軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

374話 佐々木アヤ その5

「あ、あの……高月様? 本当に私がこんなところに来てもいいのでしょうか?」

さーさんのお姉さんが、おどおどしながら歩いている。

「大丈夫、大丈夫」

と軽く答える。

ここは魔都リースの中央役場。

そこにさーさんと、さーさんのお姉さんと一緒にやってきている。

ちなみに、仄暗い森で最初に話しかけた時は「……あんた誰?」と訝しげに聞かれた。

「大姉様、高月くんは私の旦那様だよ」

「へぇ……、それは妹が世話になってるね」

「はじめまして、高月マコトと申します」

「ああ、はじめま…………タカツキ……マコト?」

ぎぎぎ……と、おねーさんの首が動きさーさんのほうを振り向いた。

「ねぇ、妹」

「どうしたの、大姉様」

「あの……多分、勘違いと思うんだけど……あのさ」

「うん?」

さーさんがきょとんと首をかしげている。

「タカツキマコトって、古竜の王様に勝ったという男と同じ名前なんだけど……偶然よね?」

「アシュタロトって魔王に勝ったのが高月くんだよ」

「ひえっ! あんた、先にいいなさいよ! もうしわけありません! 高月さま! 無礼な態度を……」

「高月くんは優しいから大丈夫だよー、大姉様」

「大丈夫ですよ、普段通りに話してもらって」

俺は言ったが。

「無理です! 竜王様にそのような口調を……!」

気軽に接してはもらえなかった。

さーさんのおねーさんなら親戚みたいなものだと思うんだけど。

「それで……魔都での仕事というのは?」

おずおずとお姉さんが聞いてくる。

「魔都リースの中央役場が人手不足みたいで、よかったら一度見学にきませんか?」

と声をかけたらOKと言ってくれたというわけだ。

(でも、冷静に考えると俺の立場で言うと魔族のみなさんは断りづらいのかもな……)

魔族の皆さんにとって、 古竜の王(アシュタロト) に勝った俺は竜王って扱いみたいだし。

かといって、身分を明かさないとあんまり相手にしてもらえないし。

不便だ。

中間くらいのやつがあるといいんだけど。

とか、考えているうちに奥の執務スペースまで到着した。

「おやおや、マコト殿。今日も来てくれたのですね。例の探し人は見つかりましたか?」

いつものように一人で仕事をしているセテカーが声をかけてきた。

石化の魔眼が発動しないよう、目は布を巻いて塞いでいる。

毎度、気配だけでよく誰かわかるものだ。

「無事にみつかったよ」

「それはよかった……おや、初めての人がいますね」

目を閉じていても、俺やさーさん、ルーシー以外に人がいるの気配はわかるらしい。

「紹介するよ。探していたラミア族でさーさんのお姉さんなんだ」

「は、はじめまして、セテカー様! 西の大陸ラビュリントス出身の者です。現在は仄暗い森に住まわせていただいております」

「おや、礼儀正しい人ですね。楽にしてもらってよいですよ」

ニコニコ……表情はわからないが朗らかに答えるセテカー。

「い、いえ。次期魔王様との呼び声も高いセテカー様に無礼があっては……」

さーさんのお姉さんはガチガチに緊張している。

えっ!? セテカーさん次期魔王なの?

というか、セテカーさん 女神(ノア) 様の信者だし、うちの派閥から魔王がでちゃうんだけどいいのだろうか?

(マコトもでしょ?)

(俺は違いますよ!)

了承した覚えはない。

俺は古竜の王との勝負に勝っただけだ。

「ところでマコト殿。今日は何か用事が?」

セテカーに問われ、本来の用件を思い出した。

「実はね。さーさんのお姉さん――こちらのラミア族のお姉さんを、中央役場で雇ってもらえないかなって。前に人手不足って言ってただろ?」

というが俺の考えだった。

仄暗い森は、生活環境悪そうだし。

あそこにずっと住むと健康的・精神的によくなさそうだ。

「おお! そうなのですか! それは助かります。…………けど、よろしいのですか?」

「も、もちろんです! 精一杯頑張らせていただきます」

さーさんのお姉さんがぺこりと頭を下げる。

(ねー、アヤ。これでよかったの?)

