軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193話 不自然な近衛隊長だぞっと

「はいや〜、ポヨリン〜」

「ポヨ〜」

楽しげに声をあげるみーちゃんに、ポヨリンも嬉しそうに応えてくれる。

「はやーい! ビューン!」

「まったく風圧を感じませんね」

「これだけの速さでも、防御障壁が働いているようですよ」

ただいま、みーちゃん達はポヨリンに乗って、ダンジョン内を移動中だ。目に入る風景が流れるように通り過ぎて行き、ポヨポヨ達はその横を駆け抜けて行っても気づかない。

ポヨリンは器用に人数分のポヨポヨ椅子に、胴体の天辺部分を変形してくれたので、座り心地抜群で移動中。

音速で走っているのに、ポヨリンは多少身体を揺らすだけで、風圧も音速の衝撃波もない。

ゲーム仕様なので、不思議魔法パワーが働いています。戦闘中は衝撃波を巻き起こしていたしね。

「こらー! 止まるんだよ、護衛できないさね〜!」

「皇女様、お戯れはお止めください!」

金剛お姉さんや、後藤隊長が怒鳴ってくるので、スピードを抑えることにする。

「皇女さま! いかに速くとも、護衛がなくては危険です。ダンジョンから出たら、装甲バスにお乗りください!」

「むぅ、わかりました。とっても速くて気持ちよかったんですが、そのとおりですね」

頬を膨らませて、がっかりした顔で聖奈が嘆息してポヨリンから飛び降りる。

「そろそろダンジョン出口です。みー様、私たちも降りましょう」

「はーい」

残念だけど言うとおりにしておこう。たしかに護衛が困るしね。

「ごめんね、皆。私のせいで帰ることになって」

白猫15式は大破。そして服はボロボロのみーちゃん。もう狩りは続行不可能となってしまった。

しょんぼりとして、頭を下げて謝る。少しダイヤモンドポヨポヨを倒すのに夢中になったかもしれない。

ぽてぽてとダンジョンを出て、装甲バスに乗る。

「いえ、どちらにしても怪し気な女性を捕まえましたからね。尋問も必要ですし、なにかしらの罠が仕掛けられていても困りますので、帰ることになったでしょう」

「また明日来ましょう、みー様」

「今日も一匹狩れたから、旅館で食べちゃおうよ。パクパクって!」

「うん、明日は頑張るよ! 蘭子さん、適当に魔導鎧を買っておいて」

かしこまりましたと、蘭子さんが答える。ここは冒険者の街だから、魔導鎧も簡単に手に入るだろう。

新興魔道具会社『ウルハラ』の新型とかね。お爺ちゃんが設計した量産型魔導鎧で良いよ。

そうして旅館に戻り、身体を癒やすために温泉に入った。カポーン。お風呂の光景はナイショで良いだろうと思うけど、どうだろうね。

キャッキャッウフフのお風呂は終わり、今日採ったホーンベアカウをすき焼きにして皆で食べる。採れたてはとっても美味しかったよ。熟成させないといけない? 魔物肉は必要ないみたい。

お腹がポンポコリンになって、皆で敷いたお布団に寝そべる。眠くてそろそろ夢の世界の切符を買おうか迷っていた時である。

「闇夜さん、少しよろしいでしょうか?」

「どうかしましたか?」

「ここでは少し……廊下でお話ししませんか?」

「わかりました」

聖奈が真剣な表情で闇夜を誘うので、その様子から重要な話だと思って、闇夜は頷き外へと二人で出ていった。なんだろう?

