軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99話 冒険者ギルドの主人公だぞっと

神無シンは古典的主人公だ。昔に流行った鈍感ハーレム主人公。丁寧な物腰で、正義感が強い。強きを挫き、弱きを助ける主人公。頭は良くて、敵へは皮肉も言うが、なぜか恋愛だけは鈍感なタイプ。

俺も前世では一緒に行動していたが、なかなかかっこよかったよ。ゲームの話だけどね。強敵を倒したあとに、もしかしたら友人になれたかもしれなかった……とか悲しむんだけど、隣にいるのに、いないものとして扱われる空気なプレイヤーキャラとも友人になってほしいと、涙したものだ。涙したは嘘だけど。

あと、会心の一撃コンボであっさりと倒したのは俺なんだけどね。まぁ、原作ではかっこよかったよ。10巻まで買ったぐらいだしな。

その原作の主人公。『魔導の夜』の主人公。この世界の中心人物が目の前にいた。

黒髪黒目で二枚目であり、ぶっちゃけるとよくある主人公の顔立ちだ。印象としては、戦いを好まない大人しそうなタイプに見える。スマートな立ち姿で、きっちりとしたスーツのように見える『簡易魔導鎧』を身に着けている。

涼しげな顔で俺たちを見て、爽やかな笑みを浮かべる。その笑みにやられて、顔を赤らめて目を逸らすヒロインが多数いたものだ。

闇夜たちも顔を赤らめたりするかなと、むふふと皆の様子を見るが、反対に不愉快そうな顔になっていた。あれぇ? 主人公だよ、主人公。この世界の中心人物だよ? 以前、不幸なダンジョン消失事件で顔を合わせたけど、あの時は会話もできなかったし、ノーカウントだ。

「なにか含みがあるご挨拶ですね。神無さん。あぁ、私の名前は帝城闇夜です」

「むぅ、油気玉藻だよ〜」

なぜかむっとした顔で、二人は小さく頭を下げて、ホクちゃんたちも素っ気無く挨拶を返す。……主人公だと知らないから仕方ないか。俺は興奮してるよ。そわそわみーちゃんだ。気分はロケをしている俳優を見かけた感じだ。頬を赤らめて、そわそわそわそわしちゃうぞ。これで俺もエキストラにはなれるかな。サインください。

おっと、それよりもおかしいところをツッコんでおこう。

「あの………神無さんはなにか私たちに御用ですか?」

もじもじみーちゃんだ。灰色髪を靡かせて、小柄な体をくねくねさせちゃう。やっぱり本物を前にすると緊張しちゃうよな。サインは駄目かな?

「ナンパならおやめになった方がよろしいですよ?」

美羽の前に闇夜がズイと出てきて、ギラリと人を殺せそうな視線でシンへと言う。なんか喧嘩腰だ。主人公だよ、主人公?

「そーそー、女の子たちの集まりに声をかけるなんて、勇者だよね〜」

俺を背中から抱きしめてくる玉藻も、冷たい声音でジト目の敵意があるような視線だ。ホクちゃんたちもみーちゃんを包囲するように陣形を組み始めた。なんなん? これから戦闘でも始まるの?

そんな美少女軍団を前に、焦った顔になり、慌てて手を振るシン。

「すみません、そんなことはありませんよ。僕の名前は神無シンと言います。神無公爵の息子です。えっと、帝城さんたちの姿が見えたもので、あいさつをと思ったんです。鷹野伯爵様もいらっしゃいましたし」

その言葉を待っていたぜ。口にすると思ってたんだよ、ナイス闇夜たち。

「えと、あの、私の姿は『変装』で本当の姿には見えないはずですけど………」

「え? 『変装』の魔導具を使用していたんですか! ……僕は生まれつきの『魔眼』持ちでして。幻影魔法は通じないんです」

驚いた顔になるシン。『変装』魔法が発動しているなんて、幻影が通じない者にはわからないよな。周りが注意できれば良いが、いちいちあの人の人相は〜なんて話さないもんな。気づかなかったのも無理はない。

『魔眼』持ちの神無シン。この情報は知っているということが、大事なんだ。今の会話で大勢が知ることになった。必要のない情報かもしれないけど、念の為だ。魔眼であることを知っていると、迂闊に美羽が口にしても、もう大丈夫。

「お兄ちゃん、この女が鷹野伯爵なんですか?」

シンの後ろから、強気な目つきの少女がぴょこんと顔を出してくる。セイちゃんと同じく紫髪のセミロングは跳ねていて、瞳も紫だ。顔立ちは可愛らしい小動物タイプである。少女用のレオタードみたいな魔導鎧を着ており、その手には2メートルはある長い杖を持っている。紳士諸君、撮影はNGだぜ。

