軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89話 高月まことは、王都(九区)を探索する

「高月くん、似合ってるね」

なぜか、嬉しそうなさーさん。

今の俺の姿は、 狸(たぬき) の獣人族。

『 変化(へんげ) 』スキルで色々試した結果、一番しっくりきた。

人を化かすなら、やっぱり狸だよな?

「さーさんは、大迷宮で会った時の姿だね」

さーさんは、いつもの人間の姿でなく大迷宮の時のような青っぽい肌の人になっている。

海人族だっけ?

――俺たちは現在、王都シンフォニアの九区街にいる。

◇数時間前◇

最初、ルーシーが「私も行く!」と言って聞かなかった。

「ルーシー様! あなたが九区街は無理デス!」

「ルーシー殿、間違いなく暴漢に襲われますぞ!」

ニナさんとふじやんの激しい反対にあった。

暑がりルーシーさんは、いつも薄着で露出が多い。

エルフの美しい容姿と、真っ赤な髪。

目立つ事この上ない。

「ルーシーさんのような美しい女性が、スラムへ行ったら餓えた狼の群れへ肉を与えるようなものです」

「うぐ……」

クリスさんにも、諭されるルーシー。

結果、九区スラム街へ向かうのは俺とさーさんだけになった。

俺たちは『変化』スキルで、姿が変えれるからね。

「私も覚えようかしら……」

ルーシーが不満げだった。

悪いね、ルーシー。

今度、どこか一緒に行こうか。

ところで。

「ふじやん、反乱のリーダーがわかったんだって?」

ノア様に聞いた話を確認する。

「どこでそのお話を?」

クリスさんが驚いている。

「女神さまに聞いたので」

「さすが女神さまですなぁ。ちょうど、ソフィア様へご相談に行くところですぞ」

ふじやんの話では七区、八区の亜人たちの取りまとめをしている有力者が、怪しいらしい。

だが、最初に計画をした『第一人者』は、今なお不明だ。

「『蛇の教団』の男が、次のターゲットをシンフォニアにしているって聞いたよ」

王都ホルンの地下牢獄で、ソフィア王女に引き合わせられた男の話だ。

「ええ、以前タッキー殿に教えてもらった話ですな。拙者も、魔人族の関与を疑っておりますが……」

「そこは、まだ不明でしテ……」

ふじやんとニナさんは残念そうに言った。

「俺は九区を探索してくるよ。女神さまに助言もらったから」

「九区には、私たちも知り合いが少ないので助かりますガ……」

「危険な場所ですよ? まこと様」

ニナさんとクリスさんが心配してくる。

そんなにも、危険なのか。

「高月くん、私も一緒に行くから大丈夫だよ」

さーさんが、新調した巨大なハンマーをぶんぶん振り回している。

それを使う場面にはなって欲しくないなぁ……。

「気をつけてくだされ。拙者たちは、これからソフィア王女と面談して、今後の方針を相談いたします」

「わかった。適度に調査して、切り上げてくるよ」

俺たちは今日の夕方には合流して、情報交換しようという話になった。

◇現在◇

「なんだか、薄暗いね……」

さーさんがつぶやく。

九区街は、入るなり今までの街とは空気が違った。

「一応、区画門を入ってすぐのここが一番発展してると聞いたけど……」

店らしき場所は、ぽつぽつとあるが。

どこも活気が無い。

空き店舗が多い。

道端に寝転んでいるひと。

ぼーっと立っている人。

ベンチで煙草を吸っている人。

退廃的な空気が、漂っている。

「変な匂い……」

さーさんが、顔をしかめた。

確かに匂う。

一つは、下水やゴミ処理が整備されていないことによる匂いだろう。

それに加えて、この甘い匂いは……。

「 麻薬(ウィード) ……」

ホルンの酒場や、サーカスの劇場と同じ香り。

一度、実物をふじやんに見せてもらったことがある。

一見すると、 煙草(たばこ) のような形状をしていた。

(昨日のニナさんの世話になった虎獣人族の店主の店にも、あったんだよな……)

王都シンフォニアでも、出回っているのだろうか?

