軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370話 佐々木アヤ その1

佐々木アヤ――さーさんは、かつて同じ高校でクラスメイトだった間柄だが、 異世界(こっち) に来た後の状況は俺とは大きく異なる。

異世界転移のあと、異世界人として水の神殿で魔法の勉強を教えてもらっていた俺とは違い、さーさんは西の大陸最大の迷宮である 大迷宮(ラビュリントス) の魔物として 転(・) 生(・) した。

転生したさーさんの種族は、 蛇女(ラミア) 族。

大迷宮(ラビュリントス) の中層を縄張りとする魔物だ。

そこから進化して現在はラミア 女王(クイーン) と成っている。

蛇女(ラミア) 族の特徴は、上半身の外見は人族と変わらず、 変化(へんげ) 魔法を得意としており、人に化けて人を食う魔物であること。

しかし幸いにも前世の記憶がほぼ残っているからか、さーさんの思考は人食い魔物のものでなく人間の時と変わっていない。

運命の女神(イラ) 様曰く、転生で記憶が丸ごと残っているのは 希少(レア) らしい。

普通は記憶が欠損する。

さーさんが俺のことを覚えていてくれて本当に 幸運(ラッキー) だった。

おかげでさーさんが人間を襲ったことはないし、もちろん人間を食べたりもしない。

せいぜい「前より肉が好きになったかも」程度の変化だ。

異世界転生の影響なのかさーさんの上半身の外見は、前の世界の影響を強く受けており再会をした時にもすぐ見分けがついた。

普段は変化魔法を用いて、人族の姿で24時間過ごしている。

たまに眠っている時にうっかり変化が解けて、朝起きると身体にさーさんが巻き付いてて少しびっくりする。

いつも明るく、よく笑い、魔物との戦闘となればとびきり強い。

うちのパーティーのムードメーカーの一人だ。

現在はルーシーと共に 水の国(ローゼス) 王家、つまりソフィア王女と懇意にしている 神鉄(オリハルコン) 級冒険者として名を馳せている。

そんな彼女だが、再会した直後は『ある人物』に執着していた。

同じ 蛇女(ラミア) 族の姉。

そして異世界転生後のさーさんの家族の―― 裏(・) 切(・) り(・) 者(・) 。

大迷宮の中層で縄張り争いをしていた 鳥女(ハーピー) 族に、巣穴の抜け道を教えてしまいさーさんの異世界での家族は皆死んでしまった。

家族(群れ) の教育方針について意見の食い違いがあり、喧嘩になった末に恨まれての凶行、らしい。

昔のさーさんは暗い表情で「必ず 大姉様(あいつ) に復讐してやる」とよく言っていた。

けど最近は言わなくなった。

異世界で親友になったルーシー。

他にもソフィア王女、フリアエさん、ニナさんなどの友人たち。

再会した友人の横山サキさん、桜井くんやふじやんなどクラスメイト。

そして……まぁ、現在は恋人である俺もさーさんが明るくなった原因の一つではあるはずだ。

が、それでもたまに悪夢でうなされているのを聞いたことがある。

こっそり泣いていることも。

さーさんの中で『復讐』の話は無くなってはなかったのだろう。

だから月の巫女であるフリアエさんの『未来予知』魔法によって、さーさんとラミア族の姉が再会する未来が視えたと言われた時、さーさんは迷わず「どこに行けばいいの?」と聞いてきた。

現在、俺とルーシーとさーさんで魔大陸に向かっている。

「……ね、ねぇ、マコト。場所はここでいいの?」

「ふーちゃんの話だと『あいつ』がいるのは、北の大陸のハズレにある『仄暗い森』なんでしょ?」

「ああ、いいんだ」

ルーシーとさーさんが落ち着かない様子で尋ねてくる。

俺たちが現在歩いているのは、魔大陸最大の都市リース。

魔族や魔物で溢れている巨大都市だ。

俺がやってきたのは千年ぶり。

さーさんとルーシーは初めてらしい。

魔族の街に好き好んでいく冒険者は少ないのだろう。

俺たちがやってきたとき、門番の魔族に威嚇されたが『竜王の証』を見せると慌てて敬礼された。

古竜の王(アシュタロト) の威光は便利だ。

街は活気で溢れていて、露店から呼び込みや昼から酒場で盛り上がってる者も多い。

街人は99%が魔族や魔物なのだが、ちらほら人族っぽい外見の者もいる。

おそらく魔人族だろう。

魔都市リースでは、 月の国(ラフィロイグ) との取引が多いらしいのでフリアエさんのところの住人かもしれない。

「ねー、マコト。どこに向かってるのよ」

「 運命の女神(イラ) 様に教えてもらったんだよ。さーさんのお姉さんがいる場所をしってるやつがいるって」

「直接現地で探せばいいんじゃないの?」

首をかしげるさーさんに俺は説明した。

「『仄暗い森』は、水の国より広いくらいの面積があるらしいから自力だと見つからないって。姫の予知魔法だと、あくまで『仄暗い森』のどこかってことしかわからないし、イラ様は魔王とかある程度強い魔族じゃないと詳しい位置までは見つけられないらしいから。魔族のことは魔族に聞くのが一番だよ」