(うん、高月くんが紹介してくれてよかったよ。私じゃ無理だったし)

(ふーん、アヤがいいならいいけど)

うしろでさーさんとルーシーの会話が聞こえた。

さーさんもお姉さんの心配をしていたようだった。

「高月様! 本当にありがとうございました」

「いえいえ」

さーさんのお姉さんに深々頭を下げられた。

「それから……あんたも…………ありがとう」

「………………うん」

お姉さんの言葉に、さーさんが小さく返事をした。

完全に許したわけではないだろうけど、さーさんの表情はすっきりしていた。

よし、これで解決だな。

それからたまに、さーさんはお姉さんの様子を見に魔都にいくようになったらしい。

何のわだかまりもなく……とはいかなかいようだけど、ぽつぽつ会話もするようになったとか。

余談だが、魔都リースの中央役場は非常に激務で「仄暗い森の生活のほうがよかったかも……でも、竜王様からの紹介案件だから辞められないし」とぼやいていたとさーさんから教わった。

……いや、そういうつもりで紹介したわけではないのだが。

セテカーに仕事の量は考えるように注意したところ、職場環境は改善されたらしい。

ブラックな職場はよくない。

もしかして、中央役場の求人が集まらないのってセテカーが仕事受けすぎるせいじゃ……。

他にも仕事に困っている魔族がいたら、紹介してあげよう。

人が増えれば、一人の負担は減るだろうし。

こうして、さーさんの姉を探す旅は終わった。

◇太陽の国・大会議室◇

七カ国同盟の定例会議にて。

大きなすり鉢状の会議室に、各国の重鎮が座っている。

その中央には巨大なモニターがあり、様々な西の大陸の課題が話し合われていた。

俺はちょうど会議がある日に、太陽の国に顔を出していたらフリアエさんに強制参加させられた。

会議は穏やかに進んでいる。

「魔大……北の大陸との交易状況は?」

「魔石や魔鋼の輸入は安定しています。こちらからは食料や衣類を輸出しており問題ありません」

「魔都では畜産に興味があるようですが、どうも魔大陸では普通の家畜は育ちにくいらしく……」

「土壌や餌となる植物が大きく違うからな」

「風土の違いは今後も課題だな」

北の大陸との関係性は悪くなさそうだ。

「南の大陸の国々はどうだ?」

「グレンフレア帝国からは最近連絡がありませんね。もともと交易に積極的ではありませんから」

「自前で何とかできるからだろう。国土の広さでいえば世界最大だからな。かの帝国は」

「なにかあれば連絡をくれるだろう」

「下手につつく必要はないか」

「カルディアとの関係は?」

「聖国は女神教会を通じて友好的な関係を築いていますが、何ぶん地理的に遠くて……」

「聖都アルシャームは山脈の奥地にあるからな」

「飛空船で直接行くこともできませんし」

「まぁ、こちらも仕方ないか……」

南の大陸はグレンフレア帝国というところと、聖国カルディアが有名らしい。

「あと東の大陸の国々だが……」

「話にならん。いまだ紛争を続けており、各国から支援協力を求められる」

「どこかに肩入れして、その相手国から恨みを買うのは怖いな」

「当面は見送りか」

「異議なし」

そんな感じで会議は続いていく。

以前は 太陽の国(ハイランド) と 月の国(ラフィロイグ) の関係が悪く、会議が荒れたものだが。

ちらっと会議室の中でも最上座にある王族、貴族がいる中でもよく目立つ二人に視線を向けた。

夜のように高貴な黒いドレスのフリアエ女王。

太陽のように明るいオレンジのドレスのノエル女王だ。

二人の席は隣どうして、肩をくっつけて何やら小声で会話している。

(そろそろ終わりかしら?)

