軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 高月マコトは、女神と出会う

「女神様……ですか?」

目の前に、狂気じみた美貌の女の子が立っている。

青みがかった煌めく銀髪に、サファイアのような瞳。

透き通るような白い肌。

少し幼さを残す少女のような肢体に、妖艶な色気が醸し出されている。

人形のように整い過ぎていて、少し怖い。

「……女神様が、俺に何のご用でしょう?」

この世界は、神によって支配されている。

目の前の女の子が本当に女神なら、逆らわない方がいい。

「あなたをずっと見ていました。危険を顧みずゴブリンから商人を助けた行為は立派です。あなたを私の眷属に迎えましょう」

にっこりと女神が微笑む。

「女神様の眷属……」

その言葉に、1年前の記憶が蘇った

異世界に来てすぐの頃。

水の神殿に『巫女』を名乗る人物が現れた。

巫女とは、この国の聖職者の中でも特別な存在だ。

いわく、巫女は 女(・) 神(・) の(・) 声(・) を聞くことができる。

そのため巫女の言葉は、神の言葉と同義とされる。

普段は王都の教会に居るが、今回は異世界人に会いに来たそうだ。

目的はスカウト。

巫女は、信者になったものに女神の加護を与える力を持っている。

異世界人の強力なステータスとレアなスキルは、魅力的なのだろう。

俺たちの前に現れたのは『ソフィア・ローゼス』という水の巫女だった。

彼女は、 水の国(ローゼス) の王女でもある。

要人中の要人。

国の最重要人物だ。

そんな人物が直接来るくらい、1年A組のクラスメイトのスキルは際立っていたのだろう。

「あなたは超級魔法使いですか。素晴らしいですね。水の女神の加護を授けましょう。そのためには、我々の信奉する女神の信者になってくださいますね?」

「あら、あなたは黄金騎士のスキルをお持ちですね。水の女神の加護を授けましょう。そのためには女神の信者に……」

こんな感じで、クラスメイト達を、どんどん勧誘していた。

主に、レアなスキルを持っている人を中心に。

そして、俺の 魂書(ソウルブック) を見た時。

「あなたは、水魔法……初級ですか。頑張ってくださいね」

微笑みながら、通り過ぎた。

え?

「そ、それだけですか?」

「おい、巫女様は忙しいのだ!」

詰め寄ろうとすると、騎士っぽい男に阻まれた。

あとで知ったが、巫女の守護騎士という存在らしい。

「水の女神様の信者になります! だから、加護をいただけませんか!」

当時の俺は、弱いスキルしか貰えなかった焦りから、何とかしようと四苦八苦していた。

女神の加護を受けると、ステータスが上がり、スキルが貰える。

なんとしても、水の女神の加護が欲しい。

俺は必死だった。

しかし、巫女の態度は冷淡だった。

「あなたは、もう少し修行が必要なようです。また、次の機会に」

水の巫女ソフィアは、振り返りもせずそういって去って行った。

その後、どれだけ修行しようと加護がもらえることはなかった。

クラスメイトはもちろん、神殿にいる人たちからも可哀想な目で見られ、俺は涙で枕を濡らした。

俺はそれ以来、水の巫女と教会が大っ嫌いになり、そいつが信仰しているという女神も嫌いになった。

苦い思い出だ。

当時を思い出すと、今でもイライラする。

落ち着け……、もう気にしてない、気にしてない

「巫女の件は酷かったですね。あんな連中の信仰する女神は信じなくて良いですよ」

まるで、心を読んだかのように、語りかけてくる。

心を読まれたのだろうか。

というか、水の巫女との出来事を知ってるのか。

「見ていた」というのは、本当らしい。

「その話は思い出したくありません。ところで女神様の名前を教えてもらえませんか?」

俺は質問した。

この世界の神様には名前がある。

『光の勇者』桜井君は、『太陽の女神アルテナの寵愛』という加護をもらって、戦闘に関するステータスが倍になるというチートな加護を得ているらしい。

まじ、あいつばっかりイージー過ぎない?

そこまではいかなくても、有名な女神であれば加護も期待できる、という下心もあって名前を聞いた。

「ふふっ、私はマイナーな女神なので、知らないと思いますよ」

「そうは、言いましても、信仰する女神様の名前は知りたいですよ」

「では、いずれお教えしますね」

誤魔化された。

なんでだ?

