軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第113話 転生の力

―――ケルヴィン邸・リビングルーム

模擬試合前日、最後の修練を終えた俺は最早歩くことすらままならなかった。風呂で汗を流すのも億劫であった為、エフィルに軽く体を拭いてもらい昨夜と同様に倒れこむ。私室に戻る元気もなかったので場所はリビングのソファだ。

「お前もさ、もう少しマシな方法を考えてくれないかな。流石の俺も連日これだといつか死ぬぞ?」

「一番効率的な鍛錬がこれなんですよ。誰しも命の危険に晒されれば、己の限界を超えて成長しますので」

「お前、本当に天使か……」

本日の修練は昨日よりもハードなものだった。 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を生成しながらメルフィーナの猛攻を避け、繰り出された魔法を大鎌で正確に打ち消す。足元の注意を怠れば青魔法による氷の拘束が忍び寄り、遠方からのエフィルの射撃が飛んでくる。しかも手加減なしの本気の矢、まさか 多首火竜(パイロヒュドラ) が 第八竜頭(オクトナリー) まで出せるようになってるとは思わなかった。かと言ってエフィルばかりを気にかけているとメルフィーナが搦め手を仕掛けてくる。並列思考さんも大忙しだ。

『やるからには本気で撃ってこい。何、少しの怪我なら俺とメルの魔法で治せるさ!』

調子に乗ってこんな馬鹿なことを言った半日前の自分を殴ってやりたい。お陰で全身火傷凍傷だらけだ。自業自得とはこのことだな! まあ自力で治したけどさ!

「ですから、こうして飴と鞭を使い分けてるのではないですか。ふぅー…… はい、次は左の耳です」

「納得いくような、してはいけないような……」

地獄の鍛錬が鞭だとすると、今のこの状況が飴なのだろう。俺は今、メルフィーナの膝の上で耳かきをしてもらっている。耳かきの技術に関してはエフィルの足元にも及ばないが、不思議と落ち着くのが悔しい。

「多少は癒されましたか?」

「……まあ、うん」

「それは重畳」

これで許してしまう自分はひょっとしたらちょろいのだろうか。

「それにしてもセラ達には驚かされましたね」

「ん? ああ、進化のことか。あそこまで強くなるとは思わなかったよな」

「いえ、ダンジョンで倒したあのモンスターについてですよ」

モンスター? 今日の昼食で出てきたあの白狼のことだろうか? 確かにクロトの保管から出された時はあのデカさに驚かされた。そして美味かったな、頬が落ちるほどに。

「あれは私の前任である神が世界各地に創造した神柱の一柱だったのですが、まさか倒してしまうとは……」

「……それって倒したら不味いタイプの奴だったんじゃない?」

俺が思ってた話と方向が違うし。

「不味かったですか? 私は美味しく頂きましたけど」

「字が違う、ってか食うのもある意味問題か!」

「大丈夫ですよ。前任は神柱で良からぬことを考えて任を解かれたようですし、私の代になって神柱自体も殆ど機能を失っています。それならば、あなた様の経験の糧にした方が有益です。今回は大方、セラが神柱に触れたのでしょう。表向きの神柱の役割は緊急時の悪魔や魔王の駆除ですから」

