軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

176話 新年も魑魅魍魎

勝利は、なぜか火花を散らすシンと聖奈さんを見て慌てふためく。

おかしい。神たる勝利は原作を網羅しており、全ての未来を把握する予言者でもある。この世界は勝利の掌にあると言っても過言ではない。

それなのに、この状況はどうしたことなのだろう。元服パーティーで命を助けられた聖奈さんはシンに淡い想いを抱えているはずだ。

「なにか他の意味にとられてしまいましたら、申し訳ありません」

爽やかな笑みを浮かべて、ペコリと素直に頭を下げるシン。これで10歳、いや、11歳だ。大人びている主人公である。

聖奈さんも謝罪を受け入れたのだろう。口元に手を当ててクスリと可憐に微笑む。

「ふふっ、冗談です。シンさんが、そのようなことを仰る訳がありませんしね。公爵家の嫡男として、発言には気をつけた方がいいと思いますよ?」

「そうですね。いやぁ、勘違いが解けて良かったです」

頭をかいて、バツの悪そうな悪戯そうな顔になるシンに、また聖奈さんはクスクスと笑う。

重かった空気が解消されて、周りの子供たちもホッと安堵する。なんだかんだと大人びた行動をとっていても、子供なのだ。生意気なエリザベートも、ブラコンの月もあからさまに安心した様子を見せている。

そんな子供たちとは、精神年齢が違う大人で神の勝利は、平然とした表情でフッと笑う。ちょっと手に持つグラスを落としそうになったのは、つるつるすぎるグラスのせいである。

「勝利さんも改めまして、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

少し腰を屈めて、小首を傾げて上目遣いでお茶目な笑みを浮かべる聖奈さん。可愛らしい着物がよく似合っており、原作で大好きだったメインヒロインの姿に、胸を撃ち抜かれて、勝利はメロメロとなった。

確実に好感度は上がっていると、内心でガッツポーズをとりながら、クールに勝利は髪をかきあげながら挨拶をしようとする。

きっと聖奈さんも惚れてしまうだろう。シンとギスギスしたのはきっと僕に惚れてしまったからである。

原作を破壊してゴメンなシンと思いながら

頭からジュースをかぶった。

誰かにかけられたわけではない。鼻の下を伸ばして動揺していた勝利は、手に持つグラスの存在を忘れて、髪をかきあげようとしたのだ。

当然のことながら、バシャンと髪にかかり、ポタポタとジュースが滴り落ちた。

「ふっ、明けましておめでとうございます、聖奈さん」

気にせずに、勝利は新年の挨拶を返した。

ここで動揺したら、恥ずかしい思いをすると確信したためだ。慌てない勝利を見て、皆はわざとだったのかと、スルーしてくれるだろうと、混乱した頭で、間違った答えを出した。

