軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105話 強さを見せつけるにはちょうどいいんだぞっと

10メートルを超える巨大な体躯。強い陽射しの下で、キラリと光る金属のような甲羅。ギロチンのような分厚い鋏。その巨躯の前に立つ、ちっとも背が伸びないみーちゃんはありんこのようなものだ。

グォォォと叫ぶ巨大カニは、閉じた鋏を俺へと振り下ろしてくる。まるで岩石のような鋏が迫りくるので、俺は腕をクロスする。

『防御』

防御モードになった美羽の身体を鋏が押し潰そうとし、影で覆われる。

『無影歩法』

フンスと防ごうとした美羽だが、蜃気楼のように身体を揺らめかせて、真白が俺を助けようと駆け寄ってきた。視認も難しい速さで、影を残さず走り寄る。

そして、俺の身体がふわりと浮くと、お姫様だっこで抱えられて、カニの一撃を回避するのであった。

「ありがとうね!」

美羽は花咲くような笑みでお礼を言う。

「闇夜ちゃん!」

闇夜に。

だって、お姫様だっこで助けてくれたのは闇夜だったので。

「ちょ、そこは僕が助ける場面じゃないかなぁ、闇夜?」

えぇ〜と、非難がましく、ジト目で真白が俺をお姫様だっこする闇夜の側に、スッと現れる。

うん、真白は『無影歩法』とやらで、不思議な身体を蜃気楼のように揺らめかせる歩法で、高速で走り俺に手を伸ばして来た。

だけど、『影疾走』を使い闇夜も駆け寄ってきたのだ。そして、一歩早く俺をお姫様だっこして、飛び退ったのだった。

「ふふ、申し訳ありません、お兄様。みー様を助けるのは私なんです。こればかりは譲れませんわ」

スゥと切れ長の目を細くして、何やら不思議な威圧感を醸し出し、闇夜は真白へと告げる。

「はは、愛されているね、美羽ちゃん」

真白は頬をポリポリとかいて、空笑いしながら、巨大カニへと向き直る。そこでは既に金剛お姉さんたちが攻撃を開始していた。

行動が早いよ。ここはみーちゃんの見せ場じゃないの?

「あれは年に一回現れるかというレアな魔物だよ。『傭兵カニ』だね。椰子の実カニを守るために現れると言われていて、ここが人気のない理由の一つでもあるんだ」

もしかしたら百匹連続で倒すと、出現するレアモンスターかもね。信じたくはないけど。きっと偶然だよ。

『傭兵カニ:レベル35、物理耐性、水耐性、弱点、土』

そこそこレベルの高いカニさんだ。たぶんレアモンスターと言っていたので、同じレベルの雑魚と比較しても、HPを始めとして、桁違いに能力が高いに違いない。

オラァと金剛お姉さんが、傭兵カニに戦斧を叩きつけているが、うじゃうじゃと胴体から複数生えている脚の一つを砕こうとしたが、硬そうな金属音をたてて弾かれていた。

「硬そうなカニさんだね」

降ろしてと闇夜に頼み、砂浜に着地する。カニのボスって、異様に硬いんだよなぁ。前衛は常に防御で、後衛がひたすら魔法を撃ち込むのが最適解だ。

防御貫通の武技でないと、あのカニは『物理耐性』を持っているしね。

「そうですね。皆で戦う必要があるでしょう」

夜天をシャキンと構えると、黒曜石のような美しい瞳に力を宿らせて、凛々しく闇夜は言う。靡く黒髪のおさげをかきあげて、その姿はとっても美しい。まるでアニメの主人公みたいだ。巨大な敵に対峙する闇夜ちゃんは、アニメならば顔のアップで後半に引きになるだろう。