「うん、月、君にはそうは見えなかった? 彼女は鷹野伯爵だよ。10歳で当主に就いたんだ」

「はい。どこにでもいる少女に見えました。この女が鷹野伯爵……?」

シンの言葉にコクリと頷く少女。そして、話が聞こえた冒険者たちに注目され始めるみーちゃんです。

「貴女は?」

「あぁ、私は 神無(かんな) 月(つき) 。神無公爵の養女です」

知ってる知ってる。ヒロインさんだ。古典的な主人公に古典的なヒロイン。即ち、お兄ちゃん大好きっ子の義妹さんだ。すげー、本物だよ、本物!

原作では放逐されるシンを庇って、学園でもベッタリとお兄ちゃんお兄ちゃんとくっつく少女だ。たしか雷と風を使える魔力が高い分家の子供だ。早くから『マナ』に覚醒して、しかも魔力が高いから養女になったんだよね。

原作者が義妹枠は外せないと創造したと、俺は考えているけどな。義妹って、なんというか幼馴染と同じく、お伽噺の存在で憧れるよ。

「私は鷹野美羽です! 小学四年生です」

美羽はハイテンションモードになった!

シンなんかどうでも良い。所詮は男主人公だ。ヒロインと出会える方が感動的だよな。邪魔なシンを退けて握手をするために、ふんすと興奮して月に近づく。

「ええっと………神無月。よ、よろしく?」

なぜか戸惑い顔で、俺と握手をしてくれる月。チラチラとシンを見るが、なんかあった? サインください。シンのサインはもういいや。ヒロインに出会っちゃったよ、ヒロインに。

「みー様? 少し目立ち始めています」

「そうだよエンちゃん。周りの様子がおかしくなってるよ〜」

握手をして、ぶんぶんと腕を振る俺に、なぜか冷たい声音で闇夜が注意をしてきて、玉藻がまたもや背中に飛びついてきた。

たしかにそのとおりだ。周りの人々の中には冒険者もいる。盗み聞きするために屯している奴もいるんだ。

「鷹野伯爵って………回復魔法使いって噂の?」

「なになに、なんかあったのか?」

「あの娘が回復魔法を使えるって」

「あの歳で伯爵?」

さざ波のごとく、美羽の話が広がっていく。でも『変装』魔法がかかっているために、本物か判断はつかなそうだ。護衛たちや闇夜たちがいるから、近づくことも難しいというせいもある。

まぁ、問題はないだろ。確かめる勇者もいないだろうしね。シンたちの護衛も後ろにいるので、かなりの集団になっているし。

「え〜とっ、すみません、僕迂闊なことをしちゃいましたね」

「うん、大丈夫です!」

主人公の迂闊なセリフは小説でよく知っている。必ずいらんことを口にするのは主人公だからだ。なので、にっこりと気にすんなよと笑顔を向けてやる。みーちゃんスマイルの特別プレゼントだ。

「ありがとうございます。最近、鷹野伯爵家の話をよく聞くもので、つい……申し訳ありません。鷹野伯爵ももちろんですが、お父上の噂も聞くので」

「パパの?」

「はい、鷹野家の経営を建て直すべく、辣腕を振るっているとか。役員の一掃に新たなる人材の登用、赤字部門に他の企業と提携を結び、収益の改善、多方面においての様々なアイデア。僕もいずれ公爵家を継ぐので、お話を聞きたかったんです」

おぉ、そんなことになってるんだ。さすがは美羽の父親だ。鼻が高いよ。フリッグお姉さんの手伝いがすこーしだけあるけどな。

廃棄ダンジョンの土を農園ファームの畑に混ぜて、収穫時の味を高めるとかな。家庭菜園の野菜を美味しく食べる人々を広告に使うのがコツだ。素人の飾らない笑顔が視聴者の心に響くらしい。素人なのかと聞いたら、偶然家庭菜園を使っている劇団の家族がカメラに映ったのと言ってたけどね。本当に美味しいかは、個人差があるのよと言ってた。

これだけだと、詐欺のように思われるだろう。だが、これこそがカモフラージュなんだ。実際に味ははっきりと良くなっている。だからこそ、父親も宣伝にオーケーを出したのだが、『ガルド農園』の土以外は、同じように廃棄ダンジョンの土を使っても美味しくならない。

