軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

127話 茨姫とのボス戦だぞっと

蔦で絡まっている扉は意外なことに、四人が近づくとあっさりと開いた。棘だらけの茨は意思を持つように、奥へと続く通路を作っていった。

茨は意思を持ち、美羽たちを奥へと誘っている。暗闇の中、か細い光源の下、己の力だけを信じて先に進むしかない。

「どうやら、誘われているようです」

「だね……。皆の力があれば大丈夫。絶対に大丈夫〜」

「ニニー様の大技を喰らわせてやるわっ!」

「回復は任せてね!」

四人は顔を見合わせて、コクリと頷くと奥に歩き続ける意外と長い通路だ。

絡まり合う茨で怪我をしないように気をつけながら進む。闇夜は眉根を寄せて険しい表情で、玉藻も狐の尻尾をピンと立たせて、緊張している。ニニーだって、口を開くことはなく、黙々と歩く。

そうしてようやく辿り着いたのは、サッカーグラウンドがすっぽり入る広間だった。周りは全て茨で覆われており、ポツポツと毒花が咲いていて、毒花粉を撒き散らしている。

天井には『光花』が水晶のような花弁を光らせて、広間を照らしていた。床までびっしりと茨は這っており、転ぶと怪我を負いそうだ。

そして、その奥には5メートルはあるチューリップの蕾のようなものが生えており、その蕾から茨は無数に伸びていた。

『よく来たわねぇ。意外だったわぁ、毒花粉を耐えて魔物を駆逐するなんて、妾びっくりよ。子供なのにやるわねぇ』

どこからかゲルズの声が聞こえてくるが、その気配はない。また遠隔から花を操っているのだろう。

「真白お兄様を助けさせて頂きます」

「お兄ちゃんを出しなさいよねっ!」

「頑張っちゃうぞ〜」

闇夜たちはそれぞれの武器を構えて、慎重な足取りで蕾へと近づく。

『いいわよん。なら、妾の育てた自慢の花を採取できたら、会わせてあげるわぁ』

せせら笑いをしながら、からかうゲルズ。その言葉に合わせて蕾が開き始める。

『『茨姫』よ。貴女たちは果たして勝てるでしょうかぁ? 高みの見物とさせてもらうわねぇ』

間延びした声が途切れて、蕾が完全に花開くと、その姿を現した。

咲いた花の花弁は、美しき異形の美女であった。上半身のみが花の中心から生えており、その美しい豊満な肢体は植物である証拠で緑色だ。

頭には髪はなく、その代わりに毒々しい花が存在している。美しき顔立ちで、妖しい雰囲気を持ち、閉じていた切れ長の瞳を開くと血塗られたような赤い目が覗く。そうして、整った唇が開き始める。

唇全体にヒビが入ると、ワームのようにすり鉢状にベロリと皮を剝いて牙を剥いてきた。

「きしゃぁぁぁ!」

広間をその咆哮でビリビリと震わせて、体の周囲に紫の霧を纏わせて、手の代わりに生えている茨の蔦をピシリと鞭のように叩き、戦闘態勢をとってくるのであった。

『くははは! 妾の『茨姫』と死のダンスを踊り、最後まで立っていられるかしら?』

「皆、気をつけて!」

「了解です!」

ゲルズの哄笑を合図として、ボス戦は開始されるのであった。不気味なる花の姫たる『茨姫』と。

先手は、茨姫であった。瞳をきらりと光らせると、蔦の手を振るう。

それを合図に部屋全体を覆っている茨の蔦が震えて、棘が放たれた。

『茨雨』

全周囲から襲いかかる茨の棘。豪雨のように迫り、美羽たちは躱しようもなく、まともに受けてしまう。

「きゃぁっ!」

「いたっ!」

「くっ」

魔法障壁が発動されるが、連続での攻撃に耐えかねて、切れかけた蛍光灯のように瞬き、その効果を時折失ってしまう。

何発かが、少女たちの身体に食い込み、皆は痛みで顔を顰める。

『くははは、その棘は食い込みぃ、貴女たちを苗床にして生長するわよぉ!』

ゲルズが得意げに伝えてくれるとおりであった。

「くぅっ! この棘、芽が出てきて身体に入ってくるわ!」

『 快癒(キュア) Ⅰ』

『ニニーの毒Ⅰを癒やした!』

身体に命中した何本もの棘がパカリと割れて、根っこがニニーの身体に入り込もうとする。ニニーが恐怖の表情となり、棘を取ろうと手を伸ばすが大丈夫だ。すぐに美羽はちっこいおててを翳し、回復させた。

