軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

125話 攫われちゃったぞっと

思念にて、オーディーンのお爺ちゃんとの通信を終えた鷹野美羽は辺りを見回し、ふぅとため息を吐いた。

「なんというか。モブだよね」

モブらしいやられっぷりを見せちゃったよ。

美羽の周囲は巨大な蔦でびっしりと覆われていた。広い場所だが、地下なのだろう。蔦でびっしりと覆われているが、土が隙間から見えている。蔦のあちこちに、小さな花が咲いているが、花弁が牙である。びっしりとすり鉢のように小さな牙をぞろりと生やしている。

地面もびっしりと蔦で敷き詰められており、でこぼこの地面は歩きにくい。

日差しが届くことはなく、光源の一つもないので、暗闇が支配しており、蔦の塊のいくつかから、何かの気配がする。

魔導鎧を着込んだ人骨が蔦の中にチラホラと見えて、極めて不気味で恐怖を誘う光景だ。

「真っ暗ね、何も見えないわっ。今明かりをつけるわよ」

『 永遠光源(ライト) 』

ニニーが手を翳すと、光球が生み出されて天井へと浮かぶ。光球は辺りを照らす強い光を放ち、皆はホッと安堵の顔をした。

みーちゃんはというとね……ゲームでは暗闇は暗闇なんだけど、普通に視界が通ったんだ。ほら、昨今のRPGって、灯りは面倒くさいから省かれちゃうだろ?

即ち弱い効果だが『暗視』の能力がプレイヤーキャラクターにはデフォルトで付いているんだ。薄暗くはあるので、細かなところは見えないんだけどね。あくまでもぼんやりとだから、真っ暗闇でも、なんとか輪郭が見える程度だ。

「うわっ、なにこれ? ケホンケホン?」

灯りで照らされたことで気づいたが、玉ねぎ型の広間だった。そして、宙には毒花粉が充満している。

玉藻が顔をしかめて、狐耳をペタンコにする。花粉を吸い込まないように、口を手で押さえる。

だが、『防毒の指輪Ⅰ』の効果が発動し、皮膚に触れる寸前で花粉はピタリと止まり、地へと落ちていった。

玉藻はほっと安堵し、闇夜はこの空間がなんなのかを理解して目を険しく変える。

「これは……罠ですか。まずいですね」

「ごめんね、皆。巻き込んじゃったね。……でも、助けようとしてくれて、嬉しかった」

みーちゃんは素直にペコリと頭を下げる。謝罪と一緒にお礼も言うのだ。頬を僅かに染めて、はにかむ笑顔を見せちゃう。

「いえ、みー様の危機でしたので、当たり前です!」

「うん、お友だちがピンチの時は助ける! 当たり前だよね。当然だよね〜」

「……ありがとう皆」

心の底から嬉しく思う。ありがとう、闇夜、玉藻。二人のおててを握りしめて、感謝の気持ちをこめてニコリと微笑む。

「そこでいちゃいちゃしている三人! これまずいわよ。あの蔦に生えている花から吹き出している花粉は『麻痺毒』よ。この蔦は食人花『茨姫』の蔦に違いないわ! 書物で見たことあるもの!」

