軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137話 魔法とゲルズ

ゲルズは勝利を確信した。それだけ使用した神器『ミストルティン』に信頼を持っていたのだ。

「危なかったわぁん。……先週手に入っていた『ミストルティン』がなかったら、敗れていたかもねぇん」

まだ、本部にも手に入れたことを報告していない『ミストルティン』を使うことになるとは思いもしなかった。

自身が冷や汗をかいていたことを、今さらながらに思い出す。喉はカラカラであり、緊張していたことを意識する。

それだけ『ロキ』は強かった。その証拠に周囲は地獄絵図となっていた。森林は燃え盛り火の粉は舞い踊り、魔物は狂乱して群れをなして逃げていく。

狂ったように使用した多数の魔法により、マナが充満し魔法構成がうまく働かなくなっている。これでは、遠距離からの監視系統の魔法も効果を発揮しないだろう。

それだけ膨大なマナをぶつけ合いようやく倒した。『 邪悪樹(イビルアーク) 』に変化する奥義を覚えて以来、負けることのないゲルズだったが、今回は命の危機を感じていた。

「……不気味な相手だったわん。まったく躊躇いなく行動するなんて、中身は機械でできているんじゃないかしらん」

いくらダメージを与えても、回復した。その回復魔法の性能も連続で使えることにも驚いたが、もっとも驚いたのは傷を負っても、まったく身体を庇うこともなく行動をするところであった。