全ての棘は灰と変わり、サラサラと風に散っていく。

「状態異常回復は任せて!」

「え? あ、ありがとう」

「どういたしまして」

前世ではネトゲーで、味方が状態異常になった瞬間に治していたのだ。優れた白魔道士にとっては、これぐらいは楽勝である。毒は戦闘が終わるまで治さなくても良いですと言われても白魔道士は治しちゃうのだ。

ニコリと微笑むと、なぜか驚いた顔になるが、すぐに気を取り直して闇夜たちへと声をかけるニニー。

「その棘はき、け、ん?」

最後の方で、小声になっちゃうニニー。

「えと……大丈夫のようです?」

「おぉ〜、これって魔道具の力だよね。壁がピカピカって光ったよ〜」

闇夜と玉藻に食い込んだ棘は灰と変わって、風に散っていき、二人はポカンと口を開けて驚いていた。もちろんみーちゃんに突き刺さった棘も灰となったよ。

「毒攻撃だから、防毒の指輪が反応したんだよ!」

初心者さんには、ベテランが色々と教えてあげないとねと、むふんと胸を張って得意げにニニーに説明する。

『寄生』は『猛毒Ⅰ』で、スリップダメージのでかい攻撃だ。でも、『防毒の指輪Ⅰ』があれば、全て無効化するから安心です。

「寄生が毒って、どういうことよ! あんたらの防毒の魔道具はどういう条件付けで作られているのよっ!」

天才魔法使いは、魔道具にも詳しいらしく、顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。

「スリップダメージが入る状態異常攻撃はだいたい毒扱い」

「物凄い適当な条件付けだわっ! どうして魔法として発動しているのよっ! 普通は効果なんか発揮しないはずなのにっ!」

「今度機会があったら、担当者に聞いておくね」

機会があったら。いい言葉である。政治家の記憶にございませんと同じくらいいい言葉だ。

「戦闘中ですっ! それにみー様なので!」

「そうそう、エンちゃんだから!」

すぐに気を取り直して、闇夜と玉藻が前傾姿勢で、茨姫へと茨の蔦ででこぼこの地面を気にすることなく駆け出す。漆黒と金色の二人は、離れていた間合いを一気に詰めつつ、武器を構える。