「麻痺毒ですか?」

真剣な目つきになる闇夜に、ニニーも険しい表情で頷く。

「えぇ、捕らえた獲物を麻痺状態にして、生きながら餌にして食べる魔物ねっ!」

「それはまずいね〜。全部燃やしちゃう?」

「駄目よ。見なさい、『爆裂花』や『石化花』も蔦の中に混じっているのよ!」

扇に炎を灯そうとする玉藻を慌ててニニーは止める。博識な魔法少女だこと。

『そのとおり。貴女たちは、いずれ動けなくなり、妾の植物の栄養となるのぉ』

おどろおどろしい声が広間に響く。おどろおどろしいが、女性の声だ。

「何者です!」

バッと皆が武器を構えて、周囲を警戒する。その行動を見ているのか、おどろおどろしい声音はなくなり、からかう声に変わる。

『ふふふ、くははは、妾の名前はゲルズ。ニーズヘッグの五人衆の一人。嗤う植物園の所長ゲルズ。ようこそ、妾の新しい植物園に』

「ニーズヘッグ? 怪しげなカルト集団で、たびたび世間を騒がすニーズヘッグ?」

「玉藻も聞いたことがあるよ! 珍しい魔導具を盗んだり、儀式魔法で村を滅ぼしているテロリスト集団!」

闇夜と玉藻が武器を構えて、辺りをますます警戒しながら、ニーズヘッグのことを口にする。

「あたしも聞いたことがあるわっ! 世界中で騒ぎを起こす集団ね! 魔法使いの間では有名よっ!」

「ナンダッテー、ソンナシュウダンガー」

タクトを辺りへと向けながら、険しい顔でニニーも説明を補助してくれて、美羽はギクシャクと木のパントマイムをして驚く。

皆がそれぞれ真剣な表情で、辺りを見渡す。そうなのか、皆も知っているのか。なんで知ってるの? たしか秘密結社だよね? 原作では、皆は戸惑うんだけどね。

現実では『ニーズヘッグ』は有名なんだな。そりゃ、各地で魔法絡みの騒ぎを起こしてりゃ、魔法使いの間では有名になるか………。

モブなみーちゃんは、そんなことがと驚きを露わにしちゃうよ。迫真の演技のモブだよね。原作と同じようにみーちゃんだけは、驚いてあげるよ。なんか哀しいので。

『よく知っているようねぇ。本来は聖女を攫う予定であったけど、これは幸運だったわ。これ程の才能の持ち主を手に入れることができるなんて』

アハハハと耳障りな笑い声が、広間に響く。

ゲルズめ、才能溢れる闇夜たちとみーちゃんを攫ったのか。聖女一人よりも四人の方が良いと思ったのか。みーちゃんを囮に三人も釣ったのか。狡猾なやつ。

「真白お兄様も貴女が攫ったのですね!」

『あら? そのとおり。真白はこの奥にいるわよ』

「帝城家に手を出すとは、良い度胸ですね!」

闇夜がその目に昏い光を宿して、怒りの声音で夜天を構える。

『あら、そうなの? そう、帝城家の娘だったの? ふふっ、アハハハ、この奥に真白はいるわぁ。助けに行ったらどうかしらん?』

馬鹿みたいに下品な笑いをして、ゲルズは挑発してきた。その笑いに合わせて、壁を覆っていた蔦が割れて、通路が現れた。

『この奥に真白はいるわ。でも、来れるかしら? この空間は毒花粉が充満して、様々な魔物が貴女たちを歓迎するべく待っているわ。ふふふ、倒れても真白の下へは来れるから、安心してねぇ。アハハハ』

「帝城家を舐めてもらっては困ります! 必ず真白お兄様をお助けします!」

「魔塔の天才の力も見せてあげるからね!」

闇夜とニニーが怒りの表情で、ゲルズへと激昂しながら答える。その小柄な身体からは怒りのオーラを吹き出しており、恐ろしいほどだ。

『ふふふ、アハハハ、元気ね、貴女たち。今から泣き叫んで命乞いをしてくる様を想像すると、ゾクゾクするわ。マナが尽きたガラクタの魔導鎧を着て、その防毒の結界のマナが空になる前に急ぐことね!』

「それじゃ、ゲームスタートだね! ゴールで待ってなっ!」

ムカつく口上をスキップだと、素早く弓を構えて弦を引絞り、さっきからこっちをジロジロと見ている天井に張り付いていた花へと矢を放つ。

花弁は血走った大きな目玉でできており、ギョロギョロとこちらを見つめていたのだ。

空を切り裂き、魔法の矢は目玉へと命中し、パンと破裂させた。

「あんた良くやったわ! あれは『魔眼花』ね。儀式魔法で、『感覚共有』できる特殊な魔法生物よ」

「明らかに怪しげだったからね!」

ゲームでもいたからね! ゲルズイベントのダンジョンで。ゲームでは、このダンジョンを攻略せずに、野生児ヒロインに頼むと、一気にボスの所に行ける。

だが、裏ルートがあるんだ。野生児ヒロインをパーティーに入れないと、ダンジョンを攻略するルートになる。

野生児ヒロインはダンジョン入り口前で仲間になるから、通常は裏ルートには入ることはない。入り口前に到着したのに、わざわざ街に戻るプレイヤーはなかなかいないからね。

俺は攻略サイトで知ったよ。

ダンジョンは毒が充満しており、装備を整えないとクリア不可能な高難易度。高難易度ということは……ゲーマーならわかるよな? とってもドロップが良いのだ。

とはいえ、今回こんなことになるとは想像していなかった。単に毒の地形だから防毒の指輪を持ってきたんだけど、役に立って良かったよ。

それにゲームとはダンジョンの光景も違う。高レベルの魔物はいなさそうだ。新たな植物園といっていたから、まだ低レベルの魔物しかいないに違いない。多分植物を操る力の源を手に入れてないからだ。

『アハハハ! 良いわ。待ってあげるわぁ。きっと動けない身体になるでしょうけど、頑張ることね!』

「もう一輪!」

ていっと、魔法の矢を放ち隅に隠れていた魔眼花を破壊する。今度こそ、ゲルズの声は静かになり、監視の目は消えるのであった。

しかし、ゲルズが去ったあとに、闇夜たちの顔は暗い。

「まずいわね……。防毒の魔道具を持っているのよね? あと何時間持つかしら?」

「ニニーさんも防毒の魔道具を持っているのですよね?」

冷静になったニニーたちは話し始める。ニニーは防毒の魔道具と聞いて、小手を外す。その細い腕には、革の腕輪を嵌めている。

「それは?」

「これは神代の時代。大魔法使いマーリンが作った『カリバーンの革腕輪』よ。円卓の騎士のために作ったカリバーンの鞘の残りで作ったらしいの」

「お婆ちゃんのもったいない精神だね! アデッ」

ポカリとみーちゃんの頭を叩いて、ニニーは自慢げに『カリバーンの革腕輪』を見せつける。

「知っての通り、カリバーンは剣は炎を宿し、鞘は身体を癒やすの。この『カリバーンの革腕輪』もかすり傷程度ならすぐに癒やすし、毒や病から身を守ってくれるわ。しかも神代の時代の神器だからマナが尽きても自動回復するのよ。この程度の毒なら、1日は余裕で持つわ」

