軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

275話 衰退する教団

「あぁ〜、あったまくるな! あぁん?」

ボサボサの金髪、粗暴な厳つい顔をした大柄な男が、苛立ちを隠さずに酒を呷っていた。フルングニルである。

贅を凝らした内装の部屋。毛足の長い年月のいった絨毯、沈むほどに柔らかいソファに、金と銀で精緻な飾りがついているテーブル、オークションに出せば億はくだらないだろう絵画や調度品が飾られている部屋だ。

部屋の壁際にはフルングニルのお付きの女性が3人待機しており、不機嫌極まる様子の主を見て、顔を青褪めさせていた。

正直、豪華な部屋の主であるには不似合いな男、『ニーズヘッグ』に残る幹部の内の一人フルングニルは空にしたワイングラスに手に持つワイン瓶を傾ける。

だが中身は流れることはなく、苛立ちを深めるだけに終わってしまう。

「くそっ、おかわりを持ってこい!」

壁際に立つ信者へと、チンピラのように怒鳴りつけ、空瓶を投げつける。

壁にワイン瓶は当たり、壁紙を真っ赤に汚してガラス破片が床に落ちていった。

フルングニルの不機嫌な様子を見て、信者たちは顔を見合わせて困り顔となる。

すぐに誰かが飛び出すと予想していたフルングニルは眉をひそめて、怒りよりも疑問が表に出る。

いつもなら、言われなくても俺様の様子から察して、ワインの一本や二本を用意しておいてもおかしくないからだ。

「さっさと持ってこいと伝えたはずだが? どうしたんだ?」

「そ、それが……ありません」

「? なにがだ?」

「そ、それがワインというか酒類はありません」

「ない? なにを言っていやがる? 倉庫が空なのか?」

蒼白の顔をする側仕えがコクコクとまるで首が取れるかのような速さで頷く。

その言葉にピンと来た。フルングニルが不機嫌な理由と繋がっていると気づいたのだ。

「まさか日常品すら、乏しくなっているのかよ。ワインすらも届かなくなっているんだな」

「はい、そのとおりですフルングニル様。最近は寄港するフェリー便が少なくなっておりましたが、今やほぼ寄港するフェリー便は無くなりました。それに伴いワインなどの贅沢品も枯渇し始めたのです」

