軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

263話 目玉焼きのせハンバーグ

鷹野家の屋敷。家族団らんのためのこじんまりとした畳敷きの居間にて鷹野家一同が夕飯を食べていた。

テーブルの上に特大ハンバーグに半熟の目玉焼きが乗っている。ハンバーグが乗っている鉄皿はジュウジュウと音を立てて、肉汁が煮えている音が食欲をそそる。

「いただきまーす」

満面の笑顔で、ナイフとフォークを持って私の娘がハンバーグを食べ始める。

ワクワクと目を輝かせて、スッとナイフでハンバーグを切る。そして、切れ目から大量の肉汁が溢れ出てくるのを見て、娘は驚いた顔になった。

「わあっ、肉汁がたくさんだよ、ママ!」

「ふふっ、熱いから気をつけてね」

何度食べても驚く可愛らしい娘に癒やされて、注意を口にする。

「うん! 耐熱の指輪を装備してきたから大丈夫。マグマの中でもご飯食べられるよ!」

「マグマの中で食べるのは禁止。ママとの約束よ?」

「はぁい」

コクリと素直に頷き、夢中になってハンバーグを頬張る娘。

私、鷹野美麗の愛しい娘、鷹野美羽だ。艷やかで銀髪にも見える灰色の髪。深いアイスブルーの瞳を持ち、美人よりも可愛らしいという言葉がよく似合う顔立ちの娘だ。

小柄な身体はまだ成長期が来ていないのか、もう来ないのか、中学生には見えないが、溢れ出す元気なパワーが娘を一回りも二回りも大きく見せていた。

「みーねぇ、ぼきゅもちょーらい」

「あたちも、あたちも。あ~ん」

美羽の両隣に座る空と舞が、美羽の裾を引っ張ってお強請りをする。

成長著しい空と舞はまだ2歳なのに、もう5歳程度の背丈だ。ちょっと成長が早すぎる気もするが、元気いっぱいの息子と娘は、よだれを垂らしてハンバーグをじっと見つめている。

