軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123話 偽りの蝶

「『ゼピュロス』! こんな場面でかよ、畜生め!」

ヤバいと、勝利は周りを見渡して警戒する。凄腕の風の魔法使いである『ゼピュロス』ならば、『姿隠し』の術で、側に潜んでいてもおかしくないと考えたからだ。

目の前にいる敵が『ゼピュロス』だとは、欠片も思わなかった。『ゼピュロス』を知っているだけに。

だが、その挙動は不自然極まりなかった。特にある人物にとっては。

「俺っちが『ゼピュロス』っすよ」

ウィング搭載の魔導鎧を着込んだ者が、親指を自身に向けて軽い口調で答えを返す。

「馬鹿いえ! お前が……『ゼピュロス』?」

『ゼピュロス』の魔導鎧『アネモイ』は何回もバージョンアップされたが、その全てを勝利は知っている。それに『ゼピュロス』自身も勝利は知っている。

あんな軽い口調の男ではない。『ゼピュロス』は悪名高い傭兵で、好戦的で荒々しい口調。まさに傭兵といった男であった。

たしかによくよく見れば、『アネモイ』に似ている魔導鎧を着込んでいる。よくよく見ればだ。パチモンの造形の甘い『アネモイ』にしか見えないが。なんで『ゼピュロス』と名乗っているんだ?

「グハハハ! 形勢逆転だな!」

拘束を解かれた長政が、馬鹿にするように哄笑をあげる。あの筋肉馬鹿が解放されてしまったことに青褪める。

周りにはポイズントレント。上空には『ゼピュロス』のパチモンと怪しげな男。そして、筋肉馬鹿の長政。逃げ道は蔦で防がれており、親父のマナは半分以上消費していて、聖奈に至ってはマナが枯渇している。なにより300名の部隊全員の魔導鎧の魔石が空なのが痛い。

死という未来が勝利を襲い、恐怖で身体が震える。畜生め、神たる僕の上をいくとは。逆転の目がねぇぞ!

「またマナを回復されたら、堪らねぇからな。俺は燕楽を殺る! お前らはそこの小僧を殺れ!」

「それは追加料金を貰えるということでいいすか?」

「あぁ、払ってやる! 俺の個人資産は既に秘密拠点に移してあるからな」

「了解っすよ。『ゼピュロス』が行くっすよ〜」

軽い口調で、気軽に長政の新たなる依頼を受けたパチモンゼピュロスが、勝利へと身体を向ける。

「まずいな、皆、力を尽くせ!」

「切り札の数は俺が上回っていたようだな!」

親父が険しい顔で、長政と対峙する。せせら笑いを見せて長政は親父へと襲いかかる。

二人がぶつかり合い、激しい戦いが始まる。長政の突き出される拳撃を親父は受け流し、カウンターでの蹴りを食らわすが、微動だにせずにさらに攻撃を繰り出す。格闘術は親父が上だが、やはり『神鎧』は破壊できないため、明らかに劣勢だ。