「任せて! コンコン!」

コンコン狐っ娘の玉藻が、空高くジャンプすると、身体をひねり、ニカッと笑い、掌を傭兵カニに向ける。

『妖炎蛇』

ゴウッと掌から赤き炎が放たれる。空中で炎は大蛇の形に姿を変えて、傭兵カニを燃やし尽くさんと襲いかかった。

うねりながら、炎の大蛇は巨大なカニの胴体を拘束するように巻き付き、その身体を熱していく。あんな魔法を使えたのかと、みーちゃんは感心しちゃうよ。

しかし、傭兵カニも負けてはいない。口元に泡を溜め始めると、身体に巻き付く炎の大蛇へと放つ。

『溶解水泡』

ブクブクと口元から泡は広がり、あっという間に炎の大蛇にまとわりつくと、ジュワッと水蒸気を吹き出し、消していってしまう。

そのまま、宙に浮く玉藻へと攻撃を仕掛けようと、鋏を振るう。暴風を巻き起こして、玉藻へと鉄塊のような鋏が肉薄するが、闇夜が夜天を掲げる。

「そうはさせません!」

『闇剣一式巨骸剣』

掲げた夜天に、闇のマナがまとわりつくと、人の骨へと変わっていく。相変わらずのダークな技だ。

組み合わされた多くの人骨が巨大な剣へと変わり、闇夜はざっと砂浜に強く足を踏み込む。

「はァァァッ!」

巨大な人骨剣は、呪われそうな不吉なオーラを撒き散らしながら、傭兵カニに振り下ろされた。メシリと傭兵カニにヒビが入り、数トンはあるだろう身体を後退らせる。

『さんだーぶれーどー』

緊張感のないのんびりな口調でセイちゃんが、同じように数十メートルはある長大な雷の剣を作り出し、ヒビ目掛けて攻撃する。バリバリと紫電が発し、煙が傭兵カニから漂う。

ホクちゃんナンちゃんは敵が強いと判断して、後ろに下がって、えっほえっほと椰子の実を潰されないように運んでいた。

「くっ、砂に足をとられました」

先程の攻撃が満足いくものでなかったのであろう。闇夜が悔しそうにする。たしかに砂浜に闇夜は足をとられて、全力では巨大剣を振り切れなかったように見えたよ。

「それじゃ、私の番だね!」

なぜ、砂に闇夜が足をとられてしまったか? 椰子の実カニと戦い、充分に砂浜での戦闘に慣れていたはずの闇夜が体勢を崩したかを、俺は見抜いていた。

『水砂』

傭兵カニは自らの周囲に地形変化魔法をこっそりとかけていたのだ。『水砂』は、その名の如く砂浜を水のように変える。僅か数センチの深さであり、気づきにくいが、この地は浅瀬と同様の地形へと変わっていたのだ。

ゲームでは必ず一ターン目に発動させる魔法だった。素早さダウン、命中率、回避率ダウンと、デバフもりもりの魔法だったのだ。

砂で足をとられた闇夜だが、その足元は靴一つ分すっぽりと砂に沈み込んでおり、波紋が広がっていた。まるで浅瀬に踏み入れてしまったかのように。

現実では狡猾にも、一見するとただの砂浜にしか見えないという罠と化していた。傭兵カニは力任せの攻撃を得意とするが、自分の有利になる環境を作り出す狡猾なる本能も持っているのである。

ふふふ、ストーリーは忘れてもレアモンスターは忘れないんだ。傭兵カニの甲羅って、中位レベルの防具に使えるからね。

だが、その効果は俺には通じない。砂浜に美羽は小さな足を踏み出す。

一歩目はパシャンと砂が弾けて、足がズズッと深く沈む。

二歩目はサクリと音をたてて、靴は半分ほど砂に埋もれる。

三歩目で砂の上に美羽の足は乗った。波紋をたてて水の上に立つかのように。

四歩目で波紋すら起こすことはなく、爪先からふわりと羽毛の如く砂の上に美羽は立っていた。波を起こすことなく。

『幽玄の舞Ⅰ』

動かす足は既に何歩歩いても、砂に沈むことなく、波紋を起こすこともなく、静かに音を立てず。

地形効果を受けない『舞踏』。『幽玄の舞』だ。Ⅰなので3ターンしか保たないけど、問題ない。

「てーい!」

スタタタと小柄な手足を振って、砂浜をまるでその場にいないかのように静かに疾走する。他者の目からみたら、まるで急速に地形にアジャストする高い能力の持ち主に見えるのは間違いない。