「大変、大変。もしかしたら、修羅場かも! カモかも〜」

手をバタバタと翼のように振って、鴨の真似をする玉藻。修羅場? あの二人って、誰か好きなの? 闇夜はみーちゃんのことを好きだと思ったんだけど、違うのかなぁ。

「追いかけよう!」

「ラジャー」

フンスと拳を握りしめて、みーちゃんは闇夜たちを追いかけることにした。玉藻が尻尾をフリフリついてくる。

すぐに二人がいる場所はわかった。廊下脇にある自動販売機の側に立っている。不思議なことに二人の身体はボヤケてよく見えない。

「わわっ、防諜の魔道具を使っているよ、エンちゃん!」

「とすると、恋愛沙汰じゃない話だね」

防諜の魔道具を使用しているらしく、玉藻は驚いているが、それならもっと深刻な話だ。

「え? エンちゃんどこに行くの?」

「もちろん真横に体育座りして、立ち聞きするんだよ」

ぽてぽてと近づくみーちゃんに、驚きの声を玉藻はあげる。

「それ、全然隠れてないよ! 堂々としすぎだよ〜!」

「大丈夫。問題なら護衛が私たちを止めると思うんだ」

廊下の脇に立つ護衛たちが、近づこうとするみーちゃんたちをチラリと見てくるが、すぐに興味を失ったかのように、周りに目を向ける。

極めて不自然な態度だ。防諜の魔道具を聖奈が使っているんだから、せめて一言でも制止してきてもおかしくないのに、スルーだ。

後藤隊長だけが、射抜くような視線を向けてきていた。この隊長、会ったときからみーちゃんに対して警戒心をマックスにしているな……。

実直だからこそ、その態度でわかる。演技ではない。なにか、みーちゃんを牽制するような態度だよね。

そう思いながら、防諜の結界を越える。泡の中に入り込んだように、シュワッとした感触がして気持ちいい。炭酸飲みたくなったや。

「ダンジョンの情報とはなんのことでしょうか?」

「誤魔化さなくても良いですよ、闇夜さん。ここに来たのは理由があったのでしょう? 魔物を操る実験をしている集団がみーちゃんのお家のダンジョンに入り込んだ。だから、ここのダンジョンに来ることに決めたのでしょう?」

やけに真剣な表情で闇夜に詰め寄り、聖奈は焦燥を声に滲ませてストレートに尋ねていた。魔物を操る集団?

「みー様の家門のダンジョンにそのような輩が入り込んでいるのですか!」

その台詞を聞いて、血相を変えて闇夜が聖奈の肩を掴んで詰め寄った。

「え? ここを選んだのは貴女では? え?」

「みー様が選んだんです。偶然ですよ!」

「ちょ、ちょっと、え? きっと知っているって………え? タイミングよく捕まえたあの少女は……。え?」

ガクガクユサユサと身体を揺さぶられて、聖奈は頭をガックンガックンと揺らされて不思議そうな声を出していた。

「なにかとんでもない勘違いをしているようだね?」

「止めてくるね〜」

コンコーンと鳴きながら、玉藻が二人の間に入って止めに入る。

その様子を苦笑しながら見て、身体を翻すと後藤隊長へとぽてぽてと近寄ってニコリと微笑む。

「カレンさんはどこにいるのでしょうか? 会わせてもらえませんか?」

「相手の名前を知っているのですな……」

「うちの経営するホテルに泊まってたんです!」

無邪気な笑顔で尋ねたのに、後藤隊長の目つきはますます危険なレベルで険しくなる。

「こちらです。鷹野伯爵」

しかし、疑問を口に出すこともなく、くるりと身体を翻すと歩いていく。どうやら案内してくれるらしい。

「後藤隊長は、私のことを伯爵って呼ぶんですね!」

みーちゃんの呼び名で伯爵は可愛くなくない? 幼い少女なんだから、もう少し可愛らしい呼び名にしない?

