軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141話 師匠を求める勝利

謁見は最後となっていた。

だが、最後だからと気を抜く者はおらず、貴族たちは次に現れる者へと、興味を持って待っている。いや、興味を持ってという言葉では表現が優しい。

まるで羊を狙う狼のように、目を爛々と輝かせており、その表情は利益を求めんとしていた。

神たる粟国勝利は、そんな貴族たちを横目で見ながら、フンスと優越感で鼻の穴を膨らませていた。

「僕の師匠。遂に来たぞ。モブが活躍する時代が」

うへへと笑い、謁見を見る勝利。次に現れるのは、僕の師匠なのだ、てめえらカス貴族が相手にできるような相手ではないのだと、得意満面だ。

ちなみに、師匠となる根拠はまったくない。勝利は、モブが活躍する小説とかでは、よくあるテンプレだと勝手に期待しているだけである。

原作に出てこない凄腕の老人、もしくは美女、またはロリババア。

何でもよいが、モブを鍛えて主人公と同等、または遥かに強化してくれるキャラがいるのだ。

まさに神たる勝利に相応しい展開と、調子に乗っていた。

惜しむらくは、師匠は爺さんじゃなくて、美女が良かったなと思ったが、そこまで贅沢は言うまいと、謙虚になる勝利であった。

無論、謙虚の基準は勝利基準である。

「では次が最後の褒賞となる。東京のドルイド、大魔道士よ、前へ」

宰相の言葉に、人々の注目する中、どこ吹く風と気にもせずに、ボロボロの帽子と服を着ている老人が姿を現す。

皇帝陛下を前に、不敬な格好ではあるが、その態度と服装こそが、野に隠れている大魔道士に相応しい雰囲気を醸し出していた。

老人が立ち止まり、跪くこともせずに皇帝陛下へと顔を向ける。宰相を含めて、貴族たちはその態度の大きさに、さすがに不愉快そうな顔をするが、皇帝陛下の対応は意外なものであった。

「おぉ、老翁よ。此度のことは聞いておる。余の武士団を救ってくれたことに感謝を送ろう」

なんと、皇帝陛下は立ち上がって階段を降りると、老人へと近寄り、その手をとって頭を下げたのだ。

その想定外の対応にざわめきが起こる。

「陛下が座を降りて、出迎えるなど……見たことがありましたか?」

「先代の皇帝陛下で何度か。しかし今代では初めてかと」

「東京にて、途轍もない魔法を使ったご老人らしいですからな」

「ドルイド狩りに怒って、傭兵たちが拠点としていた場所を森林ごと焼き払ったという噂は本当なのでしょう」

側にいる貴族がヒソヒソと話す内容から、なぜ騒然となったか理解した。

それだけ師匠は凄い魔法使いなのだと、勝利は感動していた。

が、横に立つ親父が苦笑していることに気づく。

「パフォーマンスだ。皇帝陛下がドルイドを厚遇にて出迎えて、ひいては臣民として扱うための、な」

なんとか聞き取れるほどの小声で親父が教えてくれる。

なるほどと、改めて皇帝陛下へと視線を向けると、たしかに少し大仰で演技くさかった。そのことに少し白けてしまうと同時に、貴族の駆け引きの難解さにうんざりしてしまう。

自分はこの先、この世界で生きないといけないのだ。思い描いていた生活とかなり違う。

金持ちであり、高位貴族でもある粟国家を率いるのは大変そうだった。

「ドルイド狩りへの報復だ。助けたのは気まぐれである」

「気まぐれでも、余の大切なる武士たちの命が助かったのは、そなたのお陰だ。何なりと望みの物を言うが良い」

ぞんざいな老魔法使いの言葉遣いも気にする様子はなく、皇帝陛下は笑顔で尋ねる。

隻眼の魔法使いは、考えることなく口にする。

「儂が焼いた東京入口付近の土地の譲渡。併せて鎌倉の土地の一部を貰いたい。無理であるならば、買い取ろう」

「おぉ、そうか。ならば望み通りに下賜しよう。何に使うか聞いてもよいか?」

「今回の事件で助けたドルイドたちに集落を作るように提案をする予定だ。なので、手に入れた土地はそちらに使う。うまくいくかは知らぬ」

老人のなんでもないかのように言う内容に、皇帝陛下は喜びを露わにして破顔した。

「おぉ、さようか。そなたならきっとうまく行くだろう。では、余も集落作りを支援しようではないか。資材を始めとして、家屋の建設にも人は必要であろう?」

「………集落を加えるなら、5年間の無税を求めるぞ? なにぶんドルイドたちは現金を持っておらぬ。儂の手持ちの金も使うが、税を納めることは難しいであろうし、突然税を払えと言われても困るであろう」

