軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243話 勝利と焼肉

聖奈は車に乗って、粟国家に向かうこととした。魔法装甲に守られた皇族専用車は、椅子の座り心地は最高で足が伸ばせるぐらいに広い。

対面に侍女が座り、小型冷蔵庫から飲み物を出してくれるので、極めて快適だ。

そういえば、子供の頃はこうだった。これが普通の生活だったが、シンを支援するためにどんどんお金に変えていったので、この車も売ってしまった哀しい覚えがある。

とにかくシンがお金が必要なんだと、頼ってくるので渡していたものだ。

自分が使える資産には限界があるし、回復魔法は日に数回しか使えない。さらに神無家の目もあるので、実際に癒やした相手からもあまりお金は貰えなかった。

礼儀正しく、皆に優しい『聖女』として、名声があり褒め称えられ、尊敬と憧れの視線を集めてもお金はなかったのが、世界改変前の私である。

側仕えの侍女も一人また一人と離れていき、残るのは神無家の息のかかった者たちがほとんどであった。

「私は外見だけで、中身は相当悲惨でしたね……」

そこに気づかなかったお花畑の私。はぁ〜と疲れたようにため息をついてしまう。馬鹿だった。これでは結婚詐欺やホストに引っ掛かるカモの女でしかないではないか。

半眼となって、窓に映る自分を眺める。やはり狡猾さというのは必要だと、再度自覚をしたものです。

「どうしましたか、姫様?」

「いえ、これから勝利さんにお会いするのに、この服で大丈夫かと、少しだけ心配になりまして」

心配げな侍女に、ニコリと微笑む。まだ幼さが残る聖奈の微笑みに癒やされて、侍女は納得して楚々と口元に手を添える。

「あらあら大丈夫ですよ、姫様。きっと粟国家のご子息も姫様の姿を見て、見惚れるはずです」

「だと良いのですけど。少し可愛すぎないでしょうか」

「普段着として、お洒落にも気を使っていますとのアピール。全然問題ありません」

照れるように頬を押さえて、先程のことを誤魔化す。

でも、少し気になって自分の服装を見返す。ガーリーな服装で、少し甘めの乙女チックな感じだ。ピンクの色にリボンが可愛らしく付いている。ロングスカートで、いかにも箱入り娘のお嬢様といった感じである。

こういう可愛い系統を勝利さんは好きかなぁと思いつつ、シンは普通に褒めてくれていたが、薄っぺらい褒め言葉だったなぁと遠い目をしてしまう。

なにせ、女の子みんなに同じことを言っていたのだから。

だが、あの時のシンは好感の持てる優しい性格であった。それが騙されたことにも繋がるのだ。

お花畑でも、私も皇族。演技をしていれば気づく程度の鋭さは持っていたのだから。

それに狡猾なところもあったと思う。よくよく思い出せば、まるで別人のような性格だったことが何度もあった。

善人のシン、狡猾なシン。様々なシンがいたような気がする。これはどういうことだろうか?