「麻薬の匂いが、大通りではっきりわかるって異常だよね……」

「警察が居ないのかもな」

西の大陸では、 神殿騎士団(テンプルナイツ) が、警察の役割をしている。

神殿騎士団というのは、六大女神信仰の教会が運営している組織だ。

教会がいる街では、神殿騎士が治安を守っている。

マッカレンにも居たのだが、いつも冒険者たちと飲んだくれていた。

マッカレンは平和だからなぁ。

九区では、騎士の姿は見当たらない。

無法地帯か……。

「……なんか見られてない?」

「うん……視線を感じる」

街にいる何もしていない人たち。

彼らがこっちを見ている。

何でだろ、ちゃんとスラムっぽい格好をしてるんだけど。

徐々に、こちらへ歩いてくる人や。

後ろをついてくる人がいる。

げ、前の道を塞がれた。

何かぶつぶつ言っている。

「逃げよう!」「うん!」

俺たちは、大通りから脇を抜ける道へ入り。

『危険感知』スキルと『逃走』スキルを頼りに、道を進んだ。

ちなみに、さーさんはスキルを使わなくても俺より速い。

ちょっと、待って!

「さーさん、速すぎ……」

「この辺までくれば、追ってくる人はいないね」

人の少ない開けた場所に来た。

だだっ広い寂れた場所。

雑な柵がしてあった、その中に野菜畑があり、鶏が放牧されている。

「畑かな? こんな所にあるのは変な感じだなー」

「みたいだね。育てている野菜は、見たこと無いけど」

華やかな王都や、さっきのスラム街の入り口とも異なった雰囲気だ。

のどか……ともちょっと違うが、少し穏やかな雰囲気だ。

奥にあるのは、ボロボロになった教会が建っている。

「……教会か」

「スラム街の教会って、大変そうだね」

そんなことを話しながら進んだ。

「やめろよ!」「それは僕らが育てたんだ!」「お止めください、私たちの数少ない食料なんです」

人の争う声が聞こえてきた。

「ああ! んなこたぁ、知らねーんだよ!」

「誰の恩情で、ここで住めると思ってるんだぁ、汚れた血のガキどもが!」

悲痛な声を上げる子供と年老いた女性。

もう一方の声は、荒々しい男たちの声だ。

畑を荒らされているのか?

「高月くん!」

さーさんが走っていった。

速っ!

とりあえず、さーさんを追いかける。

『子供たちを助けますか?』

はい ←

いいえ

(ですよねー)

『RPGプレイヤースキル』がきっちり空気を読む。

(まあ、今回は選択するまでも無いかな)

「あなたたち! そんな小さい子を苛めるなんてサイテーよ!」

小さい子が困ってると、さーさんは絶対見捨てないからなー。

いつもの人間フォームに戻ったさーさんが、びしっとポーズを決めている。

が、小柄で可愛いさーさんが言っても、まったく迫力が無い。

「ああん?」「なんだ、てめぇ」「よく見ると可愛いじゃねーか」「おまえ、ロリコンか?」「ロリコンじゃねーよ!」「あんな胸無しのどこがいいんだ?」

(あ、胸のこと馬鹿にされて、さーさんがキレてる)

怒るくらいなら、胸の大きい女性に化ければいいのに。

それを言ったら「そーいう問題じゃないんだよ! 高月くん!」って説教された。

さーさん的に、『 変化(へんげ) 』スキルで誤魔化すのは許せないらしい。

なぞのこだわりだ。

「……あんたら、覚悟しなさい」

ゴゴゴゴ……、と効果音が聞こえそうな殺気のこもった声。

さーさんの『威圧』スキルが発動している。

(怖っ)

