軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162話 長政裏ルートなのかなっと

鷹野美羽は、頭上で吠える不気味なる化け物を見て、ほほぉ〜とお口を開けて感心していた。

「オデ、オデ、ハラヘタ、ウマ」

美羽が見上げないと、その全容がわからないほどに巨大化した長政は、既に理性の欠片もないのか、周りをキョロキョロと見渡す。

そうして血溜まりに広がる殺された暗殺者たちの肉塊をむんずと掴むと、4つに割れた口の中へと放り込み、ぐちゃぐちゃと咀嚼音をたてて、嬉しそうに食い始めた。

こちらへは注意を向けることもなく、無防備に夢中になって食べている。すぐに肉塊は全て食べられてしまうだろう。

「ねぇ、なにあれ? どこの怪人さん?」

滑らかで手櫛をしても指に引っかかることもない銀色に似た灰色の髪をかきあげて、サファイアのような深く蒼い瞳を僅かに細めて、可愛らしい顔に疑問を浮かべ、コテリと首を傾げて尋ねる。

ちょっとグロい光景なので、少女は年齢制限を受けちゃうかもしれない。

「な、長政の最終形態み、みたいです。そ、それよりもみーたん、お、遅い」

ブーと、頬を膨らませて、指をもじもじと絡めながら、フレイヤが非難してくる。変貌した長政を気にする様子は欠片もない。実に神様らしい少女だ。

「ごめんごめん。パパとママと年越しまで起きている予定だったんだ。でも、眠くて8時に寝ちゃった」

ふんすふんすと鼻息荒くパパとママに、今日は夜遅くまで起きてるからねと、力強く宣言したのだ。すぐにウトウトしてベッドに運ばれたけどね。

もちろん演技だよ。本当にウトウトしたんじゃないよ。ただ一つ言えるのは、寝る子は育つ。

「えー、それならとっくに合流できてたよ〜。もうそろそろ年明けるよ? たぶん除夜の鐘が鳴り始めると思う」

「ベッドに入って、寝たふりをしたら、本当に寝て、さっき起きたんだ」

冬は寒いから、一度ベッドに入ると寝ちゃうよねと、愛らしい顔をキリリと真面目な表情にして伝えると、なぜかポコポコ叩いてきた。

「カユイ、カユ、カユ、ウマウマ」

フレイヤと軽くじゃれていると、最終形態長政が死体を食べながら、血が流れるほど強く身体をボリボリとかいている。

「み、み、みてください」

その様子を見て、少しだけ真面目な顔になり、長政へと指差す。美羽もウワァと顔を引きつらせて、さらなる変貌を遂げる長政を見る。

「筋肉組織に表皮が再生してるね。しかも……あれは蛇の鱗?」

剥き出しの筋肉組織を長政は、その剣のような爪をたてて掻きむしる。強すぎる力に鮮血が筋肉組織から流れ始めるが、その血がゴワゴワと形を変えて、長政の身体を覆う。

身体を覆った血の塊は、テカテカと光る真っ赤な蛇鱗へと形を変えていく。全身が蛇の鱗にびっしりと覆われる。

『解析』

まだ戦闘態勢を取らない長政を隙と見て、俺は魔法を使う。

いつもと同じ、全てを見抜く『解析』により、敵の能力を看破しようとしたが、いつもとは結果が違った。

バチリとスパークするような反応が返ってきて、結果もいつもとは違った。

『蛇魔神ナーガラージャ:レベル68 能力不明』

「………オヤジギャグかな?」

「そ、そこは、魔神? とか、能力不明? とか驚くところだと思いますよ……」

予想外の解析結果に、ジト目となっちゃう美羽です。小柄な美少女のジト目は可愛らしい。

「だってさ、長政がナーガラージャだよ? 運営がボツにした裏設定とかかな? それか、酔いながら考えた設定」

長政がナーガラージャだよ、ここは笑ったらおっさん認定されちゃうのかな?