そもそもおかしい話だ。シンは明日の即位式のために忙しくしていた。自らが私を追いかける余裕などある訳がない。

このからくりについては不明だ。その秘密は『アシュタロト』には聞いていなかった。

その秘密も暴露して、今度こそシンの野望は防ぎますと決意する。

「心配しなくとも本当に大丈夫ですよ、姫様」

「あ、いえ、そうではなく……」

考え込んだ私を不安がっていると勘違いして、侍女が生温かい瞳を向けてくるので、アワアワと手を振って答えるのであった。

少し頬が赤いのはきっと車のエアコンが利きすぎていたからだと思う。

粟国家に訪問して、その心配は綺麗さっぱり無くなった。

「今日も素敵で可愛らしいですね、聖奈さん。ガーリックな服がよく似合ってますよ」

フッと笑い、決め顔なのだろう。僅かに顔を斜めに向けてきて、勝利さんは褒めてくれた。

「ありがとうございます、勝利さん。ふふ、勝利さんも似合いますよ」

タキシードに蝶ネクタイ、オールバックにして決め顔の中学一年生が目の前には立っていた。

どうやらニンニクが大好きらしい。ありがとうございます、私も好きですよ。食べたあとはリンゴがお勧めです。

勝利さんの少し後ろに立っている執事へと、ちらりと視線を向けると、私たちは止めたんですと申し訳なさそうな顔で顔を横に振ってきた。

うん、センスのない人に褒められると、とても不安になりますね。……まぁ、勝利さんは少し抜けてますし……。

「アハハハハ、ガーリックだって! ガーリック! ウンウン、ガーリックだよね勝利」

大笑いしながら、勝利さんの肩をバンバンとたたくのは明智魅音さんだ。なんでここにいるのだろうか?

