軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71話 燃える王都(前編)

「どういうことですか? 王都には結界が張ってあるはずでしょう」

ざわつく会場に、ソフィア王女の冷静な声が響く。

「そ、それが。魔物の集団が突然、街に現われました! 原因は不明です。今は住民の避難を優先しています」

「至急、冒険者ギルドに協力を要請しなさい。魔物の討伐だけでなく、住民の救助にも報酬を払うことを伝えなさい。躊躇しているようなら、通常の1.5倍の報酬を出します」

「はっ! 今すぐに!」

てきぱきと指示を出す、ソフィア王女。

おお! 判断が早い。

「王宮の騎士は、全員魔物の討伐と住民の保護にあたりなさい」

「姉さま! 僕も行きます!」

「……、わかりました。私と一緒に行動してもらいますよ」

レオナード王子の言葉に、少し迷っているようだった。

あまり弟を危険にさらしたくないのかもしれない。

ただ、勇者が自国の危機に隠れているわけにもいかないか。

「さーさん、ルーシー。俺たちも行こう」

俺は王都の冒険者ギルド所属ではない。

とはいえ、水の国の冒険者だ。

何かしら手伝えることを探そう。

「わかったわ!」「行きましょう!」

ルーシーとさーさんも力強くうなづいてくれた。

「タッキー殿!」

「ふじやんは、ニナさん、クリスさんと一緒に避難してくれ。ニナさん、お願いします!」

「任せてください! 旦那様、クリス! 行きまショウ」

俺たちは、それぞれの目的地へ行動を開始した。

――街が燃えている。

いや、所々煙が立ち上っているから、そう見えるだけか。

大火事というわけではない。

暴れている魔物の姿が、ぽつぽつ見える。

数は、それほど多くない。

しかし、魔物を見慣れていない人々の恐怖は相当なものなのか、悲鳴がいたるところから聞こえる。

「えいっ!」

さーさんの拳が、コボルトらしき魔物を吹っ飛ばした。

「土魔法・岩弾!」

ルーシーの魔法が、オークの脳天にヒットして仕留めた。

「こちらへ逃げてくださいー」

俺はお年寄りの手を引いて、避難所になっている神殿へ誘導した。

……水辺が無くて、精霊もいないと、こんなことしかやることない……。

いや、これも大事な仕事だ。

「まこと、見て!」

「高月くん! グリフォンが!」

ルーシーとさーさんの叫び声で振り向く。

グリフォンが、こっちに向かってる!?

まじかよ。

「やっかいな魔物がいるな!」

短剣を構える。

「下がっていろ!」

どこからか元・守護騎士のおっさんが、飛び出してきた。

ガツン! と大きな音と共にグリフォンと衝突した。

「ぐぐぐっ……」

真っ赤な顔をしたおっさんが、グリフォンを止めている!

やるな、おっさん!

「水魔法・氷刃!」

俺は僅かな魔力を、出し惜しみせず放つ。

ギエエエッ! と目玉を氷刃に貫かれたグリフォンが苦しげに悶える。

「土魔法・大岩弾!」ルーシーの放つ大岩と

「はあっ!」さーさんの『溜め攻撃』が、グリフォンに突き刺さった。

グリフォンは、民家にぶち当たり動かなくなった。

すげぇな、二人とも。

小ぶりとはいえ、以前はあんなに苦労したグリフォンをあっさり倒した。

「隊長!」「ご無事ですか!」「ありがとう、冒険者!」

おっさんの部下の騎士たちもやってきた。

「ねえ、高月くん」

さーさんが、グリフォンの死体を見て何かを言いたげな目をした。

「これ、サーカスで観たやつか」

「他の魔物も、そうみたいよ」とルーシー。

確かに、ボロボロになっているがサーカスの衣装の切れ端が見える。

サーカス団から逃げ出した?

しかし、こんな一斉に暴れるもんなのか?

「高月まこと。この魔物に覚えがあるのか?」

「多分、街の真ん中にあるサーカス団の魔物だよ」

「なんだと! あいつらの管理ミスか! 魔物使い(テイマー) は、何をやっている!」

「行ってみよう」

もし逃げ遅れた人がいれば、サーカス団のテントのあたりが一番危ない。

「ひどい……」

街の中央にある広場、その付近は最も破壊が進んでいた。

魔物の死体と……食い千切られた人の死体も転がっている。

「あいつのしわざね……」

――オオオオオ!

空気を震わせる雄叫びが響く。

巨人だ。十メートル近くある、巨人が暴れている。

「行くぞ!」

「「「「「「「はい!」」」」」」」

元・守護騎士のおっさんの声に、部下の騎士たちが続く。

「ルーシー、あいつの頭部を狙おう。さーさん、俺がやつの足元を崩すから、とどめを頼む」

「わかったわ」「任せて」

広場には大きな噴水がある。

水があれば――戦える!

おっさんが率いる騎士たちは、攻めあぐねている。

巨人の動きは鈍いので、攻撃は食らってないようだが、相手に致命傷も与えられていない。

「おい、君らも冒険者か!」「アイツが一番の大物だな!」「手伝うぞ!」「褒賞は山分けだからな!」

冒険者たちも、集まってきた。

よし! これは、勝ったな!

