作品タイトル不明
386話 高月マコトは、王女と話す
「戻ったよ、ソフィア」
「ただいまー、ソフィーちゃん」
「はぁ~、疲れたわ」
「おかえりなさい、魔王の相手は大変でしたね」
俺とさーさんとルーシーがローゼス城に戻ると、ソフィア王女が部屋で待っていた。
まだ、太陽が昇る前だというのに。
「もしかして、夜通し待っててくれた?」
だとしたら非常に申し訳ないことをした。
「いいえ、 水の女神(エイル) 様から遅くなることは伺ってましたから、さっき起きたところです。おつかれさまでした、マコト」
「そっか。水の女神様も見てたのか」
なんだかんだフォローはしてくれるエイル様。
優しい。
「それにしてもルーシーさんのお父上が魔王だったとは……驚きました」
ソフィア王女が微妙な表情になる。
「な、なによ! 私だって知らなかったんだし」
ルーシーが身構える。
「もしかして魔王の娘は 水の国(ローゼス) を追放されるとか!? ダメだよ!」
さーさんがルーシーをガシッと抱きしめる。
「何を言ってるんですか。それを言うなら勇者マコトは北の大陸で魔王の称号を持ってますよ」
ソフィア王女が嘆息する。
「そーいえば」
「そーだったね」
ルーシーとさーさんがこっちを見る。
なんだよ?
「いずれルーシーさんとアヤさんが勇者マコトの妻であることを公表しないといけませんから。その時のルーシーさんの立場をどのように伝えるか迷っているです。これまでは 木の国(スプリングローグ) の英雄ロザリー様の御息女ということで知られてましたが、魔王の娘でもあるとなればローゼス王家としても無視できるものではないので……。」
「「「あー」」」
俺たちは揃って声を上げた。
確かにそうなるとローゼス王家と親戚付き合いが発生するわけで。
隠して後でバレるのは微妙だし、かと言って大々的に発表をするべきなのか難しい問題だ。
「そういえば私の結婚式に 魔王(おとうさん) が出席するって言ってたなー」
「えっ!?」
ルーシーの言葉にソフィア王女が目を丸くする。
「アシュタロトも参加すると言ってたな」
「こ、古竜の王が!? どうしてですか!?」
「ルーシーのお父さんと古い友人なんだって」
「……」
ソフィア王女がルーシーを凝視する。
「な、何よ! 初対面の父親なんだから私だって驚いてるんだから!」
「ま、まぁ、古竜の王は私と勇者マコトの結婚式にも参加してくださいましたし……。それにしても水の国が北の大陸と一番付き合いが多い国になりそうですね……」
ソフィア王女が「うーん……」と言って悩ましそうにしている。
そんな会話をしていると。
「いいなー、るーちゃんのところは知り合いが多くて。私の結婚式は……大姉様きてくれるかな?」
さーさんがしんみりした顔でぽつりと言った。
「ま、まあ、俺もこっちに全然知り合いいないし! さーさんと一緒だよ」
俺は思いつく慰めの言葉をかけた。
「ねー、高月くん。神様になったなら前の世界の家族に会えたりしないのかな?」
期待するような目で見つめられた。
(そうか。今の俺なら頑張れば奇跡を使って前の世界にだって……)
考えていると。
――だ、ダメよ! 異世界転移は天界会議で承認されない限り重大な 罰則(ペナルティ) があるから! ゼッタイダメ!!
脳内で念話が響く。
「 運命の女神(イラ) 様。やっぱりダメですか?」
――違反した奴を捕まえるのは、その地域の運命の女神が担当なんだから! これ以上、仕事を増やさないで!!