仕方なく、話題を変える。

「俺はこの異世界で、冒険者をやっていけますかね?」

「ステータスが低いことを気にしてますね」

「まあ……はい」

俺は自力の魔法で、スライム一匹倒せない。

魔力(マナ) 量が少なく、威力が低いから。

冒険者をやっていけるのか、不安を抱えている。

「便利なスキルを持ってるじゃないですか」

「『明鏡止水』スキルと『RPGプレイヤー』スキルですか? 確かに、便利ではありますが、魔法使いや戦士スキル持ちには敵いませんよ」

つい拗ねた口調になってしまった。

しかし本音だ。

「クラスメイトの鈴木さん、山下さん、遠藤さんを知っていますか?」

「知ってますけど……それが何か?」

急に話題が変わった。

一緒に異世界転移したクラスメイトだ。

仲良かったわけではないが。

みんな『上級魔法』か『上級戦士』のスキルを持っていたはずだ。

「その3名は現在、行方不明もしくは亡くなっています」

「…………え?」

耳を疑った。

「スキルを過信したのでしょうね。実力以上の魔物と戦ったり、高難度のダンジョンに挑んで失敗したようです」

「そう、なんですか……」

一年間、神殿に籠っていたから何も知らなかった。

「あなたのいた日本は平和な国ですからね。いくら強いスキルが得られても心は変わりません。『明鏡止水』スキルは過信や油断を防ぐ良いスキルですよ」

そう……なのだろうか。

「『RPGプレイヤー』スキルですが、これは異世界人の固有のユニークスキルですね。これも面白いスキルだと思いますよ」

「ただの視点を変えるスキルでは……?」

「自分の姿を外から見ることで、不意打ちを防ぐ、360度視点。自分の行ったところは自動で『 地図(マッピング) 』化する。使いこなせば有用なスキルです」

うーむ、そう言われると悪く無い気がする。

そっか。

要は使いようってことか。

少しだけ気持ちが軽くなった。

よし、別の質問をしてみよう。

「ずっと、見守っていたとおっしゃいますが、今まで声をかけてこなかったのはなぜです?」

「水の神殿は、水の女神の管轄ですからね。遠慮してたんですよ」

「水の神殿内でも、他の神の信者からのスカウトはありましたが」

光の勇者の桜井は、太陽の女神の信者になってたし。

「まあ……、それはいいじゃないですか」

ニッコリ微笑み、曖昧に回答された。

「さぁ、マコト! 私の信者になりますよね?」

女神様が、ぐいぐい来る。

うーん、と考える。

最初はあまりの美しさに目を奪われた。

しかし、冷静になった今、目の前の女神は正直ちょっと 怪(・) し(・) い(・) 。

なぜ、俺のような弱小ステータスと変なスキルしかない男を信者にしたいのだろう。

RPGゲームで、序盤にこういう一見良さそうな選択肢は、安易に『YES』を選択すると、後で何か裏があることが多い。

ゲーマーの勘がそう告げている。

しかもゲームと違ってリセットはできないのだ。

よし、保留だな。

「持ち帰って、検討します」

「え!?」

女神様はそれまでの優雅な仕草がなくなり、急に慌てた表情になった。

「ちょ、ちょっと待ってください。女神の眷属ですよ! しかも、女神が直接声をかけるとか、とんでもなく光栄なことなんですよ!」

そうなのだ。

通常、女神が直接現れるなど あ(・) り(・) 得(・) な(・) い(・) 。

巫女ですら声が聞ける程度だ。

夢の中とはいえ、一般人が、直接女神の姿を見て話をするなど、聞いたことがない。

(もし、本物ならな)

『明鏡止水スキル』が囁いてくる。

――この女神様は、果たして本物なのか? と。

「本物ですから!」

「え?」

「あっ、しまっ」

やっぱり、心を読まれてるらしい。

「まあ、女神様ならそれくらいできますよね」

「れ、冷静なのね……」

『明鏡止水』スキルがあるからね。

「ね、ねぇ。神が人間界に来ることって大変なんだから。今日、契約してくれないかなー?」

媚びるように俺の手を握って上目使いで話してくる。

(か、身体が近い!?)

恐ろしいくらい整った顔が、眼前に迫る。

女神様の瞳が、淡く輝いている。

頭がぼんやりして、くらっとした。

ん?

これ、魅惑魔法じゃないか?

――『魅惑魔法』

娼館で働く女性が好んで使う魔法。

世の中には色々な魅惑魔法があるそうだが、「相手の目を見て」「甘い声で話しかけながら」「身体を触る」のが基本だそうだ。

初心者の冒険者が、魅惑魔法にかかって商売女に大金をつぎ込んで、借金を負ってしまう。

よくある話だ。

(今、まさにやられてないか?)