(ちょっとぉ、油断は駄目よ)

はい、女神様。

いつも通り、命を大事に。

「火魔法・ファイアボール」「木魔法・風の刃」「混合魔法・隕石落とし!」

冒険者の魔法使いたちと、ルーシーの魔法が巨人に炸裂する。

ルーシーの魔法、コントロール良くなったなぁ。

ちょっと、感慨にふけりつつ、俺は巨人に近づく。

魔法をくらった巨人は、ふらふらしている。

タフな巨人だな。

「水魔法・水流」噴水の水を、巨人に叩き付けた。

巨人と近くにいる騎士たちに、水が降り注ぐ。

「おい!」おっさん騎士が、何か言いたそうだが、あとだ。

「水魔法・氷の床」巨人の足元だけを、凍らせる。

「オォ?」巨人がバランスを崩し――尻餅をついた。

「今だ!」「倒せ!」騎士たちが、かけよる。

――ひゅっ、と。小さな影が、巨人の頭部あたりに落ちた。

さーさんか?

さーさんは、数メートルほどジャンプしてから、 空(・) 中(・) を(・) 蹴(・) っ(・) て(・) 、巨人の頭部へかかと落としをくらわせた!

あれは、『空中ジャンプ』スキルか!

ズシン! と巨人の頭部が地面を震わせ、巨人は動かなくなった。

倒した?

どっ! と全員が、勝利に湧く。

「さっきの蹴り技、すごいな、あんた、ゴールドランクか?」

「ねぇ、さっきのあなたの隕石落としって何魔法?」

「助かったよ。あんたらは、英雄だな」

さーさんや、ルーシーが冒険者たちや騎士に囲まれて賞賛されている。

二人とも照れつつも、嬉しそうだ。

それを遠めに眺めながら、少し周りを『敵感知』スキルで確認した。

もう、大丈夫そうかな?

巨人はまだ、わずかに息があるようだが、徐々に弱っている。

一部の冒険者たちも油断なく、警戒しているがどうやら杞憂になりそうだ。

数分後には、息絶えるはずだ。

「助かったぞ」

気がつくと、元・守護騎士のおっさんが隣にいた。

「自慢の仲間なんで」

俺にはもったいないくらいの。

「いや、あの巨人を転ばせた魔法。貴様が使ったのだろう? あの機転がなければ、倒せなかった」

「そうかな?」

ルーシーとさーさんなら、二人でも倒してた気がするけどね。

「みなさん、大丈夫ですか?」

遅れてやってきたのは、レオナード王子と……こんなところにソフィア王女がやってきた。

逃げないでいいのか?

「魔物討伐は、大体終わったようですね。皆、よくやってくれました」

ソフィア王女の声に、その場にいる人々が、満足げにうなずく。

こうして見ると、優秀なお姫様だなー。

危険な現場にも、顔を出すし。

「ソフィア様! サーカス団の魔物使いが、全員殺害されています!」

テントを調べていたらしい騎士が報告をしていた。

物騒な報告だな。

魔物にやられたのか?

「魔物使いは、刃物で切られており魔物の仕業ではありません」

「サーカス団の生き残りを探しなさい。詳しい話を聞くように」

「はっ!」

何やら、事件のようだ。

そーいえば、あのピエロの人は無事だろうか。

……いや、思い返すと彼は『明日は大きな祭り』と言ってた。

今思うと、ちょっと怪しくないか?

念のため騎士のおっさんに報告しておこうかと、思っていたとき。

「痛っ!」

――ズキリ、と頭を金槌で殴られたような衝撃が襲った。

これは……敵感知スキルか。

この頭痛……災害指定の魔物?

「まこと?」

「どーしたの?」

急に頭を抑えた俺を心配して、ルーシーとさーさんが、かけよってきた。

「どーした? 高月まこと」

おっさんも心配してくれる。

「……災害指定の魔物が……多分来る」

「え?」「なんだと!?」

だけど、どこから?

ここは大迷宮じゃないんだぞ?

「……ニ……クイ…………ニ……ク……イ。…………ニン……ゲン……」

呻き声がする。

あれは、巨人がまだ生きてる?

――――うん、憎いよね。わかる、わかるよ。

不思議な声が聞こえた。

子供のような、女の子のような、優しい小さな声が。

「……チカ…………ラ…………ホ……シ……ィ」

何か、嫌な予感がする。

「誰か! その巨人にとどめを!」

ソフィア王女が、叫んだ。

騎士と冒険者が、その声に従う。

――――うん、チカラをあげるよ。だからボクは、キミの心を貰うね。

不思議な声は、しゃべり続ける。

「ルーシー、さーさん。この子供の声聞こえる?」

「え?」

「子供の声?」

みんなには、聞こえてないのか?

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

瀕死だった巨人が、突如立ち上がった!

しかし、その身体は崩れ落ちていく。

崩れ落ちる?

違う、皮膚がはがれ、その下から赤くドロドロとした何かが溢れてきた。

ドロドロが地面におち、ジュウっと音がして、地面が黒く溶けた。

溶ける?

熱で溶けている?

あれは……溶岩みたいなものか?

巨人の身体が、溶岩に覆われた何かに変わった。

溶岩には、大量の白いもの……あれは、骨か? が浮いている。

何で、骨は溶けないんだろう。

――――さあ、運命に逆らおう! キミはユウカンな戦士だ!

子供のような声は、そこで聞こえなくなった。

「―――――キァァアアアアアアアアアア!」

巨人の声が低いものから、ガラスを引っ搔いたような耳障りなものに変わった。

この奇声……どこかで聞いたような。

「忌まわしき……巨人……」

誰かが呟く声が、耳に届いた。