軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話 しんのモブって、空気なんだぜっと

死霊(レイス) と対峙して、俺は今までとは違う漲る力を感じていた。ステータスもそのとおりに表している。

レベル1

神官Ⅰ:☆

HP:12

MP:9

力:3

体力:3

素早さ:3

魔力:3

運:3

ゲームの時のステータスだ。『魔導の夜』は小説だ。だが人気があったためにゲームにもなった。懐かしのRPG。素早さにより、戦闘の順番が複数回来ることもあるリアルタイムターン制。

検証は後でするにしても、やばかった。『 小治癒(マイナーヒール) Ⅰ』を使う前はHP1だった。後少しで死ぬところだった、あぶねーっ。

闇夜に取り憑く『 死霊(レイス) 』は憎しみで歪む老婆の顔を動かして、俺をジロジロと見てくる。わかるわかるぜ。不思議なんだよな。とってもわかるよ、その気持ち。

土壇場で覚醒する俺。まるで主人公みたいだ。

だけどモブだと俺は理解した。このゲームの仕様が何よりも俺がモブだと教えてくれる。

まぁ、それはともかくとしてだ。

「シネシネシネ」

闇夜が人差し指を俺へと向けてくる。その人差し指に闇のオーラを集めようとするが、そうはいかねぇぜ。

「俺のターンだろうがっ! 順番はお間違えなくな!」

手のひらを闇夜に向けると俺はジョブの特殊能力を使用する。使い方は簡単だ。頭の中でコマンドを選べば良い。努力なく使えるゲーム仕様。実に素晴らしいよな。

『ターンアンデッド!』

MP1を使用して、俺の手のひらから聖なる光がフラッシュのように光る。その光は浄化の光。神々しい光は辺りを照らし、影を消し、全てを浄化しようとする。

「ギャァァァァ!」

浄化の光を受けた『 死霊(レイス) 』は、煙を身体から吹き出すと、痛みに身体をよじらせて闇夜の体から離れていった。そして、空中で痛みを覚えて苦しみ藻掻く。

その様子に俺はホッと安堵する。どうやら小説やゲームと同じ仕様だったようだ。違っていたらやばかった。

「ほっと」

力を失い、ふらりと倒れそうになる闇夜の身体を支えると、空に浮いている 死霊(レイス) へと冷ややかな視線を向ける。

「『調べる』」

敵の力を解析する魔法は今は使えないが、それでも調べることはできる。それがコマンドの『調べる』だ。俺よりも多少レベルが高くとも調べるを使うとだ。

死霊(レイス) レベル3

名前とレベルはわかるわけ。小説の世界だから、レベルは完全に信用できないかもだが、それでも目安にはなる。そしてレベル3なら楽勝だ。

「てめえは憑依してくるのが面倒くさいだけ。それを防ぐには主人公の得意技『 魔法破壊(マジックブレイク) 』か魔法使いの『 魔法解除(ディスペル) 』。そしてだ、『神官』の固有スキル『ターンアンデッド』だ!」

俺のとったジョブ。それが『神官Ⅰ』だ。固有スキル『ターンアンデッド』はMP1で格下の不死者を即死させて、同レベルでも弱体化させることができる。そして、何よりも『憑依』を確実に解除できるのだ。

「お、おのれぇっ!」

「わかるぜ、憑依が解けちまったてめえは、低レベル『ドレインタッチ』しかできない。だが、もう俺のターンしか来ねえんだよっ!」

手のひらを向けると再度魔法を使う。熟練度1の神官の魔法は固有スキル『ターンアンデッド』と初級神聖魔法Ⅰの『 小治癒(マイナーヒール) Ⅰ』が使える。なので、選択肢は一つ。

『 小治癒(マイナーヒール) Ⅰ!』

迫りくる憎しみに満ちた悍しい表情の老婆の死霊に、俺は回復魔法を使ってやる。とっても優しいだろ?

