軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31話 ユグドラシル

海上に浮かぶ島が一つある。東京都にある八丈島、その列島のそばに50年前に築かれた島だ。

築かれたというのは正しい表現である。それまではただの岩礁であったのを、埋め立てて島に変えたからだ。人工島として作られた島であるが、月日の経過により、島は森林に覆われて、自然豊かな環境となっていた。

しかし、計画立てて建設された人工島であるために、港はしっかりとした物が作られており、港から続く建物も整然としており、当初からきっちりとした計画の上に建設されたことを示していた。

碁盤状に配置された建物群は、昔の首都である京の都のようであり、景観を大事にしているために、家屋とビルがまるで鏡合わせのように作られている。

不思議な景観である。まったく同じ建物を鏡合わせのように建てるなど、酔狂がすぎるというものだ。普通ならば、自由に建物は建てられる。

景観を大事にするために、一定以上の高さの建物は建てないことや、色彩に気をつけることなど、決まりは作っても、同じ建物を建てろとの指示を聞く者はいないだろう。

だが、この島内では、その指示が働いていた。皆は素直に同じ建物を建設していた。

鏡合わせの世界を作るかのように、島内は作られていた。

それは、この人工島が『ユグドラシル』のものであるからだ。『ユグドラシル』の敬虔なる信者が教祖を崇めるために住んでいるからである。

宗教団体『ユグドラシル』。設立されてから60年しか経っていないにもかかわらず、人工島一つを手に入れることができたのは、ひとえに聖女が教祖として存在しているからだ。

莫大な財力、建築を許される権力、そして、計画を可能とする程の魔力により、人工島は作られていた。

島の中心まで続く町並み。その中心には巨大な建物が鎮座していた。古来の京の都、その都の主が住まう宮殿のように、宮造りの木造建ての建物があった。

重量を無視したかのように、細い柱により支えられて、複雑に平屋が階層を重ねており、まるで空中庭園のように、浮いているようにも見え、また、その複雑な通路が行き交う姿から大迷宮にも見える建築物。魔法建築により、本来の物理強度を遥かに超えた強度により建てられた宮殿である。

『ユグドラシル』の教祖の住まう宮殿。その名も『ユグドラシル宮殿』という名前の宮殿だ。

壮麗にして、華美なる宮殿。信者の中でも、敬虔なる者たちが、教祖をお世話するために住んでいる。皆、その表情は穏やかで、お喋りをすることなく、生活している。

平和にして平穏なる場所。『ユグドラシル宮殿』の最奥、教祖がおわす場所、磨き抜かれた木床にでっぷりと太った老年の男が座っていた。上等なスーツを着て、襟には貴族院の議員バッジを誇らしげにつけており、その皺だらけの顔は、重ねた権力争いにより醜悪なものとなっている。

上座と言える奥の間には、御簾が立てかけられて、御簾越しに、人影が薄っすらと見える。厳かなる女性の声が御簾越しに聞こえてくる。

「ユグドラシルの生命の葉よ、この男の体を永遠なる生命の欠片にて癒やし給え」

『 生命葉(ライフリーフ) 』

座る男の身体が仄かに光ると、その顔の様子が変わっていく。皺だらけでぽつぽつとシミのある顔、その顔がすっきりと変わり、皺が減りシミが消えていった。

そうして光がおさまると、男は自分の身体をペタペタと触る。肩を回して、腰をひねり、ニヤリと笑う。

「おぉ、教祖様! 身体の調子が良くなりましたぞ! 身体の疲れからくる痺れもなくなり、痛む腰も治っています。常に感じていた胃もたれもなくなってすっきりしております!」