「そっかー」

「わかったよ、高月くん」

俺の説明に、一応の納得をしてくれたようだ。

そのままぶらぶらと魔都市を散策する。

途中、他の魔族や魔物に絡まれるかな? と懸念してたのだがまったくそんなことはなかった。

「半エルフの嬢ちゃん! この 陽光桃(サンシャインピーチ) ドリンクはオススメだよ! あんた美人だからサービスするよ!」

「ふーん、じゃあ、もらおうかしら」

「そこの可愛いラミアっ子。今西の大陸で流行ってる 空葡萄(スカイグレープ) のシャーベットはどうだい? 今ならおまけで、雲苺もつけとくよ!」

「美味しそう! ください~☆」

最初は緊張していた二人が、すぐに馴染んでいる。

よくかんがえるとルーシーは半魔族だし、さーさんは生粋の魔物だ。

特に不思議なことではなかった。

となると魔族とも魔物とも関係ない俺が因縁をつけられると思っていたのだが、首にネックレスにしてかけてある『竜王の証』のおかげか、ちっとも絡まれない。

(なによマコト。絡まれたかったの?)

(久しぶりの魔族の街ですし、一応俺も緊張してたんですけどね)

(神族入りしたマコトに絡んでくるバカはいないわよ。魔族や魔物は危険察知能力が人族より高いから)

(そんなもんですか)

ノア様からの教えを賜りつつ、イラ様から教えてもらった場所を目指す。

昔行った場所ではあるが、あの時は仲間に案内されて歩いてたので道は覚えていない。

が、目的の建物は馬鹿でかい。

すでに建物の天辺は見えている。

だからそこを目指すだけだ。

屋根は見えているのだが、歩けども歩けどもたどり着かない。

結局、巨大な門の前に到着したのは1時間以上歩いてからだった。

「やっと着いたわねー!」

「ここって何の場所? お城?」

「昔は古竜の王が住んでたから、一応は『魔王城』なのかな? 今は魔王は住んでないけど、魔都市リースの役所として使っている場所なんだって。ここなら魔大陸の魔族がどこに住んでるか管理しているらしいよ」

というのがイラ様から教えてもらった情報。

意外にも魔大陸では、住人の戸籍登録がされているのだ。

千年前の 厄災の魔女(ネヴィア) さん時代からの名残らしい。

あの魔女さん、政治はしっかりしてたんだよなぁ。

魅了魔法で好き勝手できるくせに、統治は真面目だったようだ。

俺が説明すると「「へー」」とルーシーとさーさんはなんとも言えない表情で巨大な建物を見上げた。

門番はいない。

かつては二匹の巨竜が門を守っていたが、今は人の気配を感じない。

「おじゃましますー」

俺は竜サイズの巨大な門をゆっくりと押す。

ギギイイー、と手入れのされていない音を立てながら門は開いた。

鍵もかかってないとは不用心な。

「ねぇ! 勝手に入っていいの!? マコト」

「不法侵入はまずいよ、高月くん!」

「大丈夫……だと思うよ。中にいるのは知り合いだから」

「本当?」

「じゃあ、私もおじゃましますー」

俺のあとをルーシーとさーさんが続く。

門を抜けた先にある城の扉にも鍵はかかってなかった。

扉には紙が貼ってあり、赤黒い血のようなインクで文字が書かれている。

文字は魔族語で、俺には読めないはずだが……。

(しばらく見てたら読めるようになった)

これが神眼の効果らしい。

便利。

紙にはこう書かれてあった。

―――――――――――――――

あなたの街、あなたための旧魔王城跡、中央役場。

お困りごとがあれば、いつでも気軽にご相談ください。

心から歓迎します!

―――――――――――――――

こんな文面だった。

なんか……アットホームな役場だな。

「なんて書いてあるのかしら……」

「ちょっと怖いね、るーちゃん。呪い魔法とかかかってないかな?」

魔族文字が読めない二人は不気味がっている。

「危険なメッセージじゃないよ。入ろうか、二人とも」

俺は扉を開き建物の中に入った。

建物の中も相変わらず無人だ。

(もしかして留守だろうか……?)

と不安になったが、奥から声が聞こえた。

「おや、珍しい。お客様ですか。奥へどうぞ」

聞き覚えのある声、のはずなのだが久しぶりすぎて記憶が曖昧だ。

奥にあるのはかつて古竜の王と初対面した玉座の間。

そこが今の役場窓口なのだろう。

「失礼しますー」

俺は玉座のある広間へとやってきた。

広間の最奥、そこに細長い手足で、長身の魔族がいる。

かつて古竜の王が座っていた大きすぎる玉座。

の隣にある普通のサイズのデスクと椅子に彼は腰掛けていた。

デスクの上には大量の書類らしきものが並んでいる。

忙しそうだが、こっちを見てすぐに立ち上がり笑顔で近づいていた。

……いや、正確には笑顔かどうかはわからない。

彼の目は、幾重もの布でしっかりと塞がれていた。

それも仕方がないだろう。

なんせ彼の眼は、伝説の『石化の魔眼』だ。

一度、石化した身としてはその危険度は身を持って知っている。

「久しぶり、セテカー」

「その声は……! 精霊が騒がしいと思っていたら、おひさしぶりですね、女神ノアの使徒殿」

旧魔王城跡、中央役場にいたのは不死の王の幹部、セテカーだった。