「うぅ……センスないですね」

「だよね。というか……ボツ設定って、キャラが強すぎるからボツの時もあるんだよね」

「あ、そ、それわかります」

そこで、どうして俺を見て頷くのかな? 美羽は大人しいひ弱な可愛らしい女の子だよ?

か弱くにっこり微笑んで応えようかなと思ったが、ナーガラージャは全ての死体を喰ったので、栄養を取り込み終えたのか、完全に上半身が人間、下半身が蛇の巨大なる化け物へと変わった。

爬虫類特有の縦長の瞳をこちらへと向けて、血だらけの口からよだれを垂らす。

「ハラヘッタ、オデクウ」

上半身だけで8メートルは背丈があるだろう。その尻尾はというと、ガラガラ蛇のように音を鳴らして地をズリズリと這っている。

「クウ!」

もはや美羽たちを餌としか認識できないのか、4本の腕を大きく広げて、無防備に迫ってくる。邪魔な倉庫の屋根を引きちぎり、放り投げながら、手を伸ばしてきた。

人の背丈よりも長い真っ黒な爪を生やし、両手を広げて接近してくる。

「それじゃ、よくわからないけど、魔神退治といこうぜ!」

『戦う』

コマンドを選ぶと、着込んだ魔導鎧『ティターニア』が仄かに光り、背中に生やす半透明の翅が展開される。

魔法の力が身体を駆け巡り、身体能力を跳ね上げてロキモードに変身だ。

「いくぜ!」

なんで魔神になったのかは知らないし、初めて見る敵だが、正義のためにここで倒すのだと、強く決意する。

「魔神を倒すとドロップが美味しいんだ!」

「本音の方が出てるよぉ」

「間違えちゃった! 違った、ここで放置すると、とんでもない被害がでるよ!」

冤罪だと答えつつ、アイテムボックスから、武器を取り出す。真紅の短剣『クイーンダガー』を右手に、左手に『蟷螂の脇差し』を持ち、迫る敵へと身構える。

ナーガラージャの手のひらは自身をすっぽりと覆うぐらいにでかい。だが、ゆっくりだ。

「ていっ!」

トンと身体を浮かせると、身体を捻るように回転させて、両手の短剣を振り抜く。まずは牽制の攻撃で相手をよろめかせようとするが、鱗に命中する寸前で黄金の光が透明な盾となり、弾かれてしまう。

「なぬっ!」

その予想外の結果に驚く。そのまま敵の巨大な腕が眼前に迫ってくるので、回避に移ろうとする。

『フロントカバー!』

そこにフレイヤが転移して、美羽の前に現れると構えた盾を巨大な手に叩きつけた。ナーガラージャの手とフレイヤの盾がぶつかり合い、暴風を巻き起こす衝撃波を生み出して弾きとばした。

