作品タイトル不明
354話 王女ソフィアは、忘れていた
◇ソフィア王女の視点◇
「……時の精霊さん~、おーい、遊ぼうー」
勇者マコトが私の部屋で、いつものように修行をしています。
本当に修行が好きな人ですね。
ちなみに私はここ最近の諸外国への会議参加や、自国の視察が終わり久しぶりの休暇が取れたところ。
そこへ婚約者である勇者マコトがやってきました。
(いえ……違いますね)
正確には、やってきたというか……
「婚約者のソフィアともっと一緒にいなさいよ! あんたは」
「高月くんー、ソフィーちゃん構わなきゃ駄目だよ!」
と言ってルーシーさんとアヤさんが、勇者マコトを置いていきました。
神鉄(オリハルコン) 級の冒険者である二人は、冒険者ギルドの難関クエスト依頼を受けてでかけて行きました。
……二人には気を使わせてしまいしたね。
というわけで、今日は勇者マコトと二人きりです。
それが少しそわそわします。
「今日の修行はいつまで続けるのですか?」
私は少しぬるくなった紅茶を飲みながら聞きました。
「そろそろ今日は終わりにしましょうか」
「あら? もう終わりですか」
大きく伸びをしながら答えた勇者マコトの言葉を、私は意外に思いました。
いつもなら夜通しでも修行しているのに。
「せっかくソフィアと一緒にいられるんだし」
「……女の扱いが上手くなりましたね」
軽口をたたきつつも、どきりとする。
私が勇者マコトに近づくと、彼の手が私の頬に添えられゆっくりと私たちの顔が近づき……。
……ドタドタドタ! という足音で我に返った。
「失礼いたします! ソフィア様!」
大きなノックのあと、勢いよく入ってきたのは私の守護騎士でした。
相変わらず落ち着きがないですね。
「守護騎士のおっちゃん? どしたの?」
「騒々しいですね。なにかありましたか?」
「おお! マコト殿も一緒でしたか! それはちょうどよいですな!」
落ち着きのない男ですが、代々ローゼス王家に仕える信頼はできる者。
こういったことも慣れたものです。
……邪魔をされたのは少々腹立たしいですが。
「いやー、しかしあと一ヶ月ですなぁ! 長年ローゼス王家に仕えてきた身としては、感慨深いものです! 水の国(ローゼス) の民は皆、ソフィア様とマコト殿の晴れ姿を心待ちにしておりますぞ!」
私の気も知らず、ニコニコと大声で笑う私の守護騎士。
「……一ヶ月後?」
隣で勇者マコトが首を傾げています。
実は表情に出していないだけで、私も同様でした。
(一ヶ月後に何か大きな行事はあったでしょうか?)
最近で言えば、 太陽の国(ハイランド) の大賢者様が地位を返上されるという大きな出来事がありました。
その時には太陽の国のみならず、大陸中の王族貴族が集まり大変な行事になったのを覚えている。
はるばる南の大陸一の魔法使いといわれるユーサー王までいらっしゃったのは、驚きでした。
(まぁ、大賢者様の引退も勇者マコトのせいだと聞いていますが……)
なんでも、不死人だった大賢者様を人間へと戻したのだとか。
しかもその方法が冥府へ行って、 冥府の神(プルートー) 様へ直談判したというからどうかしてます。
最初聞いた時は、ずいぶん酷い冗談を言うと思ったものです。
と、他事を考えてしまいました。
大事なのは一ヶ月後の予定とやらでした
「これは、勇者マコト殿! いくら世界を救った英雄と言えど、それはいけませぬぞ。ソフィア様がお怒りになられます!」
「えっと……一ヶ月後って、何があるんでしたっけ?」
(一ヶ月後の予定ってなんだったでしょうか?)