「それで神柱が反応したってことか。で、その前任は何をしようとしたんだ? 乱心して世界を滅ぼそうとでもしたのか?」

「さあ、何故でしょうね。ふぅー…… はい、こちらもお仕舞いです」

はぐらかしたな。メルフィーナの膝から頭を上げ、ソファに座り直す。

「もしかして、この間の話も関係してるか? ほら、こう言ったろ」

昨日、メルフィーナとの修練を始める前の会話。あの時は珍しくも真剣な雰囲気だった。

『先日あなた様が戦われたクライヴという男、本当に転生者と名乗っていたのですか?』

「俺はあの時、確かにクライヴはそう言ったと伝えた。お前、俺の言葉を聞いた瞬間驚いただろ」

「そんなことは―――」

「何ヶ月一緒にいると思ってんだ。メルの驚いた表情なんて滅多にお目にかかれないからな、直ぐに分かったよ」

「……あなた様はどこか抜けているくせに、こういうことに関しては本当に敏いですね」

メルフィーナが苦笑いする。

「できる限り神々の諸事情はお伝えしたくなかったのですが……」

「できれば聞きたい」

このままじゃ寝るに寝れないだろ。

「はあ、仕方ありませんね。異世界人の召喚と転生召喚、この違いは以前説明しましたね」

「ああ、リオンを転生召喚する前に聞いた。それがどうした?」

「コレットのように加護を使用した正規の召喚以外にも、稀有なケースではありますが異世界人がこの世界に迷い込んでしまう場合があります。あなた様の世界風に例えれば、神隠しと表現すれば良いでしょうか。それは事故であったり、偶然であったりと原因は様々です。この世界に住む異世界人の殆どは後者による迷い人、ということになりますね」

確かに異世界人の認知度に対して、召喚できる巫女の数が少な過ぎるからな。トラージのツバキ様の先祖がそうなるのだろうか。

「しかし、転生召喚に関して例外は存在しません。必ず転生神を介在して行われます。実のところ、リオンの際も部下を通して私が力を流していましたから」

「……メルはクライヴの転生に関わっていないのか?」

「ええ」

「なら、その任を解かれた前任が力を使ったとか」

「前任は力を失っていますし、何よりも既に消失しています。加えて、転生の力を扱えるのは現職である私のみ。度々あなた様から離れていたのも、その要因が強いですね。部下にできることも限りがありますので」

仕事、してたんですね。メルフィーナ先生――― 普段のぐうたらな生活からは想像しにくいです。

「……何か失礼なことを考えていませんでした?」

「こんなシリアスな場で考えるわけないだろ」

いかんいかん。疲労で深夜テンションになりかけてるな。胆力スキルで表情だけはキープしておかねば。しかし、実際クライブに関しては謎が多い。あの時、俺がミスしなければ調べようもあったのだが……

「前任の時代の転生者が今まで存命していた、という場合も極僅かながらにありますが、可能性は低いでしょう。有り得ぬことではありますが、私以外に転生の力を手に入れた者がいるかもしれません」

「なるほどな。メルが俺に付いてきた本当の理由はそれを解明する為、ってことか」

「いえ、そこは完全にプライベートで来ました。普通に楽しんでます」

メルフィーナが「ないない」と手を振る。こいつ、真顔で否定しやがった。それって結構大事なんじゃないの!?

「まあ、これも可能性のひとつの話です。あなた様はあまり気になさらないでください、と言っても無駄でしょうけど」

「ああ、取り敢えずはトライセンとジェラールの仇のリゼア帝国が怪しいな。リゼア帝国はどうも東大陸では情報が少なくてなー。最も情報がありそうなデラミスに行く必要があるかもしれん。なら、明日巫女のコレットにアプローチをかけた方がいいか。いや、逆にデラミスが怪しいというパターンも―――」

やべえ、考えることが多過ぎる。脳に糖分が足りない。

「もう作戦を練っていますし、あなた様に付き添った方が良さそうなんですよね。 ……私個人としても」

「そうだ。コレットに対してはメルフィーナから聞いた方が早いだろ? 明日聞いてみたらどうだ?」

「言い忘れましたが、明日はあなた様の魔力内にいさせてもらいます」

「あ、そうか。デラミス関係者がいる場に転生神であるメルがいると色々拙いもんな」

直属の巫女であるコレットであれば、メルフィーナを見ただけでばれるかもしれない。

「それもありますが…… あの子、少し病気なので」

「―――?」

何のことだろうか? 俺が疑問に浸っていると、リビングの扉が勢い良く開かれ――― 皆、扉は静かに開けようよ。いつか壊れるぞ。

「ケルヴィン! 明日の前祝に飲みに行くわよ!」

「王よ! 今夜は飲み明かすぞい!」

「ぞーい!」

「ごめんケルにい、僕じゃ止められなかったよー……」

ほろ酔い状態のジェラールとその肩に乗るリュカ、何故かテンションマックスなセラとそれに引きずられるようにズルズルと腰にしがみ付くリオンが、部屋に乗り込んできた。あ、控えめにエフィルとクロトも後ろに付いて来ている。

「あらあら、程々にしないといけませんね?」

「俺、すっごく今眠いんだけど……」

んなこと言っても聞かないのは分かりきってるので、俺はなけなしの力を振り絞って 清風(クリーン) を自らに使うのであった。