軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65話 勝利は冷めたピザを食う

平民区画は、肩の力が抜ける集まりであった。勝利はそのことになんとなく安心感を得て、パーティーの中に入っていた。

あれから、皇城の秘密の脱出用転移陣を使って、移動してきたのだ。秘密の転移陣は、隠し部屋にあり、聖奈たち皇族のみが開くことのできる扉を開けて移動した。

転移陣は皇城内ならば、どこにでも転移できるものであった。そのためにバレても反対側からは入ってこれないし、皇族のみにしか開けられない扉のために、他者が悪用することもできない。

移動しながら聞いたところ、ちょくちょくお忍びで皇族が使用する転移陣らしい。昔は緊急時用だったようだが、今ではお忍びで出掛けるための物と化したらしい。

なので、皇城に詳しい者は知っているために、秘密は秘密でも、公然とした秘密だとか。そりゃ、代々の皇族がお忍びで使えばバレるのも当たり前であろう。

帰りはどうするのかと尋ねれば、普通に歩いて戻るのだとか。お忍びで出掛けることに説教を受けることが前提らしい。

原作を読み込んだが、そんなことは設定集でも書いてなかった。まぁ、裏舞台を知ると読者はがっかりするだろうから、仕方ないことなのだろう。天空城もそうだが、現実となった小説の世界はこういった所で、どことなく生活感があり、つまらないと勝利は思っていた。

「わぁ。これはなんですか?」

「それはなんでしょうか? わかりませんね? 謎の物体?」

「豚足ですよ、豚足」

聖奈が皿に置かれている豚足を手に不思議そうにして、シンも見たことがないのか、首を捻っていたので教えてやる。たしかに豚足は見かけは少しグロテスクだ。食べたことがないのもわかる。誰だ、豚足を料理として出した奴と呆れてしまう。安上がりにすむからだろう。

「これはなんでしょうか?」

「クッキーかな?」

「カルメラ焼きですね」

新たにカルメラ焼きを手にして、聖奈とシンが疑問顔になるので、嘆息交じりに答えてやる。誰だカルメラ焼きを用意した奴。たしかに安いが。

「ならこれは?」

「柿のた……。安上がりすぎるだろ! なんだよ、この料理!」

聖奈が持ってくる物に、遂につっこみを入れてしまう。安上がりにも程がある。平民区画も料理は豪華だと聞いていたが違うのかよ。

「あっはっは。あんたの連れ面白いね!」

聖奈とシンがわざと選んでいるのではないのだろうとか言うほど、変な物を持ってくる。不味くはないが、そのサクサクなうまそうな棒も安いぞ。

呆れる勝利に、少女が肩をバンバンと叩いてきて、大笑いしてきた。

「なんだ、お、いえ、なんでしょうか?」

怒鳴ろうと思ったが、聖奈が見ているために我慢し、口元を引きつらせて勝利は少女へと視線を向ける。

普通の黒髪黒目の少女だった。ショートヘアで少しボサボサだ。着ている服は一張羅だろうが、かなり古ぼけて色褪せている。

なんとなく蓮っ葉な感じのする少女だ。なんとなくこの歳で苦労してきたような感じを与えてくるが、その苦労を元気な笑顔で消している。そんな感じの少女だった。ソバカスが顔に残り、これはモブだなと、勝利は失礼な考えを持った。愛嬌はありそうだが、喫茶店などの背景画にいるようなイマイチの顔立ちだった。

「あそこはお菓子コーナーだよ。皆お高い料理を食べに行ってるのに、あの子たちだけ……笑える、あっはっは!」

「豚足もお菓子コーナーにあるのかよ」

可笑しそうに笑いながら、バンバンと肩を叩いてくる少女に、そういうことかと、半眼で聖奈とシンを見る。なるほど、他のテーブル、特にステーキなどを焼いているテーブルには多くの人々が並んでいるのに、あそこだけ妙にガランとしていると思ったのだ。

たしかにお菓子コーナーなら、人も集まるまい。お菓子と言っても、駄菓子だ。このテーブルを担当した者は、意外性を見せたかったんだろうが、失敗していた。お菓子コーナーとは別に、ケーキなどのデザートが並ぶテーブルはあるのだから。