ただし、『RPGプレイヤースキル』の第三者視点を常時発動している俺は、自分の様子や、目の前の話し相手の様子を、数メートル離れて見ている。

そのため、原則、相手と目を合わすという状況が起きない。

ついでに言うと、スキルのせいで声や体の接触も、いまいち、自分のことのように感じにくい。

さらに『明鏡止水スキル』である。

俺は平静だ。

「マコトくんは、魅惑魔法は非常にかかり辛いでしょうね」

と神殿の先生に言われた。

「女神様、とりあえず離れてください。近いです」

結果、特に取り乱すことなく1歩下がった。

「あ、あれ? なんで、効かないの!」

女神様、それは失言では?

信者にするために、魅惑魔法を使ってくるというはどうなんだろう。

怪しい宗教勧誘そのものじゃないか。

「怪しくないから!」

「心読めるんでしたね」

心の中で呟くのは意味が無いな。

「それなら、俺の不信感もわかりますよね? 今日のところは、あきらめていただけると」

「いやー!! 千年ぶりの信者獲得のチャンスなんだから、絶対に信者になってもらうのー!」

ついには寝転がって足をばたばたさせ始めた。

最初の威厳は消え去っている。

短いワンピースのようなスカートからは、下着が見えそうなのに、……見えない。

これが女神様の絶対領域?

バカなことを考えていると、女神様が聞いてきた。

「スカートの中を見せたら、信者になってくれる?」

「なんてことを言うんですか」

女神様は、地面に座り込んだまま、涙目でこちらを見つめる。

か、可愛い……。

だが、しかし!

信者になるかどうかは、別だよなぁ。

「お願いお願いお願い! 信者になってください。お願いします!」

肩をつかまれ揺さぶられた。

だから、近いですって。

どうしよう……?

正直、相手の意図はわからない。

だが『本気度』は伝わる。

どの道、この大陸ではメジャーな六大女神を信仰する気はなかった。

水の巫女のせいで。

これだけ、言ってくれるのだ。

悪い扱いは受けないと期待しよう。

『RPGプレイヤー』スキルが選択肢を表示してくる。

『女神様の信者になりますか?』

はい ←

いいえ

「わかりました。あなたの信者になります」

「えっ、本当? や、やったー」

女神は万歳してぴょんぴょん跳ねている。

「じゃあ、あなたの『 魂書(ソウルブック) 』を貸してもらえる?」

夢の中でも持っているだろうか。

探してみると服の内ポケットに入っていた。

「どうぞ」

「はーい、どれどれ」

女神様が魂書を指でなぞる。

ふっと、紙が一瞬光った気がした。

契約の書面を見ると、『女神の一人目の信者』と書かれてある。

「僕の他にいないんですか?」

「そうよ! あなたが一人目なんだから! 光栄に思いなさい!」

不安が増す。

マイナー過ぎる。

どんだけ人気の無い女神なんだ。

やはり心配だ。

他に気になる点と言えば。

「女神様の加護は何がもらえるんですか?」

信者になった瞬間で、ずうずうしいと思ったが大事なポイントだ。

ただ、女神様は困ったような顔をする。

「実は、私は若いマイナーな神なので、すぐに信者に加護を与えることができないの。毎日祈りを捧げてもらえれば、そのうち加護がつくかも」

え、そんな。

「大丈夫! 代わりにこれあげるね! これは契約の証の『神器』ね。凄いんだから!」

短剣を渡された。

「武器ですか?」

「武器としても使えるわよ! 女神の鍛えた短剣だから、少々のことじゃ壊れないから! 私に祈りをささげるときはこれを持って祈ってね」

十字架みたいなものだろうか。

「じゃあ、私はそろそろ行くから。困ったことがあったら頼ってね!」

「え、ちょっと、何か指示とかないんですか?」

慌てて確認すると、女神様はきょとんとした顔した。

「私にあれこれ言われたくないでしょ? 自由(フリーシナリオ) が好きなのよね?」

「それはそうですけど」

本当に、なんでも知ってる。

「こういう場面では、大体女神様からのお使いイベントがあるもんですよ」

「自分から聞いてくるとか、気の利いた信者ね。うーん、じゃあ、一個だけ。強くなりなさい!」

「それが命令ですか?」

「命令じゃないわ。これはただのお願いよ。私の信者はあなた一人なんだから、簡単に死んだら許さないわよ! あなたには期待してるから」

ウインクをして「グッドラック」と言って親指を立てながら、女神は消えて行った。

朝起きると、枕元に抜き身の短剣が落ちていた。

あ、危なっ!