「きゃー! お強請りされちゃった。みーちゃんがたくさんあげるね! はい、あ~ん」

「あらあら、火傷をしちゃうから気をつけてね」

「うん、ふーふー」

フォークに刺したハンバーグを唇を尖らせて息を吹きかける美羽のその無邪気な愛らしい行動に、顔を緩ませてしまう。

「ぼきゅも! ふーふー」

「あたちも! ふーふー」

空と舞が真似をして、背を伸ばしフォークに顔を寄せて息を吹きかけ始めた。

「あらあら、写真に撮っておきたい光景ね」

「そうだね。こうやって家族でご飯を食べると安心するよ」

夫の芳烈さんがビールグラスを片手に微笑む。最近は目が回るほど忙しいので、ゆっくりと休んでほしい。

「おいしーい!」

「おいちーい!」

「しぇふをよんでくだしゃい」

3人ともにハンバーグを食べると頬を押さえて喜びの笑顔になってでんぐり返しをした。

3人ともにコロリンと畳の上ででんぐり返しだ。なんだろう、子犬が喜びくるくると回るような可愛らしさがあるわ。

でも、歓喜の表現がでんぐり返しなのはこの先困るわね。

「食事の時はでんぐり返しは禁止」

「はぁい」

「それとでんぐり返しは運動とかの時ね。喜ぶ時はバンザイするとか、笑うのよ。食事の時は笑顔と美味しいと言えば良いのよ」

「うん、わかりました! 空、舞、私が見本を見せるね!」

片手をあげて、エヘンと咳払いをする美羽。そして、ハンバーグを口に入れて目を瞑ってもぐもぐと咀嚼する。

そして、ゴクリと飲み込むとクワッと目を見開く。

「これは合い挽きだね! 黄金の比率で作られているようだ、7対3の割合」

「ふふっ、そうね合い挽きよ」

「お、さすがはみーちゃん」

その食通の真似をする姿にクスクスと笑ってしまう。夫もビールを飲みながらその様子を見て顔を緩ませている。

「ぎゅ、いや、これはホーンベアカウのお肉が7割」

「ピンポーン」

正解よと褒めると、得意げにふんふんと鼻を鳴らして美羽は感想を続ける。

「残りは肉汁を出すために、豚さんのお肉!」

「うーん、残念。ニワトナトンのお肉なの」

惜しかったわねと、くすりと笑うと美羽の笑顔が固まった。自信があったのだろう。少し悪いことをしたかしら。

「………ニワトナトン?」

「えぇ、めったに手に入らないの。私も扱ったのは初めてよ」

「へ、へぇ〜。それは鶏? トナカイ? 豚さん?」

「ニワトナトンはニワトナトンよ、みーちゃん」

「まだ謎食材があったんだ……」

心なしか食べる勢いを衰えさせて、モキュモキュと美羽はハンバーグを食べる。

「最近琵琶湖に出現したダンジョンでとれたのよ。新食材ね」

「それ安全性大丈夫!?」

新食材よと教えてあげると、美羽がギョッとした顔で驚いて尋ねてくる。最近は賢者のように賢いと噂もされているので、その子供らしい顔に安心してしまう。

「大丈夫。偉い魔法使いさんが魔法の『食材鑑定』を使ったからね。ちゃんと食材鑑定の許可証を持つ魔法使い複数の鑑定結果だから」

毒があるか? 病気は? 寄生虫や中毒性があるか、魔物の食材は『食材鑑定』を何度も受けて許可を受けてから市場に出回るのだ。

「昔から安心安全の魔法で鑑定されているから大丈夫なの。だから大量の魔物肉が出回っているのよ」

そうでなければ、魔物肉は危険だと食べられることはなかっただろう。

「魔法って、本当に万能だよね………。科学的な検査をしなくても、簡単にわかった上に普通に調べるよりも安心安全だし」

「魔法は人の想いと共に発展したからだよ。『食材鑑定』はその中でも人が最初に作った魔法だと言われてるよ」

博識な夫が美羽に説明すると、ふんふんと頷く。

「火を生み出す魔法じゃなくて、『食材鑑定』が最初なんだぁ。わかる気がする。ダンジョンで狩りをするのは外で狩りをするよりも全然楽だもんね」

現実的すぎてロマンは全くないけどと呟き、再びハンバーグを食べ始める。

「美味しいからいっか!」

猛然と食べ始める美羽へと悪戯心を持って話しかける。

「で、感想の続きは?」

「至高のハンバーグはとっても美味しい!」

「説明するの飽きたのね、みーちゃん」

「ハンバーグ冷めちゃう!」

顔を俯けて誤魔化そうとハンバーグを食べ始める美羽に苦笑してしまう。空と舞はといえば、お話には興味なかったのか、普通のお皿に載せられたハンバーグを食べていた。

「3人とも、自由奔放ね」

「まぁ、元気に育ってくれれば良いよ」

「この環境で?」

「ウ~ン、たしかに。みーちゃんは少しおとなしく、空と舞はまだまだ遊ばせよう」

