軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

326話 侯爵の叙爵式

急遽、信長は皇帝へと即位した。混乱を抑えるために、大武道大会から数えると、僅か二週間という短い期間であった。

無論、そのような急いで行なった即位式のために、各国の重鎮を招待することも叶わず、大使が出席するに留まった。

他にも準備期間が短いために、強引な手を使ってきた。

警備上、準備が間に合わないからと警察や武士団をほとんど使わずに、武装した近衛兵たちをまるで閲兵式のようにずらりと並ばせて、パレードを行なったのだ。

なおかつ、トドメとでも言うべきか、即位式は特別でその日から二日間、祝日となり皇帝の下賜した酒や料理で国民は祝いの宴会を楽しむのだが、信長皇帝は経費上の理由から、酒も料理も振る舞わなかった。

閲兵式のようなパレードと、一生に一度あるかという即位式の宴会がなくなったので、新皇帝は酷く評判が悪かった。

先々に暗雲の漂うスタートを信長皇帝は切ってしまったのだった。

対して、名声を博したのが鷹野家である。宴会の料理が振る舞われないと聞いて、自分を含む貴族たちで振る舞おうと皆へと灰色髪ちゃんが声をかけた。

お祭り大好き、騒ぐのサイコーと手紙が届いたので、貴族たちは全員がその提案にのり、酒や料理を振る舞った。

結果、以前の刀弥皇帝の時よりも、酒も料理も多く振る舞われて、国民は宴会を存分に楽しめたのだ。

そして、大武道大会での活躍や、貴族たちを動かして平民に気を配る鷹野伯爵は、評判が鰻登りとなる。

皆は鷹野家がトップとなったことを裏で実感し、皇帝の力は落ちていくだろうと噂をするのであった。

そして、現在に至る。

大武道大会の夏も終えて、過ごしやすい秋は通り過ぎて、11月末。明日からは師走の月に変わるそろそろ年末年始の過ごし方を世間話に乗せる時期。

灰色髪ちゃん、いや、鷹野美羽の侯爵叙爵式が目の前で始まっていた。

空中城は砕けて、海に落下。今や新たなる観光資源となり、魚たちの格好の巣となっているために、叙爵式は地上の城で行われる。

謁見の間にて、玉座に信長皇帝が座っており、威厳を見せようと険しい顔をしているが、若き顔には疲れが見て取れた。

神無公爵の反乱に加わった貴族たちの処罰や、政治的混乱を治めるために苦労をしているのだろう。

燃えるような赤毛の男の子、粟国勝利は皇帝は大変だなと、哀れみを含んだ視線を向けていた。

貴族たちの何人かは同様に哀れみの視線を向けている。だが、その数は僅かで他の貴族たちは呆れや不満、蔑視の視線だった。

自分たちのトップに対する態度ではない。この叙爵式は全ての貴族が出席しているのに、哀しいかな新皇帝は威厳を見せようとして、大失敗をしていたのである。

全ての貴族が出席している理由は、皇帝への忠誠心からではない。

鷹野美羽伯爵の叙爵式だからこそ、出席しているのだ。

「これより鷹野伯爵の叙爵式を始めます」

その証拠に、宰相が式を始めると口にすると、小声でお喋りをしていた貴族たちはぴたりと口を閉じる。

灰色髪ちゃんを尊敬し、畏れを持っているからこそのわかりやすい態度であった。謁見の間が静寂に満ち、厳かな雰囲気になる。

叙爵式に相応しい空気だが、新皇帝は僅かに苛立ちで顔を歪める。自分に対する態度とあからさまに違うのが気に食わないのだ。

以前は灰色髪ちゃんが侮られていたと、勝利は記憶している。僅か数年で信じられない変化であった。

「あわせて、鷹野伯爵が侯爵に叙爵するため、空位となる伯爵位を鷹野芳烈へと継承する式も行う」

貴族たちはそのことを知っていたが、ゴクリとつばを飲み込み、お互いの視線を合わせて驚きを示していた。

『マナ』が覚醒しなかったために、平民に落ちた男が、まさかの『マナ』覚醒をして、再び伯爵に返り咲くとは誰も思っていなかったからだ。想像だにしなかった。

もはや『マナ』に覚醒しないと冷遇する時代は過ぎたのだ。恐らくは密かに分家や平民として放逐していた子供たちを貴族たちは慌てて迎えに行くに違いない。

大扉が開くと、鷹野芳烈と灰色髪ちゃんが入ってくる。

堂々とした態度で、父親の芳烈にエスコートをされながら歩く灰色髪ちゃん。

「エスコートって、普通は相手の腕に手を添えるぐらいじゃなかったか?」

なぜか、芳烈の腕にコアラのようにしがみついて歩く灰色髪ちゃんに違和感を覚えて、思わず呟く。

「というか、成長期にしても背が伸びすぎ、スタイル良すぎだよな」

灰色髪ちゃんはしばらく見ない間に急成長していた。背丈はまるでシークレットブーツを履いたかのように170センチを超えて、胸はメロンパンを入れたかのようにふくよかだった。

ドレスは薄い青色で大人っぽく、夜空に星が瞬くように宝石を散りばめられており、首飾りやティアラはマナの光で神々しい。

そこには女神と呼ばれてもおかしくない大人の女性となった灰色髪ちゃんがいた。

……うん、そう思いたい。

いや、本当はわかっている。わかっていないふりをしていると、勝利は信じられない思いで灰色髪ちゃんを凝視してしまう。

だって、皇帝からの叙爵式だぜ? それなのに、あんなスタイルで来るか、普通?

