軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

312話 空中城ゲート前防衛戦

夜空に星が輝き、街のネオンの光も減った丑三つ時。

皇城は藪をつついたかのように、大騒ぎであった。

皇帝の威信の象徴である空中城は地上の転移ゲートからしか入る方法はない。現代では再現不可能な結界に守られており、空中からはもちろんのこと、転移魔法系統でも侵入は不可能となっている。

だからこそ守りやすく、皇帝最後の砦として使われるのが空中城であった。

かつてはだが。

今の時代では時代遅れの代物で、皇帝の威光を示すためのものでしかない。一応いくつかの国宝級の宝を宝物庫に置いてはあるものの、警備は万全というわけではなかった。

たんなる飾りだと知られており、ゲートだけガッチリと守っておけば良いだろうと、警備に手を抜いていたのである。

それが今は裏目に出ていた。

「全員抜刀! 侵入者を迎撃せよ!」

ゲートのある皇城奥の裏庭。石舞台に六本の水晶柱が聳え立ち、床に彫られた魔法陣が煌々と青く光る中で、近衛兵たちが慌ただしく陣形を組んで、突入しようとしていた。

近衛兵たちが抜刀し、マナをオーラとして体に纏わせる。一人一人が一騎当千の精鋭部隊は、厳しい表情で眼前に立ちはだかる敵へと厳しい視線を向けていた。

「おのれ、侵入者めっ!」

「聖地たる空中城に侵入するとは!」

「我ら近衛兵の力を見せてやる!」

意気軒昂で、近衛兵たちが叫ぶ中で、ゲート前に立つ者たちが嗤う。

「ククク、我ら『ニーズヘッグ』はまだまだ力を残している。その証拠を見せてやるとしよう」

魔法陣前に立つのは、黒ローブを着込み、デスマスクを被った魔法使いたちと、異形の魔物たちだ。それぞれが強力なマナを宿しているのを近衛兵たちは確認し、緊張状態で睨みつけてくる。

体型がわからないように、ブカブカの黒ローブとデスマスク。下には魔導鎧を着込んでいるのが、ちらりと見えるが、その正体は不明だ。

恐らくは捕まえない限り、その正体はわからず、道ですれ違っても気づくことはないだろう。身バレを防ぐために万全の用意をしてきたと思われる。

「チチチチ」

最前列に立つ者が、手を振り上げて威嚇する。やはりデスマスクを顔につけており、黒ローブで身体を覆っているために、その正体はわからない。

ちょっと腕が何本もあったり、触角が生えていたり、身体が5メートルほどあっても、きっとその正体はわからないはずだ。

「まずは化け物アリを倒すぞ!」

「おおっ!」

近衛隊長の言葉に、近衛兵たちが叫ぶと、数人が突進してくる。

『疾風衝槌』

己を弾丸のように魔法障壁で固めて、敵を吹き飛ばす陣形崩しを目的とした武技だ。

「チチチチ」

だが、その一撃は素早く構えたアリさんの盾に吸い込まれるようにぶつかり、城壁にでも体当たりしたかのように効果を出せなかった。

「なにっ! ビクともしないだと!」

驚く近衛兵たちを、槍を横薙ぎに振り、吹き飛ばすアリさん。吹き飛された近衛兵たちは苦痛の表情を浮かべるが、なんとか倒れることを回避した。

「くーらーえー」

アリさんの後ろにいた一人が間延びした口調で、弓を構えると素早く弦を引き絞る。そして体勢を立て直そうとする近衛兵たちを狙い撃つ。

『爆裂風矢』

矢を放ったと周りが認識した瞬間には、近衛兵たちに矢は突き刺さり爆発した。爆発箇所から緑色で形成された小さなカミソリのような風の刃が巻き起こり、近衛兵たちの魔導鎧を傷つけていく。