「お兄様! 馬鹿なことは止めてください! すぐにバレて指名手配となるだけです!」

「大丈夫だ。俺は『ニーズヘッグ』の幹部となる予定だからな!」

必死になって制止の言葉を口にする聖奈の悲痛な叫びも、気にする様子はなく、得意げに答える長政。原作通りに、『ニーズヘッグ』に身を寄せるつもりなのだ。

「周りを気にしている暇は君にあるのかな?」

上空から直下してくる漆黒の男が、腰から柄だけの武器を取り出すと、勝利へと接近してくる。柄からは水銀が湧き出して、片刃の刀身を形成した。

「悪いっすね、若い身空で死んでくださいっす」

同様にパチモンゼピュロスがウィングを広げて、高速で迫ってくる。

「くそっ!」

『紅蓮水晶短剣化』

残る2個の水晶を組み合わせて、短剣へと変えると腰を落として身構える。

「その魔法は見たことがないな」

「オリジナル魔法だからな!」

漆黒の男が片刃の剣を横薙ぎに振るってくるので、短剣を合わして防ぐ。すぐに切り戻して相手は連撃をしてくる。

「ウォォォ!」

迫る高速の斬撃を勝利は必死になって防ぐ。ぶつかりあい、火花が散って金属音が鳴り響く。

「とやーっす!」

『 風矢(ウィンドアロー) 』

パチモンが気の抜ける声と共に、『 風矢(ウィンドアロー) 』を撃ってくる。

「ふぅぉぉ!」

横っ飛びに『 風矢(ウィンドアロー) 』を躱して、手のひらを漆黒の男へと向けてマナを集める。

『業火』

軽く一人を焼き尽くせる炎が逆巻き、漆黒の男を覆い尽くそうとするが、相手は小手を翳して迎え撃つ。小手のバックルがずれると宝石が姿を見せる。

『氷結』

低温の霧が猛火にぶつかり、水蒸気が発生し防がれる。

『紅蓮焔蛇』

小さな炎の蛇が無数に生まれて、漆黒の男とパチモンへと向かう。その身体をくねらせて、小さな牙を剥き出し、空を飛んでいく。

噛まれたら、炎の毒が入り込み、内部から相手を燃やし尽くす勝利の切り札だ。紅蓮で魔法は統一しようと考えている勝利である。対シン用に作り上げたもう一つの魔法だ。

数百匹の焔の蛇。躱し切れず、対抗もできない。マナが空になるが、なりふり構っていられない。まずはコイツらを斃さないと殺されてしまう。

視界が暗くなり、貧血となったように身体が震えてマナが尽きたことにより、身体強化もできなくなった勝利は膝をつきそうになってしまう。

ほとんど全てのマナがなくなってしまったのだ。これで決まってくれと、祈りを込めて敵を睨む。

「うひょおー! 凄い数っすね!」

「実に面白い魔法を使うものだ」

パチモンが慌てて、ウィングからマナの風を吹かせて後ろへと逃げていき、漆黒の男は宙で回転しながら、宝石をばら撒く。

宝石から、炎や氷が巻き起こり、勝利の放った焔の蛇を阻む。

「無駄だ! そんなしょぼい魔法で僕の魔法が防げるものか!」

勝利は漆黒の男が使用した魔法の宝石を見て、雑魚魔法だと判断した。

事実、その身が超高熱で成る焔の蛇は、氷に覆われても、雷で撃たれても、その身体は霧散することなく、漆黒の男へと向かう。

怪しげな男だが、原作では見たことがない。たぶん雑魚モブの傭兵なのだ。だから、一見強そうに思えるが、しょぼい魔法が込められた宝石を多用するだけの弱い男なのだろう。

「うひゃおー、これは厄介っす」

飛びすさる漆黒の男が、悲鳴をあげるパチモンと合流する。パチモンは迫る焔の蛇へと慌てて手を翳す。パチモンの身体から闇のオーラが吹き出すと、その力を発動させる。

『ブラックホール』

小さな闇の穴がポツリと宙に生まれる。

ほんの野球ボール程度の大きさだが、その威力は絶大だった。空間を歪めて、超重力にて全てを吸収し始める。

その超重力に引っ張られて、焔の蛇は全て吸い込まれていってしまう。一匹残らず吸い込まれてしまうと、闇の穴は消えて何事もなかったかのように、きれいさっぱりと跡形もなくなった。

「うへぇ……ほとんどマナを使ったっす」

ぐったりと肩を落とすパチモン。勝利は自身の切り札たる魔法が消されたことに驚くが、それ以上に驚愕したことがあって、目を剥く。

「その魔法……そして、その口調、まさかアンナルか!」

騒然とする戦場に、勝利の言葉は幸いなことに漆黒の男とパチモンにしか届かなかった。燕楽は長政と戦闘中、聖奈は離れた場所で護衛に守られている。

「あれぇ? 俺っちを知っているっすか? どこかで会ったことがありましたっけ? まずいっすよ、団長。面が割れてます」

慌てるアンナルだが、もっと勝利は慌てていた。アンナルがここにいるわけがない。

「な、なんで、こんな所に! 奴隷のお前がここにいるわけがない……。お前、なにもんだ!」

「ふっ、なるほど。君はどうやら色々と知りすぎているらしい。だからこそか」

腕組みをして、余裕の態度を見せる漆黒の男に、勝利は蒼白となった。意味がわからない。いや、わかる。頭の片隅で理解している。

転生者だ。先回りして、強くなるはずだった敵キャラを仲間にしているのだ。

設定集で読んでいる。アンナルはまともに訓練すれば、強者になるはずだったキャラクターと書いてあった。だが、奴隷のためにろくな訓練も受けておらず、シンにあっさりと殺された雑魚キャラクターだ。