悲痛な声だった。
これは無理そうだ。
「さーさん……ダメだって。女神様に注意された」
「そっかー……。まぁ、仕方ないよねー。私は一回、死んじゃって転生したんだし。ソウちゃん、ケンちゃん、サンちゃん、シローちゃん……みんな元気かなー」
さーさんが寂しそうに笑った。
おそらくさーさんの前の世界の弟の名前だろう。
「そういえば一番下の弟さんとは、俺も会ったことあったっけ?」
「覚えてる? 人見知りで最初は緊張してたけど、高月くんも一緒に遊んでくれたよね」
「覚えてるよ、さーさんの家の近くの公園で携帯ゲームで対戦したはず」
「……そういえば公園行ってまで、ゲームしてたねー」
呆れた顔で笑われた。
そして、その目は寂しそうだ。
(やっぱりなんとかしてあげたいな)
「イラさまー。今度、いっぱい仕事手伝いますから1回くらい、さーさんと弟さんたちを再会させてあげたいんですけど、ダメですか?」
――はぁ? だから、違反者を捕まえるのが私の仕事になるからダメって言っ……
「違反したあとイラ様のところに 捕(・) ま(・) り(・) に(・) 行(・) き(・) ま(・) す(・) よ(・) 。あと、罰則としてイラ様のところでいっぱい仕事しますよ」
これならイラ様の負担は少ないのでは。
予告犯罪ならぬ、予告贖罪だ。
――ふーん、悪くないわね。
(お、迷ってる、迷ってる)
あと一押しだ。
「じゃあ今度、詳細をつめましょう。なるべく迷惑かからなようにしますから」
――わかったわよ。その代わり異世界転移は 高月マコト(あんた) がやるのよ? 私は手伝わないからね? 運命魔法の修行を怠るんじゃないわよ
と言って念話が切れた。
「なんとかなったよ、さーさん」
「え…………? ほんと?」
さーさんが呆然としている。
「ただ、俺が運命魔法を頑張って覚えないといけないんだって。たぶん、まだしばらく時間がかかると思う……」
すぐに会えると期待させてしまっただろうか。
「ううん! 可能性があるだけでもすっごくうれしい! 高月くん、大好き♡」
抱きつかれて押し倒された。
そのままキスまでされて、ルーシーに引き剥がされた。
◇翌日◇
俺たちはローゼス城に泊まった。
泊まったというかここが家なのだが、どうもお城住まいがまだピンときていない。
未だにお城は何か 行事(イベント) が発生する場所という感覚がある。
俺は水魔法で顔と身体をさっと洗い、着替える。
ルーシー、さーさん、ソフィアは朝の湯浴みに行った。
(運命魔法……修行するか)
俺はいつものように時の精霊に話かける。
「 ✕✕✕✕✕✕(せいれいさん) 、 ✕✕✕✕✕✕(あそぼう) 」
返事はない。
時の精霊の相手は難しい。
先は長い。
けど、待たせている人がいる。
千年前のアンナさん。
そして、さーさんと弟さんを少しでも再会させてあげたい。
俺は朝食の準備ができるまで根気よく、時の精霊に話しかけ続けた。
◇
朝食はみんなでとった。
長いテーブルには焼き立てのパンと、湯気のたつトウキビのスープ。
焦げ目がついたソーセージと色鮮やかな野菜と果物が盛られてたお皿がある。
「ふわぁ……」
「…………ん」
ルーシーとさーさんは眠そうだ。
ソフィア王女は上品にナイフとフォークで朝食を食べている。
俺はなるべく音を立てないよう、ゆっくりと食べた。
しばらくは、カチャカチャと食事の音が響く。
「そういえば……勇者マコトは遠出する予定はありますか?」
朝食が終わりかけたころ、ソフィア王女から質問された。
「いえ、特には」
運命の女神様のところには出向かないといけないと思っているが、あの場所は時間の概念が無視できるからな。
「であれば、 太陽の国(ハイランド) から……というよりノエル様からの伝言が今朝ありました」
「何かあったんですか?」
また、氷の女王みたいな魔王が現れたのだろうか。
まぁ、クラスメイトとの再会という平和なイベントだったが。
魔界の魔王はルーシーの父親だったし。
最近の魔王イベントは平和だな。
「実は……太陽の国から南の大陸の迷宮都市というところへ使節を送るそうなのですが、その中にノエル様と勇者マコトの友人である桜井様も含まれるそうなのです」
「えっ? ノエル女王と光の勇者様が自らいくの?」
「二人って王様と副王様だよね?」
「ずいぶんと仰々しいね」
俺だけでなくルーシーとさーさんも驚いている。
「どうやら南の大陸の主要な国で、指導者が変わる可能性があるらしく。これを機会に親交を深めたいそうです。それだけなら水の国の出番はないのですが……」
ここでソフィア王女が言葉を区切る。
「なにか問題があるんですか?」
「噂によると南の大陸をかつて支配していた堕天の王が復活したらしいと……」
「またぁ!?」
「魔王多すぎるよ!!」
ルーシーとさーさんが大声でさけんだ。
「堕天の王エリーニュスか……」
千年前は何度か戦ったが、結局力の底は見せなかった。
「あともうひとつ」
「まだあるんですか?」
「どうやら南の大陸の迷宮都市には『異世界転生人』、つまり勇者マコトやアヤさんと同じ境遇の人がいるという噂があります」
俺とさーさんは顔を見合わせた。
南の大陸に転生した人もいるのか。
復活した魔王の近くにいるらしい。
危ない目にあってないといいけど。
「ノエル様と櫻井様からは、不確定要素と不安要素が多いのでできれば勇者マコトと紅蓮の牙のお二人に同行してほしいと。太陽の国からの公式な依頼です。どうしますか?」
という表情からは、すでに俺の答えがわかっているように思えた。
「いくよ」
俺は短く答える。
「いいわよ」
「クラスメイトが誰なのか、気になるし!」
ルーシーとさーさんも異論がないようだ。
こうして、俺たちの次の目的地が決まった。