軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

250話 ファンタジーなレースなんだぞっと

先行するエリザベートは恐ろしく速い。

みーちゃんとエリザベートは湖の畔を疾走している。右側に手つかずの森林が生い茂り、水面の上を走ったほうが速いために、二人とも水面の上を走っている。

エリザベートの『 浮遊板(フロートボード) 』は、そろそろ最大速度に達するはずであり、最大速度の高い『魔王』ならばそろそろ追いつけるはずなのに追いつけない。

それだけ腕がある、そしてレギュレーション内でのチューンナップに優れているのだ。

魔導兵器の大家である瑪瑙家ということだろう。

みーちゃんの『 浮遊板(フロートボード) 』も、失格ぎりぎりアウトまでチューンナップしているのだから、対抗できるとは感心しきりだよ。

前世とは異なり、浄化効果を持つ魔物の棲む琵琶湖は、底まで見えそうな程に透明度が高い。その透明度の高い水面の上を疾走するエリザベート。水飛沫がキラキラと輝き、狼娘の躍動感のある姿を美しく見せている。

「なかなかやるね、エリザベートちゃん!」

みーちゃんも手を振って、バランスをとりながら進みながら、前にいるエリザベートへと声をかけて、楽しそうに犬歯を剝いて笑う。

「…………突き放せないとは、やりますわねっ」

「私の『 浮遊板(フロートボード) 』も良い性能なんだよ」

「それと、その腕の動きが気になりますっ!」

「エリザベートちゃんの尻尾ディフェンスを防ごうとしてるんだ!」

追い抜けない理由の一つ。それがエリザベート必殺の尻尾ディフェンスだ。

みーちゃんの前でモフモフ尻尾をフリフリと振ってくるのだ。

ついついスピードを緩めて、触れないかなと手を出すけど、右に左にと振られて触ることがなかなかできない。

なんと恐ろしい技なのだろう。きっと奥義に違いないよね。

あともう少しのはずなのに、このモフモフ尻尾め。あ、先っぽに触れた。むぅ〜。

「クッ、舐めてますわねっ! いつでも抜けるとの余裕に、怒りを覚えますわ」

「わかってるなら、降参する?」

「レースは始まったばかり。速度で負けても加速性能が高い『 浮遊板(フロートボード) 』の方が有利だと教えて差し上げます。第一チェックポイントで!」

怒りを覚えると言いながらも、好戦的な笑みを浮かべるエリザベート。狼由来なだけはあるね。

涼しい水面を高速で進むと、第一チェックポイントとやらが見えてくる。

涼しい風が吹いてきて、頬をヒンヤリと撫でる。風の源となる先には白樺の木に見える白い森林が広がっていた。

「『静かなる樹氷森林』。ここをクリアできるかしら?」

「ちゃんと予習しているから大丈夫!」

ちゃんと前年のレースは見てきたんだ。予習はばっちり、このチェックポイントの地形効果は知っている。

「夏でも寒い冬の森林。魔物も氷系統が多いんだよね!」

「そのとおりですわ。貴女に抜けることが、いえ、時間をかけずに逃げることができることができまして?」

「もちろんだよ! 鷹野家の奥義を見せちゃうから、刮目してよ!」

「面白いですわっ!」

森林に突き進むと、刺すような冷気が襲ってくる。普通の身体ならば、その冷気でかじかんで動きが鈍くなる。

『静かなる樹氷森林』は、魔法の地形だ。この一帯は常に真冬であり、空気は凍りつき、風が吹けば吹雪となって吹き荒れるのだ。

地面は雪が降り積もり、歩こうとすれば、腰まで潜ってしまう程である。

白樺に見えるのは、氷でできた細い木であり、木の葉は氷の結晶となり、キラキラと輝いている。

エリザベートが先行して氷の森林に入り込む。冷気がエリザベートを襲うが、毛皮ビキニなのに赤く光る魔法障壁が体を覆い、完全に防いでいた。