「あ、あの頭大丈夫ですか?」

さすがの聖奈さんも、口をぽかんと開けて啞然と心配げに尋ねる。

きっと髪のことだ。脳内のことではないと、勝利は祈りつつ、口端を吊り上げると、指をパチンと鳴らす。

『乾燥』

瞬時に魔法が完成し、濡れていた髪がボフンと音を立てて乾く。

オールバックは、チリチリパーマへと変形した。

「ふっ、ちょっと聖奈さんに鍛えている魔法の腕を見せたかったので、ふざけてしまいました」

チリチリパーマに劇的ビフォーアフターをした勝利は再びクールに笑う。

少し魔法に失敗したかもしれない。

「パーマになりましたよ?」

「そ、そうですか、もちろんわざとです。周りに当てられて少しパーティーではしゃぎすぎたかもしれませんね」

なんでチリチリパーマやねん、コメディ小説の世界じゃないんだぞと、内心では似非関西弁でツッコむが、表情には出さない。

オールバックから、チリチリパーマに変化した勝利は、あちらでコップをチョコフォンデュに入れて、チョコを汲もうとしている灰色髪ちゃんをさり気なく見る。

「ほら、あの娘みたいに、少しは面白いところを見せないとと考えましてね。アハハハハ」

アホなことをする少女に釣られたんですと、全力でアピールした。失敗ではないんです、本当なんですと。

実は頭が良いというあの娘は転生者かもと少し思ったが、あの子供っぽい行動から、転生者ではないことは確実だとも確信した。

転生者でなければ、お子さまな灰色髪ちゃんだ。自分をダシにしたことに怒ることもあるまいと、安心してあのアホな灰色髪ちゃんをダシにして、空笑いをする勝利である。

もちろん女神のように優しい聖奈さんは、微笑んでスルーしてくれるだろうと考えていた。

「プッ、アハハハハ、ま、勝利さん、それは無理がありますよ、アハハハハ。あの勝利さんが。アハハハハ」

と思っていたら、腹を抱えて大笑いしていた。勝利の腕をぺしぺしと軽く叩いて、目から涙も滲ませている。

どうやら、かなりツボに嵌ったらしい。

まぁ、そりゃそうだと、勝利は嘆息した。ここで優しくされた方が嘘くさい。周りも同様にクスクスと笑い声をあげる。

「どんまい、勝利君。僕も魔法が使えたら、そういう失敗をするかもしれないよ」

「慰めの言葉、どーも」

嘘くさい笑みでシンが慰めてくるので、適当に返事を返す。さらにエリザベートがシン様はそんな馬鹿で間抜けなことはしませんわと呟くので、苛ついてしまう。

まさしくやられ役のモブが間抜けな失敗をして、主人公に嫉妬をする場面がその場に作られた。

「ご、ごめんなさい、勝利さん。笑うつもりは、プククク、だ、駄目です。笑っちゃいます」

聖奈さんはかなりツボに嵌ったらしい。苦しげにアハハとお腹を押さえて、笑い転げる。

「いえ、聖奈さんの素直な笑いを見れて嬉しいです」

だが、羞恥心より前に、勝利は聖奈さんの笑う顔に見惚れてしまったので、ついつい素直に口に出してしまった。

原作でも、アニメでも、この世界に来てからも、聖奈さんが笑い転げる姿など見たことがなかったからだ。

いつもの優しい微笑みも素敵だが、無邪気に笑い転げる聖奈さんはもっと可愛いと思ってしまったのだ。

その言葉を聞いて、聖奈は目尻に溜まった涙を拭いながら、勝利をマジマジと見てきた。

「……勝利さんは、本当に変わったんですね」

「そ、そうですか? チリチリパーマに変えるのは今日だけですよ? いつもは前と同じ髪型です」

ワタワタと慌てて、勝利は答える。今日からチリチリパーマにして生活するのは難易度が高すぎる。正直勘弁してくださいと、心の中で土下座をしていた。

「い、いえ、そういう意味ではなく……。ププッ、今の言葉は忘れてください」

またもや僕の髪の毛を見て、ニマニマと聖奈さんは笑う。なんとか笑いを堪えようと、肩を震わすその姿が可愛らしい。

この笑みが見れれば、ずっとチリチリパーマで良いかもと思うが、慣れてしまうだろうし、モブキャラでもちょい役になりそうなので、やめておこうと考え直す。

「あ〜、もぉ〜。良いです! それよりも、みなさんも魔法に失敗した経験はあると思うので、笑っちゃだめですよ?」

「いや、聖奈さんが一番笑ってましたよ?!」

「あ、そうでした。ごめんない、勝利さん」

「いえ、もっと笑ってください」

小さく舌をペロッと出して、お茶目に笑う聖奈さんの可愛さに、即座に許す。なんだったら、写真を撮って、スマフォの待受画面にしてもらっても構わないですよ?