「おぉ、タンク役がいると違うね」

感心する美羽を前に、ナーガラージャは他の3本の腕で掴もうとしてくるが、魔法の障壁を空中に作り出し、フレイヤはタンタンと踏み込み、盾を同じように叩きつけた。

ナーガラージャの手に比べると、小さな盾だが、ぶつかり合うと巨大な手を次々に弾き飛ばす。圧倒的にパワーでも質量でも負けているのにかかわらず防いでいく。

『フロントカバー』は『聖騎士』のスキルの一つだ。前列の仲間を守るスキルで、『防御』体勢で敵の攻撃を受け止めてくれる。

ゲームでは『聖騎士』は両手に盾を持って、仲間を守るのがセオリーだった。俺も『聖騎士』に2つの盾を持たせて、仲間を守ってもらったものである。

フレイヤが防いでくれるのを頼もしく思いつつ、忍術を使用するべく、ちっこい手で印を組む。

組んだ両手に巻物がポフンと現れて、魔法の力が発動する。

『竜巻の術』

風の最強忍術を発動させる。美羽の髪がはためき、周囲へと突風が巻き起こった。指差す先のナーガラージャへと竜巻が飛んでいき、その巨大な身体を包み込む。

『忍術』は単体攻撃魔法しかないが、そこそこ攻撃力はある。

竜巻の巻き起こす風は、切れ味鋭い強力な刃となり、ナーガラージャの身体を切り刻もうとする。

「あぁ、やっぱりそうなのかよ」

むぅと唇を尖らせて、ふわりと地面に降り立つ。

ナーガラージャは最強の忍術を受けても、傷一つ負っていなかった。無数の風の刃が鱗に命中しても、黄金の障壁が鱗に生まれて防いでいた。

「ど、どうやら『神鎧』の効果は残っているみたいだよ、みーたん」

美羽の隣にフレイヤが降り立つと、弱々しそうな表情で、同じ予想をしてくれる。やっぱりそうだよね。あれは長政の力を引き継いでいるよね。

「とすると、『物理無効』に『魔法無効』かぁ」

「だ、だね。『 神授付与(ゴッドエンチャント) 』なら、ダメージを入れられるみたい」

「それ自分にしか使えない万能属性を付与する魔法だよね。俺には使えないんだけど?」

フレイヤの純白に輝く剣をちらりと見て、羨ましそうに見ちゃう美羽です。ゲームでは属性攻撃は敵の弱点を突くと特攻になるから、万能属性は使わなかった。なので、役立たずの魔法だったけど、こんな時に使う予定だったのか。

何だかボツにした設定が垣間見えるよ。

「ウォォォ!」

竜巻に覆われていたナーガラージャが、轟く咆哮をあげて、その威力に周囲が振動で崩れ始める。

埠頭の倉庫は、海から現れる魔物に対抗するために、ミサイルの直撃も防ぐ魔法強化された建築物のはずだが、ひびが入りガラガラと壊れ始めた。

「テキテキテキ」

竜巻を咆哮だけで吹き飛ばすと、ナーガラージャは上半身を前傾姿勢にして、牙を剥いて睨んでくる。

「えと、どうやら敵認定されたようです」

「失敗したね。付与魔法をたっぷりと使ってから、攻撃するべきだったよ」

そうか、まだボス戦は始まってなかったのか。主人公たちの準備待ちだったのね。

「ゲームとは違うと思うんだよぉ」

「同じようなもんだろ」

禍々しいオーラを吹き出して、ナーガラージャが身構える。

『フリッグ、サクサーラ、マツ、問題はないか?』

『えぇ、既に監視カメラは支配して、空間は遮断済みよ、お嬢様』

仲間へと思念を送ると、ホログラムが目の前に現れ、妖艶なる微笑みを見せる金髪の美女であるフリッグが映りだす。

『神よ。幻影にて、この地は今のところ平和な光景になっております』

褐色肌のオリエンタルな魅力を持つサクサーラも映し出されて、恭しく腕を交差させる。

『人払いの符も問題なく発動しております、主様』

黒髪黒目で大和撫子のようなおっとりとしたマツが最後に映し出されると、にっこりと微笑み頷く。

ゲームと違い、戦闘の様子は周りに見られる可能性があるので、予め準備しておいたのだ。この3人がいれば、だいたい戦闘の様子は気づかれないだろう。

『オーディーン。準備はオーケー?』

『配置についた。ふむ……別の神か……興味深い。どれほどの力を持つか、どのような力かを見せてもらう』

『好奇心もそこそこにお願いします』

興味深いと爛々と隻眼に怪しい光を宿らせるオーディーンのお爺ちゃんに連絡をして、準備万端だ。

「グォォォ! コロスコロス、クウ!」

ナーガラージャが再び大口を開けて、腕を地面につけて獲物を前にする猛獣のように構えると咆哮をあげる。

『世界を喰い尽くす蛇魔神ナーガラージャが現れた!』

美羽の目の前に、輝く黄金のウィンドウが開き、楽しそうなログが映し出された。

「それじゃ、戦闘開始だぜ!」

ナーガラージャとの戦闘を前に、楽しそうに美羽は嗤い、戦闘を開始するのであった。