「早くホーンベアカウ食べようよ〜」

「ねーねー、早く食べよ」

「兄ちゃん、肉が焦げちゃうぜ」

魅音さんの他にも、見慣れた孤児院の孤児が集まっていた。なにか集まりがあったみたいですね。

「えっと、もしかしてお邪魔してしまいましたか?」

「いえ! そんなことは全く、これっぽっちも、欠片すらありません。単に鷹野家から山ほどのホーンベアカウのお裾分けがあったので、食べきれないから呼んだだけです!」

おずおずと尋ねると、慌てて勝利さんは説明してくれる。ホーンベアカウ? と思ったがそういえばみーちゃんは私にも贈ってきた。

牧場ダンジョンに行って、いつも乱獲しているから、大量に手に入れたらしい。食べきれないからお裾分けとして、皆に配っているのだろう。

私は侍女や近衛兵さんたちに分けたが、勝利さんは孤児院の子供たちに食べさせるつもりらしい。

「ボッチなんだよね〜、あんたは」

「あ〜ん? 貴族の友だちってのはなぁ、面倒くさいんだよ。肉を奢るだけで、親友扱いとか婚約者とかになる恐ろしい世界なんだ」

バシバシと勝利さんの肩を叩いてからかう魅音さんに、げっそりした顔で答える。

貴族の取り巻きと食べるつもりはないらしい。そこがこの人は以前とは大きく違う。記憶を持っていることもそうだが、性格も大きく違う。

この世界でのキーポイントになる人なのは間違いない人だが、まさかあの下衆で卑怯で弱者を虐めることにしか興味を持たない高慢な男がここまで変わるとは思いもしなかった。

というか、別人みたいだ。当初は以前の勝利さんとイメージが変わらなかったけど、今は全然変わっている。

「アハハ、それじゃあ私たちは肉目的だから良かったね!」

「へっ、そっちの方がマシだっつーの」

「早くバーベキュー」

「にくにく〜」

「ほら〜」

「兄貴、ガンガン食べようぜ!」

ワイワイと話す子供たちの中で赤毛の男の子がいることに気づく。

「あら、今日は息吹さんも一緒なんですね」

「おぉ、聖奈のねーちゃん、もちろん俺も混ざるぜ。だってバーベキューだからな!」

勝利さんの弟の 息吹(いぶき) さんが、カラッとした口調でニカリと笑ってくる。

「ヒャッハー、肉食いに行くぞ〜!」

軽く会釈をすると、両手をあげて息吹さんはダッシュで庭の奥へと走っていった。

……以前の世界では、もう少し頭が良かったし、勝利さんのことを毛嫌いしていたのに、この世界では、あまり物事を深く考えそうになさそうで勝利さんに懐いている。

ここらへんも大きく違うところだ。

やはり勝利さんが、キーになると確信する。

「すみません、聖奈さん。あいつにはちゃんと挨拶をするように言っておいたのですが」

「いえ、大丈夫です。当主様にもご挨拶をしたいのですが、ご在宅でしょうか?」

「あぁ、親父は鷹野家に行ってます。なので挨拶は大丈夫です」

鷹野家という言葉にピクリと反応する。勝利さんよりもキーになりそうなのが、みーちゃんだ。

なぜか最近まで認識できていなかったのが不思議なぐらいに、ハチャメチャでパワフルな親友である。

彼女の回復魔法は規格外であり、私よりも遥かに上だ。しかも強くて……恐らくは狡猾さを隠し持っている。彼女は絶対に仲間にしたい。

ちょうど良いところに来られたみたい。今の状況を教えてもらいましょう。

「さぁ、聖奈さんこちらに。聖奈さんのために用意したんです」

「ふふ、ありがとうございます」

エスコートをしようと手を差し出してくるので、手を重ねる。そうして、てくてくと庭の奥に向かうと、バーベキューのための用意がされていた。

「うめー! 初めて食べたよ!」

「魔物のお肉って美味しいね」

「蕩けちゃうよ」

「おにぎりと一緒に食べるともっと美味しい」

孤児院の皆を呼んだのだろう。大勢の子供たちが既に肉や野菜を焼いており、食べ頃となった物から小皿に乗せて、嬉しそうに食べている。

「さぁ、こっちです」

だけど、勝利さんはバーベキューの所から少し離れた場所に案内してくれる。その先には白いテーブルクロスを被せた丸テーブルとお洒落な椅子。

テーブルの上には、三段のケーキスタンドがあり、サンドイッチ、スコーン、ケーキとイギリス様式のアフタヌーンティーセットが用意されていた。

「聖奈さんのために、用意したんです!」

「ありがとうございます、勝利さん」

フンフンと鼻息荒く勝利さんが言ってくる。

モウモウと焼き肉の煙があがり、ジュージューと美味しそうなお肉の焼ける音が聞こえる傍でアフタヌーンティー。

数え切れない程の世界を繰り返してきた中で、一番笑顔に気をつけないといけないところだったと思う。

「アハハハハ。ヒィー苦しいよ〜。聖奈、しっかりとこのアホに伝えないとわからないよっ!」

なぜかついてきた魅音さんが、お腹を抱えて笑い転げている。気持ちは痛いほどわかります。

「はぁ? 何言ってんだよ。素敵な女性を迎える貴族的な対応なんだぜ! あっ、こらお前ら、ケーキを持ってくんじゃない!」

「わー、兄ちゃんが怒った〜」

「ケーキを持って脱出」

「サンドイッチよりも、おにぎりの方が良いよ」

胸に手を当てて、ドヤ顔の勝利さんだが、ソロリソロリと近づいていた子供たちがケーキスタンドにイナゴのように群がると、ケーキやスコーンを持っていってしまった。サンドイッチの代わりにおにぎりを置いてくれてもいた。

怒った勝利さんに、アハハと楽しそうに笑って皆はバーベキューの所まで走っていく。

勝利さんが子供たちに好かれている姿を見るのは、なんとなく嬉しい。

思い返せば、シンともバーベキューをしたことはあるが、女の子とばかりだった。

いちゃいちゃとしながらも、アピールする女の子の頑張りに気づきもしなかったし、女の子のために日常で勝利さんのように優しい対応をすることもなかった。

彼はなにか事件では体を張って助けてくれるが、それだけで日常では決して優しくない男であったのだ。

孤児たちと一緒にバーベキューとか、絶対にこんな光景になることはなかった。

笑みが自然と溢れながら、勝利さんの手を握る。

「私もバーベキューが良いです、勝利さん」

「ええっ! すぐに追加のデザートを持ってきますよ?」

「いいえ、私も焼き肉を食べたいです。なにせ今日はガーリックな服装ですしね」

「聖奈、あたしが美味しい焼き方教えてあげるね!」

パチリとウィンクをして、私は勝利さんの手を引っ張る。魅音さんも楽しそうに話しかけてくる。

情報を聞き出すのは後で良いかな。今はこのバーベキューを楽しむとしよう。

幸せな時間だと楽しげに歩き、皆の中に混じるのであった。