軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58話 強い人登場イベントだぞっと

シンと静まり返る。少し離れた所では、この騒ぎに気づかずに、ワイワイと普通にパーティーをしており、喧騒が聞こえてくるのが対照的だ。時間にして数分。短いじゃれ合いだったから、遠目には何をしていたのか、気づかなかったのだろう。

だが、美羽の周りの人々はこのやり取りを見ているので、言葉を発することもなく、ドン引きの顔だ。

だよね。わかるわかる。俺もドン引きだよ。この宇宙人と会話をするには、翻訳できるこんにゃくとかが必要に違いない。

なのに、この宇宙人は完璧な理論を展開しているつもりのようで、胸を張って自信満々だ。………そういや、原作でもこんな馬鹿な悪役いたな。そうか、この小説の世界では、突き抜けて馬鹿な小悪党が本当にいるんだな。

怒りよりも、哀れみを覚えて、俺は宇宙人を眺める。

「わかったか? わかったら、俺にそいつを寄越しな。後で養子縁組をしてやるよ」

「本当に頷くと思っているのかい?」

まさかの宇宙人のセリフに、父親は困り顔だ。たぶん、話が通じない宇宙人だと気づいたに違いない。

一応、こいつの思考をトレースしてみよう。嫌だけどな。

たぶん、子供時代から弟である美羽の父親を虐めて、自分の優位を見せていた。『マナ』に目覚めなかった弟を蔑んでいたのに、可愛らしい美羽が産まれた。回復魔法使いというちょっとした力を持って。

回復魔法使いで、素直で美少女の娘を持つなんて生意気だ。そうだ、奪ってやろう。

悔しいので、弟をボコボコにして奪ってやろうとした? たぶん子供の頃の弟はイエスしか答えられなかったのだろう。だから、少し力を見せれば、俺を譲ると思っていたと。

………物凄い雑な計画だ。あらすじしか書かない脚本家よりもひでーぞ。計画にしても雑すぎる。やはり宇宙人確定だ。黒服の人に電話をして引き取ってもらおう。

いや、わかった。わかっちゃった。これ、小説の展開ならではだ。アホな悪役と追放された主人公のイベントだ。

ザマァと主人公はアホな悪役に復讐心と優越感を混ぜて、もう遅いと語るのだ。そういうイベントなのだろう。

だが、小説のザマァ展開は、モブの父親には適用されないようで、常識的な反応を見せている。即ち、アホすぎて呆れてしまう展開だ。

これ、原作でも同じような展開は何回かあったよ。そのたびにドヤ顔で主人公は相手に説教しつつ断るんだけど……他者から見たら、うわぁなドン引き展開だったんだ。

なるほど、もう遅いと語る主人公側も他者の視線を無視できて、説教できる強靭な心が必要だったんだな。モブにはとてもではないけど無理だ。会話をするだけでも恥ずかしいよ、これ。

「ああん? 何を言ってやがる? 俺には金も権力も、何よりも魔法の力がある。息子だって魔法使いだ。この先、苦労はさせねぇぞ?」

「うひひ、僕ちんは魔法使いだ! 栄光の未来しかないんだよ!」

鼻を押さえて立ち上がった息子も、宇宙人と共に声を張り上げる。

どう考えても、将来性皆無の不幸な人生しか歩めない宇宙人たちの言葉である。あれか、地球ではなくて、火星にでも住めば幸せな生活はできるということかな?

「嵐さんにだけは渡さない。というか、美羽は誰にも渡すつもりはありませんよ」

疲れた感じで、父親は答える。きりっと答えたいところなんだろうけど、たしかにこの宇宙人の相手をするのは辛いよ。

二人の宇宙人たちだけが喚き散らし、いたたまれない空気に変わる。どうするんだよ、この空気。子供たちは一生に一度の10歳のパーティーだぞ。可哀想だろ。

仕方ない。思い切り殴れば、気絶するかなと、俺が拳を握りしめた時であった。

「ぷわっははは! 面白いイベントだね」

いつの間にか、俺の隣からカラカラと可笑しそうな笑い声が響き、辛かった空気を吹き飛ばす。見ると、パンパンと拍手をして、可笑しそうな顔で笑いながら老婆が立っていた。

背筋を伸ばして美しい立ち姿でいる老婆であった。老婆と呼ぶのは躊躇うほどに、凛々しい。背丈は170センチほど。昔はさぞや美しかったのだろう、皺だらけでも、その面影がわかる顔立ちのお婆ちゃんだ。纏う空気は王者のようで、鈍感な俺でもその威圧と凄みを感じる。

