軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第102話 ビルドアップ

―――ケルヴィン邸・食堂

屋敷に帰還した翌日の朝、皆を食堂を集め朝食がてらに昇格通知について話すことにした。

「―――ってことで、3日後にS級冒険者との模擬試合をすることになってしまった」

「おお、心置きなく強者と戦える良い機会ではないか。良かったのう、王よ」

「気軽に言ってくれるな。相手はどこの誰かも分からんし、実力も未知数なんだぞ」

「あなた様、その割りに口元が緩んでるではありませんか」

メルフィーナがジト目で俺を見てくる。

「そんな事はないぞ。俺はいたって真面目だ」

紋章の森でのクライヴとの戦いは途中で邪魔が入ったからとは言え、悔いの残る結果となってしまった。あのような無様な格好はもう見せられないのだ。その為にS級魔法を制御仕切れる力を身に付けなければならない。S級冒険者との模擬試合などに現を抜かす暇はないのだ。だから皆、俺をそんな目で見るんじゃない。

「いやケルにい、そんな緩んだ顔で杖を磨きながら言っても説得力ないよ」

「……ハッ、いつの間に!?」

無意識のうちに布を片手に装備を磨いていた。

「その様子だと、昨日は興奮で眠れなかったんじゃない? ふふん、幼いわね!」

「そんなことはない。ぐっすり眠ったぞ」

それについこないだ一杯の酒で自滅したセラに言われたくないです。

「昨晩はいつもより30分ほど眠りにつかれるのが遅かったです。なるほど、そう言う事だったのですね」

「エフィル!?」

まさかのエフィルの裏切りに俺動揺。

「えっ、エフィルねえ、そんなことまで分かるの?」

「従者が主より先に眠るなんてあり得ません。ご主人様の健康管理もメイドの責務です。こればかりはエリィやリュカには任せられませんし……」

エフィルよ、俺を慕ってくれるのは嬉しいが、たまに寝顔を見せてくれるともっと嬉しいぞ。いや、問題はそこじゃないのだが。

「やっぱりそうだったじゃない! エフィルの負担も考えなさいよ!」

「エフィル、貴女だけに頑張ってもらう訳にもいきません。その役割、私もやりましょう!」

「で、ですがメル様は寝付きが……」

「僕なら寝相もいいよ! ね、アレックス」

「ウォン!」

「お母さん、ご主人様たち何の話をしてるの?」

「リュカにはちょっと早いわ。聞き流しなさい」

「分かったから、もうその件からいったん離れよう! 本題だ、本題!」

お前ら、朝っぱらから何言い出してんだ。

「ハァ…… で、その本題だが、この3日の間で可能な限りS級魔法を使いこなせるようにしたいと思う。言わば、修行期間ってやつだ」

「ふむ、修行と言ってものう。具体的には何をするんじゃ?」

「 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を扱うに際して最も足りないもの、それは筋力だ!」

筋力は俺のステータスの中でも最も伸びが悪い。素の数字は189。最近会得した剛力(B級)のブーストを考慮しても、仲間の中で最もか弱いエフィルにさえ負けている。一般的な冒険者として見れば前衛として十分にやっていけるものだが、S級の魔力を一点に固めた 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を扱うには不相応なのだ。その莫大な魔力を動かす途中で軌道がずれてしまう。

「それ、今更じゃない?」

「うむ、初めからあの竜巻のような魔法にすれば問題なかったじゃろうに。それを扱う為にわざわざ鎌術のスキルを会得したんじゃったか?」

「はい、草刈りでは最早ご主人様に敵う者はおりません!」

エフィル、そこは誇らしげに言うところじゃない。

「せめて、ケルにいの 狂飆の覇剣(ヴォーテクスエッジ) や僕の 霹靂の轟剣(ジェネレイトエッジ) みたいに武器に付与するタイプの魔法なら、幅広く使えたんだけどね。流石に大鎌は僕には使えないし……」

「S級魔法は扱う者が少ないその性質から、基盤となる魔法がないですからね。つまり、 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) はあなた様のオリジナル魔法。どうしてそのような魔法を生み出したのです?」