感激よりも、ニヤニヤとした嗤いが、当然だという優越者の気持ちを表している。

「それはようございました。議員、貴方の体調が戻って、これからも政治家としてご活躍をお祈りしてます。それと、今回貴方様の体調を癒やしたお布施は……」

「はっはっはっ! お任せください。『ユグドラシル』への検察の追及がこれ以上行われないように、知り合いにお願いしておきます」

「それは重畳。お願いいたします」

「お任せを! 帰ったら早速分厚いステーキでも食べながら話し合いをもつとしましょう。なにせ、今ならいくらでも食べられそうだ!」

せっかく治った身体を早くも酷使すると宣言し、議員はぽんと突き出した太っている腹をぽんと叩く。

「程々になされよ。その身体は治ったばかり。また身体を壊すこともありますれば」

「わかりました、教祖様。その時はまたよろしくお願いいたします」

議員はわっはっはと高笑いをして頷くが、絶対に守らないであろうことは簡単に予想できたため、それ以上は教祖も口にしなかった。無駄なことだと知っているからだ。

それではと、頭を下げて、議員は立ち上がると、意気揚々と部屋を出ていった。帰宅したら、すぐに酒に女に豪華な食事をするのだろう。そのたるんだ顔はニヤニヤと醜悪な笑いをしたままであった。

反対側の通路から5人の信者が現れて、議員の横を通り過ぎる。ちらりと一人が議員を横目で見ると、小馬鹿にしたように、フッと笑う。

議員は待たせていた秘書を連れて、待たせているヘリコプターまで向かうのだろう。

奥の間に5人は入っていき、御簾の前にそれぞれ座る。綺麗に正座をする者や、胡座をかくもの、それぞれだ。まるで教祖を敬っているようには見えない者もいる。共通なのは白いローブを着込み、フードを深くかぶっており、その顔が隠されていることだけだ。

「教祖様、ご機嫌麗しゅう」

5人の中で、背筋をピシリと伸ばし、綺麗に正座をしている者が頭を下げて挨拶をする。その態度から、教祖を敬っているのは確かだ。

「教祖様、あの議員の秘書が持っているトランクケースを受付に渡してましたよ」

「10億は入っていますな、あの大きさなれば」

「たった一回の魔法にしては儲かりました」

「分け前は平等ですかな?」

他の者たちは、それぞれ軽い態度から、仲間のような対等な口調もいる。金が欲しいのか、ニヤニヤと口元を歪めている者たちもいた。

とてもではないが、人々を救けることを教義としている敬虔なる信者には見えない。それぞれ、自分のことしか考えていないように見えた。

「ふ、我が5人の使徒たちよ、相変わらず健勝で何よりだ」

しかし、御簾の奥にいる教祖は気にする様子も見せない。

「今回の報酬は12億。6億は我に。後は平等に6等分といこうではないか」

「どこらへんが平等なんだよ。あんた、コミックバンドのリーダーか」

ケッと舌打ちする一人の男に、教祖はケラケラとからかうように笑う。

「教団を養うにはいくら金があっても足りないのだ。当初からの契約であろう」

「俺たちも養う部下がいるんっすけど〜」

体を揺らして不満を表す者もいる。

「ふっ。我は数万人、貴様らは数十人。もっと我が貰っても良いと思うが」

「当初の契約どおりです。私は気にしませんよ」

「……ちっ。そのとおりだな。契約は守らねぇと」

ようやく話は終わり、僅かに静かになった。この光景を敬虔なる信者が見たら、あまりの教祖への態度に激昂してもおかしくない。

だが、彼らにはいつものことだった。

「金で雇われた最高幹部か。敬虔なる信者には見せられぬな」

「力ある魔法使いが都合よくあんたの信者になるとは思えねぇからな」

「我らは、基本金があり、力もある。わざわざ胡散臭い宗教になど入らぬ」

「ならばこそ、そなたたちに今まで以上の金と権力を与えよう」

クックと教祖は笑うと、話を続ける。そう、彼ら最高幹部は教祖に雇われていた。忠誠心もなく敬虔なる信者でもない。その2つを兼ね備えた力ある魔法使いが、新興宗教である『ユグドラシル』に来る理由がなかったのだ。