髪の毛は真っ白の白髪で、腰まで伸ばしている。齢を感じさせないエネルギッシュな元気そうなお婆ちゃんだった。

「さて、大根役者による劇はおしまいだ。皆、それぞれ楽しんでおくれ」

「な、誰が大根役者――」

『 竜圧(ドラゴンプレッシャー) 』

お婆ちゃんがギラリと目を光らせる。その瞳孔は縦に割れており、人間の瞳ではない。爬虫類の瞳だ。

「な、ぐぐ」

「アババ」

膝をつき、宇宙人の顔が辛そうに歪む。その息子は泡を吹いて倒れ込んだ。気絶した模様。

フンと鼻を鳴らすとお婆ちゃんは柔和な笑みに変えて、周りを見渡す。

「さぁ、楽しまなきゃ損だよ。ほら、子供たちもまだまだたくさん料理はあるからね」

快活な言葉に、皆は毒気が抜けた顔となり、再びパーティーを楽しむべく、元の空気となり料理を食べて、お喋りを再開するのであった。

自分たちが原因だったから、ほっと一安心だ。さて、俺も料理の全種類を制覇するのを再開するかな。

「お待ち。あんたは駄目だよ。なんで何事もなかったかのようにしているんだい」

ヒョイと首根っこを掴まれて、お婆ちゃんに止められるが、それはそれ、これはこれだろ?

「私も楽しみたいんです。まだ食べていないお料理がたくさんあります! お友だちも待っています!」

「図太い子だねぇ。あんたを中心に揉めているんだよ?」

でも、新しいお友だちが、早く全種類制覇を目指そうようと、そわそわ待っているんだよ。美羽隊長の統率力を試されている時だと思うんだよな。

「少し待ちましょう、みーちゃん。それよりも怪我はしていない?」

「うん、怪我はしていないよ」

ピンピンとしているよと、サムズアップすると、お婆ちゃんから渡されて、俺の身体をペタペタと触り、ほっと安堵する母親。心配させちゃった、ごめんなさい。

「でもよくやったわ。ナイスよ、みーちゃん」

小声で言ってくれるので、むふふと微笑み返す。怒られるどころか、褒められちゃったぜ。

「意外と骨があるようだね、あんたら家族は」

俺たちのやり取りを見ていたお婆ちゃんは、ハンと嗤う。まるで竜のような威圧感の持ち主だ。

いや、まさしく竜なんだけどな。

固有魔法『竜魔法』を持つお婆ちゃん。『魔導の夜』で最強と言われていたお婆ちゃんだ。ゲームでは戦うことができたけど、かなり強かった。

『竜魔法』を持つ一族。 龍水(りゅうすい) 巴(ともえ) 。龍水公爵家の当主様だ。ふふふ、名前をなんとか覚えていたぜ。覚えていた理由はだな、その、倒す際に『装備解除Ⅳ』と『盗むⅣ』を使って、武具やアクセサリーを全てゲフンゲフン。ほら、ゲームだから仕方ないよね?

普通は『装備解除無効』をボスキャラは持っているはずなのに、このお婆ちゃん、その能力持ってなかったんだ。普通に盗めるアイテムも良かったしな。

きっと練習試合形式だったからだ。何度も戦えたんだよ。ゲームの時のお婆ちゃんありがとう。現実では無理そうなので、残念だ。

とはいえ、かなり強い。『竜魔法』はジョブの魔法で言うと基本ジョブの最上級レベルの『龍』の魔法に相当する。『龍』は範囲魔法だが、『竜魔法』は単体にも使えて、かなり便利で使い勝手の良い魔法だった。羨ましい。ちなみに最上級攻撃魔法は単体魔法が『鳥』、範囲魔法が『龍』の一語が入る。『竜魔法』は単体、範囲攻撃、2つの力を持つんだから万能だぜ。それに、他にも色々な支援魔法を使えるしな。

しかも、プレイヤーは使えないいくつかのスキルもある。『竜人変化』とかな。『竜変化』は同じような魔法『龍変化』があります。溶けたメタルなポヨヨンを倒すのに、便利な魔法だったんだ。ブレスで倒せたし。ポヨヨンとはスライムみたいなモンスターである。