しかし、装甲が傷ついた程度で、身体には傷はなくたいした威力ではないと近衛兵たちは思ったが、すぐに顔色を変えて、悲鳴をあげる。

「ま、魔法障壁が消えてしまった!」

「いかん、対魔法障壁用の魔法だ!」

「魔法障壁用の魔石が力を失ったぞ!」

慌てる近衛兵たち。着込んでいる魔導鎧の魔法障壁が明滅し、消えていってしまうのを見て、細かい攻撃魔法で魔法障壁のマナを空にする効果だと慌てふためく。

「今がチャンスです、はい。やっちゃってください」

「コケッコー」

男が命令すると、アリさんの足元を抜けて、60センチ程度の大きさの鶏が翼をバタバタとはためかせ蛇の尻尾をブンブン振り、近衛兵たちの前に現れる。

『石化ブレス』

「ギャー」

「か、身体が……」

「助けてく」

ちょっと変わった鶏が吐いたブレスは、砂煙のようにもうもうと吹き出し、近衛兵たちを飲みこんでいく。

魔法障壁を持たない近衛兵はもちろんのこと、他の近衛兵たちも数人が魔法障壁を突破されて、石化してしまう。

「くっ! 新型鉄蜘蛛にて砲撃せよ!」

「任せろっ。配備されたばかりの鉄蜘蛛改め、アラクネーを操作する私ならば、こんな魔物の一匹や二匹!」

石の彫像となった部下を見て、後ろに下がり風魔法で防ぎつつ、近衛隊長は後方に待機していた戦車へと指示を出す。

銀色のメタリックの輝きを見せる新型多脚戦車アラクネーが、重々しい音を立てて姿を現して、魔導砲をアリさんに向ける。

「まずはそこの化け物を倒すとしよう。フハハハ、たまたま新型を見に来ていた英雄佐久間が相手だっ。『アラクネ砲スタンバイッ!』」

六角形の棒をヘキサゴンの形に組み合わせた戦車砲『アラクネ』。その威力は一撃でアイアンゴーレムを倒したお墨付きの威力だ。

「マナエネルギー120%。発射〜っ!」

砲口に光球が生み出されて、バチバチと放電を始める。マナを集めすぎたために、砲口が溶け始めるのを見て、戦車長が得意げに声をあげる。

だが、アラクネーはガクリと体を傾けると、明後日の方向に砲塔を向けて発射してしまう。

極太の光条が空間を焼き、芝生を燃やし、ガラス状に変えて、土を抉り溝を作ると、ゲート前に作られていた初代皇帝の像へと命中。超高熱であっという間に溶かして、僅かな欠片も残さない。