この5人は破綻者だ。魔法の力は持つが、金の稼ぎ方を知らない、頭が良くなく、権力者に上手くこき使われる、または犯罪者と、それぞれ問題がある者たちであった。

大金を渡し、権力者との繋ぎを用意して、最高幹部として、教祖はこの5人を雇っていた。

「でだ、今回集めたのは他でもない。『土塊の額冠』をフルングニルが手に入れた」

教祖の言葉に一人の大柄な体躯の男が胸を張り、他の者たちは感心の目を向ける。フルングニルと呼ばれた男は口元を笑みに変えて口を開く。

「あぁ、そのとおりだ。あのしょぼいエセエリクシールと交換してきた。………交換を拒んだ時には、皆殺しにして奪おうと思ってたんだがな。油気家は良い腕の魔法使いたちを揃えていやがったから、戦い甲斐があると思ってたのに、つまらねぇ結果になっちまったぜ」

懐から無造作に、錆びた額冠を取り出すと床に放り投げる。教祖の側仕えが慌てたように、額冠を拾い上げると、恭しく教祖へ持っていく。

「それで良い。お前は雑だからな。きっと大雑把に殺しまくって、目的の物を手に入れられなかった可能性は大きい」

「魔道具使いをバカにすると、痛い目にあうからねぇ」

「ぬかせ。で、それは本物か? どうも上手く行き過ぎてな。なにか嵌められた感じもするんだ」

懸念の声をあげるフルングニルの言葉に、額冠を手渡された教祖は頷き、マナを送り込む。錆びた額冠は、光り輝くと錆びた部分が溶けるように消えていく。部屋は照らされて、神秘的な力を放っていた。しかしながら光は次第におさまり、元の錆びた額冠に戻ってしまった。

「ふむ………。どうやらマナが足りぬようだ。暫く放置されていたようだし、これは日常的にマナを注ぎ込まないとならんだろう」

教祖は舌打ちすると、土塊の額冠を側仕えに渡す。側仕えは頷き、額冠を受け取るとフルングニルの前に持っていき、手渡す。

「あん? どういうこった?」

「汚れて詰まっている水道管のようなものだ。何度も水を流して、汚れを掃除して綺麗にせねばならぬ」

「かーっ、わかりやすい説明ありがとうよ。ってことは、俺がマナを流し続けろと?」

「本物なのは間違いないが、マナの通しに違和感がある。それしかないだろう」

教祖の影が肩をすくめて、フルングニルは嫌そうな顔になる。

「面倒くせえっ! 誰か他の奴に任せろよ」

「魔神を復活させるまでは、お前に使わせるつもりの神器だ。強大な力を宿しているが、それが嫌なら他の者に任せよう」

「チッ……。仕方ねぇ。これからも荒事はあるだろうからな。暇な時に注ぐことにする」

教祖の言葉に舌打ちしながらも、フルングニルは懐に額冠を仕舞う。神器は己のマナだけを流し込まなければ、完全に能力を引き出せない。仕方ないとフルングニルは受け取ることにしたのだ。

その様子を満足そうに見て取ると、教祖は話を続ける。

「異本によると、残る神器は4つ。各々が精進し、全ての神器を集めるのだ」

「はっ。魔神復活のため、我ら一同力を尽くします」

深く頭を下げると幹部たちは頷くのであった。

「魔神が復活……。他国への抑止力となるでしょう」

「揃った神器はいくらで売れるんですかね」

「強力な神器は解析する」

「とりあえず、神器を手に入れた報酬金をくれ」

「世界を再構築すれば、幸せな世界が待っている……」

皆は心を一つにまとめて、世界を破壊する魔神を復活させるため、教祖へと尽力を誓うのであった。

向いている考えは一つではないが。魔神を復活させるために行動すると決めているのだ。

小説では、このような話し合いのほとんどは描写されていない。見栄えの良い話し合いをシーンとして描くために、まるでこの5人は敬虔なる狂信者として表現されていた。