軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76話 エピローグ(第三章)

- クリスティアナ視点 -

「やっぱり高月様は、凄いかたでしたネ。旦那様の言う通りでしタ!」

ニナの耳が、ひょこひょこ揺れている。

「あら、ニナ。藤原様が貴族になられたことは喜ばないのですか?」

こんな軽口も以前はもっと険悪になっていただろう。

「はっ! スイマセン、旦那様!」

「いやいや、拙者も誇らしいですぞ。友人が勇者に選ばれるとは。マッカレンは勇者が住む街となって、ますます発展しますな、クリス殿」

「ええ、その通りですね」

勇者の名の影響力は大きい。

特に、今は伝説の大魔王が復活するという噂で、人々は不安を抱えて生活している。

魔族によって人々が奴隷にされていた『暗黒時代』。

それが復活するという終末論が囁かれている。

巷では、女神信仰ではない怪しい邪教やら、恐怖を和らげる通称『ウィード』と呼ばれる麻薬が流行っているとか。

みな、怯えている。

そのため勇者がいる街は、誰もが住みたがり地価が上がる。

各国の王都が、その典型だ。

それ以外でも、勇者がいる街はどこも大都市だ。

(マッカレンが、勇者のいる街に……)

「忙しくなりますな、クリス殿」

「ええ、そうですね」

藤原様は、まるで心を読んでいるように、話しかけてくれる。

これからマッカレンには、大量の人材が来るはずだ。

マッカレンの街が大きくなるチャンスだ!

「楽しそうですね、クリス」

「あなたも忙しくなりますよ。覚悟してくださいね」

ニナと私は、笑い合った。

「あ! マコトが戻ってきたわ」「高月くんー、どうだったー?」

ルーシーさんと佐々木さんの声が聞こえた。

噂の勇者様が、戻ってきた。

「うーん、世間話しただけだよ」

ぽりぽりと頬をかきながら、ついさっき国家認定勇者になった高月様が戻ってきた。

(見た目には、強そうに見えませんが……)

しかし、あの恐ろしい忌まわしき魔物とすでに2回も戦って勝利している。

異世界からの人々は、みな凄い。

「どんな話したの?」

「えーと、これから勇者として頑張る、とか? あとソフィア王女に紅茶を淹れてもらったよ」

「ふうん、普通ね」

「だろ?」

(え?)

それを聞いて、私は固まった。

「高月様! ソフィア王女がご自分で、紅茶を振舞われたのですか!?」

「え、ええ。そうですけど、何か問題ありましたか?」

「王女様にやらせるなんて、無礼だったんじゃない?」

「んなこと、言われてもさぁ……」

「いえ、ルーシーさん。そういうわけではないのですが……」

周りを見渡しても、驚いているのは私だけか。

「クリス殿?」「クリス、どうしたのですか?」

藤原様とニナが、何だ何だと尋ねてくる。

「い、いえ。何でもありません。ちょっと、驚いただけです……」

そう、ただの早とちりかもしれない。

軽はずみなことは、言わないほうがよい。

――ローゼスの女性が男性を部屋へ招き、自身で作った物を振舞う。

その意味は、『私はあなたと個人的に親しくなりたい』。

それは、奥ゆかしい 水の国(ローゼス) の貴族女性の古い習慣。

現在は廃れていて、最近ではそんなことをしている者はほとんどいない。

だけど、「稀に勘違いする男がいるから、そんなことをしてはいけませんよ」と私は家庭教師から教わった。

ソフィア王女は、この国で最も質の高い教育を受けている御方。

そのことを知らないはずが無い。

つまり、 あ(・) え(・) て(・) そうしたのだ。

ローゼスの勇者である、高月マコト様に。

背中を冷たい汗が通った。

(……高月様に無礼な対応は、絶対にしてはいけない)

「怖い顔をしてどうしました? クリス」

ニナが心配そうに顔を覗き込んできた。

「いえ、問題ありません」

そう、問題ない。

むしろ逆だ。

(でも、この案件は私の手に余りますね……)

この後すぐに、藤原様に相談しよう。

ニナにも一緒に。

私は、心に深く刻み込んだ。

ローゼスの国家認定勇者、高月マコト様は……ソフィア王女の想い人かもしれない。

- 高月マコト視点 -

「タッキー殿。申し訳ないですが、拙者は一度マッカレンに戻らないといけません」

「数日後には、戻ってきますネー」

王都の復旧作業の手伝いで、マッカレンに大量の仕事を残してあるふじやんたちは、一度マッカレンに戻るらしい。

俺やルーシー、さーさんはその間、王都ホルンで留守番だ。

幸い泊まる場所は、王女様が用意してくれたからね!