「ギャー! 初代皇帝陛下の像が〜っ!」

戦車長が悲鳴をあげて、アラクネーは立ち上がろうとするが、再びよろめくと、地面に伏せてしまうのであった。

そして、ポキンポキンとアラクネーの鉄の脚が全て綺麗な断面を見せて分断した。

「いやはや、申し訳ありませんね、はい」

『斬鉄残光』

空中にきらりと僅かに糸を煌めかせて、糸使いが呟く。

「コケーッ」

『石化ブレス』

またもや鶏がブレスを吐く。

「ギャー! 機体に傷が……」

そしていつの間にか切られていた装甲の隙間に入り込み、中の戦車兵たちを石化させる。

「まずいっ! そこのうろちょろしているコカトリスから倒すのだ! ゴハッ」

近衛隊長が足元をコケーッと走り回る鶏を倒すように言うが、セリフの途中で横殴りされて、地面に叩きつけられた。

瞬時に黒ローブの一人が間合いを詰めて、手に持つ斧の石突きで殴ったのだ。

そのまま新たな鶏が何羽も現れて、倒れた近衛隊長をつつく。すぐに近衛隊長の身体は石化していき、彫像の仲間入りを果たすのであった。

「こいつ、いつの間に!」

「隊長は私が引き継ぐ、アイテッ」

「こ、こらつつくな!」

陣形を組み直そうとする近衛兵たちだが、20羽近い鶏が草むらから飛び出して、不意打ちを仕掛ける。

「コケーッ、コケッコー!」

矢のように速い動きで鶏が駆け回り、素早く近衛兵たちをつついていく。ちょっと変わった鶏につつかれた近衛兵たちは次々に石へと変わっていった。

鶏をうまく引き離して体勢を立て直そうとする者は、容赦なく斧を持った者がぶん殴る。

魔法で対抗するべく力を溜めると、矢が飛んできて、後ろに回ろうとする近衛兵は見えない糸で雁字搦めにされていく。

そうして、近衛兵たちは鶏に群がられてしまう。

結局、200人はいた近衛兵たちは、10分保たずに全員が石化して、彫像として立ち並ぶのであった。

「ふむ……なんと脆弱な。この脆さで近衛兵とは恐れ入る」

「いやはや、はい。私たちがそれだけ強くなったのかと」

「いや、それにしてもこの弱さはない。訓練ばかりで、実戦に出ていないから、このようなやられかたをするのだ」

「あなたは手厳しいですね、はい」

「というか、あの方は鶏増やしすぎ」

斧を腰に戻して、呆れた口調で男が肩をすくめる。糸使いの男が形だけの弁護をするが、聞き入れることはない様子だった。弓使いは鶏の頭を撫でていた。

『エウノー隊長。もう帰って寝ていい? ……夜だから眠い』

『駄目だ。閣下からの帰還命令が来るまでここで待機だ、シーナ』

『アリさんとコカトリスの群れがいれば、守りきれそうではありますけどね、はい』

『ヤシブもこう言ってる』

『駄目だ』

思念通信にて話し合う黒ローブの者たち。九英霊のうちの三人。隊長のエウノーと、糸使いのヤシブと弓使いのシーナである。

万が一今回顔バレしても大丈夫のように、三人がゲート防衛に選ばれたのだった。

他の面子は、アリさんとフレイヤが仲間にしているコカトリスの群れ、それと人数合わせに人間そっくりのエウノーが作り上げた土人形たち。

皆が『ニーズヘッグ』のフリをしていた。悪い組織なのだから、罪の1つや2つ増えても問題はなかろうの精神である。

全滅した近衛兵たちを見て、頬をかきながら、タハハとヤシブが笑う。

『石化を治すには回復魔法が必要ですね、はい』

『空中城が墜落し、近衛兵を癒やすために金を出さねばならぬか……。しばらく皇帝は大変だろうな』

今後のことを考えると、皇帝は頭が痛いだろうと、エウノーは苦笑する。恐らくは近衛兵たちは殺されていた方が、皇帝にとっては良かっただろう。

これだけの人数だ。聖女一人では癒やしきれないのは目に見えている。

「どうやらおかわりが来たようですよ」

「うむ。ここを防衛するのが我らの使命。相手には気の毒ではあるがな」

ヤシブが言うとおり、通路の奥から無数の人の気配がしてくる。マナの大きさから、苦戦はするまい。

「……なんで皇帝は来ないのかな? 来れば、まだ状況はましになるのに。よっと、ほっと」

シーナが疑問を口にしながら、通路奥へと矢をマシンガンのような速さで撃ちまくる。そのたびに悲鳴が響き渡り、その後にコケッコーとの勝鬨が響いてきた。

「恐らく楽観視しているのだ。たいした戦力ではないと考えているに違いない。家門同士の決闘の場にいたいためもあるだろう。口を出せるチャンスは決闘後、その場にいて、すぐにしかないからな」

「皇帝は選択肢を誤った……」

「そうだな。閣下は今や……むっ?」

ズズン

エウノーがシーナへと答えようとした時であった。空中城の壁が大爆発を起こす。

壁の破片が地上に落ちてきて、爆発音が連続で響いてくる。

「どうやら、空中城でも想定外のことが起きたようだぞ」

明らかなる大規模な戦闘の爆発を見て、エウノーたちは心配げに空を見上げる。

ワオーン

空中城からは、身体を震撼させる恐ろしき狼の咆哮が聞こえてくるのであった。