私が疑問に思ったことを、勇者マコトが口にしてくれるので助かります。
「まったく、マコト殿は呑気ですなぁ。本気で忘れたのですか」
呆れたように私の守護騎士は言い、そして『それ』を口にしました。
「一ヶ月後は、ソフィア様と英雄マコト殿の水の国を上げての『 結(・) 婚(・) 式(・) 』ではありませんか」
「…………」
「…………」
隣で勇者マコトが無表情になっています。
きっと『明鏡止水』スキルが発動しているのでしょう。
ちなみに私も『冷血』スキルのせいで表情は変わらないのですが、頭の中は小鳥たちがダンスをしています。
(わ、忘れてましたーー!!!!!!)
仕事に追われて、『直前になったら準備しよう』と放置していた、自分の結婚式のことをすっかり忘れていたことをたったいま思い出しました。
◇高月マコトの視点◇
「結婚式のこと忘れていて、すいませんでした!!」
俺はソフィア王女に土下座して詫た。
守護騎士のおっちゃんは、言いたいことを言って去っていった。
なんという失態か。
婚約者との結婚式の予定を忘れるなんて。
確かに日程を伝えられたのは、随分前だったけどそれでもあり得ない失敗だった。
「い、いえ。顔を上げてください、勇者マコト」
優しいソフィア王女は、俺を気遣ってかあまり怒ってなかった。
「本当にごめん……ソフィア……」
「で、ですから。私は気にしてませんから」
そう言ってくれるソフィア王女の優しさが辛い。
いっそ罵倒して欲しいのだが。
(うわー、信じられないわねー)
(酷い男ー)
(マコくん、さいてー)
代わりにノア様、イラ様、エイル様に罵倒された。
なんか違う気が。
「ほら、もういい加減に立ち上がってください」
ソフィア王女に手を引っ張られ、俺は立ち上がった。
そして、間近な距離で見つめ合う。
蒼い瞳がこちらを射抜く。
相も変わらずな無表情。
整った美しい顔。
気がつくとソフィア王女が眼を閉じて、ゆっくりと顔を近づけてきた。
俺はソフィア王女の背中に手を回し抱きしめる。
今度は、邪魔は入らなかった。
◇
「コホン、ところで話し合わないといけないことがありますね」
「そうですね」
しばらく部屋でいちゃいちゃいしていたが、やはり結婚式のことは気になるということでその話になった。
「とはいえ、手配は城の者に任せていますから。特に勇者マコトにやっていただくことはないようです」
ソフィア王女は 結婚式計画人(ウェディングプランナー) を呼び出し、現在の進捗や当日の予定をまとめた資料を取り寄せて、素早く目を通している。
というか読むの早っ!
「もう読み終わったの?」
俺はまだ半分も読めてない。
「慣れてますから」
さらりと言われた。
できる女!
ここで式場の食事や、会場設営に使う花や食器類を手配している商会の名前で目が止まった。
購入先は『フジワラ商会』に一任する、と記載してあった。
「そういえば、先週会った時にふじやんが忙しそうにしてたなー」
「商会はあそこに任せておけば間違いないですからね」
ソフィア王女からも信頼されている。
すっかり王家御用達の商会になったようだ。
「恐れながら申し上げます! 高月マコト様!」
さきほど、結婚式までの計画書を持ってきてくれた 結婚式計画人(ウェディングプランナー) の女の人から話しかけられた。
「俺にですか?」
「はい! お二人の結婚式の参加者についてでございます!」
「参加者?」
そう言われて、俺は結婚式の参列者一覧に目を通した。
ソフィア王女側には
・太陽の国のノエル女王陛下
・火の国の国王陛下
・木の国の代表
・商業の国からは、運命の巫女エステル様
・土の国から王族の人
などなど。
その他、聞いたことのある大貴族やら知らない貴族までそうそうたる面子だ。
何百人いるのかわからない。
一方俺の方は……
「少ないですね」
友人代表が水の街の領主代行であるふじやん。
あとはルーシー、さーさんや、水の街の知り合いを何名か。
ちなみに、女王様なのにフリアエさんはこっちの席に名前が入っている。
