作品タイトル不明
第399話 ■の誕生
猛毒の霧に炎を引火させ、轟音と共に爆発を起こす。その威力を回転力と推進力に変換して、猛烈な勢いのまま突貫を仕掛けて来る竜に対し、アダムスは真っ正面からそれを受け止めていた。久遠のように技で威力を殺すのではなく、力で無理矢理に捻じ伏せる――― 正にそのまま力業であった。間近で猛毒と爆発を絶えず引き起こされているというのに、アダムスは一切怯む事なく、また衝突の際も一歩も下がらない。また、彼の筋肉も今この瞬間を楽しんでいるとでも言いたいのか、躍動し、パンプアップを続けていた。
「■■■ッ!」
その場での勢いを止められても、毒の放出と引火を継続すれば、回転と推進は維持される。聞き取れない言語を叫びつつも、竜は尚も攻撃を止めようとしない。
「■■■■!」
「ぬうっ!?」
竜と組み合うアダムスの背後より、また新たな三つ首の竜が登場する。こちらの竜も見た目はムドファラクそのものだが、よくよく観察してみれば、全ての竜鱗が銀色に輝いている事が分かる。まるで鋼鉄からムドファラクの姿を構築したかのような、そんな風貌だ。鋼鉄の竜と呼ぶべきだろうか。その三つ首の全てが無防備を晒しているアダムスの背に噛みつき、更には三属性の 息吹(ブレス) をダイレクトに吐き出し始める。
「クッ…… ククッ! この感触は『不壊』を混ぜ込んでいるのか? 竜を金属化させるとは、なかなかに男心をくすぐる―――」
「―――だろ?」
攻撃はまだ終わっていない。挟撃の最中に居るアダムスの頭上より、大剣を真下に向けたケルヴィンが高速降下。身動きの取れないアダムスに対し、頭部をかち割らんばかりの一撃をお見舞いする。 ……が、しかし。
「慢心も容赦もない、手本の如き連携だ」
ケルヴィンの攻撃に対し、アダムスは首を頭上へと向けていた。そして、あろう事か迫る剣先を歯で受け止める。言うなれば真剣白刃取りの亜種も亜種、だろうか? まるで剣を飲み込まんとする手品のような体勢で、そんな無茶を通し切る。
「おいおい、何でこんな状態で普通に喋れて―――」
「―――フゥン!」
「ッ!」
無茶と同時に前後の竜達を弾き飛ばし、息を吹きかける事で大剣とそこに滴っていた血、その使い手であるケルヴィンを丸っと吹き飛ばす。皮膚が剥がれ落ちそうなほどの神の息吹は、何て事はない、ただの肺活量を元にしたものであった。
「いや何、宴会芸の持ちネタの一つとして、腹話術を嗜んでいてな。それであのような状態でも喋れたという訳よ」
良い準備運動になったとばかりに片腕を軽く回し、続いて丁寧に理由を説明するアダムス。間近で猛毒と爆発を喰らい、鋼鉄に喰らいつかれ、多属性の 息吹(ブレス) までもを喰らい、挙句の果てには邪悪なる魔剣に喰らわれそうになったアダムスであったが、彼の肉体は尚も全く無傷のままだ。
「まさかそんな愉快な理由を伺えるとは、正直予想外だったよ。けど、それ以上に予想外だったのは…… お前の顔が少しだけ、見えるようになった事かな?」
そう言って、ケルヴィンがアダムスの顔を指差す。そう、今この時になってケルヴィンの目には、見る事のできないでいたアダムスの顔、その口元のみがハッキリと見えるようになっていたのだ。口元のみとは言え、漸く目にする事ができたアダムスの顔は―――
「おい、一体どうした? さっきからその口、ずっと嬉しそうに笑っているぞ?」
―――ケルヴィンが普段する笑顔のように、酷く不器用な笑みを作っていた。具体的に言えば、口端を限界まで吊り上げ、歯茎まで晒している状態だ。
「……! ほう、ただの我の顔が見えるようになったのか?」
「まだ顔半分、鼻より下の部分のみだけどな。なかなか爽やかな笑顔をしていて、男前じゃないか。うん、良い笑顔だ」
ケルヴィンは頻りに頷いていた。どうやら、何か通じ合えるところがあったようだ。