「この密集した木々を『魔王』タイプで進むことができまして?」

氷で作られた木々は密集しており、人が一人通れる程度の広さしかない。

エリザベートは身体を僅かに傾けて、トンと『 浮遊板(フロートボード) 』を蹴ると、軌道が変わり鋭角に狭き通路を縫うように疾走していった。

木々に触れる寸前で回避し、その腕前を当然とするように平然とした表情でエリザベートは進む。

「樹氷に当たれば、動きが鈍くなり速度も減衰する。『魔王』タイプなら致命的だと思っているんだろうね! でも、そうはいかないよ!」

みーちゃんだってアプリゲームで練習したのだ。その腕前はイージーモードのコンピュータ相手ならば、ぎりぎり優勝できるかもしれない腕前なのだ。

「うぉぉぉっ!」

木々にぶつかる寸前で、体を傾けて『 浮遊板(フロートボード) 』を叩く。軌道が変わり眼前の木を躱し、隣の木に衝突した。

速度が減衰しそうになるが、計算どおり。

「秘策の一つ、ポチッとな!」

フンフンと鼻息荒く、『 浮遊板(フロートボード) 』に隠された秘策の一つを使う。

板に取り付けられていた魔石がマナを爆発する。その衝撃で『 浮遊板(フロートボード) 』は加速して、減衰した分を取り戻す。

「なっ! 魔石を砕きましたの!」

「大丈夫だよ。まだたくさん取り付けてあるから!」

レギュレーションでは魔石を何個取り付けても違反ではなかったのだ。魔石は砕けば、一瞬暴走して加速する。前世のレースゲームでもあったニトロみたいなものだ。

極寒の風が吹き荒れる真っ白な森林内を突き進みながらみーちゃんの秘策を見て、エリザベートが目を剥いて叫ぶ。

「信じられないわ。いくらの魔石を無駄にしてますのっ!」

「ほんの30億円程だよ。決闘に勝つためなら、問題ない経費だよね。レギュレーション違反じゃないのは確認済み!」

「……こんな無駄遣いをする人はいるわけないからですっ! いても一個が限界……貴女はいくつ搭載してきましたの!」

ガツンガツンと木々にぶつかって、ビリヤードの玉のように跳ねながら進む小柄なみーちゃん。そのたびに秘策をポチポチと発動させていく。

畏れの表情でエリザベートが見てくるけど、まだまだ魔石は搭載しているのだ。負けたくないからね。

「し、しかし、魔物の襲撃は防げますかしらっ! こんなふうにっ!」

エリザベートが突き進む先にある雪で降り積もる地面から、突如としてウサギが飛び出してくる。

ルビーのように真っ赤な瞳に、鋭き牙を剥いて、その耳は氷のように固く、そして鋭き刃となっていた。

『 氷刃兎(フリージングラビット) 』だ。噛みつかれれば、氷の毒が体を蝕み徐々に凍りつかせて、その耳は魔法障壁をも下手すれば切り裂いてしまう。

バネ仕掛けの玩具のように飛び出してきた『 氷刃兎(フリージングラビット) 』を前に、しかしながらエリザベートは余裕の表情で口を大きく開く。

『 狼咆哮(ウルフハウリング) 』

狼娘の咆哮は魔法の音波となり、眼前まで迫った『 氷刃兎(フリージングラビット) 』の体に命中する。

氷のような白き毛皮が弾けて、身体を震わせて地面に落ちる『 氷刃兎(フリージングラビット) 』。

咆哮は麻痺の効果もあるのか、兎は動けなくなり地面に横たわる。その結果を見ずに身体をひねり、大きく飛び跳ねるエリザベート。

繁茂する木の枝を突き破るように進み、エリザベートはふわりと地面に降り立つと、すぐに加速して進んでいく。

なぜ飛び跳ねたのかは明らかだ。木の枝から落ちていった雪の欠片が空中で停止していた。目に見えない糸が張られていたのだ。

残念そうに樹氷の幹に貼り付いて擬態していた『 雪蜘蛛(フロストタランチュラ) 』がカサカサと離れていく。