普通ならば、痛みに怯えて動きは鈍くなる。傷を負うとわかれば、歯を食いしばり耐えようとするだろう。

だがロキは、淡々と攻撃をしてきた。傷を負っても気にせずに、耐えようとする気配もその顔からは悟れなかった。

最初は痛みを隠しており、ポーカーフェイスを装っているのだろうと考えた。戦闘ではよくあるハッタリだ。

しかし、すぐに違うと悟った。こちらに攻撃が当たれば、僅かに嬉しそうにするし、言葉からもポーカーフェイスを装って、駆け引きをしようとする気配は微塵も感じなかった。

自分の身体に完全に無頓着だったのだ。まだ『リッチ』や『ヴァンパイア』の方が自分の身体を大事にするだろう。

それだけ不気味な敵であったのだ。

殺せて良かったと、心底安堵するのは久しぶりであった。

「さて、ミストルティンとロキを回収して、あの神話レベルのドラゴンを召喚した男を倒さないとねん……いえ、コソコソと森林に隠れている女もいるのよねぇ……」

遠く離れた場所で、莫大なマナを内包し、ダイヤモンドの煌めきをその身に宿すドラゴンを見る。その頭の上に乗っている騎士鎧タイプの魔導鎧を着込む男性の姿も。

「逃げるとしますかぁ………」

ロキを倒すのに、かなりのマナを消耗してしまった。隠れている女や、ドラゴンを召喚した男と戦うには不安が残る。

「ここはロキの肉体を手に入れたことで、満足しましょう」

決断は早かった。なんにでも変身できる『ロキ』。そして、ミストルティンを回収できれば、今回の戦果は満足としようと決断する。

あれだけの回復魔法を使えるロキだ。手に入れれば『不老』の秘密に近づけるかもしれないし、先週この地域の奥地で手に入れた『ミストルティン』があれば充分だ。

廃墟博物館に放置されていた『錆びた槍』。マナを流すと覚醒し宿り木の神器『ミストルティン』へと変わったのである。

その効果は『土、植物魔法』を自在に操れて、敵へと刺すと魔法を封じる。信じられない強力な神器であったのだ。

ロキとの戦闘では使う気はなかった槍でもある。

なぜならば、ゲルズは槍の名手というわけではない。ミストルティンを使用して、反対に敵に奪われることを恐れたのである。

しかし、窮地に陥ったために、投擲してロキを倒したのであった。

『 邪悪樹(イビルアーク) 』の巨体を動かして、キョロキョロと地上を見渡し、ロキを探そうとするが……。

「やっぱり油断はいけないよな」

可愛らしい雛のような声音が聞こえてきて、ギクリと身体を震わす。信じられない思いで、声の下へと身体を向けると、木の先端にロキは立っていた。

「な、なぜ、その傷で動けるわけぇぇ!」

驚きよりも、恐怖が勝り絶叫する。

なぜならば、血だらけの少女は左肩の部分が大きく抉られて、腕は皮1枚繋がっているだけなのだ。

それなのに、平気な顔で二刀を手にして、不敵に微笑んでいる。動くはずがない左腕は、まったく支障はないようだった。

それに、何よりもおかしいことがある。

「あ、あんたは魔法を封じられたはず! なぜ身体強化が使えるのよぉぉ!」

魔法を封じたのだ。身体強化も行えなくなる。ただの一般人となるはずなのに、相手はピンピンとしていた。

「乙女の秘密ってやつだ! リトライといくぞ!」

『縮地法』

ロキの姿がかき消える。超高速で木を蹴り、ゲルズへと飛んでくる。

「げ、迎撃をしなくては……」

怖気が背筋を走るが、ゲルズは迫るロキを倒さねばと、相手を強く睨む。

『 蔦槍(アイビーランス) 』

『 邪悪樹(イビルアーク) 』の身体から、一斉に破城鎚のように巨大なる蔦の槍を射出する。ミサイルポッドからミサイルを撃つように、無数の 蔦槍(アイビーランス) が、ロキへと向かう。

「『忍者』の切り札を見せてやるよ!」

『明鏡止水』

ロキは犬歯を剝いて、その身体に純白のオーラを宿す。そうして、命中寸前の 蔦槍(アイビーランス) へと、短剣を振るう。

どう見ても、その質量と大きさから短剣は弾き飛ばされて、ロキの身体はぐしゃぐしゃになる。

そう予想していたゲルズだが、あっさりと 蔦槍(アイビーランス) は弾かれた。破城鎚の如くに巨大で、膨大なマナを注ぎ込まれた魔法の槍を。

キンと音がして、 蔦槍(アイビーランス) の先端に短剣が命中すると、あっさりと 蔦槍(アイビーランス) は細かな木片となって砕け散った。

次々と襲い来る 蔦槍(アイビーランス) を同様に、振るう手の動きも視認させずに、弾き砕いていく。

そうして、周りから迫る蔦を踏み台に、トントンと軽やかに飛び、接近してきた。

「ガッ、あ、あんた、何なのよぉ!」

動かないはずの左手を動かして、まったく痛みを感じずに、その動きを鈍くすることなく接近してくる化け物に恐慌し、ゲルズは残りのマナを使い切ることに決めた。

自らのマナを最後の一滴まで絞り出し、『 邪悪樹(イビルアーク) 』に巡らせる。『 邪悪樹(イビルアーク) 』の身体から、水晶の花が無数に咲き始めて、紫電を発する。

