軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

346話 住所は誤魔化せるんだぞっと

キィと車が停車し、とうっと車から転び出る。コロリンと転がって、シュタッとポーズをとるみーちゃんです。

ちょっとお膝が痛いけど、かっこよく登場するには仕方ない。躓いたんじゃないよ、本当だよ。この車って、段差があるから嫌いかも。

「どなたかと思えば、鷹野侯爵ではありませんか」

シンと話していた武士がこちらに気づき声をかけてくる。よく見ると武士じゃないや、近衛兵だ。

というか見知った顔だ。

「後藤隊長、こんにちは。鷹野美羽さんじょーです!」

「私に謙らないでください、鷹野侯爵。困ってしまいます」

ポーズを決めて、アイスブルーの瞳をキラキラさせての登場に、真面目に答える後藤隊長。知ってるよ、参上は謙譲語なんでしょ。みーちゃん知ってるもん。

でも、ヒーローとかが使う「参上」は謙譲語でなくて、かっこよく登場する際のヒーロー語なんだよ。本当だよ。そうしないと、怪人や悪人にへりくだって登場することになるからね!

八百長の匂いがしちゃうじゃん。今日もやられ役お願いしますぜ、うへへとヒーローが裏で揉み手をしている可能性がうまれちゃうよ。

まぁ、登場シーンの考察はさておいて、どうやら後藤隊長は目出度く近衛隊長に復職できた模様。良かった良かった。

最初の任務がシンの任意同行かな? 元気そうで何より。新型の魔導鎧がかっこいいね!

「お疲れ様です、後藤隊長。今日は武士団のお手伝いですか?」

「はい。この件では近衛兵が先行して状況を把握したいと考えております」

実直な答えを返してくるが、遠回しに元皇后が犯人なので、近衛兵が捕縛したいとの考えが薄ら見える。まぁ、無理もない。皇族が犯人なのは大スキャンダルだしね。

「さっきまで後宮で『ニーズヘッグ』の残党と戦っていたのでは?」

「はい。あちらはかたがついたので、私はこちらに来ました」

なんというバイタリティ。みーちゃんは驚きだよ。よくあっちもこっちも来れるね。執念も感じられる。潜入捜査時、龍水公爵の『ニーズヘッグ』との繋がりをしめす証拠は見つけられなかったようだから気合も入ろうというものだね。

「そちらも神無男爵にお会いに?」

「うん! よくわからない状況だから、シン君からもお話を聞こうと思って来たんだ!」

ちっこい手をあげて、ふんすと鼻を鳴らす。どうしてこんなことになったのか、状況説明をしてほしくて来たんだよね。

チラリと周りを見る。一応貴族街と平民区画の境目にあるが、大通りから外れており、裏通りの細道を進んだ場所だ。通りにはゴミが転がり、家屋も古いものが多い。古いというかボロい。

人気もなく、狭い場所にひしめき合うように建っている建物の中に、二階建ての廃墟みたいなボロアパートがある。そこの前にシンたちは立っていた。

いかにも落ちぶれましたというわかりやすい感じ。シンも小綺麗にしてはいるが、少しよれた古着だし、母親の方はボロ布のような汚れたドレスらしきものを身に着けている。

ふ〜ん、へ〜。権勢を誇った神無公爵家の元家族だから哀れみを覚えちゃうね。

「これは皇女殿下、鷹野侯爵、帝城さん、油気さん、それに勝利君。よくいらっしゃいました」

落ちぶれましたと全身が表しているのに、貴族としての誇りは忘れていないと、綺麗な礼をして挨拶をしてくるシン。母親の方は俯いて、ぼそぼそと訳のわからないことを呟いている。

「これは丁寧な挨拶ありがとうございます、神無男爵」

聖奈がスカートの裾を摘んで、カーテシーをする。闇夜も玉藻もまるでパーティーでの挨拶のように、同じくカーテシーを見せる。

どことなく嫌味っぽい態度である。みーちゃんももちろんカーテシーをして挨拶をする。

「で、貴方たちも『空間の魔女』のことで?」

「はい。『空間の魔女』はお兄様に精神操作をかけていました。私にもです。これは許されないことであり、大罪となります。なぜそんなことをしたのか聞いてますか?」

ずいと前に出る聖奈。その瞳は険しい光を宿して敵意を隠す気はないみたい。

シンは後藤隊長へと顔を向けて、それからみーちゃんたちに向き直ると、口元を手で押さえて落ち込むように頷く。

「はい、皇女殿下。どうやら『空間の魔女』は私たちを騙していたようですね。鷹野侯爵が『ニーズヘッグ』と組んで、皇帝の座を狙うと話を持ちかけてきました。私は勝利君のサポートをしてその野望を防ぐようにと訓練を受けていたんです」

「えぇぇぇぇ! 僕のサポート? 僕がシンのサポートをするんだったろ!」

「もはや何も力を持たない僕が鷹野侯爵と戦える訳はないじゃないですか、勝利君。……なんでそんなことを……いや、僕はしがない男爵だからね……そういうことか」

意外な発言に飛び上がって驚いた勝利が、シンの胸ぐらを掴んで、怒鳴り始める。だが、意外なことを言うんだねと、シンは寂しそうな表情を浮かべて、諦めたかのように息を吐き俯く。