そいつを仲間にしているということは、転生者でしかあり得ない。

「君の立ち回りはたいしたことはない。ここで殺しておこう。さらばだ、勝利君」

「クッ……てめぇ……」

ギリッと歯ぎしりをして、勝利は残り少ないマナで対抗しようとする。

だが、戦力差は絶望的だ。漆黒の男はたいしたことはないが、それでもアンナルとコンビネーションを組んで攻撃されたら、勝利の敗北は確実だ。

「それじゃあ、さよならっす」

ホバリングしているアンナルが、軽い口調で勝利へと攻撃をしようと身構える。

「むっ! 躱すんだ、アンナル!」

「へ? ぬぉぁぁ!」

だが、漆黒の男が何かに気づいて、注意を口にしてその場を離れる。

『 雷光鳥(プラズマバード) Ⅲ』

鬱蒼と茂る草木の合間から、不死鳥のような姿の雷で形成された鳥が飛び出してくると、アンナルへと命中した。

アンナルはまともに受けて、その身体が雷に包まれて発光すると、一瞬で焦げた塊となって地上へと墜落していった。

『 雷光鳥(プラズマバード) Ⅲ』

「くっ」

続いて、2発目の雷光鳥が飛来してきて、漆黒の男は慌てて木々の合間に入り込み、空を飛び枝葉の間を縫うように逃げる。

だが、雷光鳥は逃げる漆黒の男へと正確に追尾する。合間にある枝葉は燃やすことなく、ただ弾くだけで翼を広げて、高速で漆黒の男に迫る。

漆黒の男は宝石をばら撒くが、雷光鳥は旋回して躱していくと、紫電を跡に残して、漆黒の男へと迫っていく。

「完全追尾型? 敵以外には効果を発揮しない? しかも迎撃を躱すとは……何という高等魔法!」

驚きの言葉を発し、漆黒の男は眼前に迫る雷光鳥に手を向ける。

「仕方あるまい」

雷光鳥はその手に食いつき、瞬時に高熱のプラズマで燃やそうとするが……。

驚くことに、触れた嘴からその構成は消えていき、欠片も残らず砕かれた。

「ほぅ……儂の魔法を消すか……興味深い」

木々の合間から、老人の声がすると、のそりとその姿を現した。

古き帽子を被り、ボロボロのマントを羽織った老人であった。隻眼であるのか、片目を瞑っている。

「ご老人は何者でしょう?」

漆黒の男は空にてピタリと止まると、老人へと尋ねる。

「ふむ……森が随分と騒がしいのでな。少し様子を見に来たのだ」

「ドルイドの魔法使いとお見受けします。さわがせて申し訳ない。貴方たちとは関係ないこと。ここは去ってもらえないでしょうか?」

「ドルイド狩りをしている者を放置してかね?」

ついっと、皺だらけの指を老人は漆黒の男へと向ける。その瞳は鋭く見るものを畏怖させる力を持っていた。

「……しまったな。想定外だ。なるほど、私が蝶になる可能性もあるのか。これまで以上に慎重に動かねばならない、ということか」

漆黒の男は、勝利へと顔を向けると口元を笑みに変える。

「これ以上、蝶に羽ばたかれるのは困るが……残念だ。勝利君。君を殺すのは止めておこう。これを教訓におとなしくしてくれることを希望するよ」

そう告げると、漆黒の男の身体はぼやけて、空気中に溶けるように消えてしまうのだった。

予想どおりに倒したはずのアンナルの死体も存在していなかった。

「僕は負けないっ! どんな障害があっても!」

ニヤニヤとニヤケ顔になり、勝利は一気に優勢となったので、調子にのってシンの言葉をパクった。なにに負けないかはわからないが、とりあえずかっこいいことを言っとけと、調子にのった。

そして、バッと振り返ると老人を見る。

「ご老人、頼みます! 加勢をお願いします!」

勝利は謎のドルイドの老人へと必死な表情でお願いする。

見たことがない強力な魔法を使う謎の老人。

謎の魔法使いの老人。原作ではいなかったキャラだ。こういう現れ方をするキャラは強いと相場が決まっている。

そして、勝利の師匠にもなってくれるパターンだ。

キタキタキタキター。よくあるテンプレ。僕はモブな主人公になるのではと、内心では狂喜乱舞するのであった。