後ろに居る俺でも、背筋が寒くなる迫力。

「ひっ!」「な、なんだこいつ!」「こ、殺される!」

男たちは、悲鳴を上げながら逃げていった。

相手が悪かったねー。

「ふん、つまらないやつら!」

さーさんが、腕組みをしている。

「さーさん、さーさん。こっちこっち」

「え?」

反対側を見ると。

子供たちが全員、腰を抜かしていた。

中には失禁している子供もいる。

「あああああっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」

「うちのさーさんが、スイマセン」

二人で全力で謝った。

俺とさーさんは、教会の中へ案内された。

外観と同じく、教会の中も古びている。

だけど、手入れはされておりここで人が生活しているのだとわかった。

「ありがとうございました……。私たちのような者に」

くたびれた服だけど、どうやらこちらの老婆がシスターのようだ。

「「「「ありがとうございます!」」」」

礼儀正しい子供たちも、皆みすぼらしい服装をしている。

「ううん、大したことはしてません。こんな小さな子に、酷いやつらね」

「どうして彼らは、わざわざあんなことを?」

年配のシスターは、語り始めた。

「こちらの教会は、孤児院を兼ねています。ここにいる子供たちは、全員『魔族の血』を引いているため、捨てられた子供です……。彼らは『魔族の血』を持つ我々を憎んで……いえ、蔑んでいるのです」

「魔人族……」

「はい……もしくは『汚れた血』と呼ばれるものたち、私もその一人です」

シスターが、被り物を取るとそこには小さな角があった。

また、それを被り直す。

「もっとも、魔族の血はかなり薄まっています。特別な力は何もありません。ただ、見た目が少しだけ人と違うだけ……ここにいる子たちは皆そうです」

悲しげに話すシスター。

「ぼくら、両親の顔を知りません……」

「汚れた血だから……」

「見た目で、魔族とわかる子供は捨てられるんです」

「生かしてもらうだけでも、感謝しないと……」

子供たちの表情は暗い。

「……何、それ」

さーさんが、顔をしかめる。

「王都から出て行けばいいんじゃないですか?」

階級制度の厳しいハイランド以外に行けば、マシになるのではなかろうか?