「あれ? これ昨日のゴブリンから奪った短剣じゃないか」

錆びてボロボロだった短剣が、綺麗に生まれ変わっている。

おそるおそる、手に持ってみる。

軽過ぎず、重すぎないちょうど良い重みだ。

手に吸い付くように馴染み、身体に魔力が満ちてくる気がした。

魔法武器だろうか。

薄く青みがかった刃が、不思議な光を放っている。

「女神様、ありがとうございます」

日本人の癖で、両手を合わせてお祈りをした。

『魂書』を確認すると、女神の眷属と書いてあった。

夢ではなかった。

「あれ? 高月さん、短剣なんて持ってどうしたんです?」

おっと、危ない。

商人さんがこっちにやってきた。

「おはようございます。ちょっと、女神様にお祈りを」

「私も祈りますね。 幸運の女神(イラ) 様。高月さんと出会えたことに感謝を」

商人さんもお祈りをしている。

「さあ、出発しましょう。昼には 水の街(マッカレン) に到着すると思いますよ」

―― 水の街(マッカレン)

規模はそこそこ。

シメイ湖の畔にある美しい街。

街の中をたくさんの水路が駆け巡り、人々は移動に渡し船を使う。

酒造が盛んなことでも有名であり、マッカレン産の火酒は大陸全土で親しまれている。

そんな話を商人から聞いた。

「無事に着きましたね。高月さん、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、色々教えてくれてありがとう」

街にたどり着くまでに、街の権力者の情報、冒険者ギルドの場所、武器、アイテムが安く買えるお店、美味い飯屋、手ごろな宿屋の情報を聞くことができた。

ついでに女神様にもらった短剣を見てもらったが、彼の『鑑定・中級』スキルでは、よくわからないと言われた。

商人は、自分の商会に戻ると言って別れた。

俺は、街の繁華街にある冒険者ギルドを目指す。

ちなみに、街の中心に巨大な教会が建っている。

水の国(ローゼス) では、教会の力が強い。

そのため、教会を中心に街が作られる。

しかし、俺は教会が嫌いなので近づかんぞ。

そんなことを考えながら、街を散策した。

冒険者ギルドはすぐに見つかった。

想像したよりも大きく、しっかりとした石造りの建物だ。

中に入ると、広い開けた場所に、食べ物の屋台や、武器の露店販売が並んでいた。

「おーい、一杯どうだい! キンキンに冷えたエールがあるよ!」

「これは土の国で今朝、仕入れたばかりの業物だ。今なら1割引きだよ」

活気がある。

所々に簡易なテーブルがあり、宴会をしている人たちもいる。

案内板を見ると、休憩所(泊まることもできる。男女は別)や訓練所、討伐した魔物の保管倉庫があるようだ。

冒険者ギルド、イコール冒険者ライセンスを発行するというイメージから、自動車教習所のようなところを想像していたが、どちらかというと娯楽施設が併設されたスポーツジムみたいだ。

ライセンスの発行所は、クエストの受付所と同じ場所にあった。

幸い、あまり人は並んでおらず、すぐに窓口に呼ばれた。

「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか?」

受付のお姉さんは、美人だった。

「冒険者登録をお願いできますか?」

「初めてのご利用ですね。では、こちらの紙に必要事項をご記入ください。あと『 魂書(ソウルブック) 』はお持ちですね」

魂書を受付のお姉さんに渡した。

名前、経歴、スキル、職業を書いていく。

「書けました」

「はい、ありがとうございます。確認しますね」

受付のお姉さんは、名前と経歴『異世界』で少し驚いたようだったが、何も言われなかった。

「問題ありませんね。職業は『魔法使い見習い』のままでよろしいですか?」

「はい、そのままで」

「ライセンスの発行には、少しお時間いただきますので、番号札を持ってお待ちください」

冒険者ギルドに新人が来ると、チンピラな冒険者に絡まれたりしないかと、キョロキョロ見回していたが、そんなことは起きなかった。

何事もなく、冒険者のライセンスカードが発行される。

--------------------------

高月マコト:魔法使い見習い

レベル:2

冒険者ランク:ストーン

固有(ユニーク) スキル:『明鏡止水』『水魔法:初級』『RPGプレイヤー』

共通(コモン) スキル:『隠密』、『索敵』『逃走』……

筋力:XX

体力:XX

精神力:XX

敏捷性:XX

・・・

・・

--------------------------

ゴブリンを倒したおかげで、レベル2になっていた。

あとは、いつも通りの平凡なステータスだ。

弱いなぁ、俺。

知っていたが、気持ちが沈む。

「まあ、いいや」

『明鏡止水』スキルのおかげで、気持ちの切り替えは早い。

ライセンスカードを懐に仕舞い、冒険者ギルドを出た。

よし、次の場所だ。

向かう場所は、商人に教えてもらった『フジワラ商会』のお店。

そう、クラスメイトで友人のふじやんは、すでに自分の店を持っていたのだ。