皺だらけの手が俺に触れようとする寸前に、その身体が輝き、仄かな癒やしの光が 死霊(レイス) を覆う。

「ウッギャー!」

再び 死霊(レイス) は苦痛に悶えて空中へと浮き、身体をよじる。もはやこちらを狙う余裕はなさそうだ。

「聖属性弱点。弱点を突けば一回行動キャンセルさせることができるんだけど、現実だとこうなると」

ゲームだと魔物の弱点を突けば、一回行動キャンセル。次の行動の時はキャンセルできないが、どうなることかと思っていたらこうなるのか。なるほどなぁ。でも、現実だからなぁ、油断はできないよな。

「そんじゃあばよ」

手のひらを向けて、再度魔法を使う。死霊は神官にとってカモである。グワッグワッと鳴いてくれても良いんだぜ。

『 小治癒(マイナーヒール) Ⅰ』

回避不能の魔法。それが回復魔法だ。他はミスとかあったけど、これだけは絶対に命中するんだ。そして不死者にとっては回復魔法は致命的な攻撃魔法と化す。

「オォァァ……」

『 死霊(レイス) 』は断末魔をあげると、サラサラと灰となり消えていく。俺を殺そうとした魔物は呆気なくその命を消すのであった。いや、不死者だから浄化したのかな? どちらでも良いか。

『 死霊(レイス) を殺しました。経験値1取得。魔石Fを取得しました』

アイテムボックスに勝手にドロップ品が入ると、俺は初めての戦闘を終えたのであった。死霊系統は神官にはカモだが、他のジョブには厄介極まる魔物だ。しかも不死者はあっさりと倒せるパターンが多いので、経験値がとにかく渋い。

「まぁ、倒せたから良いか。あ〜、死ぬかと思ったよ。闇夜ちゃん大丈夫?」

おっととと、俺は口調を変える。俺言葉なんか両親に知られたら、不良になったと悲しまれるからな。

先生たちも友だちも遠巻きに離れていたので大丈夫だろ。う、うん、きっと大丈夫。俺の必殺スマイルで全てを誤魔化す………。

「お、おろ? あれれ?」

身体がふらつき、血の気が引く。か、回復魔法を使ったのに、なんぞこれ?

「まずい……ゲーム仕様は小説の設定に負けるのか……」

俺はふらつき倒れ込む。ゲームだと回復したら問題ないのになぁ。小説だとこんなんあったわ。ほら、主人公が疲れて倒れないとイベントが始まらないしね………。

そんなくだらないことを考えながら俺は意識を失い、眠りについてしまうのであった。

ぱちくりと俺は目を開けた。

「病院かな?」

ピコーンピコーンと血圧が計られており、腕には点滴の針が刺さっている。モゾモゾと動くと、ベッドの柔らかい感触が返ってくる。真新しいシーツ、薬臭い部屋……いや、薬臭くないな。

まるでホテルのスイートルームのような広々とした部屋だった。高級感がある内装、でかいテレビに冷蔵庫。うん? なんか豪華な個人部屋だ。高いんではなかろうか。

俺は誰もいないなぁと、少ししょんぼりしつつ、ステータスボードを開く。開く方法はコントローラーを思い描き、タッチボタンを押すだけだ。まさかのステータスボードの呼び出し方法である。この世界に転生させた神がいるとすれば、俺は文句を言いたいところだ。こんなんわかるわけねぇだろ。

誰がコントローラーを思い描いてステータスを開くタッチボタンを押下するイメージを描くと言うのか。知っていれば別だが、知らなければ奇跡でも起きないとわからねぇだろ、ちくしょうめ。

「とはいえ、俺はこの世界『魔導の夜』で、完全にモブだと判明したと」

アイコンを操作してアイテムボックスを見るが、魔石Fだけだ。やりこんだ俺のキャラや性能は残っていない。そううまくはいかないようだ。

「だけどリセットされただけという感じだな。課金ジョブはあるし。とするとだ、課金は他の所にも影響しているはず。ここは問題はない。で、俺はモブと」

『魔導の夜』のプレイヤー。それはモブであることを示す。それはなぜかというと、だ。

小説や漫画がゲーム化する。主人公を操作するパターンなら問題はない。問題は1からキャラメイクできるパターンだ。

普通のゲームなら、プレイヤーが主人公だ。ストーリーも主人公を中心に動く。だが、小説などを原作としているとどうなるか?