何だか今日はボロクソな言われようだ。仕舞いには泣くぞ。

「だってさ、大鎌って浪漫じゃん…… それに俺の統計ではイメージしやすい物の方が新たな魔法を習得しやすいんだよ。これだって結構苦労したんだぞ」

「あー、その気持ち分かるな。僕もオリジナルを作る時は自分の理想を思い描くし、モチベーションって大事だよね!」

「普通、ケルヴィンやリオンみたいにポンポン作れたりしないんだけどね……」

「理由は理解しました。それで、その筋力をどうやって補うのです?」

「まあ、筋力だけが全てって訳じゃないんだが、解決策はこれだ」

ポヨン。食堂のテーブルにクロトを置く。

「クロトが解決策?」

「ああ、クロトの固有スキル『暴食』を借りる」

暴食は食した対象のステータスの一部を自らのステータスに取り込むスキル。これまで色々とクロトに取り込ませてきた訳だが、傾向としては生よりも美味しく調理した方が効率が良く、ステータスの高い者ほどその効果が高い事が分かっている。逆に現在のステータスより下回っている奴を取り込んでも効果は薄い。

「なるほど、 悪食の篭手(スキルイーター) を使うのですね」

「そう。俺程度の筋力の値と比べれば、それよりも上回っているモンスターが多いだろ?」

言っててちょっと悲しくなってきたけどさ!

「エフィル。今保管しているA級モンスター以上の食材はどのくらいある?」

「はい。食材に使えそうなA級ですと、紋章の森でセラさんが倒したカラミティラビットが3匹、ゲルプリンスが1体、ブラッドベアが2匹。調理できるか分かりかねますが、S級はリオン様が倒された 巨人の王(ギガントロード) がございます」

う、流石に人型の 巨人の王(ギガントロード) は食べたくないな。何か人食いとか変な称号が付いてしまいそうだ。カラミティラビットとブラッドベアは問題なくいけそうだな。後はゲルプリンスだが……

「 巨人の王(ギガントロード) は止めておこう。それよりも、ゲルプリンスってあのブニブニした液体みたいな奴か?」

「はい」

そう、ブニブニ。クロトのようなプニプニではなく、あれはブニブニだ。

「それって調理できそうな食材、なのか?」

「トラージ城で拝見した書物に調理法がありました。滅多に手に入らない高級食材のようですよ」

「いったいどんな料理になるんだよ……」

「お任せください。レシピは頭に叩き込んでいます」

「あはは、頑張ってねケルにい」

「あなた様、私にも少しくださいね」

いや、俺はエフィル信じる。信じているのだ。エフィルならきっとどんな食材も最高の料理に仕上げてくれると!

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―――ケルヴィン邸・地下修練場

「まさか、デザートに早速出てくるとはな……」

あの後直ぐにエフィルは調理場に消えたのだが、朝食を取り終えた数分後に人数分のデザートを運んできた。皿の上にあったもの、それは均一の正方形に切り揃えられた寒天だった。先が透けて見えるほど透明で、上には黒蜜がかけられていた。

想像以上にまともな、否、美味そうなものが出てきたことにまず驚き、それを口に運んで更に吃驚仰天。美味い、美味過ぎる。寒天の喉越しの爽快感に黒蜜の絶妙な甘味が実にマッチする。本当にこれがあのゲルプリンスなのか? そんな疑問を浮かべる前に俺達は既に完食していた。

「エフィルの腕にも感謝だが、この体の内から力が溢れ出す感じ…… 効果はあったようだな」

ステータス画面を確認する。うん、自然とにやけてしまう。

筋力はこの調子で上げていくとして、次の課題に取り掛かるとしよう。

「 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) 」

邪賢老樹の杖に替わって新たな相棒となった『黒杖ディザスター』が魔力を帯び、大鎌となる。

「うーん、やっぱまだまだ完全じゃないな」

鎌の部分に目をやると、無駄に魔力が垂れ流されているのが分かる。これでは数発の攻撃で効果が消えてしまうだろう。

「まずは燃費を何とかしないとな。魔法構築、再構成―――」