知ってる知ってる。インディーなジョーンズの小説でその効果は読んだよ。なるほど、1日も保つのか。

「エンちゃん、この指輪はどれぐらい保つかな? サファイアが嵌められているけど、稼働時間はどれくらい?」

「この毒花粉が充満している空間だと、消費は激しいはずです。通常の稼働時間の半分以下と考えた方が良さそうですね」

魔道具の専門家の玉藻が、薬指に嵌めた防毒の指輪を見ながら言うと、闇夜も難しい顔で会話に加わる。

「小型の防毒魔道具を持っていたのね。でも、その小ささじゃ、一時間といったところかしら?」

ニニーが玉藻たちの指輪を見て、予想をつけて、三人はみーちゃんへと顔を向けてくる。

「稼働時間、稼働時間、稼働時間……せ、千年、いや、千分ぐらいかなぁ? ううん、五百分くらいだったかも!」

稼働時間ね。へー、稼働時間か。そんなんゲームには無かったよ。

「エンちゃん、稼働時間を知らないの?」

「と、とりあえず百時間は連続稼働する安心安全設計って聞いてる!」

「え? ひゃ、百?」

「指輪のマナが尽きたら、装備者のマナを使用するんだって言ってた! たしか言ってたよ!」

ゲーム仕様の魔道具だから、効果は永遠に続きますとも、言えないので目の中に魚群を泳がせながら答えておく。

「それよりも、ボスの所に急ごうよ! そこの人骨が装備しているの魔導鎧のようだから、魔石が残っているかも!」

もはや勢いでごまかすしかない。瞳にカジキマグロのバタフライを見せながら言う。まずはなにはともあれ、魔石を手に入れなければならない。魔導鎧に補充すべく、加工済み魔石が必要だ。

蔦に絡まれて死んでいる人骨へと走り寄り観察する。

蔦に肉は喰われたのか、綺麗な人骨だった。でも10歳の少女に死体あさりをさせるわけにもいかない。ここは精神年齢が大人のみーちゃんが動かないといけないだろう。

素早く魔導鎧を外して、チャカチャカと操作しマナドライブから魔石を抜き出す。

「取れたよ! まだ使えそう」

玉藻が。

魔石を抜き出して、玉藻は嬉しそうな顔をして報告してきた。

うん、これどうやってマナドライブのカバー外すの? ゲーム仕様の弱点だよ、ジョブが『機工士』じゃないから、知識が消えていて、さっぱりわからないや。ちょっと反省。帰ったら勉強することにしよう。

でも、玉藻は魔導具のスペシャリストの家門。手慣れていて当然か。

えーと、んーと、たしか、ここがこうだから、同じ規格だと、ここがマナドライブのカバー……。うん、ゲームでは燃料の概念はなかったからなぁ。単に嵌めれば永久に稼働した。

その代わり、魔法障壁は単なる防御力だったけどね。空を飛ぶのとか、魔法を放つのはMP消費したけどさ。ゲーム仕様の魔導鎧は絶対に見せられないな。

「私も取れましたわ」

「あたしもオーケー」

闇夜たちも魔石を取り外せた模様。

「見つけたよ!」

みーちゃんもようやくカバーを開く方法を見つけて、魔石を手に入れた。やったねと満面の笑顔で魔石を見ると石化していた。これ、中身空だ。

ほとんど残量が無かったよ。ハズレを引いたらしい。ドロップアイテムで、仲間は目的の物を手に入れることかできて、自分はハズレ。あるあるな悲しいパターンだ。

「はい、エンちゃん。エンちゃんの分だよ。玉藻とお揃いだよ〜」

「ありがとう、玉藻ちゃん」

玉藻はとっても良い子だ。頭を撫でちゃうよ。

そういや、皆は訓練でスケルトンとガンガン戦っているんだから、いまさら恐れないわな。

皆は魔導鎧に魔石を投入して、再稼働させる。魔法障壁が張られて、闇夜たちはようやくまともに戦闘できるようになったと安堵する。

「一応聞いておくけど『鏡渡り』で逃げるつもりは?」

「ないに決まっているでしょ! お兄ちゃんがこの先にいるのよ!」

「みー様。お力をお貸しください」

だよねぇ。ここで逃げる選択肢はないよな。

この先が予想通りなら、トラウマ鬱展開だが………仕方ない。なんとかするしかないだろう。

「よし、それじゃゲルズをぎゃふんと言わせよう!」

「おー!」

皆の掛け声と共にみーちゃんは不気味に広がる通路へと足を踏み入れるのであった。