「そうかよ。追い詰められてんな、こりゃ」

ソファに座ると、深く嘆息してテーブルに置かれているタブレットに視線を移す。

そこには先程までフルングニルが眺めていたニュースが載っていた。

『宗教団体ユグドラシル、その正体はテロ組織ニーズヘッグか?』

『親族を攫われたと語る被害者。訴えても警察は動かず!』

『幹部は国際指名手配犯? 人々を非道な実験に?』

『玩具のドクロオブジェで遊ぶ女の子。カタカタと新しい音楽を奏でる』

最後がよく分からないが、他は『ニーズヘッグ』を、いや『ユグドラシル』を責める内容のニュースばかりだ。

いつもならこの程度のニュースなどスカジは揉み消せるはずなのに、今回は大量の追及があり揉み消すことができていなかった。

その中でもフルングニルの名前がチラホラと出ている。写真は出ていないのが救いだが、かなり『ユグドラシル』と『ニーズヘッグ』の関係性を追及する内容もあるのだ。

それに加えて、フェリー便が少なくなっていることが加わると、誰かの攻撃であると馬鹿でも想像できる。

何者かが『ニーズヘッグ』を追い詰めようとしている。フェリー便が徐々に減っていった時に気づくべきだった。

そして、その何者かが誰かも予想できる。

「鷹野家が攻撃してきているよな? 鷲津家が潰れて、フェリー便を使うのは鷹野家のみ。なんだってあいつらは『ユグドラシル』が『ニーズヘッグ』だと気づいた?」

鷹野家を乗っ取る手伝いや、鷹野美羽を殺すべく暗躍していたのだから、恨まれるのはわかる。だが、『ユグドラシル』を攻撃してくるのは予想外だ。

しかもフェリー便をジワジワと減らすという補給から叩いてくる搦手からのセコい攻撃。

殺しにくるなら叩き潰せば良いが、こんな方法をとってくるとは想像もしていなかった。

「わ、わかりません。『ニーズヘッグ』だと知られる訳がないのですが。『ニーズヘッグ』と知っているのは我ら上級信徒のみのはず」

「……奴らは運搬業を司っていやがるからな、どこからか情報を掴んだか」

「物資は限界です。漁に出てもとてもではないですが、信徒全員の腹を満たす程の食料は集められません。教主様のお力を求めにくる哀れなる仔羊も最近は訪れておりませんし」

「鷹野家が絡んでいりゃ当たり前だ。あっちの小娘は信じられないが、一日に何人もの人間を癒せる規格外の回復魔法使いらしいからな」

スカジに大金を寄付して、様々な事に便宜を図る必要はないわけだ。

鷹野家は鎌倉を持ち、東京の攻略も順調、様々な魔道具作りやドルイドたちが製作するポーションと、他にも多くの金になる事業を手にしている今や飛ぶ鳥を落とす勢いの家門。

媚を売るにも縁作りをするにも、鷹野家に依頼した方が良い。俺だって同じ立場なら、鷹野家に媚を売る。

怪しげな教団に尻尾を振って、弱みを作る必要などどこにもない。

「教主様よりも上の回復魔法使いなどいるわけがありません! 恐らくはプロパガンダではないでしょうか?」

上級信徒はスカジを信じているために、目を険しくさせて抗議してくる。先程まで俺様を恐れていたのに、教主が絡むと盲目になるらしい。

否定も肯定も面倒くさいのですることなく、手を適当に振る。

「まだなにか酒類は残ってねぇのか?」

「は、はい。発泡酒ならまだ少しだけ残っています」

「持ってこいや。何か酒のつまみもな」

マナを目に集めてジロリと睨むと、威圧されて正気に戻ったのか勢いを無くして、おどおどと頷く。

「は、はい。すぐに」

バタバタと走って、酒を取りに行く側仕え。

発泡酒かよと、先程までの一本で数十万はくだらないワイン瓶の欠片を見て、再び溜息をつく。

テーブルに置かれているカルパッチョをフォークで乱暴に刺すと、口に運び咀嚼する。どうりで魚料理ばかり酒のつまみに用意されるはずだよ、畜生め。

「お、お持ちしました」

発泡酒を3本に皿に乗せたつまみを持ってくる側仕え。

「……なんだそりゃ?」

皿に乗っている物を見て、睨みつけてやると、肩をすくめてこわごわと言ってくる。

「教主様が祝福をなさった聖餅です。最近、作りはじめまして……」

「最近ねぇ………」

手に取り聖餅とやらを眺める。煎餅のようなクッキーのようなものだ。ガチガチに固そうで見かけは素っ気無い。

教団のシンボルでも入れりゃ良いのにと口に入れてバリバリ食う。

「味がしねーな。小麦の味もしねーぞ?」

「これは『ユグドラシル』の有り難い聖なる物ですので……」

「そんなもんを酒のつまみに持ってくるなよ」

「教主様は身近に感じてほしいらしく、このように普段も食べるようにと命じております。今は各地で配ってもいます」

側仕えが話すところによると、大切なフェリー便にも聖餅を乗せて本土に運んでいるらしい。嵩張らないから問題はないとのことだが、微妙な感じだ。

要は寄付が少なくなってきたから、営業をかけているということだろう。だから、こんな安っぽい物を作ったに違いない。

「あぁ、わかったわかった。下がって良いぞ。ゆっくりと酒を飲みたいからな」

側仕えたちを追い出して、発泡酒を飲む。聖餅とやらをバリバリ食べながら、一息つくと顎を擦る。

「どうやら切り上げ時みてぇだな。魔神とやらを呼び出す神器も単なる魔道具のようだし」

部屋の片隅に放置してある錆びている額冠をちらりと見て呟く。

この数年マナをぶちこんでも、少し光るだけでたいしたマナも内包していないことがわかった。

「スカジの詐欺師やろーめ。なにが魔神を封印している神器だ。単なる光る玩具じゃねーか」

発泡酒を飲み終えて、次の発泡酒へと手を伸ばしながら、この先のことを考える。

「秘密口座は大丈夫だな……。持っていく魔道具、潜伏場所……。新しい戸籍も必要か」

もはやこの島はぼろぼろだ。もしも敵が強襲してきても、ろくに戦うこともできないだろう。

なにせ、物資が入ってこないということは、魔導鎧のメンテナンスもできないということだ。この数年の兵糧攻めは実に効果的であった。

次に所属する組織はどこにするかと悩んでいると、コンコンとドアを叩く音がした。

「誰だ? 俺は今は寛いでいる。邪魔をするなら相応の理由が必要になるぞ」

不機嫌な様子を装い、口調をトゲトゲしくさせてドアに向かって告げるが、相手は気にしないようでドアを開けて入って来た。

「あっちはそれ相応の理由があって、アンタに話しに来たんだ」

「なんだ、イミルの腰巾着じゃねぇか? なんだ、その理由ってのは? くだらねえ理由ならぶっ殺すぞ」

入ってきたのは女だった。たしか傭兵のエリとかいう名前のはず。身なりを気にする様子もなく、革ジャンにジーパン、ボサボサの鳥頭で睨む姿はまさに荒くれ者といった感じである。

「団長があんたを引き抜きたいってね。どうせここから逃げるつもりなんだろ?」

「俺様を引き抜く?」

ピクリと眉根を跳ねさせて、エリを注視する。

「あぁ、凄腕の魔法使いは何人いても困らない。あんたの懸念材料である戸籍も用意できるってさ」

「そっちもだいぶ減っちまったからか」

「あぁ、他にも何人かに声をかけているよ」

傭兵団はこの数年で2割近く死人を出している。金と命を大事にする傭兵なら逃げ出しても良い内容だが、うまく抑えているらしい。

「………お前らも逃げるつもりか………」

戸籍と拠点には興味がある。面倒くさいことになったら逃げれば良い。

「前向きに検討してくれるって考えて良いんだよね? それなら逃げ出すついでに仕事もお願いしたい」

エリは紙束をバサリと置く。なんだこりゃと手にとって目を通すとニヤリと笑う。

「まぁ、良いだろ。ここを抜け出すことができたら、手伝ってやる」

凶暴な笑みを浮かべて、紙束を乱暴に置く。

「そういや、偽物を掴ませてきやがった奴には俺様のお礼を渡さないとと考えていたんだ」

紙束には写真が添付されており、『暗殺対象』と書いてある。

『油気家の家族全員を殺害』

懐かしい名前を見て、面白そうに発泡酒を呷るフルングニルであった。