うーん、しかしこうしてみると交友関係の少なさが明らかになってしまった。
「い、いえ! 決して少ないという意味ではなく」
俺がしょんぼりしたのを見て、プランナーの人が慌てて首を振る。
まぁ、友人が少ないのは自覚している。
「確か勇者マコトには独自の交友関係がありますから、教えてもらうのがよいかもしれませんね」
「俺の友達ですか?」
ここに書いてない知り合いなんてそんなにいないんだけど……。
仲の良い友人ということであれば桜井くんがいるが、当然ノエル女王と一緒に太陽の国の代表として参列している。
うーむ、と考えてみて。
ぱっと閃いた。
「そういえば、いましたね」
「ほら、やっぱり」
「教えて下さいませ! 招待状を送らせていただきます!」
ソフィア王女とプランナーの人に詰め寄られる。
「ノア様と 運命の女神(イラ) 様と 水の女神(エイル) 様に声をかけましょう」
「「…………………………は?」」
俺の名案に、ソフィア王女とプランナーの人が固まった。
「ノア様とエイル様は時間あると言ってたので、多分大丈夫ですね。イラ様は忙しそうだからなー。まぁとりあえず、海底神殿に行ってから……」
「ちょっとまってください!」
「落ち着きなさい! 勇者マコト!」
「なんです?」
俺が尋ねると、ソフィア王女とプランナーの人に腕を掴まれた。
「三柱の女神様はいったん、置いておいてください。エイル様には私から相談します」
「そうですか」
確かにソフィア王女は水の巫女。
エイル様を招待するなら、彼女からのほうが適切だろう。
「あ、そうだ。まだ呼ぶべき御方がいました」
ここで俺は思い出す。
「……誰ですか?」
「……いやな予感がするんですけど、ソフィア様」
「普通は、お世話になった人を呼ぶんですよね? 結婚式って」
「まぁ、そうですね」
「じゃあ、あの方々は外せませんね。 太陽の女神(アルテナ) 様と 月の女神(ナイア) 様にもお声掛けしましょう」
「「……………………」」
ノア様に言えば、きっと連絡してもらえるはず。
太陽の女神(アルテナ) 様のおかげで、ノア様は邪神から八番目の女神教会の信仰対象になれた。
月の女神(ナイア) 様の助けがなければ、海底神殿の攻略ができなかった。
なので、是が非でもお呼びしなければ! と思っていたのだけど。
「止まりなさい、勇者マコト」
「勘弁してくださいませ―! マコト様!」
ソフィア王女とプランナーの人に止められた。
結局。
女神様たちへの声かけは、ソフィア王女を始め巫女経由で連絡するということになった。
失礼な誘いかたがあってはいけないから、ということらしい。
大丈夫だと思うけどなー。
「マコト様……何卒、神様以外のかたへお声掛けをお願いします」
プランナーの人に深々と頭を下げられた。
困らせてしまったのかも知れない。
うーむと考えつつ、俺はまた閃いた。
「プランナーさん。招待状はありますか?」
「え、ええ、こちらに。100枚ほど刷っております」
立派な封筒に綺羅びやかな模様が入っている。
「じゃあ、何枚かいただきますね」
「どうするつもりです? 勇者マコト」
「直接渡してきますよ。結婚式に来て欲しい人に」
「そ、そこまでしていただかなくても!」
プランナーさんは慌てるが、せっかくなので話もしつつ声掛けをしたい。
「じゃあ、行ってきますね。ノア様以外の女神様への声かけはソフィアにお任せします」
「 美と自由の女神(ノア) 様にはマコト様が声をかけるのですね……。もしかして本当にいらっしゃるのでしょうか……」
「来る前提で準備をしたほうがよさそうですね」
プランナーさんとソフィア王女のヒソヒソ声が聞こえる。
うーん、そんなに心配しなくても良いと思うけど。
やはり偉大なノア様が来るとみんなが緊張してしまうということか。
「行ってくるよ、ソフィア」
「あとで誰を呼んだかを教えて下さいね」
「わかってるよ」
そう言いながら、俺は毎日練習をしている空間転移の魔法を発動させた。
――こうして、自分の結婚式の招待状を渡しにいく旅が始まった。