「もぉぉ! 後でその魔道具みせなさいよねっ!」

「『カリバーンの革腕輪』と交換ね」

「うにゅっ!」

交換するわとは答えてくれず、ニニーもふわりと空を飛び、後に続く。

「きしゃぁぁ!」

『根槍衾』

茨姫が咆哮すると、闇夜たちの足元から槍のように先端が突き出てくる。

闇夜たちは、地面の揺れる振動で攻撃を感知し、僅かに脚に力を込めると加速する。

『影歩法』

その身体に漆黒のオーラを纏わせて、闇夜の速さは大幅に上がる。そうして漆黒の美少女は黒髪のおさげを後ろになびかせて、ジグザグに走る。

その速さに、根っこはタイミングを合わすことはできない。

『蜃気楼』

玉藻は、速さで勝負するのではなく、幻影で対抗するべく、姿を朧に変える。駆けている玉藻を貫くが、木の葉と変わって、本人へのダメージは入らない。

ニニーは空を駆けて、根っこを旋回しながら躱し、命中しそうなものは、魔法を放ち対抗する。

「はぁっ!」

裂帛の声をあげて、茨姫へといち早く辿り着いた闇夜が夜天を振り上げる。

「グキャア」

茨姫は茨の手を鞭のようにしならせて、肉薄してくる闇夜へと攻撃を、繰り出す。

ヒュンと風斬り音をたてて迫る茨の鞭。当たればその棘により、肌は抉られてズタズタに切り裂かれる。

「てぇいっ!」

しかし、闇夜は恐怖することなく、対抗する。

闇夜の刀と、茨の鞭とが打ち合う。ガキンと硬質な音を立てて、お互いに高速で攻撃を繰り出し、激しい打ち合いを行う。

「いただきだよ! コンコーンッ!」

ニカリと悪戯そうな笑みを浮かべて、金色の狐っ娘が茨姫の横から回り込み、扇をひらひらと舞うよう扇ぐ。

『木の葉乱舞』

数枚の木の葉がひらりと扇から生み出されたと思うと、大波のように膨大な量となり、茨姫を押し流す。

視界が阻まれて、動きが鈍くなる茨姫に、パチリとウィンクすると、玉藻はパンと扇を閉じて、茨姫へと向ける。

『妖炎蛇』

扇の先から炎の魔法陣が描かれると、炎蛇が召喚されて、木の葉に埋もれた茨姫に巻き付くと一気に燃え上がる。

木の葉は燃えやすいようで、猛火となって茨姫を焼き尽くそうとする。

「追撃です!」

茨の鞭による攻撃が収まったとみて、闇夜も夜天にマナを込めると、必殺の武技を放つ。

『闇剣2式 影斬り』

闇夜が刀を一閃すると、刀の影が伸びて茨姫の影を切り裂く。

「ぐぇぇぇ!」

燃え盛る身体が切り裂かれて、緑色の血を流して苦悶の悲鳴をあげて、身体を折って苦しむ茨姫。

「この技は貴女の身体とマナ両方を切り裂きます!」

残心となり闇夜が黒曜石のような美しい瞳を細めて、凛々しく言葉を告げる。まさに女侍といったかっこいい美少女だ。

「グキャア!」

『光合成』

だが、茨姫は体を激しく振るうと、木の葉を打ち消し、頭の花を大きく開くと自己回復の魔法を使う。頭上から太陽の光が差し込み、切り裂かれた傷を塞ぎ、みるみるうちに体を癒やす。

『フギン!』

美羽の思念を受けて、フギンがカァと鳴いて、茨姫を解析する。

『強化茨姫:レベル46、弱点斬、火』

少し予想よりレベルが高い。ゲルズが強化しているのだと、俺は目を険しくさせる。この時点で強化はできるのか。

「これでどうっ!」

『 爆炎(バースト) 』

タクトを振るい、さらなる追撃をニニーがするが、予想外のことが起こった。

茨姫を爆炎が包もうとするが、体に触れるとすぐに消えてしまったのだ。

「抵抗されたのっ!」

『完全魔法抵抗』だ。低位の魔法は強き魔法使いの纏う魔力の前に打ち消される場合がある。

だが、ニニーが使ったのは中位魔法だ。抵抗はされてダメージは軽減されても普通は『完全魔法抵抗』はされない。

動揺するニニーだが、俺はなぜかを知っている。

聖属性以外の属性を使いこなすニニーだが、実はその魔法の威力は極めて弱いんだ。試合では通用するが、本当の戦闘では通じない。

それこそが、ニニーの弱点。魔塔の中のみの天才であり、実戦では役に立たない魔法使い。だからこそ、先程は『魔法強化』をニニーはわざわざ使ったのだ。

隙を見せたニニーへと、地面から根っこが突き出し襲う。

『瞬きの矢』

すぐに俺は弓を構えて、ニニーを貫こうとする根っこへと、瞬速の矢を撃ち出す。

タンと弦が鳴ったと思うと、根っこに矢は突き刺さっており、爆散させた。

「た、助かったわ」

悔しそうな顔をしながらも、お礼を言ってくるニニーに、良いんだよと答えようとした時であった。

『ふふふ、回復魔法使いをいただきねぇ〜』

ゲルズの可笑しそうな声が聞こえてくる。

『洗脳棘』

蔦の隙間から、紫色のオーラを纏う一つの棘が飛んでくると、美羽の身体に突き刺さる。弓を撃った体勢では、躱すことはできなかった。注意をしてたのにやっちゃった!

「しまった!」

棘が突き刺さり、ドロリと頭に何かが流れ込んでくる感じがする。膝をついて、視界が揺らぐ。

揺らぐ視界に、表示されたログが目に入る。

『鷹野美羽は魅了された!』

まずいと思ったが、その思考は虚ろとなり、美羽の動きは止まるのであった。