『ガルド農園』だけの秘密の技術があるんだよ。レベル10の『品質向上薬Ⅰ』が土に混ざっているのさ。レベル10の魔石99個を素材に使えば、一回で99個作れる錬金術のアイテムだ。ゲームでは、売る際に数百円増えるだけの効果しか無かったが、現実だと味の良さがはっきりと変わる。

農園一つにこのアイテムを一個使えば、あら不思議。これがダンジョン産なのねと、お客が殺到する野菜に早変わり。副作用とかもないのは、お役所に依頼して検査済みだ。安全で美味しい野菜さんなのさ。ダンジョンの土というカモフラージュはナイスアイデアと言わざるを得ない。

まぁ、こんなもんは手始めで、他にも色々と手を着けている。隙間産業を探すのが得意な女神なのだ。その上、鷹野家に今回みたいに話を持っていって、提携を結び、父親の名声をさり気なく上げてくれる。

天才的な女神フリッグさん。よくそういうの色々と思いつくねと、マイルームのソファに寝そべり、金つばをムシャムシャ食べているフリッグお姉さんに聞いたら、愛と豊穣の力よと謙遜した。尊敬しちゃうぜ。ちなみに金つばは本物の金の鍔でした。

でも、ベンチャー企業と提携を結ぶことをあっさりと決めることができる父親の決断力も素晴らしい。普通は高位貴族はベンチャー企業なんか相手にしないだろうしね。

「うんうん、パパは凄いんです!」

なので、褒められて嬉しいみーちゃんだ。

「まるで当主になる準備を前もってしていたかのような手際の良さ。『魔法の使えない魔法使い』として、有名です。僕の父さんも仲良くなりたいと言っていましたが、残念ながら社交界には顔をお出しにならないようなので、父さんも残念に思っているんです」

立て板に水と、すらすらとセリフを口にするシン。こういうタイプだったよなぁ。正義感の強い秀才タイプ。まだ10歳なのに、よくこんなセリフを口にできるもんだ。脚本なんかないよな? さり気なく皮肉も混じってるよね。

「それは失礼な物言いに聞こえますが、遠回しに手袋を投げつけてほしいと仰っているのですか?」

カチンときたみーちゃんよりも先に、その黒い瞳に剣呑な光を宿して、闇夜が注意をしてくれる。

「いや、僕は本当に仲良くなりたいと思ってまして。すみません」

ペコペコと頭を下げるシン。気の弱そうな態度だが、それが見せかけだと俺は知っている。頭を下げて見えないようにしている目は、危険な感じで細められているんだ。学園で敵対する先生に対して、そういう態度をとっていた。

………おかしいな? シンってこんな感じだったか? 無意味に敵対もしていない相手を敵にするような発言はしなかったはず。こういう慇懃無礼な話し方は、どちらかというと、弟の……名前忘れた。待てよ……今は原作が始まる前だ………。少し気になるな。

ギスギスした空気になるシンと闇夜たち。なぜか玉藻たちも敵対心を露わにしている。なんでだろ? モブだから、レギュラー陣への敵対心?

重い空気となったが、そんな空気を破ったのは、意外な人物だった。

「ねーねー、おねぇちゃんはかいふくまほーをつかえるの?」

美羽の裾をちっこい女の子が引っ張ってきた。誰、この子? 5歳ぐらいの女の子だ。花柄の少し草臥れたワンピースを着ており、くまさんのポシェットを肩から下げていた。

「う〜ん、どうかなぁ? なんで?」

腰を屈めて、幼女と目線を合わせてニコリと問い掛けると、幼女はちっこい指を待合室に向ける。

「パパのお怪我を治してほしーの! お怪我しちゃったんだ」

幼女の指さす先は、冒険者保険申請の窓口前の待合室だった。包帯で腕を吊り下げているおっさんがアワアワと慌てている。幼女の父親なのだろう。子供が気づいたらいなかったというところかな?

ふむ……そういえば、あそこは怪我人だらけだな。ダンジョンアタックで怪我をした人たちか。

「なおしてくれる?」

期待の顔で俺へと幼女は尋ねてくる。美羽が回復魔法使いだと周りが言っているから、確かめに来たんだろう。幼女だからこその怖いもの知らずだ。

まぁ、みーちゃんの答えは決まっているけどね。

「うん、任せて!」

『変装』の指輪を外すと、美羽の髪の毛が黒から銀色に似た灰色の髪が靡く。黒目から、サファイアよりも輝きがあるアイスブルーの瞳へと変わる。

「おねーちゃんに任せなさい!」

ガッツポーズを取ると、俺は手を掲げて叫ぶ。

「鷹野美羽、踊ります!」

美羽は小鳥の鳴き声のような掛け声と共に、踊りを始めるのであった。