相があると告げているわん! エフィルちゃんは言われるがままって感じだしぃ、セラちゃんが手綱を引かないとぉ」

ゴルディアーナの勘は半分当たっているのだが、今それを教える者はいない。

「そうねぇ、ここは私のとっておきを教えてあげるぅ。ちょっと耳をお貸しなさいなぁ」

ごにょごにょとセラに何かを伝えるゴルディアーナ。

「えっと、それを言うだけでいいの?」

「そうよぉ。今夜、ケルヴィンちゃんを部屋に呼びなさいなぁ。プレゼントを渡してぇ、良い雰囲気になったら言いなさい。大丈夫、私もこれで何回か成功したわん! あ、言うときのポーズとかはねぇ……」

ゴルディアーナのレクチャーは続くのであった。