作品タイトル不明
364話 結婚式 その1
―― 水の国の王都(ホルン) の大聖堂。
その脇にある仮設の待合室兼、衣装部屋にある大きなソファーに俺は座らされていた。
遠くからは景気のよい音楽や花火の音、人々の喧騒が聞こえる。
本日は、 水の国(ローゼス) の第一王女様とその婚約者との結婚式――つまり、俺の結婚式である。
服装は白い 燕尾服(タキシード) 。
異世界でそんな服装を用意してれくたのは当然……。
「タッキー殿! 見違えましたぞ! 実に男前で凛々しい姿! バッチリですな!」
ふじやんが笑顔で部屋へ入ってきた。
ちなみに今回の結婚式の手配の諸々を引き受けてくれたのは、ふじやんの商会である。
ローゼス王家直々の依頼ということで、報酬額は凄いことになっているそうだがその具体的な金額は俺は知らない。
「馬子に衣装だよ」
「いえいえ、そんなことはありませんぞ! 世界を救った英雄の風格が出ておりますな!」
「そんなことないって」
浮ついた言葉に照れる。
「しかし、タッキー殿には長時間待機してもらうことになって、もうしわけありませんな」
「今日は仕方ないよ。たくさん各国のお偉方が来てるみたいだし、会場の設営や案内だけで時間かかるだろうから」
すでに2時間くらいここで待っている。
いったん衣装は着ているがこのあとメイクの人や、衣装担当の人が来て整えてくれるらしい。
(式が始まるのは数時間後だし……ちょっと暇だよなぁ。空間転移でサクッとお茶でも……)
「タッキー殿!」
そんなことを考えていると、ふじやんがずいっと顔を寄せてきた。
ふじやんは『読心』スキルを持っている。
俺の思考はさっくりと読まれてしまった。
「今日は出歩いてはいけませんぞ? 佐々木アヤ殿やルーシー殿からきつく言われているのでしょう?」
「ア、……ハイ」
俺は大人しく頷く。
ふじやんの言う通り、今日は無断外出は禁止とルーシー&さーさんコンビから厳命されている。
ルーシーとさーさんは、ソフィア王女と一緒にいるそうだ。
「こちらに簡単な軽食とドリンクは用意しておりますから、空腹の際は食べてくだされ。時間つぶし用の雑誌も置いておりますからな。さすがにゲーム機は用意できませんでしたが、このあと挨拶に来る人たちもおりますから、必ずこの部屋にはいてくだされ! 絶対ですぞ、タッキー殿!」
そう強く言われ、ふじやんは急ぎ足で部屋を出ていった。
各国の王族、貴族との挨拶の合間にこっちの様子を見に来てくれたらしい。
(しかたない、この部屋で大人しくしておくか)
特に空腹ではないが、用意されているという ち(・) ょ(・) っ(・) と(・) し(・) た(・) 軽食とやらを眺める。
6人がけはできそうな長テーブルに、サラダ、サンドイッチ、パスタ、ピッツァ、フルーツの盛り合わせ、カラフルなケーキの数々、その他にも大量の料理が並んでいる。
全然、ちょっとしたではない。
隣のテーブルには、水やお茶だけでなく、フルーツ果汁や麦酒、葡萄酒、火酒、その他見たこともない色々な飲み物の瓶がずらりと並んでいる。
(どう考えても食べ切れないし、飲みきれない量なんだけど……)
せっかく用意してもらったので、俺はサンドイッチを一つつまみ、オレンジジュースっぽい酸味の強い果実水を飲んだ。
料理のことはよくわからないが、今まで食べたサンドイッチで一番美味しかった。
にしても式の前にこんなに食事を出してもいいのだろうか?
式の最中にも食事がでると聞いているし。
(もー、何を言ってるのかしらマコくんってば☆ 結婚式の主役が式中に呑気に食事をとれるわけないでしょー)
そんな声が脳内に響く。
水の女神(エイル) 様だ。
「え? そうなんですか?」
(そうよー。今日は100人以上から祝辞の言葉を聞かされると思ってね。ご飯の時間なんて深夜までないから、今のうちに食べておくこと☆)
「えぇ……」
あらかじめ聞いていたとはいえ、女神様からも断言されると気持ちが萎える。
(ふふふ……、うちの可愛いソフィアちゃんと結婚するんだからそれくらいは我慢するの☆)
「はい……、ところでエイル様は式には参加されるんですよね?」
ノア様たちと違って、エイル様にはお声掛けはしてなかった。
水の巫女であるソフィア王女から連絡すると言われたためだ。
(私は天界からの見学予定かな。もし降臨するとしたらソフィアちゃんの身体だけど、今日は結婚式の花嫁だからお邪魔はしないつもり)
「なるほど、そうですね」
女神様が降臨するには巫女の身体が必要になる。
エイル様の場合は、ソフィア王女が水の巫女。
そのため降臨は控えておくようだ。
(それよりも驚いたのは、ノアのことよ! ようやく 巫(・) 女(・) を(・) 決(・) め(・) た(・) わね!)