結構あるパターンだと思うが、小説の主人公と絡み、メインストーリーに混ざれるのが売りなのだが、ここで問題が発生する。

それはプレイヤーがパーティーにいるのにガン無視して、主人公たち小説のキャラだけで会話やストーリーが進むのだ。

まるでプレイヤーがいないかのように話をする主人公たち。たとえプレイヤーが全ての敵を倒して、主人公たちは倒れていても、やったなと喜ぶのは主人公たちだけ。プレイヤーは空気扱いされるのである。即ちモブだ。ストーリーに絡まれると話がおかしくなるのだから仕方ないのはわかるが、これは酷かった。

ファン向けのゲームだから仕方ないかもだけど、俺もいるよと、無視しないでくれと涙を流したくなるゲームはたくさんあるのだ。

『魔導の夜』はそのパターンだ。メインストーリーに一切プレイヤーは会話パートに関われないのである。空気なのだ。これが現実だと泣いて良いと思う。

サブストーリーや隠しストーリーだと小説の主人公たちは反対に一切会話に入ってこない。現実だと無関心よりも酷い。虐めだよな、これ。

ただひたすらやり込むのが、『魔導の夜』のゲーム版なのである。ストーリーに期待をしてはいけないのだ。

なので、俺はキャラメイクできるプレイヤーキャラクターの時点で空気と化したモブなわけ。なんのストーリーにも関われないだろう。……いや、隠しストーリールートにはいけるかも? あれも主人公たちは関わってこないから、やっぱりモブなのは変わらないか。

「だけどプレイヤーキャラクターで良かったのかもな。主人公よりも遥かに強くなれるし」

これがレギュラーキャラクターに転生したら、やばかったかもしれないと思い直す。だって、小説はレベル制の世界ではないのだ。ゲーム版はRPGとして作成するために、レベル制にしていた。主人公たちは雑魚を倒してもレベルアップはせず、固定レベルだった。修行イベントとかがあるとレベルアップするシステムだったのだ。

正直いうと、最終的には主人公たちはいらなかった。プレイヤーと召喚獣や使い魔だけで戦闘したものだ。

そう思うと、心がすっと軽くなった。良かったモブで。修行とかやってられん。死ぬほど努力しようと誓ったけど、楽なルートがあれば俺は迷わずそのルートを征く。

「強くなるのに、苦労はするだろうけど、死ぬほど努力はしなくてすみそうだな」

現実でレベル上げとか、熟練度上げ。大変そうだけど、なんとかなるだろと、俺は枕に頭を埋める。現実とゲームの違い、いや、小説とゲームの違い? なんでも良いけど、確かめることもたくさんありそうだ。今回のようにHPは満タンにしたのに、倒れたりね。たぶん貧血で倒れたんだろう。

ふわぁとあくびをする。眠い。かなり疲れているようだ。6歳児には大冒険だったからなぁ。

ウトウトとし始めると、病室の扉が開き母親が花瓶を持って入ってきた。俺がアクビをする姿を見て、驚き目を潤ませると駆け寄ってくる。

「良かった、みーちゃん起きたのね!」

「おあよ〜、ママ」

ぎゅうと抱き締めてくる母親にアクビ混じりに答える。眠い。とても眠い。

良かったわと、嗚咽混じりに強く抱き締めてくる母親に、どうやら親不孝なことはしなくて良かったと、俺も抱き締め返す。

良かった良かった。とりあえず、命があったことを喜ぼうかな。