「……5年間。なるほど。ではドルイドに限り、そして最低年収金額を下回っている者に限りたい。脱税の温床として使われても困るのでな。それと細かい事柄も後ほど話し合いたい。警察や武士団なども守るのに必要であろう」

「分かった。それで良いだろう」

すぐに頭の中で利益と提案を天秤にかけた皇帝陛下は了承する。

そうして、周囲の貴族たちに聞こえるように、威厳溢れる堂々たる態度で、声高に宣言する。

「聞いてのとおりだ、皆の者。これより新たに加わった臣民を守るために、余は東京入口に集落を作る魔法使い殿を支援することとした!」

「おぉ、皇帝陛下万歳! 日本魔導帝国万歳!」

棚からぼた餅とでも言おうか、長年の懸念材料であったドルイドとの交渉がうまくいった。喧伝する皇帝陛下に、皆が万歳三唱する。

ここらへんが帝国っぽいよなと思いながら、勝利も周りに合わせて万歳三唱をするのであった。

その後、すぐに遠征隊を労る晩餐会となった。今回はドルイドの臣民化を目的とした遠征であり、その目的は達成できなかった。

そのために、おとなしめの晩餐会となる予定ではあったが、ドルイドの老人との交渉がうまく行ったことにより、華やかな晩餐会へと変わっていた。

「父上、それでもドルイドたちの集落は小規模ですよね? そこまで喜ばなくても良いと思いますが?」

テーブルに並んだ料理をつまみつつ、勝利が親父に尋ねると、顎をさすり目つきを鋭く見てくる。

「まぁ、そのとおりだな。儲けになるかわからねぇな。いや、損ばかり出るかもしれない」

「そうでしょ? 儲けになりませんよ」

「だが、絶対に金になることがある。まずは道路だな。至急直すとなれば、魔道具もそれなりに揃えないといけない。それと、施設だな。鎌倉に集落を作るとすれば、役所、兵舎、警察署など、考えただけでも大金が動く」

「要は箱モノの公共事業ということですか」

前世でもあった話だと、勝利は納得する。初期の工事で金を稼いで、はいサヨウナラということだろう。道路を整備して、施設を建てたら、あとは好き勝手にしてくれという意味だ。