「ですね。最初は渋ってましたけど」
先日のノア様からモモへの巫女への勧誘。
最終的にはモモが「OK」の返事をしたため、現在のモモは『精霊の女神の巫女』という肩書だ。
もっとも他の七女神様の巫女と違って、ノア様が放任なおかげでモモはこれまで通りの平穏な生活を続けている。
ノア様はあまり新規信者の獲得には熱心ではない。
(というかモモちゃんって、ノアのこと嫌ってなかった? 邪神とか言って、前はマコくんがノアの信者なのを辞めさせようとしてたし)
「嫌っているというか、俺がノア様の話ばかりするので拗ねてたみたいです」
(あらあら☆ 罪な男ねー、マコくんは)
そんなたわいもない会話をしていると、「コンコン」というノックが聞こえた。
「どうぞ」と返事をした。
(じゃーねー、結婚式頑張って☆)
エイル様の念話が途切れる。
同時にガチャリとドアが開き。
「やぁ、高月くん。今日はご結婚おめでとうございます。似合ってるよ、その正装」
入ってきたのは、桜井くんだった。
「はは、ありがとう。桜井くん」
俺は愛想笑いでお礼を言う。
会う人会う人が服装を褒めてくれるのだが、鏡に写ってる自分の姿はどうにも違和感がある。
きっと着慣れてないからだろう。
「それにしても来場客は皆凄いね。各国の重鎮が軒並み参加してる」
「それを言うなら桜井くんこそだろ」
今の桜井くんは、 太陽の国(ハイランド) の副国王。
西の大陸最大国家のNo.2だ。
本来一人でふらっとこんな場所に来るはずない人物なのだが、『光の勇者』スキルを持つ桜井くんの場合は、護衛がいるほうが足手まといになるというチートスキル持ちだ。
今日は快晴なので、どんな大怪我をしても1秒で全快する。
なので一人でやってきたのだろう。
「いや、それがさっき来た一団は……」
桜井くんが何かをいいかけた時、遠くから人の悲鳴や大声が聞こえた。
『神眼』でそちらを見てみると。
「あー、 古竜族(エンシェントドラゴン) のみなさんか」
「まさか、数百体の古竜族がくるとは思わなかったよ」
「変だな。そんなにたくさんはこないと思ってたのに。せいぜい、白竜さんの知り合いの数体かと」
「なんでも千年前の魔王退治でお世話になった古竜全員が参加希望だから、って聖竜ヘルエムメルク様がおっしゃってたよ」
「魔王……? あぁ、 不死の王(ビフロンス) との戦いの時の古竜さんたちか。確かに300~400体くらいいたかも」
忘れていた。
古竜族にとって、千年はそんなに昔じゃないことを。
「顔が広いんだね、高月くんは」
桜井くんが、苦笑する。
「なんか人より、人外に知り合いが多い気がする」
「高月くんらしいね。それから聞いたよ。精霊の女神ノア様だけじゃなく、 太陽の女神(アルテナ) 様も結婚式へ招待したんだってね」
「これたらくるって言われた」
「ははっ、ノエルが頭を抱えてたよ」
桜井くんの嫁であるノエル女王は、光の巫女でもある。
太陽の女神様が降臨するとなると、ノエル女王の身体になるわけで……。
(あとで謝っておいたほうがいいかな……)
気軽に女神様を招待するのは、短慮だったかもしれない。
でもお世話になった度合いでいうと、外せないし……。
「どうしたの? 高月くん、難しい顔をして」
「んー、気軽に女神様を誘いすぎたかなーって」
「今さら?」
桜井くんに呆れた顔をされた。
確かに今さらだ。
「でも、太陽の女神様は忙しそうだし、月の女神様はなんとも言えない返事だったし、エイル様は来れないらしいし、運命の女神様は残業中だったし。結局、来てくださるのはノア様だけかなー」
残念なような、仕方ないような。
「…………精霊の女神ノア様って本当に降臨されるの?」
桜井くんが真剣な表情になった。
「そう聞いてるよ」
「アルテナ様と同格の女神様……、無礼な態度は決してとらないように太陽の国の参加者……、いや各国の参加者にはもう一度注意をしないと……」
ぶつぶつと、なにやらつぶやいている桜井くん。
真面目だなぁ。
「大丈夫だよ。ノア様は寛容だから」
「アルテナ様からは気まぐれな女神様だから、注意するようにって夢でお告げがあったよ」
「えっ!? 夢に太陽の女神様が出たの!?」
「ノアばかりずるいからな! って言って出現したよ」
「ノア様に対抗してる……」
あの二柱の女神様は、何かにつけて張り合っている。
というか夢に女神様が出てくるなら、それはもう実質『勇者』じゃなくて『使徒』では? と思ったが、姿は現さないらしい。
それに頻度もとても少ないとか。
うちの 女神(ノア) 様は、多い時は週に七回出てくるからなー。
最近、ちょっと頻度少ないけど。
結婚式が近づくにつれ、出現頻度が減っている。
会いにいっても、少しだけ冷たい。
結婚式の準備で忙しく、お祈りの時間が短いからだろうか。
「ところで精霊の巫女様は、あの御方って聞いて驚いたよ」
桜井くんの表情が、今日はよく変る。
「ああ、モモが引き受けてくれて助かったよ。知らない人だと緊張するし」
「あのね、高月くん。ついこの前まで太陽の国の大賢者様だった御方だよ。先に情報をもらっておいてよかったよ。太陽の国に激震が走るところだった」
「そんな大げさな」
「全然、大げさじゃないから。高月くんの人脈の豊富さはバグってるよ」
うーん、そうなのかな?
そうかも。
桜井くんと、取り止めない雑談をしていた時。
「マコト様!! 大変ですよ!!」
突然の 空間転移(テレポート) で、小さな人影が部屋に飛び込んできた。
(噂をすればってやつか)
誰であるかは言うまでもなく――新人巫女のモモだった。