神無、粟国、そして龍水が、この日本魔導帝国の貴族のトップにいる3公爵だ。

「やれやれ、他の奴らが陛下に挨拶している隙に探しに来たんだけど、なかなか面白い家族だ」

ニヤリと嗤う竜人のお婆ちゃん。なるほど、挨拶を抜け出してきたのか。ワイルドなお婆ちゃんである。闇夜も帰ってこれないのに、さすがは公爵家ということだろう。

「クックック。しかし、笑えるね。いや、あんたらはタイミングが良かったのかもね。あんたらを鷹野の爺が探して焦っていたよ。まさかこんな場所にいるとは思わなかった」

「助けて頂きありがとうございます、龍水公爵。しかし、私はこの間叙勲されたばかり。この場所が相応しいと考えています」

「なかなか頭が良い。王牙の入れ知恵かい? まぁ、ちょうど良かったよ。陛下も聖女のお披露目会にお嬢ちゃんがいたら、少しばかり困ったしね」

なんだ? なにか変なことがあったのか? 何やら謀略があったぽく、父親は苦笑いで応えていた。ふむ?

「お、俺を無視するんじゃねえっ!」

どういうことかと考えようとしていたら、宇宙人が怒気を纏い、よろけながらも立ち上がっていた。ナイス気合いだ。そして、空気を読んでいない。気絶したふりをしていれば良いものを。

「ハッ、気合いだけはたいしたもんだが………それだけだね」

『 竜心砕(ドラゴンマインドブレイク) 』

「くそっ………話がちげぇ………」

ギラリと目を輝かす龍水のお婆ちゃん。紅き光が瞳からビームのように放たれて、躱すこともできずに、身体に命中した宇宙人は、憎しみを込めた顔を俺たちに見せながらパタリと気絶した。

ゲームでは『気絶』させるスキルだ。小説でもたしか同じ能力だったはず。宇宙人は精神抵抗に失敗した模様。なんというか、テンプレイベントシーンだ。巴お婆ちゃんの強さを見せるための踏み台モブご苦労さま、宇宙人さん。

「こんな輩でも、伯爵家の嫡男だと思っていたが……信じられない馬鹿だったね」

「はい! 宇宙人だと思います。たぶん人間に変身しているんです!」

「えぇ〜! この人は宇宙人だったんだ。うわぁ、どこの星から来たんだろ? 電話しなくちゃ、電話、電話〜」

俺が背筋を伸ばして、挙手をすると、玉藻が驚いて口を手で覆う。素直な玉藻ちゃんと一緒に、麺員ブラックさんの電話番号を探さないとな。

「ぷわははは! たしかにこいつは人間じゃないかもね。とはいえ、こいつの言うことには少しだけ考えさせられるところがあるんじゃないかい?」

「………そうですね。私は少し甘かったかもしれません」

笑ったあとに、父親をジロリと睨むお婆ちゃん。父親は眉を顰めて、なにか困ったような、厳しい顔になる。母親も同じように心配げな顔になってしまう。むぅ、モブな勢力を早く作らないとまずいかもしれないな。

「どうだい? 困った人間を助けるのは高貴なる者の決まりってやつだ。ノーブルオブクロワッサンとかいうんだよ。悩みがあるなら、手伝えることがあるかもね? これでもあたしは公爵家だからね」

なんだか美味しそうな貴族の決まりだが、流れるように手助けをしようと、お婆ちゃんは告げる。だが、その発言は、駆けてきたお爺さんの言葉で遮られる。

「待ってもらおうか、龍水公爵。これは儂らの家族内の問題だ」

声をかけてきたのは、久しぶりに会う鷹野のお爺さんだ。多少汗をかいて、息を少し切らせている。

「おや、ようやくここがわかったのかい? 随分遅かったね。もう劇は終わったよ」

可笑しそうに顎を擦るお婆ちゃん。

「……どうやら馬鹿者がいたようだな」

憎々しげに、気絶している宇宙人たちを睨むと、片手をあげる。お爺さんの側仕えなのだろう執事たちが、すぐに駆け寄り宇宙人たちを担いで去っていった。

荷物のように運ばれていく宇宙人たちから視線を外すと、鷹野お爺さんは俺に向き直ると

「おぉ、美羽。大丈夫だったかい? 騒ぎを聞いて急いで来たんだよ」

と、一見好々爺の顔をして、俺に近づいてくるのであった。

いやいや、騒ぎを聞いてから駆けつけるには時間が短すぎる。探してただろ。

どうやら茶番が始まりそうだと、美羽は嘆息しちゃうのだった。