何ということでしょう。後藤隊長の視線が勝利へと向かったよ? 周りの近衛兵たちもフォーメーションがシンを包囲する形から、勝利を包囲する形へと変わる。

「まさか、こんなに早く来たのは僕の発言を封ずるため……」

「な、なにいっちゃつてりゅの、おにやめえ」

混乱でどもりまくる勝利。その姿は全てを諦めたかのように落ち着いた様子で語るシンと対照的だ。どう見ても悪さがバレた小物の悪党にしか見えない。

「粟国勝利殿、申し訳ありませんが、ご同行して頂いてよろしいでしょうか?」

摺り足でジリジリと勝利に近づく後藤隊長。

「ちが、僕ではないですよ! シン、てめぇ、僕に罪をかぶせるつもりだな! 見損なったぜ!」

「私の言うことなんか誰も聞かないよ、勝利君。安心してほしい」

「そんな発言すれば、ますます僕の立場が悪くなるだろ、黙れ、てめぇ!」

権力を笠に着て、弱い立場の者をトカゲの尻尾切りしようとする勝利。激昂したその姿と、シンのセリフにもはや後藤隊長たちは犯人を見る目となる。

面白そうな展開である。勝利を助ける義理はない。命は助けるけど、社会的立場を守るほど、聖人じゃないからね。

とはいえ、義理はないけど……。ここでシンを助けることになるのも嫌だと、口を挟もうとするが聖奈が勝利を庇うために前に出てくる。

「悪辣なセリフですね、シン! 勝利さんの無罪は既に皇城で判明しています。それに勝利さんはそのような狡猾で卑怯な策略はしません!」

「うぅ……ありがとうございます、聖奈さん」

感動して涙目になる勝利へと振り向いて、優しい笑みを返すと、シンへと責める目つきで聖奈は向き直る。

「勝利さんは少しの善行をして、いい顔をするのが好きなんです! 正義感がちょっぴりあって、弱者をとりあえず助ける心を持ち、少しえっちで、結婚したら私に資産の活用を任せてくれるつもりの優しい人なんです!」

「そうだ、そうだ! 聖奈さんの言うとおり! 僕は正義感があつく、弱きを助け強きをくじく男なんだぜ!」

聖奈の言葉に勢いを増して、勝利がシンへと叫ぶ。

調子に乗る勝利の姿を見て、いや、聖奈の言葉に心を打たれて、後藤隊長たちはシンを包囲する形に戻る。

勝利の聖奈フィルターはどうなっているのか、極めて興味がある。研究対象にしても良いかな? 新たなる精神操作の可能性を見せているよ。

「はぁ……。皇女殿下は私のこの姿を見て、その、何でしたっけ? 復権を求めることができるとでも思うのですか? 母もこのような状態です。母の世話もありますし、そんなことができるわけはないと、客観的にも思いませんか?」

たしかに第三者視点だと、悲惨な生活のシンを疑うのは難しいだろう。だからこそ任意同行にしたんだろうしね。

なにせ今のシンの服装は平民以下、精神を病んでいそうな母親の方は、こんなはずでは……と俯いて繰り返し呟くのみ。

「貴方はどれほど底辺の生活をしていようとも、その野心は消えないとわかっています!」

「随分私を買っていてくれるんですね。ありがたいお話ですが………買いかぶりすぎですよ」

「くっ! のらりくらりと………」

それでも追及を止めない聖奈だが、明らかに分が悪い。後藤隊長たちもシンの言葉に半分納得していそうだ。

その空気を感じ取り、歯噛みをする聖奈。シンが犯人だとわかっているのに、その証拠がないので、悔しいのだろう。

まぁ、ループしているので、間違いなくこの男が犯人ですとは答えられないよね。どんな名探偵だという話になっちゃう。

「ね〜、ね〜、そんなに暮らしは大変なの、シン君?」

「はい。そのとおりです鷹野侯爵。特に母親はこの暮らしに耐えられないようでして」

ボサボサの髪を前に垂らして、もはやホラー映画の化け物のようなシンの母親。可哀想にと、沈痛な顔になる後藤隊長たち。

「母親って、誰のことかな〜? ニッシッシ。もしかして、この人?」

狐っ娘モードとなった玉藻が悪戯そうに口元を笑みに変えて、もふもふな尻尾をふりふりシンの母親を指差す。

「そうですよ、油気さん」

「えぇ〜、だってまだ20代に見えるよ? なんでかなぁ?」

どうやら玉藻は気づいたらしい。さすがは玉藻ちゃん。その狐の耳と尻尾は伊達ではない。

「どういう意味ですか、玉藻ちゃん?」

「こういう意味だよ!」

闇夜が目を細めて尋ねると、ニシシと笑って扇を取り出す玉藻。

『木の葉幻影崩し!』

扇を扇ぐと、ハラハラと木の葉が生まれて、そよ風に乗って、シンの母親へと向かう。

「なっ! ちきしょー!」

木の葉が身体にくっつくと、その姿が蜃気楼のように歪むシンの母親。

若い女性の声で、罵り声をあげると、地を蹴り後ろへと飛ぶ。

「なにっ! 幻影か!」

「幻影なら、プロフェッショナルの玉藻にお任せ!」

パタンと扇を閉じて、ニコリと得意げに微笑む玉藻。

「シン君もどうやら本人じゃないみたいだね!」

みーちゃんはポケットから、ウェハースを取り出すとシンに投げつける。

「ちっ! だから無理があるって言ったのに!」

ウェハースを弾き飛ばすシンだが、姿は揺らぎ青年の姿と変わった。

「シンの話し方もそういや変だったな、こんちくしょう! お前たちはアンナルとエリだな!」

「シンとやらは逃げたぜ! 万が一があったら困るらしいからな!」

「しょうがないねぇ、団長の命令でもあるし、あんたらには死んでもらうよ!」

青年と女性は既に魔導鎧を着込んでおり、戦闘態勢となり嗤う。

予想外にもシンは既にスタコラ逃げたらしい。判断の早い原作主人公である。

「証人としてちょうどよいね!」

プレイヤーではなくなったみーちゃんの初戦闘相手としてもちょうどよい。

少し優しくなったみーちゃんの新戦闘スタイルを見せちゃうからね!