「まぁ………良いだろ。ここで食べなくてもな」

ここクラスの料理ならば、いつでも彼女らは口にできる。反対に駄菓子などを食べることは難しいだろう。

「へぇ! 随分よゆーじゃん! ははぁん、その髪を見るに、あんたなかなか良い家のもんだろ」

親しげに、グリグリと肩をついてくる少女を追い払うように手を振る。聖奈たちは駄菓子に夢中で、こちらへと注意を向けていない。ならば演技の必要もない。

「うるさい。本来は貴様が話しかけることもできな――」

ぐー。

乱暴に追い払おうとして、腹の音が鳴ってしまい、頬を赤くしてしまう。今日は朝から忙しくて、パンひと切れすらも食べる暇がなかったのだ。パーティーでも、同様に挨拶で忙しく、なにも食べていなかったために、腹の虫が鳴ってしまったのだ。

「あっはっは! え? なんだって? 本来は? なんだっけ?」

「うるさいっ! くっ、僕は忙しくてなにかを食べる時間がなかったんだ!」

アハハと笑う少女へと、恥ずかしさから、顔を赤らめて勝利が怒鳴ると、片手に持っていた皿をスッと差し出された。

「ん」

「な、なんだよ?」

「いやぁ、笑わせてもらったからさ、お裾分け。どーせ、タダ飯だしねっ!」

皿にはピザや鉄火巻き、おにぎりなど腹に溜まりそうな物が乗せてあった。ニカリと愛嬌たっぷりの顔で勧められるので、勝利は乱暴にピザを一枚掴み取りかぶりつく。少し冷めているがそれでも美味い。

「あー、おもしろ。あたしの名前は 明智(あけち) 魅音(みおん) 。あんたの名前は?」

「僕の名前は粟国勝利だ」

「粟国? ん〜、どこかで聞いたことがあるような?」

「はん、そうだろう、そうだろう」

何しろこの国で3人しかいない公爵家の跡取りだと、勝利は胸を張り、ドヤ顔になる。パチリと指を鳴らすと魅音は思い出したと口を開く。

「角のパン屋の名前だ! あんた、パン屋の息子さん?」

「ちげーよ! 粟国公爵家のもんだ! 公爵家! わかるか? 公爵家だ、公爵家!」

なんでパン屋だよと、勝利が怒鳴ると、あっはっはと魅音はまた笑う。笑い上戸なのかよ、この娘!

「ごめんごめん、あたし学がなくてさ。公爵家って、貴族? 貴族様なの?」

「それぐらい、覚えとけ! 公爵家っつたら、この日本で一番偉い貴族なんだぞ! お前も明後日で小学四年生だろ! それぐらい覚えとけ!」

「あ〜、ごめん、あたしあんまり学校行ってなくてさ」

「あ? その歳でさぼりかよ。てめー」

ポリポリと頬をかいて、気まずそうにする魅音に、その歳でさぼり魔かよと、軽蔑の目で勝利は見る。自分でさえ高校2年から引き篭もったのだ。小学3年でさぼりとは、かなりの良い性格である。

「あたし孤児院で育っててさ、あんまり経営良くなくてさ……こっそりと歳を偽って冒険者ギルドで雑用の仕事をしているんだ」

「へ、へー、そりゃ、あれだ、うん、それだ」

意外な返答に、勝利は口籠って、へんてこな返しをしてしまうが、あっはっはと元気よく、魅音は勝利の肩を叩いてくる。

「気にしないでよ。あたしみたいな境遇たくさんいるだろ?」

「あ、あぁ、まぁな」

よくよく見れば、子供であるのに、魅音の指は荒れている。悪ガキの手ではなく、あかぎれで痛そうで苦労している指先だ。

勝利は、そういえば『魔導の夜』は格差がはっきりしている世界だったと、改めて思い出す。スラム街はあるし、魔物に両親を殺された孤児は多い。スラム街に近い治安の悪いところなら、かっぱらいやスリなどは、黒い虫よりもたくさんいると原作では語られていた。

「あ〜、そういう視線には慣れてっから。気にしないでよ。ほれ、これも食べな。意地悪そうな子供よ」

「誰が意地悪そうな子供だ、誰が」

「えー。だってさっきあんたは、かなり悪そうな顔をしてたよ。ちょっと子供には見れないあくどい顔つき」

「え? そんなわけ無いだろ。僕はコレでも爽やかな天才少年と褒められているんだぞ?」

その言葉に動揺して、ペタペタと顔を触り、勝利は魅音を見る。そんな訳はない。自分の笑みには自信がある。執事も侍女もメイドも、自分の笑顔の感想を聞くと、爽やかな笑みです、誰もが惚れるでしょうと拍手を………。え?