「まぁ、たしかにそのとおりだ。うちはその工事に一口噛める。今回の報酬の一つということでな。しかし………」

言葉を濁す親父に、不思議そうに尋ね返すが、顎を擦り考え込んでいた。

「見ろ、あれを」

「あれ、ですか?」

顎で指し示す先には、晩餐会を楽しむ人々……ではなく、老魔法使いに群がる者たちの姿が多少あった。その数は多くはないが。

知り合っておけば、何かしら得があると考えているであろう者たちだ。

「あれ? あの老人の周りにいる者たちは何者ですか?」

老人を守るように、周りにスーツ姿の者たちが立っていた。老人に話しかけようとする者たちへと、それを阻むように話しかけている。

「申し訳ありませんが、老魔法使いは面倒ごとを嫌っておりまして。わたくし共が代わりに交渉の窓口を承っております」

ピシリとしたスーツ姿の者たちは、にこやかな笑みだが、その場所を動くことはない。

「あれは鷹野家の奴らだ。いつの間にコンタクトをとりやがったのか……。あいつがあそこまで力を入れているということは……面白くなってきやがった」

「面白い?」

「あぁ、芳烈は何かしら金になる話を掴んでやがるということだ。これは単なる箱モノ事業じゃ終わらねぇ。ということで、マブダチの俺もちょっくら混じることにする」

ニヤリと獲物を見つけた猛獣のような凄みのある笑みを浮かべて、のしのしと歩いていってしまった。

そして、帝城王牙と会話をしている鷹野芳烈へと、親しげに肩に腕を回して話し始める。老魔法使いを狙うのではなく、怪しい動きをする鷹野芳烈をターゲットにしたらしい。

「はぁ……。金を稼ぐのって大変なんだな」

金持ちとしての暮らしを守るためには、先々大変そうだと、勝利は嘆息するのであった。

ぽつんと一人になり、ジュースを飲みながら周りを見渡す。

シンは婚約者と、月と双子の弟と一緒に仲良く料理を楽しんでおり、転生者の闇夜は、デザート全種類制覇に燃えているのか、美羽と玉藻と共に楽しそうに食べている。

真白はニニーに腕を掴まれて、あちこちの料理を取りに回っており、聖奈は姿が見えない。たぶん心優しい聖奈は長政の処分に落ち込んでいるのだろう。

自分もなにか食べるかと考えていたら、ふらりと老魔法使いが離れていって、テラスへと向かっているのが目に入った。

「きたきたきたー! うへへ、僕のイベント開始というやつだよな」

慌てて勝利もその後を追う。テラスへと続く扉を潜り抜けて老人を追いかけると、一休みしているのか、のんびりと立っていた。

美女ならば、絵になったのにと思いながらも、勝利は声をかける。

「あのすみません。この間は助けてもらってありがとうございました」

シンが魔女に助けられたシーンを思い出して、真面目そうな表情でお礼を言うと、肩をすくめて老人は答える。

「この間の小僧か。気にするな。気まぐれだ」

「ですが、僕たちが助かったのは確かです。素晴らしい魔法でした!」

深く頭を下げる。俯いた顔はニマニマとこのイベントで僕は最強のモブになるんだなと、取らぬ狸の皮算用をしていた。

「そうか、分かった。貴様の礼は受け取ろう」

「ありがとうございます。それで、不躾なのですが……僕を貴方の弟子にしてください!」

「断る」

「え?」

間髪容れずに断られて、口元を引きつらせてしまう。もう少し考えろよ爺。神である僕がお願いしているんだぞ。

「えっと、理由を聞いてください」

「……まぁ、良いだろう。で?」

「実は……粟国家の掴んだ情報によると、この間の場所には危険なる敵がいるんです! その名は『ゲルズ』!」

自分が知っていると告げると怪しまれると思い、粟国家の情報とする。

「ほう……続けろ」

「『ゲルズ』は植物魔法を使う狂人です。あいつを放置しておくわけにはいかない。僕はこの間の戦いで決心したんです」

ちょっと話に無理があるかと思いつつも勢いで押そうと考える。

嗤う植物園の所長『ゲルズ』は、原作では10万人以上の人間を各地から攫って、コレクションとして『邪悪なる生命の樹』に飾っていた狂人だ。

10万人以上攫うとは、原作者は盛りすぎだろと読んでいる時に思ったが、被害者が多ければ多いほど面白くなると考えている原作者なので、不思議はない。

ミストルティンを持ち、『 邪悪樹(イビルアーク) 』となり、人々から集めた膨大な生命力と魔力を使い、シンと激戦を繰り広げる。

最終的にシンが勝つが、相討ちとなり、ミストルティンにてシンは魔法を封印されて、解除方法を探すのが次巻の前半ストーリーとなっていた。

魔法を封印する恐ろしき神器『ミストルティン』。シンとヒロインズは助かったが、ヒロインに見えた少女や仲間たちが大勢死んだストーリーであった。

身体強化すら使えなくなったモブたちは、口にするのも悍ましい扱いをされて死ぬ。相変わらずモブには厳しいのが『魔導の夜』のストーリーである。

倒したあとは、『邪悪なる生命の樹』から解放された人々の魂が一斉に空へと浮かび消えていく幻想的な光景で、その巻は話を終える。

その際にシンは希少なる『生命の樹の苗』を手に入れて、それを巡り大変なことになるのだが、また別の話になるので、そこは関係ない。

ゲルズを先回りして倒すことができるかもしれない。数年の修行で僕はパワーアップ。誰も敵わない最強の魔法使いになるのだ。

シン、お前には任せておけないな、とか戦闘中に助けに入ったりして、クールに語ったりするのだ。

皆も助けられて、僕の将来も明るい。

できれば、僕の潜在能力を引き出してくれて、お手軽にパワーアップ。来週辺りにゲルズを倒せれば、モブの被害者も出ないので、そのルートを希望したい。

ミストルティンは恐ろしいので、ゲルズ退治は師匠と共に行こうと考えながら、ウッキーと顔を興奮で真っ赤にする。

「『ゲルズ』か?」

「はいっ! 『ニーズヘッグ』の『ゲルズ』です。恐らくはこの先、大勢の人々を攫って『邪悪なる生命の樹』の栄養とするはず! あ、『邪悪なる生命の樹』とはですね、えーと、師匠?」

なぜか、師匠はクックとおかしそうに笑っている。ボケたか?

「そうか、貴様は見たところ普通の人間だな……なるほど、そういう可能性があるのか? 媒介にして召喚された? それとも空いた穴に偶然入り込んだ? これはあいつには黙っておくことにしよう」

「あの〜………?」

「あぁ、なかなか面白い話であった。安心しろ、既に『ゲルズ』は殺し、『邪悪なる生命の樹』は破壊した」

「へ?」

「なので気にするな。貴様の弟子入りは断っておく。貴様の礼は今の話だけで充分だ。では、儂は帰ることにする」

そう告げると、指を振ったと思うと足元に魔法陣が描かれて、老魔法使いは瞬時に消えた。

「へ? 倒した? えーと……僕の弟子入りイベントは?」

テラスに風が吹き、勝利は呆然と立ち尽くすのであった。