メイスを横に構えて、灰色髪を後ろに靡かせて、アイスブルーの瞳を獲物を見つけた猛禽のように、危険な光を宿して傭兵カニに肉薄する。

傭兵カニは迫る美羽に、鋏を振り下ろす。

『剛刃鋏』

マナを宿す一撃が迫るが、トンと砂浜を蹴り、右に飛ぶ。ゴウンと轟音をたてて、砂が弾けてクレーターができる。

傭兵カニは子猫のように素早く躱した美羽へと、左の鋏で挟もうと斬りかかる。

「よっと」

美羽の眼前に迫るが、動じずに砂の上を跳ねるようにジグザグに駆ける。ジャキンと後ろで鋏が閉じて、砂浜に大きく溝ができる。

「たっ」

小さく掛け声をあげると、少女は傭兵カニの鋏のついた前脚を踏み台にリズミカルに登っていく。

慌てた傭兵カニは、鋏を引き戻そうとするが、もう遅い。みーちゃんのレベルは50で、サブジョブとはいえ、『盗賊Ⅳ』なんだ。しかも軽業の得意な『道化師』がセカンドジョブ。

「鈍重なカニさんじゃ、追いつけないんだなっと」

ニヤリと笑い、傭兵カニの頭の眼前に迫ると、大きく飛翔して、メイスを全力で振りかぶる。

『ブレインシェイカー』

身体全体を使って、俺はメイスを傭兵カニに振り下ろす。ゴガンと大きく傭兵カニの頭をへこませて、その身体を揺らす。

『ブレインシェイカー』を受けた傭兵カニは僅かに動きを止めて、ゆらゆらと身体を揺らす。

ゼピュロスに与えた効果から、魔物にも効くかと考えたが、やはりある程度効くらしい。頭痛ではないだろうが、やはり気持ちが悪くなるのだろうか。

ふらつく傭兵カニの身体を蹴って、砂浜にふわりと降り立つと、さらに追撃を放とうとするが、既に俺へと向き直っていた。

「あ〜、やっぱしスタンとかの効果がないと駄目かぁ」

効果は僅か一秒にも満たなかった模様。現実だからだと、ゲームで設定されていた効果以上を期待するのは止めておいた方が良さそうだ。

「皆強いんだね」

攻撃か、防御か、どちらにしようか迷う俺の後ろから、嬉しそうな声が聞こえて振り向くと、真白が刀を抜いていた。すらりと抜かれた刀身は、闇夜の漆黒の刀身と正反対で、水晶で作られたように透明であった。煌めくその美しい芸術品のような刀は、角度によっては見えなくなるだろう。

真白はマナを纏い、腰を屈めて刀を構えると、フッと微笑む。マナに覆われた水晶の刀が刃の中から光り輝く。

『無影刀』

ヒュンと風斬り音が鳴った。ただそれだけであった。なにかが通り過ぎていったとしか、常人には見えなかったであろう。

だが、真白は刀を振り抜いており、残心だけがあった。

そうして傭兵カニはピシリと縦に輝線が入ると、ずるりと巨大な体は割れていき、蟹味噌を撒き散らしながら、砂浜に落ちるのであった。

「うん、闇夜が心配だったけど、どうやらお友だちも含めて、充分に強いんだね。安心して任務に行けるよ」

汚れ一つ、曇り一つない刀をパチリと鞘に納めて、真白はニコリと微笑む。

影すら地に映さず、金属の塊のような傭兵カニを倒しても、偉ぶることもなく、女の子のような可愛らしい顔を微笑みに変える真白。かなりの凄腕だ。さすがは侯爵家の嫡男だこと。魔塔出身というだけはあるということだろう。

「むぅ、お兄様は私が心配でしたの?」

「あぁ、元服後に冒険者になった子は、大怪我をする子が多いからね。でも、皆は状況判断もできているようだし、これなら大丈夫だね」

「帰国して、すぐに過保護になるんですか、お兄様は」

むぅと頬を膨らませる闇夜だが、内心は嬉しそうだ。

「あははっ、そう言わないでよ。一緒にいるときは、せめて助けたいと思ってね。これからすぐに任務だし」

いちいち絵になる笑い方をする真白である。

「まぁ、もうお仕事に?」

「魔塔に行かせてもらった分、侯爵家の嫡男として、これからは仕事を頑張らないといけないんだよ。半年ほどで帰ってくるから、お土産待っていてね」

不満顔な、珍しく子供っぽい闇夜の頭を優しく撫でる真白。

なんだ、もう仕事か。仕事前に妹の様子を見に来るとは、仲の良い兄妹だね。

さて、今日は蟹鍋だぞ。……傭兵カニって、食べれるのかな。