一日に二回使ったことのないゲルズの最終奥義。

「死ねぇ、化け物!」

『邪悪花水晶閃』

一斉に花が輝き、強き閃光が辺りを照らす。極大の光線が周囲へと発射されて、ロキを今度こそ欠片も残さずに焼き尽くそうとする。

「出番だ、近衛!」

『召喚インペリアルアント』

しかしロキは、腕を翳すと召喚を行なった。魔法陣が瞬時に描かれて、槍と盾を持つ巨大な羽根アリが姿を現す。

「チチチチ」

『聖騎士の誇り』

羽根を広げてホバリングをすると、盾を構えた羽根アリは魔法を使用する。

「なっ!」

なぜか自分の放った光線が全て羽根アリに集まってしまう。羽根アリは超高熱により、身体を燃やして消えていくが、同時にゲルズの放った光線も全て収まってしまった。

『 重圧(プレッシャー) 』

空中を駆りながら、ロキが短剣を掲げると、『 邪悪樹(イビルアーク) 』の身体が押し付けられて、動きが鈍くなってしまう。

地面にクレーターが生まれて、『 邪悪樹(イビルアーク) 』が押し潰される。

『攻撃3倍化』

森林から黄金の光線が放たれて、ロキの身体を包み込む。

「これで終わりだ、ゲルズ!」

「な、なぜ! ハッ、その姿は!」

眼前にまでロキが迫ったことで、ゲルズは驚愕の光景を見た。

抉られて存在しない左肩。その左肩によく見ないと分からないほどの左肩の輪郭が見えたのだ。透明であり、本当に目の前まで接近しないとわからないであろう。

なぜ左腕を動かせたのか理解した。

そして、その意味も理解した。

驚愕なる真実を。

「そ、その肉体は仮初……肉は殻であり、本体はそれなのねぇ! 魔法を封じても動けるその身体。マナをまったく感じないのに使える魔法……」

あぁ、とゲルズは理解した。

『マナ』を封じたのに、使える『魔法』。肉体を欠損しても、平気で動ける肉体の意味を理解した。

「よ、よこせぇ! 妾の求めた深淵が……?」

狂気なる執念から、命をマナへと変えて、ロキを倒そうとするゲルズだが、身体がピクリとも動かないことに気づく。

「な、なにここ?」

いつの間にか、ゲルズは荒れ地に立っていた。雷雲が空を覆い、草木の一本も生えていない土地。尖った岩山が目の前にあり、その先端にロキは立っている。

「HPが20%以下にならないと使用できない最終奥義をたっぷりと召し上がれ!」

不敵な笑みで、ロキは空高く飛翔する。

「う、動け! 動きなさい『 邪悪樹(イビルアーク) 』! なぜ動けないのぉぉ!」

どうやっても動かない『 邪悪樹(イビルアーク) 』に、ゲルズは声を枯らす勢いで絶叫するが、不思議なことに自身の体も動かない。

そうして、黄金のオーラで身体を覆ったロキが落下してくる。

「最終奥義!」

『疾風迅雷』

雷が『 邪悪樹(イビルアーク) 』に墜ちた。いや、雷ではない。

雷光の如く、ロキは『 邪悪樹(イビルアーク) 』の身体を二刀で切り裂きながら、突き進んでいるのだ。

もはやゲルズには視認できなかった。

光の速さでロキは『 邪悪樹(イビルアーク) 』の身体を奔る。雷光の如き軌跡だけが身体に残り、細切れに切り刻まれていく。

高層ビルと同等の身体を持つ『 邪悪樹(イビルアーク) 』の身体は手のひらよりも小さな細かい細かい破片となって、砕かれていく。

「あぁ……素晴らしいぃぃ、妾の求めていたものがぁ、『不老』が目の前にぃぃぃ」

ゲルズは自分自身が切り刻まれていく中で、新たなる気づきに涙を流していた。

この世界からは『魔法』の力を感じない。感じないからこそ『魔法』なのだ。

人間では感知できない『魔法』。

『マナ』を使う紛い物の『魔法』ではない。

本物の『魔法』だ。

この少女は本物の『ロキ』なのだ。

「わ、妾にも、その力の一端を……」

僅かに動く口を動かして、ゲルズは頼み込む。

長年研究していた深淵の力が目の前にあった。

『不老不死』を叶える力が目の前にあった。

望んでいた力が。

そうして、望んでいた力を目の前にしながら、ゲルズの肉体に軌跡がピピッと奔ると、細切れになっていく。

「わ、ワラワニ……」

最後の言葉を口にして、ゲルズの身体は石灰化して、風に攫われて散っていったのだった。

風がやみ、世界が元に戻っていく。

『ロキ』こと鷹野美羽は、チンと鞘に二刀を収めると、灰色髪をかきあげて、アイスブルーの瞳に冷酷さを宿し、フッと笑う。

「あばよ、ゲルズ。お前の植物園は違法建築だから押収だ」

燃えゆく森林を背景に、鷹野美羽とゲルズとの戦闘は終わるのであった。