軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

198話 開戦

鷹野美羽たちから離れた場所で、空を飛行しながら包囲していく部隊があった。

逃げ道を塞ぐように、2部隊に分けて魔物がいない北と南から押し包もうとしている。

魔導戦闘ヘリが10機。羽根はなく流線型の機体の側面にはミサイルポッドが取り付けられており、下部に大型機銃が搭載されていた。

「『発光弾』を確認しました。予定通りに包囲します」

「こちら第一部隊、敵は既に停車しております。予想通り、作戦がバレていたようです」

闇で染めた黒き法衣のような魔導鎧を纏った者たちだ。顔にはバイザーを付けており、手には鋭い刃先を持つグレイブを持っている。

肩当て部分に翼の生えた蛇の意匠が彫られているが、牙の生えた口を開けて、竜の赤い瞳が爛々と輝いている姿は不気味にして、恐怖を覚える。

その意匠は『ニーズヘッグ』である証拠だ。着込む魔導鎧は『ニーズヘッグ』専用量産機『アギト』である。

まるで渡り鳥のように整然とした訓練された動きで陣形を組んで飛行している。

「よろしい。ターゲットが魔物との戦闘を開始したら、遠距離からの攻撃をせよ」

部隊の隊長が遠く離れたターゲットを確認しながら命令を下す。

「隊長、遠距離攻撃とは少しセコいんじゃないですかね?」

部下の一人がチンピラのような軽口を叩くので、隊長は肩をすくめて口を歪める。

「そうだな。しかしエーギル様の不死の軍団と『ソロモン』の用意した魔物たち。そしてスルト様の実験機の中に入って戦闘をしたいか?」

「そりゃ、勘弁。乱戦になって押し潰されちまう」

「ただでさえ、見通しの悪い森林内、動きも大きく制限されるでしょう。相手が可哀想になりますよ」

「そうだろう? だからこそ、遠距離攻撃に終始する。楽な仕事というわけだ」

「違いねぇ。これで大金を貰えるんだから、楽なもんだ」

ゲラゲラと楽しそうに嗤う兵士たち。手に入れる予定の金の使い道を話し始める者もいて、気楽な空気が漂うが、その空気は爆発音と共に霧散した。

遠く離れたターゲットのいる場所付近が、周囲の空気を震わす程の爆発音と共に暴風が巻き起こり、木々が吹き飛んだのだ。

「な、なにが?」

「見ろ、森林がごっそりと消えているぞ!」

兵士たちが動揺の声をあげて、ターゲット付近へと目を向けて驚愕する。

そこには先程まで存在していたはずの森林が消えてなくなり、更地が見えていた。

そして、ターゲットの部隊が更地に展開して防御陣形を組み始めているのが目に入る。

「なんだ今のは! まずいぞ、すぐに遠距離攻撃をかいガッ!」

隊長が最後までセリフを口にする前に、閃光がその身体を貫く。

よろめきながら、隊長が自身の身体を確認し、激痛にうめき声をあげる。

「な、これは矢?」

魔法障壁を貫いて突き刺さっているのが、ミスリル製の矢であることを見て、掴んで抜き取ろうとする。

しかし、矢が光り輝き始めるのを見て、その輝きに顔を照らされながら、恐怖で口元を引きつらせる。

「まずい、爆発を――」

最後まで言葉を紡ぐことはできず、矢は大爆発を起こす。強烈な爆発により隊長機はバラバラとなって、魔導鎧の破片と肉塊を散らばせながら、吹き飛ぶのであった。

「隊長!」

「地上に敵が、ガハッ」

「やべえぞ、弓使い、ゴフッ」

木々が生い茂る森林内から同様に光の矢が放たれて、空を飛ぶ兵士たちは次々に身体を貫かれて爆発していく。

想像だにしなかった奇襲に、ニーズヘッグの兵士たちは混乱に陥り、ターゲットに攻撃を開始するどころではなくなるのであった。

森林内に聳え立つ木々の合間、木の枝の上に膝立ちで座り、エメラルドグリーンの弓を手にしている少女がいた。

「敵の奇襲に成功。混乱した敵を叩く。……眠い」

鮮やかなエメラルドグリーンの髪をツインテールに纏めて、眠そうな目をする顔立ちの整った少女だ。惜しむらくは、その顔に迷彩ペイントを塗りたくっており、可愛らしさを半減させていた。