(他に議題がなければ、そうですね)

(まったく退屈だわ)

(そういうことを言ってはいけませんよ、フリアエ)

(ねぇ、ノエル。今日の夕食は?)

(会議の参加者を招いての晩餐会ですよ。いつものことでしょう)

(そのあとよ。今日は私の騎士もいるしどこかに街にでかけましょうよ)

(……まぁ、いいですけど)

隣り合った席で小声で話しているのが聞こえた。

最近はすっかり仲良くなっている。

その影響か、太陽の国と月の国の人たちも以前よりもいがみあうことが減った。

よいことだ。

「では、他に議題がないようであれば今日の会議は以上で……」

司会の人が言いかけた時。

「みなさま! ただいま急報があり、この場で議題に持ち込ませていただきたいことがあります!」

穏やかに終わろうとしていた会議に横槍がはいった。

格好からして太陽の騎士団の関係者だろう。

なんだなんだ、と少しざわつく。

「この場にいる高貴な面々のお時間を使わせるほどのことだろうね?」

司会の人がじろりと、入ってきた騎士を睨む。

「はっ! 次回の会議では手遅れになる可能性があります!」

「わかった。続けたまえ」

「先ほど北極大陸にある最終迷宮『 奈落(アビス) 』を中心に魔物の動きが活発化したという報告が入ってきました。大規模な 魔物暴走(スタンピード) の前触れの可能性があります」

「北極大陸か……。遠いな」

「まずは地理的に近い北の大陸の魔都に知らせるべきでは?」

「すでに伝令は送りました。ただ、魔都の魔族たちはそういった事前調査に積極的に動くことが少なく……」

「魔族は個人主義だからな」

「ことが起きてからなんとかすればいいと思っているのだろう」

「呑気なことだ」

「 奈落(アビス) は何年ぶりだ?」

「以前は三十年前だったか」

「最終迷宮から溢れた海の魔物が沿岸の街に大きな被害を与えたな」

「無視するには……危険だな」

「調査団を組むか」

「臨時予算は痛いが……仕方ないだろう」

「緊急事態宣言は必要か?」

「まだ警戒態勢レベルだろう」

「ところで調査団の中心はどこの国が行う?」

「先陣の名誉はやはり太陽の国に……」

「いやいや、遠慮することはない。我らが手柄を奪うのは心苦しい。火の国や月の国には勇猛な戦士や魔法使いが大勢いらっしゃる」

「火の国は、最近砂漠の魔物が増えすぎている対処に追われていて……」

「月の国は王都の増築計画に魔法使いの手が取られており……」

どこも調査団の仕切りを渋っている。

まぁ、金もかかるだろうし、進んではやりたくないのだろう。

ふと見ると、黙っていたノエル女王が立ち上がろうとしている。

こういう時の鶴の一声なんだろう。

ノエル女王が発言すれば、きっとそれで決定してしまう。

だから、何か言うならこのタイミングだな、と思った。

「すいません! 最終迷宮『奈落』の調査、俺がやってもいいですか?」

周囲の人たちが一斉に振り返る。

奈落なら、この前モモと一緒に行ったし。

今回は入口だけの調査だろうから、危険もないだろう。

と思っての立候補だった。

ノエル女王はぽかんとしていて、フリアエさんとソフィア王女が頭をかかえている。

(あれ? ダメだった?)

みんなが気乗りしない業務を巻き取ろうとしての発言だったのだけど。

「それなら、僕もいくよ。高月くんと一緒に」

という声が上がった。

会議がざわつく。

聞いたことがある……というか、よく知ってる声だ。

「桜井くん?」

「僕も一緒にいくよ、高月くん」

そう眩しい笑顔を向けるのは、現在の太陽の国の副国王にして光の勇者桜井くんだった。