心の中で、積極性を見せる勝利。そのヘタレな内心はもちろん聖奈さんには伝わらなかった。

笑っている聖奈さんは、からかうようにシンたちへと顔を向けて、笑顔で口を開く。

「エリザベートさんだって、大失敗したことがありますものね?」

「ま、まぁ、最近魔法を使えるようになったばかりですし? 当たり前だと思いますわ」

気まずそうにドリルロールに手を絡ませるエリザベート。

「月さんだって、そうですよね?」

「そうですね。私もこの間、間違えて床をびしょ濡れにしてしまいました」

むくれた顔でそっぽを向く月。

ふふふと悪戯そうに笑って、聖奈さんは最後はシンへと顔を向ける。

「シンさんだって、そうですよね?」

その軽い口調での問いかけに、場が凍りつく。皆はシンが『マナ』に覚醒していないことを知っているからだ。

「………申し訳ありません、聖奈さん。僕はまだ『マナ』に覚醒していないんです」

「あら、そうでしたか? 月さん、そうでしたっけ?」

「え、は、はい。そうです。お兄様はまだ『マナ』に覚醒していません」

爽やかな笑みを見せて、『マナ』に覚醒していないことを告げるシン。その言葉に、僅かに目を細めると、聖奈さんはターゲットを月へと変えた。

なぜか挙動不審となりながら、シンの言葉に同意する月を見て、そういや、彼女はエリザベートみたいに、シンが魔法に失敗することなどないと、擁護しなかったなぁと思い出していた。

なにか変だなと首を傾げる勝利だが、聖奈さんは両手を胸の前で合わせて、微笑みながら話を続ける。

「そうでしたか。では、『マナ』に早く覚醒して、公爵家を継がないといけませんね。シンさんなら、きっと『マナ』に覚醒する日も近いと思いますよ。私も祈ってます」

「ありがとうございます、聖奈さん。僕も早く『マナ』に目覚めて、国の為に力を尽くしたいと思いますよ」

「ありがとうございます。シンさんが公爵家を継げば、必ずや頼もしい味方になると、お父様に伝えておきますね」

にこやかに微笑み合う二人を見て、勝利はムキーとその仲良さそうな姿に嫉妬をする。見つめ合って、二人の世界を作っている気がする。

「聖奈さん。僕も強い味方になりますよ!」

「ありがとうございます、勝利さん。もちろん頼りにしてますよ!」

にっこりと花咲くような微笑みの聖奈さんに癒やされる。

二人の間に割り込むお邪魔キャラを演じてしまった。お邪魔キャラになっているとは気づいているが、男にはやらねばならない時があるものである。

今わかった、小説で主人公とヒロインの恋路をあからさまに邪魔するウザいキャラの気持ちが。本人もヒロインを振り向かせようと頑張っているのだ。

そうだったのかと、目から鱗が落ちている勝利を他所に、聖奈さんがシンへと向き直る。

「それでは次期公爵の方々に未来を期待して、大親友のみーちゃんの所に行ってきますね。私たち、あだ名で呼び合う仲なんです。行きましょう、勝利さん」

そう言って、聖奈さんはシンたちへと小さく手を振ると、灰色髪ちゃんの下へと向かうべく、僕の手を握り締める。

「あー、シンは素晴らしい公爵になるだろうぜ」

まだ負けていないと、聖奈さんの手の温かさを感じて、うへへと笑みを作り、シンへと一言告げておく。

本当は12歳までシンは『マナ』に覚醒しないので、放逐されることは知っている。そもそも今『マナ』に覚醒したら、公爵になってしまう。

そうなると、原作のように皇帝になることは極めて難しくなるだろう。なぜならば、公爵も充分に権力を持っており、地位も高い。

さらに皇帝に即位するとなると、その力はとんでもなく強大になるために、反対する貴族たちが現れるだろう。

なので、きっと聖奈さんか、公爵3家の次男あたりが担ぎ出されるだろう。そして、摂政か宰相として新たなる皇帝を支える展開になるに違いない。

そこで気づいてしまった。聖奈さんが皇帝になると、結婚できない!

ここは信長が死ぬ事件を防がねばと、考え込む。

「そういや、そろそろ『ソロモン』が動き始める時だ」

あのイベントを防がないと、将来的に信長は死ぬかもしれないと考え込むのであった。