小柄ながらもモデルのような肢体をした体を自身に合わせたアタッチメントで組み立てた魔導鎧『ウォータン』に包み、むにゃぁと口元を猫のようにふにゃりと曲げる。

少女の名前は『シーナ』。9英霊の一人であり、弓使いの少女だ。

「敵は100、ヘリ5機。ノルマいくつ?」

肩に担いだ矢筒に手を伸ばしてミスリル製の矢を手に取ると、空を飛行する敵を狙い、美しい構えで矢を番える。

「矢は30本で、一撃で倒すとしてぇ……」

シーナは敵をロックすると、気怠げにフゥと息を吐く。

「面倒くさい」

『 爆風種(エアリアルシード) 』

弦をピンと弾くと、矢が光り輝き正確に敵を貫く。そうして矢に込められた遅延式風魔法が起動すると、大爆発を起こし、敵兵を爆砕するのであった。

通常、魔法障壁を超えた魔法は構成を著しく崩されて発動することはない。

しかし、シーナの魔法は違った。

魔法障壁を越えても、魔法の構成をほとんど崩すことなく、矢に込められた次の魔法を発動させるのだ。

魔法構成を宝石のように強く固めて扱うことのできる、シーナの得意技であった。

通常の魔法使いでは、そこまで構成を固くしないし、できない。並外れた精神力と集中力を持つ天才弓使いなのである。

『こちらはヤシブです。南の敵はお任せください、ハイ』

眼鏡をかけた抜身の刀のような目をした痩せぎす男が、にこやかな笑顔で目の前に映し出される。

『たぶん、ヘリ無理。硬いし矢足りない。そんで、眠い』

『私の方もですよ。ヘリは通過させるしかないかと思います、ハイ』

タハハと苦笑するヤシブを前に、眠そうな瞳で頷いて、ツインテールをフイッと振る。

『そんじゃ、兵士がノルマってことね』

『ですね。ヘリは我らが神にお任せしましょう。私共は『ウォータン』の宣伝を兼ねて、敵兵を殲滅しますかね、ハイ』

『了解。終わったら帰ってふかふかベッドで寝る』

トンと枝を蹴ると、身体を回転させながら弾丸のような速さでシーナはその場を離れる。

『 暗黒刃(ダークブレード) 』

今までシーナがいた木の枝に、人ほどの大きさの細長い闇の刃が突き刺さる。木の枝は粉々となり、生気を失いボロボロとなり腐り崩れていった。

「腐食……面倒な魔法」

シーナはその様子を眺めて、トントンと跳ねるように木々を踏み台に離れていく。

追いかけるように闇の刃が飛来してくるが、動揺せずに爪先で木々を蹴り、軽やかに方向転換すると、その全てを躱す。

木の葉を散らし、木の枝を折って、空中からニーズヘッグの兵士たちが飛び込んできて、グレイブを構えながら突撃してくる。

「やりやがったな、てめぇ!」

『 腐食弾(アシッドバレット) 』

怒鳴りながら兵士たちがシーナへと向けて手を広げると、無数の闇の弾丸が放たれて、シーナへと向かう。

腐食弾が命中した木々は変色して、木の葉は腐り落ちていく。轟音を立てて、腐食の弾丸が横を通り過ぎていくのを横目に、木々を踏み台に鋭角に立体機動をするシーナは焦るどころか、口元に笑みを浮かべた。