「アイタッ」

あ、転んだ。ヨロヨロとよろけながら、なんとか指定の位置に辿り着き、安心して油断したのか、転んだ。

仰向けにペチリと倒れて、物凄い痛そうだ。起き上がれないようで、足をパタパタさせて、踵が槍のように長いハイヒールを脱ぎ捨ててしまった。

皆は先程とは違う静寂さを醸し出して、その様子を眺めていた。無理もない、どんなリアクションを取ればよいかわからない。

「大丈夫かな、鷹野伯爵?」

なぜか芳烈が助けないので、苦笑をしながら新皇帝が言葉をかける。心配よりも呆れが大きそうだ。

「はい、だいじょーぶです! ゴールデンメロンパンはビニール袋に入れておきました!」

胸から2つの金色をしたメロンパンを取り出して、ペカリと笑顔で元気よく答える灰色髪ちゃん。恐れを知らぬとはこのことかと、他人事ながら肝が冷えて、ハラハラしてしまう。

「このゴールデンメロンパンは月に3個しか作られない貴重品なんです。定価は500万円しますが、予約でいっぱいなんですよ!」

ふんすふんすと得意げな顔で説明すると、サッと近寄ってきた侍女に手渡す。

「それは宣伝なのかな、鷹野伯爵?」

呆れを含んで、僅かに優位を示す見下した視線へと新皇帝は変える。先程の苛立ちはどこへやら、アホそうな灰色髪ちゃんを与し易そうとでも考えたのだろう。

僕でもそう思う。演技をしている様子はなく、心底楽しんでいる様子だからだ。

パンパンとドレスの汚れをはたき落とし、サッと侍女が落ちそうなティアラを受け止めて去っていく。大粒の宝石ばかりついていたので、かなりの重さだったに違いない。

「こーてへーか、やはりあんまりにも自分には似合わない物はつけるべきではありませんね。転んじゃいました。とっても重かったです」

次に重そうな大粒のダイヤモンドを連ねたネックレスをサッと侍女が近づいてきて、首から外すと持ち去る。

「随分重そうな様子だったからな。次は気をつけることだね」

クックと笑い出す新皇帝。毒気が抜かれたような笑みを浮かべる。だが、隣に立つ宰相は蒼白の顔になっていた。なんでだ? あんなに無邪気でアホそうな娘の言葉に変なところがあったか?

「こりゃ酷いな。性格が悪いぜ、芳烈よ」

クックとおかしそうに隣の親父が静かに笑ったので、ギョッと驚いてしまう。周りを見渡すと、苦々しい顔をする者や、青ざめる者、含み笑いをする者など、結構な貴族が反応していた。

意味がわからない。なにか深い意味があったのだろうか。

「親父……」

尋ねようとすると、人差し指で口元を押さえる親父。そういう姿はごつい強面には全然似合わないぞ。

「黙ってろ。すぐわかる」

小声で返されガツンと殴られた。考えていたことが表情に出ていたらしい。いてて、失敗した。

思いっきり殴りやがってと、頭を擦りながら灰色髪ちゃんへと視線を戻す。今のやり取りに意味があったとはとてもではないが思えなかったからだ。

新皇帝も同様で、気の抜けた表情となっており、宰相が視線で訴えていることに気づいていない。

「これからは転ばないよーに、気をつけたいと思います、へーか。改めまして、偉大なる皇帝へーかにご挨拶申し上げます」

「同じく、鷹野芳烈、偉大なる皇帝陛下へとご挨拶申し上げます」

ようやく挨拶が終わると、新皇帝は目を鋭く変えて、緊張感を見せながら頷く。

「うむ。よくぞ来てくれた鷹野伯爵、そして芳烈よ」

あとはお決まりの長い話が始まる。今までの功績が大きいとか、これからも期待をするとか、忠誠を見せてほしいとか、なんかマウントを取ろうとするセリフもちらほら混じっていた。

あくびを必死になって耐えていると、ようやく話は終わったようで、新皇帝は本題に入る。

「でだ、鷹野美羽伯爵は、伯爵を父に継承。新たに侯爵の地位を叙爵する。異論はないな?」

「はい、へーか。謹んでお受けします」

素直にコクリと灰色髪ちゃんは頷く。

「うむ。鷹野芳烈。そなたを鷹野伯爵とする。異論はないな?」

「はい、皇帝陛下。謹んでお受けします」

涼しい顔で芳烈も頷いて、その後は誓いの言葉を口にする二人。意外なことにしっかりと覚えていたようで、結構長いのにとちらなかった。

なんだか、ハラハラしてしまっていたので、胸を撫でおろして安心してしまう。

そうして、いよいよ本命の本題に入る。

「これまでの功績に報いるため、そして大武道大会での人々を救った活躍、併せて『ニーズヘッグ』に石化された近衛兵の回復をしたことも含めて」

僅かに間を取ると、新皇帝は皆が注目する中で口にした。

「没収した神無公爵以下、貴族たちの資産の3割を褒美として渡そうと思う。異論はないな?」

遂に来た。シンの言ったとおりだ。この報酬により追随を許さぬ資産を持ち、皇帝すらも敵わない勢力を鷹野家は持ってしまう。

原作と変わってしまった内容に恐れを以て、灰色髪ちゃんを眺める。

有難き幸せと頷くかと思いきや

「申し訳ありません、へーか。それらの報酬は受け取ることはできません」

意外なことに、拒否の言葉を告げてきた。

周りの貴族たちがどよめく中で、灰色髪ちゃんは言葉を続ける。

「先程も伝えたとおり。似つかわしくない物を持つと高転びをしてしまうので、私は受け取ることはできないです」

いつの間にか、冷え冷えとした視線で、先程までは欠片もなかった強烈な威圧感を以て灰色髪ちゃんは、新皇帝へと告げたのであった。