「おべっかに決まってんじゃん! あんた、周りにろくな大人がいなさそうだね」

「ぐぬぬぬ、そ、そんな訳はない……いや、あるか?」

「あっはっは、ほら、お互いに大変な境遇みたいだね。食べな食べな、お姉さんの奢りだよ」

辛気臭くなりそうだった空気を消し飛ばす笑みを見せて、魅音がまた皿を勧めてくる。もはや鉄火巻きしか残っていないが。

「タダ飯だろ! ちっ、なにか飯を取りに行こうぜ」

こいつのペースに巻き込まれても、良いことはないと勝利はため息混じりに、料理を探そうとする。前世は庶民の自分だ。ここの料理が口に合わないなどということはない。それどころか、久しぶりにうまそうなサクサク棒を食べようかと、駄菓子コーナーへと顔を向けると、いつの間にか聖奈が目の前にいて驚く。

「聖奈様?」

「もう平民の方のご友人ができたんですか?」

ぐるぐる眼鏡がキラリと光り、悪戯そうに聞いてくるので、慌てて手を振って返す。

「いえ、このく、魅音さんとは少しお喋りをしただけです」

取り繕って答えると、ふーんと聖奈は魅音をジロジロと観察する。その不躾な目に、さすがの魅音も後退り、口元を引きつらせた。

「少し髪がボサボサですね? 女の子なんだから整えないといけませんよ?」

「あ、はい。そうだ、ですね」

気圧されて、下手くそな丁寧語を返す魅音。高貴なる者の醸し出す空気を感じ取ったのであろう。残念ながら、勝利にはどうしても身に付かない空気だ。

「そうですね、少し髪を整えて差し上げてもよろしいでしょうか?」

隣に立つシンがいかにも高級そうな櫛を取り出して、ニッコリと微笑む。その笑みはもう少し年を重ねれば、女性ならば見惚れてしまう破壊力を持つだろう可能性を見せていた。

「あっと、ごめん。あたし他の仲間が待っているからさ、またね!」

あわあわと手を振って、魅音は逃げ出す。高貴なる者の空気を持つ聖女と、貴公子然としたシンは苦手な部類だと考えたに違いない。

そんじゃねと、ウインクをして魅音は去っていった。無理もないと勝利は苦笑いをしてしまう。

「あの方は、どこの家門の方なのでしょうか?」

「ここは、平民区画です。彼女は孤児院の孤児らしいですよ」

「あら、そうだったんですか。それよりも、あの食べ物の説明をしてください、勝利さん」

あっという間に魅音には興味を無くし、聖奈は勝利の裾を引っ張り駄菓子コーナーへと連れていく。おっとっとと戯けながら、ニヤニヤと笑い、勝利は引きずられていく。

「あぁ、これはですね………」

あのヒロインの聖奈と仲良くしていると、歓喜しながら、駄菓子の説明をしていく。聖奈とシンがよく知っていますねと、褒めてくれるのを嬉しく思いながら、フト考える。

これからのイベントで、あの少女は死ぬだろう。ちらりと見ると、少女は仲間だろう同じような服装の女の子たちと料理を楽しんでいる姿が見えた。

あの苦労していそうな少女が死ぬ。そう考えると、なにかモヤモヤと罪悪感が湧く。所詮、原作通りに進むのだ。少女一人助けても問題はないだろう。

「………ちっ、ピザの礼だ。ここから去るように警告をしてやるか」

舌打ちして、魅音へと声をかけておこうと決めた時であった。

「あら、鉄蜘蛛が動き出しました」

「本当ですね。なにかアトラクションでしょうか?」

聖奈とシンの言葉に驚き、二人が見ている方向に顔を向けると、鉄蜘蛛が動き出していた。

「な、なぜ? そんな馬鹿な」

原作では動き出すことのない鉄蜘蛛の姿を見て、動揺で思わず呟く。

その呟きを聖奈は聞き、僅かに目を細めた。