「ラッキー」

木々の合間を縫うように、高速で飛行してくるニーズヘッグの兵士へと弓矢を向ける。

『 風花風種(エアリアルフラワー) 』

マナを込めて放たれた矢をシーナが放つ。風圧を破り、波動のように突風を巻き起こし、兵士へと命中する。

「グワッ」

爆風が起こり、敵兵が爆砕する中で、その爆煙から風の刃が飛び出して、周囲の敵兵を巻き込み切り刻む。

「こいつっ! なんて魔法を使いやがるっ!」

グレイブで迫る風の刃を切り落としながら、罵りの声をあげるニーズヘッグの兵士たち。

「怯むなっ! 敵の矢には限界があるっ! 接近して押し包め!」

「了解っ! くそったれが!」

ほとんどの兵士たちが森林に突入してきて、シーナを包囲するように動く。

「死ねぇっ!」

『魔刃剣』

闇の刃をグレイブに宿して、敵の一人がシーナへと突進してくる。

クイッと身体を僅かに傾けると、グレイブの一撃をぎりぎりで躱して、弓矢を通り過ぎていく敵へと向ける。

「かうんたー」

今にも閉じそうな瞳で敵を見て、シーナは小さく呟くと矢を放つ。

「ゲハッ」

矢が突き刺さり爆発する敵兵を確認することなく、シーナは身体をひねり、くるりと縦回転する。

次の敵兵が飛び出してきたが、弓を添えて受け流すと、再び矢を番えて放つ。

次の敵もその次の敵も接近してシーナを斬ろうとするが、その攻撃は掠ることもなく、矢に撃ち抜かれて倒されていく。

「何という体術!」

「何もんだ、こいつ!」

「こんな奴がいるなどと聞いていないぞっ!」

木々の間を高速で立体機動をして移動するシーナに翻弄されて、倒されていく兵士たち。

困惑と動揺の声をあげる中でも、爆発音と共に兵士たちは爆砕していく。

シーナの驚異的な戦闘力を前に、兵士たちの数はみるみるうちに減っていくが

「ありゃ……矢が尽きちゃった」

矢筒が空になったことで、手をわきわきと動かし片眉を顰めさせる。

「チャンスだ! 矢が無くなればっ!」

グレイブを構えて、笑みを浮かべた兵士たちが突進してくる。

「だから、矢が30本だからぁ……。数足りなかった?」

指を折りつつ、首を傾げて困惑の表情となるシーナ。

「死ねっ!」

マナの込められたグレイブが、空気を切り裂き、シーナに襲いかかる。

木々を蹴りながら、下がっていくシーナは、矢がなくなったあとでも、その優れた体術で攻撃を受け流す。

「一斉にかかれ!」

「おうっ!」

「よくも隊長たちを!」

意気軒昂となり、殺意を撒き散らしシーナを敵兵は囲んでいく。

その様子をシーナは確認しながら、ふむふむと頷いて口を開く。

「足りなかったんだね……よくわからないけど」

のんびりとした口調で呟くと、地上へと弾丸のような速さで降りる。

兵士たちも包囲陣を崩すことなく、追いかける。

「えーとぉ、足りなかったら、ほじゅーすれば良いんだよね」

シーナは草むらの脇に立つと、トンとステップするように片足を地面につけた。

衝撃が地面を伝わると、草むらから2つの矢筒が飛び出してくる。

「これも30本入りで……2つあるから……」

シーナが片手を振るうと、矢筒の中の矢が全て飛び出して、円形に空中に浮く。

「ま、まずいっ! 各人散開せよっ!」

ギョッと驚き、慌てて敵兵は逃げようと身体を翻すが、その行動は遅かった。

弓を天に翳すと、シーナは自身の莫大なマナを周囲に展開させる。マナで作られた青く光る複数の弓が、空中に浮く矢を搭載して引き絞る。

「これで終わり」

『風神風弓』

一つ一つの矢が竜巻を纏い放たれる。草木は散って木々はその暴風により撓り、回避に移る敵兵へと突き刺さっていった。

矢により魔法障壁は打ち砕かれて、竜巻は鋭き刃を以って、敵兵を切り刻むのであった。

そうして血風が周囲を舞い、竜巻により木々が吹き飛ばされた更地にポツリと残ったシーナはふむと頷く。

「敵兵全滅。ノルマ終わったから帰って寝る」

眠そうな瞳で、フワァとあくびをしてシーナはニーズヘッグの敵兵を全滅させるのであった。