「蜘蛛の糸もあったんだ。それを見抜くとはやるね、エリザベートちゃん!」

「魔物に勝たなくても良いのですわ。貴女に真似はできまして?」

「私では真似できないやり方だよ。でも、私には私のやり方があるんだ!」

スゥと息を吸うと、きりりと愛らしい顔を真剣な表情に変える。

「秘策その2! みーちゃんうるうるアイッ!」

可愛いみーちゃんだよ。無害だよと、仲良くなろうよと、雪景色の広がる周りへとアイスブルーの瞳を潤ませて視線を向ける。

そのうるうるアイに敵意を無くした兎が積雪の中から飛び出して、みーちゃんの前でコロンと転がり腹を見せる。

蜘蛛がカサカサと一斉に幹から離れていく。他の魔物たちも、モグラのように積雪に潜り込み逃げていった。

「見た? 私の優しい心が伝わったんだと思う」

愛の力が皆へと届いたのだ。練習相手にもならない魔物たちは、みーちゃんの愛のこもった瞳を見て感動したに違いない。

「ななな、し、しかし雪蜘蛛の凍れる蜘蛛の糸を受ければタダではすみませんわ!」

「大丈夫! こういう時にも虫取り網は活用できるから!」

ハタキの代わりに虫取り網を振り回して、木々の間に潜む蜘蛛の糸を排除していく。虫取り網は豚魔王の光弾も弾き返すほど、強力な武器になるのだ。

惜しむらくは高速で移動しているため、振り回す前に、蜘蛛の巣に引っ掛かり、ちょっぴり冷たかったことぐらいだろう。

でも、この程度のトラップに引っ掛かっても、もはやみーちゃんにダメージを与えることはできない。今のみーちゃんは、南極の海でペンギンさんと一緒に泳ぐことができるのだから。

「非常識っ! 躱しているわたくしが馬鹿みたいに見えてしまいますわ!」

魔物を咆哮で追い払い、蜘蛛の巣などのトラップを飛んだり、横滑りしたり、ドリフトで走ったりと、華麗なる動きで躱す忙しそうなエリザベート。

たいして、みーちゃんは気にせずに突進していっている。魔物はみーちゃんの愛の前に姿を隠し、蜘蛛の巣を体中につけて、樹氷は突撃して破砕しながら突き進む。

雪煙る白き世界にて、みーちゃんは勇気ある突進を繰り返していた。新発見、樹氷って砕けるのね。

モニターにて観覧している人々はその光景を見て、さすがは 女帝(エンプレス) と、みーちゃんの愛らしさを認識するのであった。

ともあれ、お互いにスピードが抑えられて数十分後、同時に二人は『静かなる樹氷森林』を抜け出した。

「クッ、ほとんど同時とはやりますわね。ですが、次は『獣たちの騷しき水場』です。畔に屯する多くの魔物たちを相手にも同じことができるかしら?」

「第二チェックポイントが過ぎたらお昼ごはんにしようよ! お腹空いちゃった」

「ふふん、あの水場の魔物は毒や魔法を操り、素早い魔物や耐久力のある魔物と、多種多様。死なないように棄権を視野に入れることをお勧めしますわっ!」

得意げなるエリザベート。『 狼咆哮(ウルフハウリング) 』に余程の自信があるのだろう。

たしかに原作でも、あの技を利用して魔物を追い払い、余裕で武道大会に優勝していた。チートすぎる武技なのだ。

「負けるわけにはいかないからね!」

みーちゃんはきりりと眉根を引き締めて、第二チェックポイント『獣たちの騷しき水場』に向かう。

そして、第二チェックポイントを越える時には、エリザベートの姿はなかったのだった。

なぜか『 狼咆哮(ウルフハウリング) 』が効かなくて、泡を吹いて混乱した魔物たちがエリザベートに襲いかかっていったのだ。

戦闘になっていたので、しばらくは第二チェックポイントは通過できないだろうね。

なんでなのかは、さっぱりみーちゃんはわからないや。

「それじゃあ、お昼ごはんにしよっと」

ちょうどよい岩の上にビニールシートを敷いて、お昼ごはんにするみーちゃんだった。

やった、タコさんウインナーも入ってる!