元気なだけでは、この先苦労するのは明らかなので、苦笑混じりに夫が訂正して、そうねと二人で顔を見合わせて笑うのであった。

「私はいつもおとなしいよ! 通知表にもおとなしくてもう少し活発さが必要です、って先生に書いてもらうし!」

「うん、先生を買収するのは禁止だからね?」

「忖度って日本語は、素晴らしいと思うんだ!」

夫が額に手を当てて、困り顔となるが、そのやり取りを聞いて、ついつい吹き出すように笑ってしまうのであった。

家族の幸せな食事の時間が終わり、美羽たちがでんぐり返しの修行だよと空と舞とぽてぽてと自室に戻っていったのを見送って、私と夫だけとなる。

ビールをグラスにトトトと注ぐ夫はほろ酔い加減だ。

「私も頂こうかしら」

「おや珍しいね。それじゃグラスを頼むかな」

夫が最近手に入れた魔法のベルをチリンと鳴らす。すぐにメイドがやってくる。

「グラスをもう一つと、瓶ビールをもう一本持ってきてくれ」

「畏まりました」

ごく自然に命令をする夫の顔をジッと眺める。視線に気づいた夫が首を傾げて不思議そうな顔をする。

「どうかした?」

「ううん、貴方は命令をするのに慣れていると思ったの。私はまだ少し慣れないわ。きっと自分でグラスとか取りに行ったわよ」

ちょっとしたことでも、執事や侍女、メイドに夫は命令をする。お給料を払っているのだから特にそれが悪いわけではないが……貴族らしい態度だ。

「あぁ………たしかに慣れているというか、思い出したというか……。ついこの間までは平民だったしね。気持ちはわかるよ」

「平民は〜と貴方が言うところに、環境が激変したんだなぁって思うの。子供たちも人に命令をすることに慣れて育つのかしら」

頬杖をついてため息を吐く。自然な様子で命令をする子供たちを思い浮かべて、少しだけ微妙な気分だ。

「ウ~ン、きっとそうなると思うよ。必要なことでもあるしね。なにしろみーちゃんは侯爵に、空と舞もそれぞれ爵位を持つしね」

戻ってきたメイドから瓶ビールとグラスを手渡されると、夫は私のグラスにビールを注いでくれる。

「嫌なのかい?」

「嫌と言うわけではなくて、必要なことだともわかっているんだけど、なんとなくモヤモヤとするのよ。私は普通の家庭で育ったから」

家族だけで生活するのに慣れているのだ。でもいまは手作りハンバーグは作ってあげられるが、後片付けは待ち構えているコックたちがしてくれる。

なんとも楽になったのだけど……片付けもしたかったのは贅沢というものだろうか。

「こればかりは慣れていくしかないよ。疲れている? 肩を揉もうか?」

「貴方も疲れているでしょう?」

「みーちゃんがいつも『 再生(リジェネレーション) 』っていう回復魔法を使ってくれるからね……。肉体的な疲れはまったくないんだよ」

アハハと空笑いをする夫を呆れたジト目で見つめ返す。

「だめよ、貴方。回復魔法は簡単に使っちゃいけませんって止めないと。疲れないと仕事をいくらでもできちゃうでしょ?」

疲れないということは、限界がわからないということになる。危険なことだと思うのよね。

「私が疲れた顔になると、止める前に魔法を使ってくるんだよ……パパが疲れてるって慌てちゃうらしい」

「みーちゃんは優しいから……だからこそ後でも良いから言い聞かせないと駄目よ?」

「そうするようにするよ。で、なんで疲れてるんだい?」

優しい目で、夫が尋ねてくるので、ビールを口にしながら思い返す。

「パーティーのお誘いがとっても多いの。もう招待状で焚き火をすれば焼き芋ができるみたい。みーちゃんと一緒にどうぞって」

「あぁ……今やみーちゃんは大人気だからね。で、社交に疲れたかい? それなら出席しなくて良いよ。今や鷹野家はそれだけの力はあるしね」

「それが最近、お父さんの伝手を使って来るの。お父さんの取り引き相手でもあるから邪険にはできないし」

小さな商会を持っているお父さん。取り引き相手はそこをついてきた。

以前からもあったけど、最近は山のように大勢の人から招待状を渡すように頼まれているらしい。その中でもお父さんの商会にとって重要な取り引き相手が混ざっていた。

「お父さんは気にしなくて良いよと言うけど……そうはいかないわよね。だから、今度のお休みにみーちゃんと出席しようと思ってるの」

「みーちゃんと一緒に……」

「えぇ、みーちゃんと一緒に」

「疲れている理由の一つがわかったよ……」

夫が諦めた顔となる。

そうなのだ、最近わかってきたんだけど、私の娘がそういうパーティーでおとなしかった例がない。

素直な良い子なんだけど……。少しだけやりすぎるときがある。

二人で顔を見合わせて、苦笑するのであった。