ちょっと、気になったのはクリスさんの態度。

これまでは、ふじやんの友人ということで、そこそこの距離感だったのだけど。

「高月様、マッカレンに戻られましたら最上級のお部屋を用意して、我々の抱えるシェフに食事の手配をさせますから。ご要望は、何でもお申し付けください!」

「い、いえ。別に普通でよいですよ」

随分、こちらへ気遣ってくれる。

やっぱり、勇者って凄いんだなぁ。

あんまり、調子に乗らないように気をつけよう……。

――翌朝。

俺は日課のノア様に祈りを捧げて、朝の修行に出かけた。

場所は、ローゼス城の一番大きな噴水のある庭園。

(精霊は……全然居ないな)

まあ、ローゼス城じゃ仕方ない。

明鏡止水、解除。

「精霊さん、精霊さん」

精神安定スキルを使わずに、精霊魔法を使ってみる。

巨大な水の塊が生み出されるが。

「うーん、あんまり変わらないような……」

何かやり方が違うのかなぁ。

王城の精霊が少なすぎるのか。

はたまた聖神様の影響なのか……。

「勇者殿?」

声をかけられた。

振り返ると、元・守護騎士のおっさんが立っている。

いや、元じゃなくて、守護騎士に戻ったんだよな。

「ああ、おはようです」

「こんな早朝から、修行ですか?」

「そっちこそ、見回り大変すね」

「うむ、いつ魔物が現われるかわからぬので。交代で二十四時間体制で監視をしております」

意識高けぇー。

俺も手伝ったほうがいいのだろうか。

一応、水の国の雇われ勇者だし。

「ところで、勇者殿のおかげで守護騎士に戻ることができました! 感謝いたします!」

「いや、元々おっさんの仕事だし」

「我は代々『ローゼス王家の盾』の称号を賜っている一族。おかげで名誉を取り戻せました!」

うわぁ……、そんな彼から要職を奪ってしまったのか。

罪悪感が……。

しかし、おっさんに俺の気まずさは伝わらず、はっはっは、と笑っている。

「いつ見ても素晴らしい庭園ですな」

ローゼス城の大庭園には、年中花が咲き乱れている。

「あ、ああ。だね」

正直、花とか興味なくて精霊がいるか、いないかしか見てなかった。

「この景色を守るために、我らは頑張りませんと」

花を愛でるように、撫でながらおっさんは語る。

……いかつい大男には少々似合わないが、ここは茶化すべきじゃないだろう。

おっさん、意外にロマンチストだなぁ。

「大魔王が復活した時には、我が勇者殿の盾になりましょう」

「ああ、頼りにしてますよ」

俺は、防御力が紙だからね。

あの巨人の一撃をくらってピンピンしているおっさんのスキルは心強い。

「そういえば、ソフィア王女が言っていた『北征計画』って何すか?」

勇者に任命された俺の最初の仕事が、それになるらしい。

「おお! 例の計画のことですな! 勇者殿、我らのいる西の大陸とは別に北の大陸のことはご存知ですか?」

「えーと、北の大陸は魔族が住んでるんでしたっけ?」

水の神殿で習ったことを思い出す。

「そう、かつて大魔王が従えた九人の魔将。その生き残りが三魔王として君臨している北の大陸です」

聞いた事がある。

通称『魔大陸』と呼ばれてるとか。

「北征計画って、もしかして……」

何となく予想が付いてしまった。

「大魔王が復活する前に、北の大陸の魔王をあらかじめ倒す。それが、北征計画です」

「おお……」

魔王討伐。

ついにそんなイベントが。

RPGプレイヤーとしては、感慨深いものがあるが、俺の今のチカラじゃ通用しなさそうだなぁ。

やっぱり、精霊魔法を極めておかないと。

「勇者殿、怖くないのですか?」

「え? ああ、魔王ってのがどれくらい強いのかわからないけど、もっと魔法を鍛えないとね」

「楽しそうに見えますぞ、頼もしいですな」

楽しそうに見えちゃったかぁ。

ちょっと、危ないヤツだな。

「それでは、我は見回りに戻ります」

「ああ、色々教えてくれてありがとう」

おっさんに礼を言って、俺は修行に戻った。

てか、口調はもっと馴れ馴れしく話して欲しいんだけどなぁ。

前みたいに。

(マコト、水の国の連中とはうまくやってるわね)

「ノア様」

(水の女神エイルとは、話しておいたわ。マコトが勇者で良いって。水の国は、強い戦士が居ないからって喜んでたわよ)

「はぁ……、聖神族と話ができるんですね」

天敵じゃなかったのか。

(昔戦争をしたからって、その後話しちゃ駄目ってことはないでしょ?)

「まあ、確かに……」

戦争後に、敵対国と話ができないならアメリカ人は誰とも話せなくなるか。

神界戦争って、そうとう昔の事みたいだし。

(そういうこと。ただ水の女神の加護は、得られないけど。そこは我慢してね)

「そんな贅沢言いませんよ。ノア様の加護で十分です」

(良い子良い子。がんばりなさいー)

ノア様の声が聞こえなくなった。

「はぁー……」

まあ、修行頑張るか。

魔王との戦いが待っているらしいし。

……勇者かぁ。

どーなるのかねぇ。

――ふふっ

ん?

何か、笑い声が聞こえた?

気のせいかな。