「貴女には少女扱いせずに、伯爵として相応しい態度をとるように、陛下から命じられております」

言葉少なめに答えて、先に進む後藤隊長。このおっさん、ずっと鷹野伯爵、鷹野伯爵と、みーちゃんを大人扱いしてきた。なんでか不思議に思っていたけど、理由があったのか。

そもそもなんで近衛隊長が聖奈の護衛についてきたのかも不思議だったんだ。普通、近衛隊長は皇帝の側を離れないからね。

そっか、陛下からか……。チェッ。疑われていたか。まぁ、後藤隊長の態度を見るにそうだとは思っていたけどね。

それに、ダイヤモンドポヨポヨとの戦闘で、ボロボロとなったみーちゃんをまったく心配していなかった。鷹野美羽が爪を隠していると思っていたからだ。

「陛下から、鷹野伯爵に皇女をよろしく頼むと伝えてくれと命じられております」

「今言うんですか?」

「今が相応しいかと」

しかも聖奈ではなく、娘でもなく、皇女としてか。ようは皇族をよろしくと、ひいては皇帝と仲良くと。そういう意味か。

後藤隊長は、美羽の様子を確認して、フッと口端を吊り上げる。

「なるほど。ずっと半信半疑でしたが、納得しました。皇女と聞いても、その意味を理解して、それでもまったく顔に出さない貴女はたしかに家門を率いる当主に相応しいのでしょう」

「完投ピッチャーを目指しているんです!」

ムフンと胸を張って、抱負を口にする。9回を投げきるために、豪速球でバンバン三振をとっちゃうよ。

「その幼い態度に人は騙されるのですな」

まったく表情を変えずに、後藤隊長は部屋の前で立ち止まる。演技じゃないもんと、頬を膨らませて抗議しても無駄そうだ。この男はもう油断しないだろう。

やれやれ、みーちゃんに裏の顔があることがバレちゃったか。どこまで皇帝が見抜いているのか、慎重になる必要はあるな。

コンコンと後藤隊長がノックをすると、細くドアが開く。ボソボソと相手と話すとドアが完全に開いた。

「どうぞ、鷹野伯爵」

「はぁい!」

ぽてぽてと中に入ると、血の匂いが鼻につく。ファンタジーの世界の尋問は厳しいらしい。

「鷹野伯爵は、この者がどのような企みをしていたか、知っていましたか?」

「まぁ、大したことは知らないですよ。茶番劇をしようとしていたのは知っていますけど」

「伯爵の言葉の端々に気をつけるように警告されていなければ、バスの中での一言も聞き逃すところでしたよ」

「私は家族が大事なんだもん」

そうか、聖奈に免責を求めた時には警戒していたのね。さすがは近衛隊長。皇帝陛下の信任が厚いだけはある。有能ですこと。

「あぅぅ……た、助けて……」

椅子に座らせられて、なんだか元の顔の造形がわからない少女がうめき声をあげる。

同情しちゃうよね。可哀想に。

これだけ痛めつけられても、吐くことはしないなんて、くノ一の鑑だよ。

「可哀想に。カレンおねーさん、大丈夫ですか?」

即ち、この少女にはまだまだ余裕があるということだ。なにか誤魔化しの魔法を使っているな。

恐らくは幻影の魔法。自分に少しだけ位相をずらした自分の姿をした幻影を纏っているのだろう。

この怪我は偽物だ。傷も嘘である。たぶんかすり傷程度のはず。『 魔法隠蔽(マジックステルス) 』を使用しているから、気づかれないんだ。

でも、みーちゃんは心優しい少女だから、うるうると悲しそうに瞳を潤ませて、カレンに無防備に近づいちゃうのだ。

「後藤隊長。酷いと思います。カレンおねーさんがこんなにも痛そう。私が引き取って回復しちゃいます!」

「その者は要チェック人物として、指紋登録及び誓約登録はさせて頂きます。それならば、情報さえ引き出せば鷹野伯爵にお譲りしましょう」

肩をすくめて、面白みのない答えを返す後藤隊長。本当にこの人は騙されないなぁ。

「それじゃ、おねーさんにお聞きします。ニムエ」

「はい、ご主人様」

スゥッと空間からニムエが滲み出るように現れて、近衛兵たちは驚き、刀に手を添える。だが、後藤隊長が軽く手を振って制すると落ち着きを取り戻す。

あっという間に落ち着きを取り戻すとは、やるなぁ、さすがは近衛兵。インペリアルガードの名前は伊達ではないということなのね。

「持ってきた?」

「ご命令どおりに」

ニムエが手に持つトランクケースを持ち上げてみせる。

問題はなさそうだ。

それならば、鷹野美羽伯爵の片鱗を後藤隊長に見せてあげようかな。

随分と期待しているみたいだしね。