「で、それって結局何なんだ? 半分とはいえ、どうしてこのタイミングで見えるようになった? それだけ男前なら、そもそも隠す必要なんてないように思えるんだが?」
「ふむ…… 話しても良いが、これには深い理由があってな」
「あ、長くなる感じか。なら時間がもったいないし、戦いが終わった後にでも―――」
「―――説明するとなれば、まずはただの我について知っておかねばならん。ケルヴィンよ、貴様は不思議に思った事はないか?」
ケルヴィンは思った。これ、絶対話す流れだな、と。
「ハァ…… 何についてだよ?」
「この星を司る転生神、そして我が配下である十権能などの神であった者達が、その名に反して若い事についてだ」
「若い? いや、メルの年齢は兎も角として、ケルヴィム達については歳なんて知らないんだが……」
「む、そうであったか? まあ良い。古参のケルヴィムやイザベルで、一万と少々といったところだ」
「……十分な年齢じゃないか? 一万年って、人間で言ったら文化らしい文化もなかった時代だろ?」
時間の桁が違い過ぎて、最早よく分からない。そんな様子でケルヴィンは首を傾げ、竜達も同じように首を傾げていた。
「貴様らがそう思ってしまうのも、ある意味で仕方のない事だろう。だが、それでは神を名乗っておきながら、宇宙の誕生に立ち会うどころか、この星よりも年下という事になるぞ?」
「ええっと、ますます理解から遠ざかる話になったんだが…… つまり、何が言いたいんだよ?」
「フッ、そう焦るな。ただの我がじっくりコトコトと話してやろう」
じっくりコトコト話されても、時間がもったいないんだが。と、そんな言葉を口にするのももったいなかったのか、戦いを早々に再開させる為にも、早速攻撃を仕掛けるケルヴィン。
「アレは一体何年前の事だったか、まだただの我が全なる一であった時代の事だ」
「おい、この状況でも話を続ける気かよ!?」
が、アダムスは意にも介さず。非情にも(?)自分語りを始まってしまった。
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この世に宇宙が誕生するよりも前、神話として伝えられる物語よりも更に遡る無の時代。世界には生物はおらず、故に秩序もなく、それどころか空気すら存在していなかった。何もないが為に争いは起こらず、何かが破壊される事もない。無からは何も生まれない、だから変化が起こる筈もない。そこには現代では絶対に実現不可能であろう、恒久的な平和が続いていたのだ。
しかし、それは果たして平和と呼べるのだろうか。誰かが何を成す事もなく、感情の起伏が生じる事もない。誰一人として、一頭の動物も、虫の一匹さえも、極小サイズの微生物すら存在しない、そんな世界があったところで、何者に対しての平和なのだろうか。誰から生じたのかも分からない、そのような疑問のみが無を彷徨う。しかし誰も居ないのだから、そんな疑問に答える者など居る筈もない。
……しかし、神の悪戯なのか、それともその瞬間に神が誕生したのか、それは出現した。無の全域を照らすほどの眩い光を纏った謎の生命体、それがどこからともなく突如として現れたのだ。その生命体こそがアダムスの元となったものであり、真に完全なる存在であった。
「無に出現したばかりの頃、ただの我にはまだ自我というものが存在していなかった。故に、それより以前はどこに居たのかなど、そういった記憶は残っていない。自我が芽生えたのも、それから更に数億年ほどが経ってから――― いや、数千年程度だったか? いかんな、自我が芽生える間際の記憶は微妙にあるのだが、何分大昔の事。多少の差異が話に混在してしまう」
「……なあ、その話まだ続く?」
「うむ、続く」
「そ、そうか……」
自分から疑問を呈してしまった事があるし、“ちょっと待った”の宣言を奪ってしまった罪悪感からなのか、この時点でケルヴィン達は攻撃の手を止め、地面に座りながらその話を聞く状況に陥っていた。