「ここには50人以上の孤児がいます……。それに捨て子は、数ヶ月おきに……」

「そう……ですか……」

そんな簡単にはいかないよな。

そもそも、お金が無さそうに見えるし。

自給自足で暮らしてるようだし。

「マッカレンなら、藤原くんやクリスさんに助けてもらえないかな……?」

あきらめきれないのか、さーさんがこちらを見てくる。

う、うーむ。

気持ちはわかるけど……、この大所帯を面倒見るのは、簡単じゃないだろ。

ふじやんと言えど、慈善事業をやってるわけじゃない。

「マッカレンですか? もしや、ジャンとエミリーという冒険者を知りませんか?」

おや。

「知ってます。一緒に、冒険をしたこともありますよ」

「そうですか! 元気にしてますか?」

シスターが、初めて嬉しそうな顔をした。

ジャンとエミリーは、ここの孤児院の出身だった。

そういえば、太陽の国の孤児院出身って言ってたっけ。

ん? てことは。

「あいつら……魔人族だったのか」

「あ……」

シスターがはっとした顔をした。

失言だったと思ったのだろうか。

「あ、僕ら異世界人なんで、気にしてないですよ」

先手を打って、言っておいた。

「い、異世界人? まさか、伝説の勇者さまですか!?」

「いえ、伝説じゃない勇者です」

「???」

とりあえず、簡単に自己紹介した。

「なんと! 水の国(ローゼス) の勇者様ですか」

「にいちゃん、すげー」「かっこいいー!」「勇者さま……」

子供たちからの視線が熱い。

これは、照れるなぁ。

「にやけてるよー、高月くん」

「いいだろ。それくらい」

「うんうん、楽しいよね!」

さーさんも楽しそうじゃないか。

「ジャンとエミリーは元気なのですね。冒険者になって間もないのに、定期的に私たちに仕送りをくれているのですが、決して楽な暮らしでは無いでしょうに……」

微笑むシスター。

ジャン……、そんなことしてたのか。

全然知らなかった。

それから、しばらくマッカレンのジャンとエミリーの話をした。

シスターは、嬉しそうに頷いていた。

「そうですか、ジャンとエミリーが恋人同士に」

「前は、そんな感じじゃなかったんですか?」

初めて会った時から、付き合ってるものだと思ってたよ。

付き合ったのは、最近らしいけど。

「孤児院ではエミリーがお姉さんという感じでしたね。ジャンが冒険者になって一旗上げるんだ! って言って心配をしたエミリーが付いて行ったんですよ」

懐かしそうに話すシスター。

「へえ、今度ジャンをからかってやろう」

「高月くん、悪趣味~」

この教会やシスターの話もしよう。

いい土産話が出来たかもな。

ただ世間話だけをしに来たわけじゃない。

ここは、魔人族の孤児院。

何か、情報を持っているかもしれない。

「この教会は……太陽の女神信仰ですか?」

太陽の女神アルテナ様の像を見上げながら言った。

「 太陽の国(ハイランド) では、アルテナ様以外の神様を信仰する教会はありません」

「へぇ……そこは、 水の国(ローゼス) と同じですね」

信仰に厳しい国って話は、聞いたとおりか。

「ところで」

何気ない感じで、話題に上げてみる。

「蛇の教団ってご存知ですか?」

そう言った瞬間、シスターの顔が険しくなった。

「私たちが、悪魔神を信仰していると思っているのですか?」

「い、いえいえ」

「そんなことありませんよ!」

俺とさーさんは、慌てて首を振る。

「彼らの非道な行いが、同胞を苦しめているのに……! 無差別に人族を襲い、恐ろしい 麻薬(ウィード) を広め、世の中に混乱を招く忌まわしき集団。彼らに傷つけられた者たちの憎しみの矛先は、我々のような力の無い魔人族に向けられるのです……」

最後には、力なくうな垂れるシスター。

そっか、ここにいる人たちは蛇の教団の被害者なんだな……。

ん? 一個、気になる点が。

「 麻薬(ウィード) って、蛇の教団が広めてるんですか?」

「ええ……九区街の住人なら誰でも知っています。 麻薬(ウィード) の販売で、蛇の教団は活動資金を得ているのです。一度だけ、教団の関係者を名乗る男が我々にも 麻薬(ウィード) の原料になる植物の栽培をしないかと、勧誘してきたことがあります」

「そんな……こんな子供たちに? 許せない」

さーさんは、怒りの表情を見せている。

そっか。

蛇の教団と 麻薬(ウィード) 。

そこは繋がっていたのか。

「私たち、蛇の教団を探してるんです。先日、水の国の王都で魔物を暴れさせた教団の男が、次に狙うのがここだと言っていました」

「……そんな」

悲痛な顔をするシスター。

「なんでもいいんです。知ってることはありませんか?」

「地下水路は、どうだろ……」

話を聞いていた、子供がぼそっと言った。

「「地下水路?」」

俺とさーさんが首をかしげる。

「王都シンフォニアには、下水施設を兼ねた、入り組んだ地下水路があります」

「そこには、マフィアのアジトや蛇の教団の隠れ家がある……という噂です」

「人攫いがいるから、子供は近づくなと言われている場所です……」

何やら、怪しげな場所だな。

そんなところがあったのか。

「王都シンフォニアの地下水路か……」

「高月くん……まさか、行くの?」

「え? さーさん、行かないの?」

驚いた顔で見つめてくるさーさん。

変なこと言ったかな?

「高月くんって、慎重プレイ派なのに危険そうな場所には、首をつっこむよね?」

「王都の地下水路ダンジョンって楽しそうだろ?」

「はあ……」

呆れられた。

でも、王都のスラム街のさらに地下にある施設。

だんだん、深みにはまっているような気がする。

『王都シンフォニアの地下水路へ行きますか?』

はい ←

いいえ

今日は、選択肢が多い日だな。

「さーさん、行こう」

「はいはい、わかったよー」

さーさんは、困った顔で笑った。

俺たちは、王都シンフォニアの地下水路へ向かった。